40.家族団欒
「そう言えば旦那様」
「ん?どうした、瑞穂。伯父さんって呼んで良いんだぞ?」
「今年は何処かへ出掛けたりしないのでしょうか?」
久しぶりの休日だと言って、嬉しそうに仄火ちゃんの写真を撮りまくる伯父さんに、ふと気になっていた事を尋ねる。
去年は、かぐちゃん遭遇イベントが、一応家族旅行だった。
その前までも、時間が出来れば旅行、と言う流れだったけど、今年は特にない。
別に構わないんだけど、急に言われるのも困る。
と言う訳での確認だった。
伯父さんは、私の質問を聞くと、急にこの世の終わりみたいに暗い表情をした。
聞いちゃいけない事だったんだろうか。
動揺しながら、次の句を待っていると、伯父さんはテンション低く答えた。
「そんなに楽しみにしてくれていたとは…すまん、瑞穂。今年は妙に仕事が多くてだな、まとまった休みが取れそうにないんだ」
「旦那様が気まぐれに日程を変更なさるせいですね」
「桐吾、そう言う余計な事は言わなくて良いんだぞ!?」
余計な事じゃないから!!
多分、私とお父さんの心の声は一致していた事だろう。
クールなお父さんの眉間に、ひっそりと皺が寄る。
伯父さんは、そろそろ自重した方が良い気がする。
「貴方。もう二児の父なのですから、どうか落ち着いて下さいませ。仄火も焔も、呆れていますわよ?」
「なにっ!?俺は呆れられていたのか!?そ、そんな事ないよな、焔!?」
「父さん……」
仄火ちゃんを抱いた伯母さんが、溜息混じりに注意する。
流石伯母さん、常識人。
一方の伯父さんは、流石非常識人だ。
少なくとも、焔からはとっくの昔に呆れられていたのに、気付いていなかったようだ。
焔は、げっそりとした表情で肩を落としている。
諦めろ。あれがお前の父親だ。
「くぅ…父親の威厳を取り戻す為にも、俺、しばらく仕事頑張る」
「取り戻すも何も…いいえ。頑張って下さいね、父さん」
最初っから、威厳なんてなかった、と言いかけて止めたらしい焔。
賢明である。
ここで伯父さんが、もうやる気ない、絶望した、と言って仕事を投げ出しては、幾つかあるらしい、赤河家のグループ企業とか、その辺で働く人達全員に、物凄く迷惑になってしまう。
伯父さんのご機嫌取りは、赤河家、および青島家の仕事みたいなものだ。
「そうですわよ、お兄様。是非お仕事頑張って下さいな」
「美紗子…そうだな。応援していてくれ!」
「勿論ですわ。そうでないと、桐吾さんのお休みが出来ませんもの!」
素敵な笑顔で何を言うかと思えば…。
だが、これがお母さんクオリティーである。
実の兄より旦那が大事。
まぁ、そりゃそうかもしれないけど、オブラートに包んで下さい。
流石の伯父さんもちょっとヘコんでるから。
「瑞貴ちゃんだって、もっといっぱいお父様と遊びたいですものねぇ?」
「……」
瑞貴はスヤスヤ眠っている。
返事はないけど、お母さんは満足そうだ。
…この鋭い攻撃は一体何!?
的確に伯父さんの良心を傷付けてるよ。
我が母ながら怖ぇ。
「…叔母さんとお前って、何か似てるよな…」
「えっ」
で、焔よ!
どうしてこのタイミングでそう言ったの?そう思ったの??
私も、無意識に言葉のナイフを放っているとでも!?
嫌だ、そこは似てたくない!
「瑞穂。父様は、そう言う理由でしばらく一緒には遊べません。そこで、その代わり…と言う訳でもないのですが、此方を差し上げましょう」
「?何ですか、これ」
「プールの入場券です。あまり広くはありませんが、友達と一緒に遊ぶのであれば、この位の広さの方が楽しめるでしょう。是非、行ってみなさい」
「わぁ!ありがとうございます!」
ちょくちょく、あれ?うち、と言うか焔の家って金持ちだったよね?って首を捻る所もあるけど、プール万歳!貸し切りじゃなくても万歳!
何よりも、お父さんの心遣いが嬉しいよ。
「瑞貴にはまだ早いですから、何処か落ち着いて、日帰り出来そうな場所も探しておきますね。ですので、美紗子さんも楽しみにしていて下さい」
「桐吾さん…!!」
流石だよ、ダディー。
その辺りのスマートなフォローとか。
お母さんメロメロじゃないか。
「いやー、桐吾様流石ですねぇ」
「確かに」
「それに引き換え…父さん……」
双子達も、感心したようにお父さんを見ている。
どうだ、羨ましかろう。
あげないけどな!!
お父さんを自慢に思っている私の横で、焔の表情は暗いままだ。
チラリと視線を伯父さんへと向けると、ガッカリな景色が広がっている。
うん。無理もないですわ。
「ズルイぞ、桐吾!くっ、こうなったら俺は、家族サービスで、今の時期も涼しい南極旅行を…」
「貴方?私達には、生まれたばかりの仄火がいるんですのよ?分かってらして?」
「当たり前だろう、翔子」
「でしたら、何故南極と言う選択肢が出てくるのです?そもそも、まとまったお休みが取れないと、先程仰っていたではありませんか。南極は無理ですわ」
「そこは当然、皆に頑張ってもらって…」
「貴方?」
「……すいません」
……可哀想な伯母さん。
え?そこは、伯父さんじゃないのかって?
そりゃそうだ。
何しろ伯母さんは、お父さんが見せた、華麗なフォローを、羨ましそうに見ていたのだ。
それで、期待して伯父さんのフォローを待ってたら、自分がフォローしなきゃならないと言う現実。
……可哀想な伯母さん。
「…親父って、本当に有能な社長なのかな…」
「皆そう言うし、そうなんじゃないの…?」
思わず、焔とヒソヒソ声でそんな事を話してしまった。
いや、だって私達、未だに伯父さんの有能っぷり目の当たりにしてないんだよ。
お父さんも西さんも、双子達もそう言うから、一応信じてるけど。
何か、家でのグズグズっぷりを見ていると、納得がいかない。
まぁ、そんな親しみやすい伯父さんの事、好きですけどね?
「分かった。南極は、仄火が大きくなった時に行こう」
「…私、別に南極は行かなくても良いですわ…」
「何故だ、翔子!?」
伯父さん…どうしてその答えが正しいと思ったんだ。
と言うか、どんだけ南極に行きたいんだ。
「はぁ…。父さん。母さんは、そんな遠い所じゃなくて、近場でも良いから、家族でゆっくりしたいんだと思いますよ?」
「何、そうなのか翔子?」
「…もう知りませんわ」
お、伯母さん可愛い…。
これがツンデレと言うヤツか。
女王様みたいな外見の伯母さんのツンデレ。
破壊力抜群。
「そうかそうか!ならば、すぐに仕事を終わらせて時間を作ろうじゃないか!」
「旦那様。まず、本日のお休みを翔子様と過ごされる事を提案致します」
「そうですわ、お兄様。今すぐに仕事を始めてしまっては本末転倒ですわよ」
珍しく、お母さんまで常識的な事を言っている。
と、思ったけど、絶対連れて行かせないからね!とばかりに、ギュウとお父さんの腕を握っている辺り、やっぱり天然お嬢様なお母さんらしい行動なのかも。
「そうだな、確かに。ふむ…翔子。すまんな、気が逸ってしまったようだ」
「…いいえ。そんな貴方を、私は好きになってしまったのですから」
「翔子…」
伯母さんの、言葉選びは、一見冷たいけど、表情と声は柔らかい。
あらやだ、私達何を見せつけられているのかしら。
突然、目の前に華吹雪が舞いはじめたかのようだ。
あれだ。漫画なら、間違いなく一面に花が咲き誇っている。
「万年新婚夫婦共は置いといて…プールいつ行く?」
「今でしょ!」
「おい、晴臣。それちょっと古くないか?」
「えぇ?学校でこれやると、結構ウケるんだけど。若つまんなーい」
「とりあえず、今日すぐ行くのは良くないと思う」
「…マサもノリ悪過ぎ」
臣君が、げんなりと呟く。
しまった、ここは私がノる場面だったか。
まぁ、流れてしまったものはしょうがない。
ネタ的にはともかくとして、今日は折角の一家…と言うか、二家?団欒だ。
空気を読まずに飛び出すのは避けたい。
ちーちゃんも誘いたいし、溜息がちなゆーちゃんも、プールに行けば元気になるかもしれないから、是非誘いたい。
今日すぐ、と言うのは現実的ではないだろう。
「俺は、あんまり混んでない日が良い」
「夏休みだし、いつでもどこでも混んでると思うけど?」
「お嬢の言う通りだと思う。し、別に明後日とかで良いんじゃないですか?」
「僕は、まずお嬢様のご友人の予定を確認してから決めるのが良いかと思います」
「雅君ナイス。その通りだね!」
「千歳と悠馬の二人か?」
「うんうん」
焔の問いに、私は数回頷いた。
本当は、麻子ちゃんも誘いたいけど…ね。
臣君が来る所に誘うのは微妙な気持ちだ。
…て言うか、そもそも電話番号知らないや、そう言えば。
「なら、俺電話して来ようか?」
「いえ、焔様。ここは僕がして来ます」
「そうか?」
「はい。お任せください」
そう言うと、雅君はさっさと立ち上がって電話の方へと行ってしまった。
迷いないね。流石雅君。
…今日、流石としか言ってない気がする。流石デーだ。
「それにしてもプールか。楽しみですねぇ」
「俺も結構楽しみかも」
「うん、そうだね!」
前世から計算すると、物凄く久しぶりだ。
そう言えば、意外とプールって行った事なかったな。
あ、授業のプールは除くよ。
本当は、海にも行きたい所だけど、今年はプール。
楽しみである。
その後、電話を終えた雅君から二人の予定を聞き、臣君が言ったように、明後日で決定した。
プールと言えばイベント、夏イベントと言えばプール、と言う位、イベント目白押しのイメージがあるプールだけど、この際スル―だ。
何が起こるか楽しみ、くらいの気持ちでぶつかって来よう。
…でもとりあえず、これ以上焔に呆れられない様にしたいな!
あれ?この悩み伯父さんと一緒……。
次回はプール回!




