38.誰が好き?
※短めグダグダ回です。
「みゃー!!」
「きゃー!大変ですわ、大変ですわ!」
バタバタと、家じゅうに響くような、激しい足音が聞こえてくる。
足音の主はお母さんで、泣き声の方は、つい先日生まれたばかりの我が弟だ。
弟は、どうやらとても健康なようで、毎日元気良く泣いている。
私は泣き声を聞く度に、幸せな気持ちで満たされる。
何しろ、あんなに元気な声なのだ。
とても立派な子に育つに違いないと期待させてくれる。
でも、お母さんにとってはそうではないらしい。
最初の子供が私だったせいか、毎日弟に振り回されている。
泣かない訳ではなかったけど、私は必要最低限しか泣かなかった。
空気は読んで、用事のある時には静かにしていたし、夜泣きもなかった。
前世云々がなくても、それだけ大人しい赤ん坊だっているとは思うけど、弟は喜ばしいと言ったら良いのか、とても普通の子だった。
元気良く泣いて、朝も昼も夜もなく、お母さんを呼ぶ。
参る、と言う所まではいっていないけれど、お母さんは、最近すっかりお菓子を作る元気を失くしてしまった、と愚痴っていた。
因みに、それは家族にとっては非常にありがたい事である事を、お母さんは知らないのだけど、その辺りはアレだ。ここだけの話だ。
「叔母さん、大変みたいだな」
「でも、ああ見えて根性あるし、その内慣れるよ」
「それって何か冷たくないか?」
「そんな事ないよ。だって、娘が母親に育児指導とか理屈に合わないでしょ」
「…お前、結構上下関係に煩いよな。意外と」
「意外と、は余計ですな」
焔の呆れた様な声に文句を言いつつ、緑茶に口をつける。
やはり、人生の先輩の顔は立てないとね。
例え中身の年齢があまり変わらなくても。
「伯母さんの方はー?平気そう?」
「仄火は大人しいから。偶に思い切り泣いても全然平気そうだけどな」
「流石伯母さん」
仄火、と言うのが焔の妹の名前だ。
名付け親は、勿論と言うか、伯父さんだ。
可愛い名前にする、と最後までこだわっていたらしい。
因みに、私の弟の名前は、瑞貴だ。
こっちは、お母さんが名付け親だ。
瑞穂ちゃんとお揃いにするのですわ、と張り切って付けていた。
「お嬢様、焔様。お茶のお代わりは如何でしょう?」
「あ、私欲しい!」
「俺も」
スッと雅君が急須を持って現れる。
急須ですら様になるのだから、流石はイケメンだ。
そんな風に、ジッと見ている間に、緑茶のお代わりが注がれる。
「サンキュー」
「いいえ。…お嬢様?どうかなさいましたか」
「ううん。雅君はイケメンだなーと思って」
「ブッ!!」
「うわっ、汚!!」
しみじみと言っていたら、焔が飲んでいた緑茶を噴き出した。
何で!?私、そんな変な事言った??
「はぁ…お前、突然何言って…」
「恐れ入ります。ですが、焔様には及びません」
「ゲホゲホゴホッ!!」
「ほら、何やってるの焔。落ち着いて落ち着いて」
私に文句を言おうとして遮られた焔は、更に咳込む。
よしよし、と背中をさすってあげる。
顔が真っ赤だ。
もしかすると、肺まで入ってしまったのだろうか。
……ダジャレじゃないよ!?
「お前らが突然変な事言うからだろー!?」
「変な事言った?」
「僕は思った事しか口にしませんが」
「だよねー。良くも悪くも正直だもんねー、雅君」
「そうですね」
雅君と顔を見合わせて首を傾げる。
何か間違った事を言っているだろうか。
いや、言っていまい。
「あー、皆ズルー。俺だけ除け者ですかぁ?」
のしっ、と言う感覚がしたと思ったら、臣君だった。
ふてくされた表情で、私に圧し掛かっている。
何気に、頭の上に乗った顎が痛い。
「お嬢様に失礼だ、晴臣」
「マサは固いなぁ」
雅君の軽い忠告を受けて、臣君が身体を離す。
そして、ナチュラルに私の隣に腰掛ける。
雅君は、まだ何か言いたそうだったけど、軽く溜息をついて口を噤んだ。
言っても仕方ないと思っているのだろう。
「美紗子様の手伝いは終わったのか?」
「瑞貴様と一緒にグッスリ」
軽く両手を上げて、苦笑する臣君。
静かになったと思っていたら、寝落ちしたらしい。
流石はお母さん。
その調子で、瑞貴と同じ生活リズムで健康的に暮らして欲しい。
その方が我が家は平…ゴホンゴホン。な、ナンデモナイヨー?
「それで、何の話してたの?」
臣君が、興味津々、と言う感じで目を輝かせる。
対照的に、焔はブスッと不満げな顔になった。
自分がからかわれた、と言う認識でいるらしい。
いやいや、全然そんな事ないよ!
ここは、その認識を改める為にも、きっちり丁寧に教えてあげねば。
「私が、雅君の事イケメンだなーって言ったら、焔がお茶を噴き出して」
「ちょっ、何で説明するんだよ!!」
「お嬢様に次いで僕が、焔様には及ばない、とお伝えした所、焔様が…」
「何で晴雅まで乗るんだよ!?聞かなくて良いからな、晴臣!!」
基本的に無口な雅君が乗って来るのは予想外だったらしい。
焔は真っ赤な顔で雅君の口をふさごうとする。
腐ったお姉さんが喜びそうな光景だ。
どうぞ、ご覧ください。お金は取りませんので。
なんちゃって。
「えぇー。若もなかなかだけど、俺のが格好良いですよー。ねぇ、お嬢?」
「え?なんか難しいなぁ…」
同意を求められたけど、比較は非常に難しい。
小学二年生にして、色気漂う華やか系イケメンの焔。
笑っていても冷たい印象がありながら、何処か優しさの滲む系イケメンの雅君。
雅君と顔は殆ど一緒なんだけど、爽やかで王子然とした正当派イケメンの臣君。
やっぱ無理だよ。
比較出来ない。
「皆イケメンだしねぇ」
「何言ってんですか、お嬢。俺が一番でしょ?」
「少なくとも晴臣と晴雅は双子だろ?同率じゃねーの?」
「いやいや、性格からにじみ出る違いとかあるでしょ?若」
チッチッと指を振る臣君。
それは認める。違いはある。
でも、だからこそ選べるようなものじゃない。
「ねぇねぇ、お嬢」
ズイ、と身体を乗り出して来る臣君。
楽しそうで何よりだけど、困ったな。
子供って、こう言うの好きだよね。
順序付けって言うのかな?
…まぁ、とりあえずここで適当に答えるのも微妙だし、真面目に考えよう。
好みなー。
でもこうしてると、野良猫みたいに警戒しまくってた臣君が、こんな風に目を輝かせながら身を乗り出して来てくれてるのが、凄く可愛いかもしれない。
そんな失礼な事を考えながら、私は頷いてみせた。
「そうだね。この中なら、臣君が一番好みかもしれない」
「えっ」
何故か、自信満々に聞いて来ていた臣君が信じられない、と言う顔になる。
あれっ、冗談だった?もしかして、真面目に答えなくても良かった?
ジッと見つめていると、臣君の顔が見る見る内に赤くなる。
やがて、臣君はそろそろと私から離れて、顔を覆った。
「あ、ごめん。ちょっとタンマ。予想外過ぎて動悸が……」
え。何その可愛い反応。乙女か。
ネタとかノリの問題だと思ってた私が間違ってた。
まさか、そこまで本気で受け取ってくれるとは。
いや、嘘をついた訳ではないんだけど。
ちょっと罪悪感だわ。ごめん、臣君。
格好良い基準で選ばなかった、なんて墓まで持って行くわ。
ちょっと困って視線を動かす。
すると、雅君はいつも通りに側に控えていたけど、焔が、これまた信じられないと言うような表情で固まっていた。
まさかとは思うけど、焔も実は自分が一番とか思ってたんだろうか。
…いや、ないか。
「お嬢。十年後くらいにもう一回言って。じゃないと俺、ロリコンになっちゃう」
「えぇー、嫌だよ。私忘れっぽいし。てか、十年後も十分ロリコンでしょ」
「高校三年生と二十代は全然OKだよ」
「…アウトだろ」
ブッスーとした表情で、焔が突っ込みを入れる。
わぁ、不機嫌。
思わず助けを求めるべく雅君を見る。
すると、雅君は優しげに微笑んで頭を撫でてくれた。
そして、フォローの言葉を口にしてくれる。
「大丈夫ですよ、お嬢様。十年後には流石に恋人の一人や二人出来ていて、晴臣の方が、この言葉を忘れているに決まっていますから。お気になさらず」
「おい、マサ。それ、俺に失礼」
何かフォローの方向性が間違ってる気がするけど、流石頼りになるね!
ふと見たら、焔もちょっとホッとした顔をしてるし。
私には分からない懸念事項を看破したんですよね、多分。
とりあえず、この方向性で話をすれば良いのか。
学んだぞ!
そして早速実践。
「分かった!それに、十年もすれば、私にも恋人いるかもしれないしね!!」
……あれ、何で皆凍りつくの。
良く分からないけど、方向性違ったらしい。
必死の形相で、恋人なんて造らなくて良い的な事を皆から言われたし。
あれだな。
皆、大事な姉妹である私に、恋人が出来るのが寂しいんだな。
それなら、言葉選びを間違ったのも納得である。
全く皆子供なんだから。HAHAHA。
「分かった!なら私、皆が結婚するまで結婚しないから。それなら安心だね!」
果たして。
これも違ったらしく、再び空気が凍りつくのでした。
…何故だ……。




