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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(二年生)
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37.良い子良い子

※作中の表現は、あくまでも作中の表現であって、現実には関係ありませんので、あしからず。

「おお、どうした、青島(あおしま)ぁ。授業中に怪我でもしたか?」


 保健室に駆け込むと、保健室の先生が、ケラケラと楽しそうに私を見た。

 保健室の先生は、私の感覚としては珍しく、男の先生だ。

 はしゃぎ過ぎて怪我をして、良く保健室にやって来る私とは仲が良い。

 校内で良く煙草を吸ってる不良教師だけど、気さくで明るい、良い先生だ。


 いつもだったら、そんな先生の軽口に付き合う所なんだけど、今はそれどころではない。

 私は、キリリと眉を吊り上げながら、先生に強く訴えかける。


「今はそういうジョークに付き合ってる場合じゃないんです、先生!」

「ん?そりゃ、どう言う…」


「ひっく……」


 先生は、不思議そうに目を見開いて、それから私の後ろに着いて来ていた、ゆーちゃんの姿に気付くと、得心した、と言う風に頷いた。

 それから、オッサン臭いかけ声と共に椅子から立ち上がると、棚から何枚かのタオルを取り出した。


「今タオル準備してやっからな。待ってろよー」

「了解ですっ」


 泣きじゃくって、この世の終わりみたいな顔をしているゆーちゃんを、奥の方へと促しながら、私はベッド脇のカーテンを引く。


「よし。それじゃあズボン脱いじゃおうか、ゆーちゃん!」

「え…」

「おいおい、青島(あおしま)。そりゃあないだろ」


 先生が準備している間に出来る事を、と思って言ったのに、何故か当の先生から呆れた様なお言葉を頂戴した。

 ついでに言えば、ゆーちゃんも顔色を赤くしたり青くしたり忙しい。

 これは、また私がミスを犯した、と言う事だろうか。


「?何でですか」


 原因は究明せねば。

 そう思って先生に尋ねれば、準備を終えたらしい先生がカーテンを引く。

 そして、私をカーテンの外に追い出して、閉めた。


「えっ、手伝いますよ!?」

「残酷な事を言うもんじゃねーよ。なぁ、風間(かざま)?」

「うえっ?」

「ざ、残酷??」


 そんなに残酷な事を言ったり、したつもりはない。

 無意識にそんな酷い事をしたのだろうか。

 それ、何て生物兵器?


 混乱しながら、ボーッと突っ立っていると、先生は溜息をついた。


「お前なぁ。大人びてるのは認める。認めるが、お前とコイツは同じ年だろ?」

「はぁ。そうですね」


 何が言いたいんだろう。

 同い年とか、当然の事じゃないか。


「同い年の女子の前で、ズボン脱ぐとか恥ずかしいに決まってんだろ」

「はっ、な、なるほど!!」


 盲点だった。

 小学二年生とか、まだ全裸で一緒にお風呂入れるくらいのレベルだと思ってたけど、そうじゃない子だっているもんね。

 確かに残酷な事をしてしまったかもしれない。


「ご、ごめんね、ゆーちゃん」

「……ううん」

青島(あおしま)はなぁ、変な所が抜けてるガキだよなぁ」

「ガキとか傷付くっ!」


 抜けている、と言うよりも、精神年齢のせいだろう。

 どうしたって、私から見ればゆーちゃんは子供なのだ。

 勿論、同い年と言うのは理解しているけれど。

 何しろ、双子ですら子供で理解しているのだ。仕方無い。


「あ、慌ててたから、私の体育着しか持って来れなかったんですけど、着替えに、これ使って下さい」

青島(あおしま)ので大丈夫か?」

「えっ、その聞き方だと、私のが汚いみたい…」

「…み、みーちゃんは、いいの?」

「え?勿論だよ!」

「じゃあ、着る」


 どうして私が嫌がるなんて思うんだろう。

 良く分からないけど、優しい子だ。

 こんな時なのに、私の事まで気遣ってくれてるって事だろうし。

 泣けてくるわー。


風間(かざま)の方が大人じゃねーか、青島(あおしま)

「えっ、そうですか?」

「おう。立派にもう男じゃないか」

「…りっぱ…?」


 何を持って言っているのかサッパリだ。

 ただ、とりあえず先生が面白がっているのは分かる。

 それに対して、ゆーちゃんは不満げだ。

 と言うか、落ち込んでる?


 まぁ、あんな事があったばかりだし、落ち込むか。

 私は小さく息をつく。


 ゆーちゃんは、トイレに行くタイミングを間違う子じゃない。

 最近の様子がおかしかった事を鑑みても、恐らく原因は、精神的なものだろう。

 そう考えると、下手に突くのもどうかと思う。

 だからと言って、このままスル―するのは酷過ぎる。

 さて、どうしたものか。


「おお、立派だ立派。青島(あおしま)は女の意識が薄いが、お前は女の青島(あおしま)が、男のお前に体育着を代わりに着られて嫌じゃないのかって聞けるくらい、男の意識が強いみたいだからなぁ」


 カーテンで遮られて見えないけど、どうやら頭を撫でてやってるらしい。

 と言うか、そう言う理由で大人って言ったのか。

 いえいえ先生。

 私にも女の意識くらいありますよ。

 ただ、男女の意識する相手が、実年齢より大分上の人ってだけですよ。


「りっぱ、じゃない、です…」

「謙遜しなくて良いんだぞ?」

「だって!…だって、ぼく…あんな、こどもみたい……」


 段々語気が小さくなる。

 余程堪えたらしい。

 そりゃそうだ。

 順調に背も高くなって来ていて、大人って言われて喜ぶ年頃で、お漏らしをしてしまうと言うのは、相当なショックのはずだ。


「大丈夫だ。大人も漏らす事くらいあるからな」

「ちょっと先生。そのフォローは最悪だと思いますけど!?」

「ん?そうか?俺の兄貴もこの間、酒の飲み過ぎて緩くなったらしくてな」

「それ以上聞く気はありませんからね!?」


 と言うか、先生のお兄さんお幾つ!?

 そんなミスしちゃったの!?

 恥ずかしすぎる。

 何よりも、こんな全然自分に関係ない場所でバラされてるのが酷い。

 お兄さん。冥福をお祈りしております。


「……」


「ほら先生。全然ウケてませんし」

「そうだな。話題選択ミスっちまったな。あはは」

「あはは、じゃないから!?先生、テキトーな事言わないでくれます!?」


 保健室に来る、と言う選択をミスった気になって来る。

 いや、先生としてちゃんとやってくれてる訳なんだけども。


 シャッと言う音と共にカーテンが開く。

 着替えはすっかり終わっていた。

 ゆーちゃんは、しょんぼりと肩を落としてベッドに座っている。


「俺はちょっくら洗濯して来っからよ、青島(あおしま)。後頼んだ」

「ええ!?そんな無責任な!」

「すぐ戻るすぐ戻る」


 すぐ戻る、と言いながら、机に置いてあった煙草の箱を手に取る先生。

 これ戻って来る気なくね!?

 サボる気満々じゃね!?


「ちょっ、先生ー!!」

「あばよっ」


 あばよとか、普通に使う人いたんだ?

 とか、思っている内に、先生はアッサリと部屋を後にしてしまった。


 …仕方あるまい。


 私は、溜息をついて、ゆーちゃんの向かいのベッドに腰掛ける。

 今更だけど、保健室利用の記録とかつけなくて良いのかな。

 いや、今はゆーちゃんの問題だ。

 その辺の雑務は、あのテキトー親父に任せておこう。


「ね、ゆーちゃん。良かったら教えてくれない?」

「…何を?」

「……最近、元気なかった理由」

「……」


 暗い顔で口を噤んだままのゆーちゃん。

 キュッと唇を噛む様が、物悲しい。


 予想だけど、確信がある。

 ゆーちゃんは、最近元気がなかった理由によって精神的に追い込まれて、あんな事になってしまったのだ。

 何しろ、他に思い当たる理由がない。

 実際、直前の休み時間で、ゆーちゃんはちゃんとトイレに行っていた。

 中でどうしてたかなんて知るはずはないけど。

 とりあえず、事実として。


 確かに恥ずかしい事でもあるけれど、他の、単にトイレし足りなかった、とか、そう言う理由だったら、もうとっくに元気を取り戻していても良い。

 他の人は知らないけど、少なくともゆーちゃんの性格上そうだ。

 私の見て来たゆーちゃんは、そう言う子だ。


 一年以上付き合って来た友達として、断言出来る。

 精神的に追い込まれでもしていなければ、ゆーちゃんは漏らしたりしない子だ。


「ね。教えて?」

「…どうして?」


「勿論。ゆーちゃんが悲しい顔してるのが嫌だからだよ。話すと、少しでも楽になるって聞いた事あるし。力になれるのなら、何でもしたいんだ」

「…どうして?」


 えっ、それに対してもどうして?

 答える気が、全くないと見るべきか。

 それとも、ただ本当に理由が気になっている、と見るべきか。

 しばらく逡巡して、私は素直に答えた。


「私はゆーちゃんの友達で、ゆーちゃんが好きだからだよ」


「み、みーちゃん…!」


 ずっと泣いていたのに、更に目が潤む。

 どうやら、正解を引き当てたらしい。ひと安心である。

 いやいや、まだ油断は出来ない。


 私は、改めて気を引き締めながら、嗚咽混じりの説明を聞いた。


 何でも、この間、ゆーちゃんのお母さんが事故に遭ってしまったらしい。

 命に別状はないらしいけど、結構堪えてしまったらしくて、普段元気なお母さんだけど、すっかり意気消沈してしまった。

 それで、会いに行く度に、元気がなくなるお母さんに、もしかしたら死んでしまうのではないかと、そこまで具体的ではないけど、とにかく不安に思ってしまったらしい。


「お、おとーさんは、だいじょうぶって、言うんだけど、おかーさん、ぜんぜん、元気じゃなくて、ぼく、し、しんぱいで…。おかーさんが、かえってくるまでは、ぼく、いい子で、いなくちゃいけなくて、それで…」


「うん、うん…」


 不安感とプレッシャー。

 余程の苦しみだったんだろう。

 ゆーちゃん、優しい子だからなぁ。


 私は、そっとゆーちゃんを抱き締めて、背中をポンポンしてやった。

 あんまり無責任な事も言えないけど、状況を聞く限り、問題はなさそうだ。

 とりあえず、ゆーちゃんが元気になるように声をかけよう。


「偉かったね、ゆーちゃん」

「え、えらく、ないよ…」

「偉いよ。良くここまで我慢したね」

「うう…っ」


 緊張の糸が切れたらしいゆーちゃんは、それからワンワンと泣き続けた。

 しばらくして戻って来た先生に、蒸しタオルを作らせて、目を拭いてやる。

 ひとしきり話していたら、もう授業はすっかり終わっていたから、私はゆーちゃんの手を引いて、もうすぐにでもゆーちゃんのお母さんに、細かい状況は伏せるとしても、体調を窺いに行かなくては!と言う事で、病院に向かった。


 ゆーちゃんは躊躇っていたけど、丁度お見舞いをしていたゆーちゃんのお父さんに私が事情を軽く説明して、納得したらしいゆーちゃんのお父さんに手を引かれるようになると、素直に病室へ消えて行った。


 よそ者は邪魔しないんだぜ、と私は病室の外で待った。


 それから、戻ってきたゆーちゃんは、また泣いていたけど、嬉しそうだった。

 やっぱり、予想通り特に問題はなかったようだ。

 良かった良かった。


「いや、ごめんね。えーと、瑞穂(みずほ)ちゃんだったかな?」

「いえ!友達ですから!」

「はは、そうか。ありがとう。…これからも、悠馬(ゆうま)をよろしく頼むよ」

「はいっ」


 ゆーちゃんのお父さんは、めっちゃ良い人だった。

 そしてめっちゃ普通の人だった。そっくり。癒される。


「みーちゃん!あの、ありがとうっ。ぼくもね、大スキだからね!」

「うんっ、ありがとう!」


 ゆーちゃんと、ギューッと抱き合ってから別れる。

 これで、一件落着かな。


 …忘れてた。

 クラスの馬鹿共が、騒がない様に釘を刺す作業が残ってたな。

 まぁそれは、明日頑張る事にしよう。


 そして私は、有言実行とばかりに、翌日ゆーちゃんを馬鹿にしようとした子達に言葉による鉄拳制裁を試み、見事成功を収めた。

 ええ、勿論イジメなんて起きませんとも。


 しばらく、裏ボスとか、番長とか、非常に不名誉な称号が付いて回ったけど、別にゆーちゃんの心の安全を守る為なら、安いものだったと思う。


「ごめんね…ぼく、その代わり、次はぼくがみーちゃんを守るからね!」

「え?うん」


 そして、それを知ったゆーちゃんから、良く分からない宣言を頂きました。

 まぁこれは、スルーで良いよね。

 良くある、私大きくなったらパパと結婚するの!的な宣言だよね。


 実際にゆーちゃんの身に危険が及びそうな時は、全力で私が、守ろうと思う。

 うん。譲れないよね、その辺りは。


 だって、私の方が(精神的に)お姉ちゃんですから!!


 ……あれっ、先生。何で冷たい目で見るの?

 全然分かってないって、ねぇ何で?


洗濯した制服は、先生が乾燥機にかけて、当日の内に風間家へ届けました。

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