36.忙しさの中
※若干下ネタ?みたいな表現があるので注意。
何だか、二年生に上がってから、イベントが目白押しな気がする。
…けど、良く考えてみれば、別に麻子ちゃんとキャッキャウフフしてただけなのだから、目白押し、と言うにはそうでもないのだろう。
当事者としては、目白押し、と言っても良い位のインパクトだったんだけどね。
麻子ちゃんに関しては、まだまだ気にかかる事も多いけれど、学校の帰りに、同じ公園で、偶に会っては、彼女の愚痴を聞いたりしている。
一応、イベントとしては収束した、と見て良いだろう。
ただ、気になる事もある。
その度に臣君が不快そうにするから、なるべく遠ざけようとすると、麻子ちゃんの表情が曇ると言う悪循環だ。
皆ならどうする!?
小二にして、胃痛が発生したような気がするよ。
いや、まぁ精神的お姉さんとして、美少女の笑顔を守る為に頑張りたいと思うんだけどね。
もっと上手く立ち回れたら良かったんだけど、難しい。
これも、前世はバッサバサと対人関係を斬り捨てていた影響だろう。
くっそ、もっとプライベート充実させとくんだった!
何が仕事が恋人で友達だ。
仕事は愛を囁いてはくれない。
仕事は労をねぎらってはくれない。
だけど、私は人生二回目だ。
勉強とか、その他諸々に関しては、スタート位置を大分誤魔化してズルしてる状態なワケなんだから、対人関係のレベルが多少低かろうと、問題ないだろう。
そうそう。人生はこれからだ。
タヌキ上司との戦い方だって、これから先に生きるはずだ。
ん?私、何の話してたっけ?
ああ、最近忙しい気がするって話か。
そう言えば、お母さんと伯母さんの出産予定日も近いんだよな。
やっぱり、イベント目白押しかもしれない。
私は、前世でも出産経験なんてないけど、偶に調子の悪そうな二人を見ていると一緒になって気持ち悪がったりしている。
焔に馬鹿じゃないかって言われたから、お前も出産してみろって言っておいた。
お前も無いんだろって返された。
悔しい。彼氏ぐらいだったらいたわ。確か。遠い昔に。
「はぁ…」
「はぁ…」
溜息が重なる。
隣の席のゆーちゃんだ。
私は吃驚して、自分の悩みも忘れてしまう。
いや、悩みって大した事ないけど。疲れてるだけだけど。
だから、私の事なんかよりも、ゆーちゃんの方が大事だ。
可愛い可愛い、私の弟分。
小二の身空にして溜息なんて、とんでもない事だ。
私は、焦りながら声をかける。
「ど、どうしたの?大丈夫?ゆーちゃん」
「みーちゃん…」
ゆーちゃんの目が泳ぐ。
ちょっとビビリだけど、明るくて無邪気なゆーちゃんが、こんな顔をするなんて余程の事に違いない。
私は、一体何事だろうと眉を寄せる。
そんな私の表情にビビったのか、ゆーちゃんが頬を引き攣らせる。
あっ、しくっちゃった、テヘペロッ!
「ごっ、ごめ…っ」
「ゆーちゃん、悪いの私だから。と言うか、怒ってないから、全然」
「ほんとうに?」
「うんうん。全然まったく」
ニコーッと笑えば、ゆーちゃんはホッと息をつく。
しまった。私、どんだけ怖い顔してたんだ。
「それで、何か心配な事でもあるの?」
「え?なんで?」
「溜息ついてたから」
「えっと、なんでもないよ」
ゆーちゃんは、力なく笑う。
はうぅっ、胸が痛い。
こんなに愛らしい天使に気を遣わせるとは。
私って、なんて罪深いんだろうか。
「本当に何もないの?」
「……う、ん」
嘘が超下手だ。
目は泳ぎまくりだし、挙動も不審だ。
そこが可愛い…じゃなくて。
「怖い事でもあった?」
「うんと…」
サッと顔色を悪くして俯くゆーちゃん。
うーん、図星か。
でも、これ以上つついて、疲れさせても仕方ないか。
私はこれ以上の追求は諦める事にして、笑みを浮かべた。
「分かった。これ以上聞かないよ」
「う、うん!」
「でも、もし何かあったら、遠慮なく言ってね」
「ありがとう、みーちゃん」
ゆーちゃんは笑ってくれたけど、やっぱり元気がない。
ちょっと最近、麻子ちゃんに構い過ぎてたか。
いかんいかん。
天使達の笑顔も守れなくちゃ、辛いもんね。
そんな事を思いながら、私はゆーちゃんの挙動に、気を配るようになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ!?二人同時に出産!??」
「そうらしいんだよ…」
それから少しして、家に帰ると誰もいなかった。
吃驚して連絡を取ると、私達が学校へ行った直後に産気づいたらしい母二人は、そのまま病院へ直行。
割と何の問題もなく、自然分娩で即行出産したと言う。
どんだけだ。
あまりにも問題がなさすぎたせいで、私達への連絡は無かったらしい。
良い事なんだろうけど、複雑だ。
心配する暇もないって、どう言う事?
「つーか、出産って被るものなのか?」
「計算通りに行く人はそうなのかもね。少なくとも、日にちとか時間まで被る事は稀だとは思うけど、ほら、お父さんと伯父さんって、休みが一緒じゃない?だからある程度被るのは、しょうがないんじゃないかな」
「何で?」
「…はい?」
病院に向かう途中、焔がとんでもない事を言い出した。
あれ、何。その辺の知識ないの?
中身中学生って言ってたし、ある程度知ってると思ってたんだけど。
私は、反射的に最も精神年齢が近いであろう双子を見る。
すると、二人共それぞれ信じられない、と言うような顔をしていた。
うん。私がおかしいんじゃないよね。
「まさか若…子供って、コウノトリが運んで来るとか思ってます?」
「はぁ?そんな訳ないだろ。ちゃんと知ってる」
臣君の質問に、顔を赤くしながら否定する焔。
オーケー。
単にその辺の知識が結びついてないだけか。
「焔。あんまり元気良く説明したい話題じゃないし、後で自分でインターネットでも使って調べて」
「あ、ああ。…何か悪い」
「気にしないで、チェリーくん」
「?」
「ちょっ、お嬢!?どこで覚えて来るんですかそんな事!?」
「……お嬢様。これ以上は流石に慎みをお持ちください」
「うん。ごめん。ちょっと調子に乗った」
後日、意味を把握したらしい焔からブン殴られるのは、別の話だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結論から言おう。
伯母さんは女の子、お母さんは男の子を生んだ。
それはもう可愛くて可愛くて、食べちゃいたいくらいだった。
本気で言ったら、お母さん以外の全員にドン引かれた。失敬な。
名前はまだ未定との事で、どうなるか楽しみである。
多分、焔の妹の名前は、焔に聞けば分かるんだろうけど、楽しみに取っておく事にした。
前世では一人っ子だったから、本当に嬉しい。
弟と言う事は、青島家の次期当主になるのだろうか。
いずれにせよ、焔にお仕えする事になるだろうし、そう苦労は多くないだろう。
まぁ、現在のお父さんと比較して、だから実際どうかは分からないが。
出来れば、まだまだ下を作って欲しい所である。
家は広いし、賑やかな方が楽しいし。
様子見?か何かで一日入院する、との事で、家はちょっと寂しかった。
けど、気にするまでではない。
何しろ、翌日からは家族が増えるのだ。
夜泣き?どんと来いやぁ!!
私は、興奮冷めやらぬまま、結局一睡も出来ないままに夜を明かし、ウキウキしながら学校へ向かった。
お陰様で、ランドセルを閉め忘れて、お辞儀した瞬間に、中身を全てブチまけると言う珍事件を引き起こした。
それでも笑顔だったから、先生にすらドン引きされた。失敬な。
「おはよう、ゆーちゃん!」
「あ、お、おはよう…」
「?」
でも、そのテンションも席につくまでだった。
隣のゆーちゃんの顔色が最悪だったのだ。
一睡もしてないせいで、隈が出来てる私と比べても、酷い。
何をどうしたらこうなるんだ?
私は結局、ハラハラしながら一日を過ごす事になった。
何度聞いても、ゆーちゃんは答えない。
何も無い訳がないのに。
カチカチと、進む時計。
更に悪くなる顔色。
息がつまりそうな気持ちで教科書を読む振りをして、様子を窺う。
何だか悪い予感がする。
流石に、保健室に連れて行った方が良いだろうか。
そう思いはじめた午後の事。
事件は起こったのだ。
「くせえ!コイツもらしやがった!」
「っ!!」
「えー、ヤダー!」
「きたなーい!!」
ゆーちゃんが、漏らしてしまった。
私は、それに気付くや否や、急いで立ち上がって体操着とタオルを取った。
唖然とする担任教師を尻目に、素早くゆーちゃんの手を引く。
「保健室行こう!」
「み、みーちゃ……」
「えっ、あっ、青島さん?」
ゆーちゃんの顔色は真っ青だ。
もう、血が通っているのか疑うぐらい、顔色が悪い。
先生の事を気にしている暇はなかった。
それでも、何も言わない訳にはいかない。
手早く、ゆーちゃんの足下をぬぐい、新たに床を汚してしまう事がない事を確認すると、バッと、半ば睨むように先生を見た。
「風間くんの事、保健室に連れて行きます。先生は後の掃除をお願いします!」
「ちょ、ちょっと!」
「失礼します!」
ああ、もう。
先生なのに、どうしてあんなに対応が悪いのか。
廊下に出ると、喧々囂々。
様々な中傷が耳に届いて来た。
相手は子供だ。
そこまで中身なんてない。
でも、だからこそ、刺々しくて、痛い。
完全に八つ当たりだと分かっていたけど、先生への文句が消えない。
チラリと、手を引くゆーちゃんの様子を窺う。
ポロポロと、涙を流していて、私まで哀しくなる。
「ゆーちゃんは、聞かなくて良いから」
「……ぼく」
「早く行こう。ねっ?」
やっぱり、イベント目白押しだ。
身近な人の変化に気付くのが遅れて、フォローも出来なくて。
全部、私の手で助けられると思ってる訳じゃない。分かってる。
だけど、出来るなら助けたい。
だって、その方が私が幸せだ。
泣かないで。笑って。
過去を悔いても仕方がない。
私は、これからどうフォローすれば、またゆーちゃんが笑ってくれるか考える。
自然と荒くなる息を誤魔化しながら、私は、保健室へと急ぐのだった。




