35.反省
久々のグダグダ回です。
「麻子先生に会った!?マジかよ、瑞穂」
えー、またしても衝撃の事実発覚。
木下さんの正体は、メインヒロインの一人、十村麻子さんでした。
本当は、黙ってようかなーと思ってたんだけど、気が咎めたので焔に報告。
結果、目の前であからさまに溜息つかれてます。
か、哀しくなんかないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!
「いや、不良っぽいって聞いてたから、全然イメージが一致しなかったんだよね」
「あー、儚げ系美人とか言ってたっけ?」
「そうそう。麻子ちゃんマジ女神」
「そう言うの要らないから」
「焔が最近冷たい!」
最近って言うかずっとだろ、とか言われたら立ち直れないので、この辺で、ふざけた話は置いておく。
そして、真面目に考えてみると、結構戦慄が走る。
声を掛ける人掛ける人が、皆メインキャラってどう言う事?
こうして見ると、双子はオアシスだね。
全然漫画関係ないって話だし。
でもそれ以外の遭遇率がハンパない。
運命と言うヤツだろうか。
避けようとしても遭遇するって何?どゆ事?
「この観察日記(笑)でー」
「(笑)って言わないでよ。本気で書いたんだよそれ」
「家庭環境云々って書いてあるけどさ」
「まさかのスル―!と言うか、何でそれまだ持ってるの!?捨てよう!?」
「やだね。二十年後位に思いっきり笑ってやる」
「鬼!悪魔!イケメン!」
「何で最後褒めるんだよ…」
取り返そうとしたけど、背丈の問題か、歯が立たなかった。
畜生。
私の成長期はいつだ。
と言うか、普通女子の方が成長早くない?
何で私、未だに小さいの?
うーん、でもゆーちゃんよりは大きいし…焔が異常なのか。
そう言う事にしておこう。
「もう一回聞くけど、家庭環境云々ってどう言う事だ?」
「黙秘権を行使する!」
「お前に黙秘権は無い。俺の将来に関わるかもしれないし、素直に話せ」
「関わんないよー。そう言う問題じゃなかったし」
スッと軽く目を逸らす。
と、焔が疑わしげに目を合わせようとして来る。
ちょっ!何で私こんな疑われてるの!?
「本当か?でも、これ見る限り、晴臣と晴雅もその場にいたんだろ?」
「そうだね」
「なら、俺に話しても良いんじゃないか?今更一人に知られた所で良いだろ」
うっ。
痛い所を突かれた。
ここは、大人の威厳を保つ為にも知られてはならない。
本音など絶対に!!
「……」
「瑞穂。まさかとは思うけどな」
「うん?」
「話すの面倒臭いとか、そう言うどうでも良い理由じゃないよな?」
…アウトー。
「……も、モチロンダヨ!」
「うわっ、コイツ最悪だ!!やっぱお前に黙秘権なんてねぇ!はーなーせー!」
「いひゃいっ!いひゃいいひゃいっ!」
あー、ほっぺ抓らないでー!!
痛いー、伸びるー!
そして傷付くー!心が傷付くー!
しばらく、ドタンバタンと取っ組み合いをした。
途中、お母さんと目が合った。
助けを求めたら、グッと親指を立てて、頑張って!って励まされた。
今欲しいのは、励ましではない。
更に、双子も通りかかった。
二人は、お父さんから貰った、使用人課題をやっている真っ最中。
多分、休憩か何かのタイミングだったんだろう。
助けを求めたら、臣君には笑顔で、楽しそうですねーって言われた。
あろうことか、雅君にも笑顔で、お二人の問題はお二人で解決出来るはずです、って言われて、助けて貰えなかった。
み、味方なんていなかったんだ!
畜生、グレてやるー!
「ほらほら、早く話せば楽になるぞ?」
「うわああ、セクハラだー!焔のセクハラ課長ー!」
「意味分かんねぇよ!何だ課長って。てか、小二相手にセクハラもないだろ」
「同い年だしさ、そこは」
「中身中学生だって言っただろ」
「生まれてからの年齢も加算すれば結構行ってるよ。わぁ、ロリコン!」
「その方式で行くと、お前なんてババァだろ」
「あーあー、聞こえないー!!」
「二人で、一体何をしてますの?」
「あっ」
「あっ」
しばらく騒いでたら、伯母さんに見つかった。
私と焔は顔を見合わせて、頷く。
そして、素早く頭を下げた。
「「申し訳ありませんでしたー!」」
でもまぁ、言い訳虚しく、めっちゃ説教食らったけどね。
赤河の息子、青島の娘としての姿勢云々って。
胎教に悪いですよって、さりげなく逃げようとしたけど、逃げ切れなかった。
いや、あの、素直にスイマセンでした。
「まったく…。もうすぐに兄、姉になるのですから、少しは落ち着いて下さいな」
「申し訳ありません…」
「反省してます」
「はぁ」
伯母さんは、疲れたように溜息をつく。
そりゃそうだ。
喧嘩を見て、俺も混ざるぞ!ってな旦那や、ガンバ!って親指立ててスル―する義理の妹なんかに囲まれている中で、ちゃんと見咎めて、注意出来るような、こんな普通の人が、疲れないはずない。
お母さんも見習うべきだよ。
正直、下の子がどう育つか心配だよ。
「…ですが、貴方達は年齢に比べて大人びていますし、こうして二人でいる時だけでも、子供らしくいられるのは、望ましい事なのかもしれませんわね」
「えっ?」
伯母さんへの称賛の言葉を考えていたら、ポツリと、伯母さんが呟く。
傍から見ていると、そんな感じなのだろうか。
不思議に思って尋ねてみると、伯母さんは笑った。
「私、いつでも子供らしく過ごさせて頂いておりますが…」
「ふふ…もしかすると、無意識なのかしら?」
「??」
「確かに、貴方達は誰といる時も、子供らしく楽しそうにしていますが、それでもやはり、二人だけでいる時の方が、のびのびとしているように…そうですわね、少なくとも私の目には、そう見えておりますのよ?」
そう言うと、伯母さんはヨシヨシと私の頭を撫でる。
何だかんだ、私達、心配かけちゃってるのかな?
「ただ、それと今の乱闘騒ぎは、全く別の問題ですわ」
油断した瞬間、キッパリとそう言われ、最終的に結構なお小言を頂く。
うん。
伯母さんを怒らせたら駄目ですな。
理解した。
満足したらしく、この場を立ち去る伯母さんの背を眺める。
しばらくその場を、沈黙が支配した。
やがて焔がゆっくりと口を開いた。
「これで有耶無耶になった、なんて思ってないだろうな」
魂は余所から来てるだろうに、遺伝子って怖いね。
その声のトーン。
伯母さんそっくりっす。まじパネェっす。
諦めた私は、ようやく説明を始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふーん。それは確かに俺には関係なさそうだな」
「…だから言ったのにー」
満足げに笑う焔の一方で、私は肩を落とす。
中身のないおしゃべりは好きだけど、こう言う詳細説明とか苦手なんだよ!
恨めしげに見たら、ニヤッと笑われた。
くうう、やはりナメられている気がする…。
「まぁ、それはともかくとして、これから麻子先生がグレる可能性ってまだあると思うか?」
「断言は出来ないけど、少なくとも、今年すぐにどうこう、って事はないと思う。好きな人も出来たみたいだし」
「好きな人?」
「あっ」
これは言わないつもりだったんだ!
何も思わないで、ツルッと言ってしまった。
反射的に自分の顔面を殴る。
痛い。反省した。
でも、過去は変えられないんだよな。
私は、シラーッとした顔で誤魔化しに出る。
「いや、何でもない」
「お前、目の前でそんな激しい反省してるの見せられて、はいそうですかって、スルー出来ると思うのか?」
「思わない」
「ついでだし、言っちまえよ」
「うう…可哀想な麻子ちゃん…」
「可哀想なのはお前の頭だろ」
私は、泣く泣く状況を説明した。
即ち、何かうっとりとした表情で、臣君を見つめる麻子ちゃんの構図を。
「…は、晴臣ぃ!?……勘違いじゃなくて?」
「ない。断言出来るね。何しろ、雅君が渋い顔して忠告してるの聞いちゃったし」
「仲悪いって言ってなかったっけ?」
「と言うか、相性が悪い?臣君、今の麻子ちゃんみたいな人嫌いみたいだしー」
「えぇー」
焔が顔を顰める。
差し詰め、出会った当初からしばらく向けられていた、臣君からの敵意に満ちた爽やかな笑顔を思い返しているのだろう。
正直、あれはキツかった。
雅君みたいに、分かりやすく睨まれてる位の方が楽だった。
「いや、ないな。晴臣はない」
「見た目は超お似合いだけどね。美男美女フー!」
「見た目はなー。…と言うか、麻子先生って、どうしてそう無茶っぽい相手に惚れるんだ?」
「うーん。何か燃えるんじゃない?逆境とかに」
「とんだマゾじゃねーか」
「…」
恐ろしい。
麻子ちゃんの様子を思い返すと、笑い飛ばせない。
冷たくされてもうっとりしてたし…いやまさか。
「ま、まぁ、麻子先生が、フリーの晴臣好きな内は、俺の婚約者がどーのって流れは発生しないだろうし、親父を好きになる事もないだろうし、もう気にしなくて大丈夫っぽいな」
「えー?案外、原作の流れよろしく、全然振り向いてくれない臣君に身を引く事を決意した直後辺りに焔と知り合ってどーの、って流れとかあるかもよ?」
「おい、リアルな想像はやめろ。その通りになりそうで怖いだろ!」
ハーレムが怖い、と言うよりも、かぐちゃんのフラグが立った状態で、自分に女の人の影が増える事が怖いんだろう。
焔は、若干青い顔で溜息をつく。
「あと、折角だから、ちょっと思った事を聞いて欲しいんだけど」
「?何だ」
「私、これでも今回は、ちゃんと作戦通り、伯父さんの毒牙から麻子ちゃんを守るべく、色々考えてたんだよ」
「ああ」
「けどさ、想定と全然違くて、こんなに早く知り合ったでしょ?」
「そうだな」
「もしかして私達…どう転んでも原作キャラに関わっていくんじゃ…」
「……」
「……」
要するに、避けようとしたり、故意に介入しようとしたりすると、それではつまらない、とばかりに誰かの手が入るのでは、と言う事を言いたいワケである。
私達の頬を、冷や汗が伝う。
「おい。その想像はヤバい。やめとけ」
「いや、でもイベントを事前に知っとくのは良いと思うけど、意図的に関わろうとするの結構面倒くさ…」
「結局そう言う理由なのかよ!?」
流石焔!
人に出来ない鋭い突っ込み!そこに痺れるし、憧れるよ!!
そう言ったら、冷めた目で見られた。
えっ、面白くなかった?
えっ、ジェネレーションギャップ??
「ま、まぁ確かに、あんまり肩肘張って構えてる意味はないのかもな…」
「そうそう。緩く行こうぜ!」
楽しく生きよう!と言う目標からすると、解決しないだろう問題に怯えているのは、多分結構な障害になる。
「緩く…はともかく。うーん……お前はそんなんだしなぁ。分かった。俺だけでも一応警戒しとく」
「だって、疲れない?」
「あんまり俺が疲れてるっぽかったら言ってくれ」
要するにそれって、今まで通りじゃない?
まぁ、確かに記憶力の良い焔が構えてる方が良いんだろうけど。
ほら、私、その辺ゆっるいから。
「了解。とりあえず、現状維持って事だね」
「だな」
「あっ、今年は他にイベントないんだよね?」
「ああ。麻子先生のだけだ」
じゃあ、のんびりベイビー誕生を全裸待機だけだね。
よっしゃ!
楽しくなりそうだぜぇぇ!!
「…お前がそうして能天気に笑ってるの見てるだけで、結構気が抜けるしな」
「え?何か言った?」
「別に。茶でも飲みに降りようぜー」
「おうっす!」
こうして、特に大きな事が起こる訳でもなく。
毎日は平穏に過ぎて行くのです。
フラグじゃないよ!?