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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(二年生)
34/152

31.少しだけ不穏な始まり

 ―桜舞い散る季節。


 いよいよ、二年生が目前になって来た。

 こうして桜吹雪を見つめていると、感慨深い気持ちになる。

 本当に小学二年生になる時の記憶なんて、些細な物だ。

 こうして、落ち着いた気持ちで迎えられるなんて、僥倖だ。

 本来ならあり得なかった二度目。

 全部、あます事なく、この目に刻みつけようではないか。


「おーい、何ボーッとしてるんだ?早く頼まれた物買って行こうぜ」

「ふっ、お子様には分からないんだね。このアンニュイさは」

「はいはい。分かったから、お前焼きそば持てよ」


 (ほむら)が、遠慮なく私の手に焼きそばのパックを乗せて行く。

 ちょっと!!

 折角ノッてる所に、焼きそばはないんじゃないの、焼きそばは!?


 恨みがましくジッと見ると、(ほむら)は鼻で笑った。

 うおお、腹立つ…!!


「い、一応今日の主賓は私でしょ?何で私がパシられてるの?」

「それは親父に言えよ。俺のせいじゃないし」

「伯父さんに文句とは、何その死亡フラグ」

「分かってんなら文句言うなよ」


 私は、その言葉に、大仰に溜息をついて見せた。

 落ち着く為にも、現状について説明してみようか。


 本日、四月三日は私の誕生日です。

 で、近所の公園で桜祭りが開かれる日でもある。


 折角だし、桜祭りを見に行きながら、誕生日パーティーしよう!と言う事で、いつものメンバーが集まった。

 家族行事を死ぬ程大事にする伯父さんのお陰で、お父さんも参加出来ている。

 いつもは殆ど家にいないし、正直嬉しい。


 桜祭りと言っても、何かイベントがある訳でもなく、ただ公園内にたくさん屋台が展開していて、そこで何か買ったり、後は桜を見る位しかする事はない。

 人通りは結構多いけど、まぁ穏やかなお祭りだ。

 結構広いスペースあるし、のど自慢大会の一つでも開催したら良いと思うんだけど、多分企画者がいないんだろう。


「そう言や、林檎飴も頼まれてたよな」

「えぇー?まだ買うの?誰だそんな物頼んだのは」

千歳(ちとせ)

「よっしゃ、すぐ行こう早く行こう!」

「…現金な奴…」


 (おみ)(まさ)君の双子と、私と(ほむら)のぺアが、何故か買い出し係をしている。

 私主賓!と思わないでもないけど、メンバーを考えれば仕方ないんだろう。


 でも、私だってのんびりビール飲みながら桜見たい!

 あっ、今未成年だからビール飲めなかった!

 ……うう、ちょっと切ない…。


「てか、このお祭りって結構混むんだね。知らなかったよ」

「だな。毎年普通に家でパーティーしてたしな」

「ねー」


 (ほむら)は、平均より背が高くなっているからまだ楽そうだけど、平均より低めの私は結構辛い。

 お父さんはかなり背が高いけど、お母さんは背が低い方だ。

 前世は高い方だったけど、遺伝子に前世は影響しないだろう。

 出来れば高くなりたい。切実に。

 そうすれば、こんな人混みなんぞに負けたりしないのに。


瑞穂(みずほ)?大丈夫か?」


 そう思ってたら、サッと手を引っ張られた。

 誰かと思えば(ほむら)だ。

 まぁ、他に誰もいないんだけど。

 少しばかり複雑な気持ちで、私は笑みを返す。


「へーきだよ。ちょっと流されそうになっただけ」

「強がんなって。昔は知らないけど、今のお前小さいんだから」

「チビとは失敬な!」

「言ってないだろ…。ほら、手離すなよ?」

「うん…」


 何だか感動する。

 今の(ほむら)、超紳士だよ!

 何処に出しても恥ずかしくないって、この事を言うんだね。

 私は納得しながら頷く。


「あっ、屋台見っけ!」

「お、あったか?」

「うん。でも持てる?手離さないと」

「……危ないだろ」

「繋いでる方が危なくない?」

「駄目」

「えぇー?」


 片手に焼きそば、片手に(ほむら)

 これじゃあ、林檎飴は持てない。

 (ほむら)も何か色々持ってるし、手繋いでられなくない?

 私が間違ってるの?


 何故か良く分からないけど、(ほむら)はムッとした顔をしている。

 これはあれか。

 別に片手が塞がれてようが、林檎飴くらい持てる!と言う主張か。

 男の子だもんね。

 出来ない、なんてカッコ悪くて言えないか。


「すいません!林檎飴ひとつ下さいな!」

「おっ。お嬢ちゃんエライねぇ。お兄ちゃんとお買いものかい?」

「チッチッ!おじさま!私がお姉ちゃんですよ!」

「あはは!そうかそうか」

「それで、もし袋があれば、頂きたいんですけど」

「ああ、手がいっぱいだもんな。よし、持ってきな!」

「ありがとうございます!!」


 スムーズに袋を入手した私。

 サッとそこに焼きそばのパックと林檎飴を入れる。

 完璧だ。

 これで手を繋いでいられる。


 そうだ、(ほむら)

 これで君の望みは果たされるぞ!


「……」


 そう思ったのに、だからどうして不機嫌そうなの!?

 私、何か間違えた?


(ほむら)?どうかした?」

「…お前さ、すぐ年上ぶるよな」

「そこが不満だった?ごめん!そうだよね、(ほむら)だってお兄ちゃんだもんね!」


 何しろ夏ごろには、妹が生まれるのだ。

 (ほむら)も立派なお兄ちゃん。

 そりゃ、子供扱いは嫌がるよな。


 そう思ったのに、これも微妙な答えだったらしい。

 えぇー!私何を求められてるの?

 難しすぎるよー。


「ちょっとー、何が不満なの?」

「全体的に。瑞穂(みずほ)、すぐ子供扱いしてくるしさ」

「そんなにしてるかなぁ?」

「してる。知ってるだろうけど、俺中学生なんだぞ、中身」


 ムーッと目を細める姿はまさに子供だ。

 そんな事言われても、私からすれば中学生だって子供なんだよ。

 いや、決してババァではないけれども。


「分かるけどさぁ、難しいんだよ。そのさじ加減」

「そこは頑張れよ」

「えぇー?」


 それは最早私に息をするなと言っているようなものだよ!

 どうやって言い訳したものかと悩んでいたら、双子の声が聞こえて来た。


「あー、お嬢と若、手ぇ繋いでる!良いなー」

「お嬢様、荷物をお持ち致しましょう」


 と、同時に手が軽くなる。

 (まさ)君が持ってくれたようだ。

 ふと見ると、(ほむら)の方は(おみ)君が持ってくれている。

 流石は新・高校生!


「ありがとー、助かっちゃった!」

「いえ、この程度当然の事です」

「そうそ。気にしないで下さい」

「いいこいいこー!」


 頭を撫でてやろうとすると、二人は身体を傾ける。

 幼女が青年の頭を撫でる。

 傍から見たらなかなかに怪しい光景だな。ウケる。


「じゃあ戻ろうか!…?(ほむら)?」

「お前さー…」

「?」


 (ほむら)の顔が、果てしなく微妙そうに歪められる。

 えっ、私また何かしたの?

 ボケたつもりもないのにそんな顔されると傷付く。


晴臣(はるおみ)晴雅(はるまさ)も子供扱いなんだな…」

「ん?んんー……そうだね」


 考えてみれば確かにそうだ。

 いや、まぁ精神的には年下だしね。

 仕方ない仕方ない。


「なら仕方ないのか…?」


 (ほむら)は、そう小さく呟くと、押し黙ってしまった。

 いたいけな心を傷つけてしまったのだろうか。

 そんな事言われても、何処に地雷が埋まってるか分からないのに、避けようがないじゃないか。


「あれ?」

「どうかしたの、(おみ)君?」


 ふと、(おみ)君が足を止める。

 視線は、ある大きな桜の木の方へ向いている。

 何かと思って尋ねると、(おみ)君がその桜を指した。


「あそこの女の子、何してんのかなーと思いまして」

「女の子?」


 私達の視線が、一斉にその桜の木へと向かう。

 すると、確かにそこには一人の少女が立っていた。


 透けるような、真っ白なワンピースを着た、儚げな美少女。

 カバンも持たずに、桜を見るでもなく、ぼうっと人の波を眺めている。

 楽しそうに行き交う人々の中で、あの子だけが、重い空気をまとっていた。


「確かに。観光って感じでもなさそうだけど…」

「ですよねぇ。何してるのか聞きに…」

晴臣(はるおみ)。興味本位で声をかけるな。迷惑だろう」

「何だよ。マサは気にならないのか?」

「どうでも良い」


 そう言って、(まさ)君はさっさと歩いて行こうとしてしまう。

 慣れっこな(おみ)君は、やれやれと肩をすくめると、すぐに後をついて行く。

 私もそれに付いて行こうとして、その前にと、もう一度少女の方に目をやって。


 固まった。


「?瑞穂(みずほ)?」


 手を引いていた私が足を止めたからだろう。

 黙っていた(ほむら)が、怪訝そうに私の名前を呼んだ。

 その声で、一気に私は背筋に汗が湧き出るのを感じた。


「なっ、何でもない!」


 目を離したのは一瞬だった。

 なのに、もう一度見ると、既にそこに少女はいなかった。


 現実感の無い程、真っ白なワンピース。

 ワンピースに負けない程、綺麗な白い肌。

 際立つ、艶やかな黒髪。


 ……えっ、幽霊?


 心臓がバクバクと脈打つ。

 いや、脈打つなんて生ぬるい。

 身体の中から花火でも打ったかのようだ。


 何を隠そう、私は幽霊が苦手だ。

 怖いもん。

 人智を超えた何かとかあり得ない!


 えっ、お前転生したじゃないかって?

 それとこれとは話が別なんだよ!!

 怖いよ!怖いんだよ!!あんだーすたん!?おーけい!!


 私は、反射的に(ほむら)の手を強く握る。

 温かい。

 私は、生きてる。

 ちゃんとここに、生きてる。


「!?ど、どうしたんだよ、瑞穂(みずほ)…」

「ううん。本当に何でもないよ」

「???」


 私は、足早に皆の所へ戻って行った。

 騒がしいけど、愛おしい此処。

 実感してたくて、私はずっと(ほむら)の手を握りっぱなしだった。


「良く分かんないけど…安心するなら好きなだけ握ってろよ」

「ありがとう!」


 お化けなんてないさ!嘘さ!

 誰にも言えないけど、誰か保証して!ねぇ、お願いします!!


 楽しいはずの誕生会兼お花見は、ちょっと小さな影を落としたのでした…。


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