29.騒がしきクリスマス
「都会の方って、マジで雪あんま降らないんだね」
「瑞穂って雪国出身だったのか?」
「うん、まぁねー。だから、何かすっごい違和感」
冬がやって来ましたよ、皆さん!
ちょっとアンニュイな感じで外を見れば、若干としか言えない程度の雪。
本当は、もっとふっかふかな雪が降ってくれる方が、遊べるから嬉しいんだけどなー、なんて思ったら、ちょっとテンションが下がって来た。
雪よせしないといけないのは面倒なんだけど、だからと言っていざしなくて良いとなると果てしない違和感。
え?雪よせじゃなくて雪かき?
あれ、どっちだ?雪よせって方言なの?
……知らんな!
「瑞穂の事だから、雪ーとか言って遊びだすんだと思ってた」
「焔の中の私、どんだけ子供なのさ」
「え?アイツら位?」
焔が指す先には、薄っすらと積もったと言えなくもない雪をかき集めて、キャーキャーとはしゃぐ天使達の姿。
焔の中の私、精神年齢が肉体年齢と合致してるって事?
あれ、おかしいな。
目から水が…。
「と言うか、汚いな都会の雪!」
「あれしか降らないんだから仕方ないだろ」
「でもー、茶色い雪だるまなんて認められない」
「…白クマの時も何か言ってたもんな、お前」
「黒歴史掘り返すのは無しにしてくれ!」
記憶の彼方に行きかけてた黒歴史が顔を出して来た。
忘れたかったのに!忘れたかったのに!!
「何か白にこだわりでもあんのか?」
「いや、特にないけど」
「傍から見てるとすげーこだわりありそうなんだけどな」
「え、マジ?私、もしかして白好きだったのかな」
どうでも良い事実が判明した。
…これ、本気でどうでも良い事実だな。
私は、軽く溜息をつくと、ポンと手を打つ。
「あ、そう言えば聞きたかったんだけど」
「ん?何だ」
「焔さー、誕生日欲しい物ある?」
「……は?」
ん?
私、何か変な事聞いたかな。
どうしてそんな、信じられないものを見たかのような顔で固まってるの。
まさか、私が相棒に誕生日プレゼントすらあげないような鬼畜だとでも!?
プンプン、失礼しちゃうわっ!
なんちゃって。
「そんなに驚くような事だった?」
「え?いや、あーっと、悪い」
「謝られると逆に傷付くんだけど……」
「今まで何もなかったから、てっきり今年も無いもんかと思ってたんだよ」
無いとか失礼だな!
あったよ!誕生日パーティーの料理の一部手伝ったよ!
言わなかったから焔は知らないのかもしれないけどさ。
…何か、縁の下の力持ちっぽいな。
相手に知られず、相手の為になる事をする。
やだ、カッコ良い!
ここは大人として、過去の威光は伏せておく事にしよう。そうしよう。
「甘いな、焔!今年から私達にはアレがあるじゃないか!」
「アレ?」
「そう。……OKODUKAI!お小遣いだよ」
「何でちょっとエセ外国人風…?」
「ノリ」
小学生になったからって言って、入学式の後からひと月五百円のお小遣いを貰えるようになっていたのだ。
金持ちの癖にしょっぱい金額だ?
いやいや、これが我が家の教育方針なのだ。
金銭感覚が狂わないように、世間一般とあまり大差ない額のお小遣いを支給するのは、もうずっと行われてきた伝統なのだそうだし。
まずは、これであのピンク地獄を変えるべく、必死で溜めている。
春の決意虚しく、まだピンク地獄からは脱せられないけど、着実にお金は増えて来ているから、抜け出す日も近いだろう。
「でも、お前カーテンとかベッドカバー変えるんだとか言ってたじゃないか」
「うん、そうだね」
「俺の誕生日プレゼントなんて買う余裕あるのか?」
「そんな高級な物要求する気?」
「そう言う訳じゃないけどさ」
「なら問題なし!ノープロブレム、だよ。おねーさんに任せなさいっ」
ふふん、と鼻を鳴らして胸を逸らす。
そしたら、焔が何とも言えない様な微妙な顔になった。
腑に落ちないのは私だけですか?
「お姉さん、なー」
「え、そこ不満?」
「良く分かんねぇけど、そうかも」
「えぇー」
「…ま、良いや。特に欲しい物も思いつかないし、任せる」
「ん、了解」
そこまで話すと、私は天使達を呼び寄せる。
そもそも、その為に今一緒に帰ってるんだったよ。
忘れてたよ。
あっ、嘘です。忘れてないよ!覚えてたよ!!
「ちーちゃん!ゆーちゃん!ちょっと良い?」
「なになにー?」
「はぁい!」
フカフカのコートを着た、愛らしい天使達が駆け寄って来る。
ここが天国ですね。分かります。
「二人共、十二月二十五日は暇?」
「くりすます?」
「くりすますだー!」
「焔の家でパーティーやるから、良かったら来てね」
「いくー!」
「いくいくっ!」
「うん、ちゃんとお父さんとお母さんに確認してね!」
「「はーい!」」
良い子達だ。
私はホッコリしながら家路に着いた。
因みに後日、二人の参加が正式に決定した。
いつも突然誘ってすいません、二人の親御さん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「メリークリスマス!」
「めりーくりすます!!」
「メリーバースデー焔!!」
十二月二十五日。
皆で赤河家の方に集合。
ケーキを囲ってパーティーが始まる。
家の風貌に相応しい、至って普通のパーティーだ。
立食パーティーだとか、ダンスパーティーだとか、そう言うものは特にない。
庶民的嗜好から行くと、その方が落ち着くので有難い。
「え?」
「あれ?」
焔おめでとー。
なんて、パチパチと手を叩いていたら、ちーちゃんとゆーちゃんが目を丸くしながら、私を驚いた顔で見ている。
可愛いけど…あれ?私何か変な事言った?
首を傾げていると、呆れた様子の焔と双子から突っ込みが入った。
「お前なぁ…メリーバースデーって何だよ。混ざってるぞ」
「あとお嬢さぁ、もしかしてちゃんと説明してなかったんじゃないです?」
「恐れながら、お二人にはクリスマスパーティー、としか説明していなかったように記憶しております」
「…あれっ、そうだっけ!?」
そう言えば、招待状にもそう書いてたかもしれない。
とんだサプライズもあったものだ。
招待客へのサプライズとか誰得。
私は、誤魔化すように笑いながら、シャンパンに見立てた炭酸飲料を飲む。
お酒も好きだったけど、ジュースって美味しいよね!!
…はい、分かってます。
いつまでも誤魔化しきれないって分かってます。
私は、挙動不審になりながら謝った。
「えっと、二人共ごめんね。てっきり説明したものだと思ってて…」
「ほむらくん、きょうがおたんじょうびだったの?」
「実はそうなんだよ~。祝、七歳!」
「…」
「…」
そんなにショックだったのか、ちーちゃんとゆーちゃんは顔を見合わせている。
ごめんよぉ、お姉さんちょっと脳内老化が始まってて…。
「みずほちゃん!」
「ほむらくん!」
と、思ったら、ちーちゃんは私に、ゆーちゃんは焔に、それぞれ急に詰め寄る。
どうやら、ショック、と言うのは少し正確でなかったらしい。
「みずほちゃんのおたんじょうびはいつ?」
「ぼくしらなくて…ごめんね、プレゼントもってきてないんだ…」
わぁ、見事に別方向。
ゆーちゃん、その年にして気遣い屋さん。
是非ともその心を大事に育ててほしい。
そしてちーちゃん。
……ブレないね……。
「別にプレゼントなんて要らないって。来てくれただけで嬉しいしさ」
「ほむらくん…!」
「よっ、流石若!イッケメ~ン!」
「晴臣ウゼェッ!!」
因みに、クリスマスプレゼントは皆持って来ていた。
だから、そこまで気にする事じゃないんだけど、ゆーちゃんは優しいねぇ。
なんて思いながら、私は誕生日を思い出す。
時々前世の誕生日と混じりそうになって怖い。
「私はねー、四月三日だよ!」
「えぇ?もうすぎちゃったの…?」
まぁ、もう十二月だし当然だ。
寧ろ、ちーちゃんには言った事なかったっけ?と疑問にすら思う。
あれか。
精神的には、もう誕生会とか要らない位の年齢だし、忘れてたのか。
「そう言えば、ちーちゃんとゆーちゃんの誕生日はいつ?」
「ちとせはねぇ、五月五日だよ!」
「ぼくは十月十日!」
「ゾロ目!…あっ、ごめん何でもない」
某有名週刊少年漫画で良く使用される誕生日だね、とか捕まる。
自重しておこう。
それにしても、意外だったな。
一番幼い印象の強いちーちゃんが、私の次に誕生日が早いとは。
大人になれば、そこまで誕生日の差なんて感じないし、それどころか年齢差も人によっては全然感じないものだけど、子供の頃の一ヶ月、二ヶ月の違いは大きい。
学年違くない?嘘、同じなの?って二度見する位の違いはある。
だからまぁ、ちょっと驚いた。
「よし!じゃあ次から皆でお祝いしようね!!」
「うんっ!」
「ぼくがんばる!」
と、言う訳で、ここに来年度から皆の誕生会を開催する事が決定致しました。
いやぁ、楽しみですね!
「あれ?そう言えば、臣君と雅君の誕生日……」
「ないよぉ」
「ないです」
「ん?」
「だからぁ、ないですってば」
「その通りです。僕等に誕生日など存在しません」
「…そ、そうなんだ?」
何かトラウマでもあるんだろうか。
ここはソッとしておこう。
「それよりお前等、ボーッとしてると親父…父さんにケーキ全部食べられるぞ」
「えぇ!?ちとせのケーキ!」
「ぼっ、ぼくまだたべてない…!」
「ふはははっ!桐吾のケーキは幾らでも食えるなぁ!」
「恐れ入ります」
何と言う大人げない大人だろうか。
いや、そもそも伯父さんはあれだから。
身体の大きな子供だから。
ふっと目を逸らせば、太っちゃう、と言いながらもケーキをたらふく食べるお母さんと、それを止める伯母さんの姿。
…ああはなるまい。
「赤河家の血筋って、なんかこう…子供なのかな」
「それ、お前も自爆だからな」
「知ってるけど…」
主賓がケーキを食べないでサラダ食べてる事態に、いい加減誰か突っ込むべきだと思う。
甘い物苦手なのは知ってるけど、ちょっとは食べようよ!
ケーキの上に乗ってる、ハッピーバースデー焔様チョコすら伯父さんの腹の中に行っちゃったんだよ!?
ここまで来たら、いっそただのメリークリスマスチョコにすべきだったと思う。
「気にしてないから良いって」
「でもさぁ」
「こうやって、皆で騒げる事の方が嬉しいんだよ」
そう言って笑う焔は、何だかちょっと大人びていて。
私はちょっぴり、哀しくなった。
「ほら焔、騒ぐよ!」
「は?」
「今日は無礼講だー!食らえ、伯父さん!焔爆弾!」
「って、おまっ!何する気…って、俺を投げるなー!!」
「瑞穂が俺の事伯父さんって呼んでくれた上に焔が飛びついてくるぞ!」
「ぎゃああ!マジでやめろ!!」
「遠慮せずに来い、我が息子よ!」
「いやぁああ!!」
「わぁ、なんかたのしそう!はるおみくん、ちとせもー!」
「えぇ?あれは危ないですよぉ。じゃあ、せめて…たかいたかーいっ」
「わぁい!」
「……いいなぁ」
「…悠馬。僕がやってやろうか」
「えっ!?ホントに!?わああいっ!!」
「うふふふ~瑞穂ちゃんがひとぉり、ふたぁり…」
「美紗子さん!これ以上の飲みすぎは胎教に悪いですわ!おやめなさい!」
「…平和ですね」
「そうですね。さ、桐吾さん。もう一杯」
「ありがとうございます、西さん」
こうして、あんまり清くなさそうな夜は更けて行った…。
内容が、無いよう…。




