27.皆大好き運動会(※)
※途中、焔視点が挿入されています。
運動会だよ、全員集合!
と、言う訳で運動会がやってまいりました。
時期がおかしい?そんな事ないよ!
何だかんだと夏休み明けから、結構経っちゃったからね。
いやー、平和だった。
でも、その分盛り上がりには欠けていた。
これは、今日大暴れしろと言う、神様の思し召しですね、分かります!
「今日は負けないからな、瑞穂!」
「おうともさ、焔!」
ガッと拳を合わせる。
こう言う事してると、ああー前世で夢見た青春してる!って幸せになる。
しかも、私はまだ小学一年生。
十年以上青春出来るよ!
何と言う僥倖でしょう。
「お嬢達良いなー。俺も応援行きたいですよー」
「我儘言うな、晴臣。僕だって行きたいのを我慢してるんだ」
「いやいや、見ても何も面白くないよ」
「案外瑞穂が派手に転ぶのとか見れるかもしれないぜ?」
「あっ、それ俺見たい!その時はお姫様だっこで運んであげましょーね、お嬢?」
「嫌がらせか!」
「お嬢様が転ばれる前に救うべきだろう。何を言っている」
「いや、雅君も結構何言ってるの?って感じだけど…」
「今更だろ」
誰も私は転ばないって言ってくれない…。
…ちょっとヘコんだけど、それは置いておいて。
どうしても私の失敗姿を写真に収めたいらしい臣君が、最後まで渋ったけど、何とか中等部の方へ行ってもらう事に成功した。
あの二人は、何だかんだ言って今年受験生だ。
今回の転校で、実質エスカレーターになった訳だけど、だからと言って気軽に学校をサボって良い訳じゃない。
なので、ちゃんと学校に行ってくれて、ちょっとホッとする。
誇張表現でも何でもなく、私のせいで受験失敗しました、なんて言われたら悔やみきれない。
まぁ、二人は優秀だし、問題ない事は分かるんだけどねぇ。
「ほら、何ボーッとしてるんだ?さっさと行こうぜ」
「あっ、ちょっ、置いてかないでよーっ」
二人の事はともかく、今は運動会だ。
よーし、いっちょ気合い入れて行くぞー!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぐぬぬ…焔の癖に生意気な…!!」
白鶴学園初等部の運動会は、組毎、学年別、学年毎で勝敗が決められる。
つまり、私で言うのなら、私は一年二組だから、一年生から六年生までの二組の人達とチームになって、他の一組、三組、四組と争う組毎の勝敗。
一年二組として、他の一年一組、三組、四組と争う学年別の勝敗。
一年生として、他の二年生から六年生と争う学年毎の勝敗。
これらの三つで勝敗が決まるのだ。
結構ややこしいけど、色々勝負が出来ると思えば面白い。
当然私は気合いを入れて臨んだ。
全部で優勝するぐらいの気合いを入れないと、つまらないしね。
けど、当たり前の結果かもしれないけど、なかなか苦戦していた。
例年、体力や経験のない一年生は苦戦を強いられると噂で聞いてはいたけど、なんだかんだ言って、想像よりも上級生が本気でぶつかって来たのだ。
大人げないとか言っちゃいけない。
勝負事に年齢などあってないようなものだし。
なのに!
この私が苦戦を強いられていると言うのに!
何故か、焔は余裕の表情で上級生をぶっちぎっていくのだ。
なんて憎たらしい!
生意気にも女子から黄色い声を浴びている。
しかも、上級生のお姉様達からもだ。
わ、私が活躍して騒がれる予定だったのに…。
これが主人公と言うものか。
畜生グレてやる。
…とは言え、私もただ単に苦戦している訳ではない。
人呼んで現代の諸葛孔明とは私の事だ。
午前中はあくまでも情報収集が主体だった。
午後は…午後は私のクラスの独壇場だ!見てろよ、焔!!
最後に泣くのはお前の方だー!
「み、みーちゃん?なんかコワイよ…?」
ゆーちゃんに引かれた。死のう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「(瑞穂の奴、気合い入れ過ぎだろ…。何だアレ……)」
昼休みを終えて、午後の部が始まった。
短距離走、借り物競走、障害物競走、みたいな個人競技が午前に集中していたのに対して、午後は綱引きとかリレーとか、花形の団体競技が多い。
何人もで参加する必要性から、勝った時にもらえるポイントも多い。
だから、気合いを入れるのも勿論分かるんだけど、あれはないだろ。
俺は思わず噴き出しそうになるのを抑える。
クラスメートから怪訝そうな顔を向けられて、慌ててすまし顔を作る。
俺の頑張って維持してるイメージが崩れるじゃないか、あの野郎。
瑞穂は、普通に見て可愛い顔をしている。
まぁ、あのちょっと厳しそうだけどイケメンな叔父さんと、どう少なく見ても美人な叔母さんから生まれたんだから、当然か。
それにしては、普通過ぎる気もするけど、そこは言わないでおく。
そんな顔に、アイツは惜しげもなく変なペイントを施している。
それだけじゃない。
クオリティーの妙に高い、日曜朝のお子様枠の魔法少女物に出てくるゆるキャラみたいな衣装を着ている。
あれは、地味にポイントが高い割に、案外誰も気にしていないサブ競技、応援のつもりなんだろう。
あそこに目を付けるとは、なかなかやるな。
一年生は、入って間もないから、応援は適当な感じでやる事が多い。
かく言う俺のクラスも、メガホン持って頑張れーと言ってる位だ。
競技としてプログラムに入って無いから、気付き辛いせいなんだろうけど。
その癖、応援の枠で優勝すると、普通にどんでん返しが起きるくらいのポイントが与えられる。
ちょっとしたバランスブレイカーだ。
勿論上級生達は皆知っていて、運動が苦手な奴とかを応援に回して、ポイント稼ぎをしているみたいだ。
って言っても、あそこまで気合いを入れている奴は他にいない。
何だあのキレの良過ぎるダンス。
大体、周りの女子達皆、魔法少女の衣装チョイスしてんのに、何でお前はゆるいキャラ選んでるんだよ。
やべぇ、また笑えて来た。
そう言えば昨日、晴雅が、流石にコレはないとか、せめてスカートにアレンジしたらどうか、とか訳の分からない事を言っていたけど、コレの事か。
瑞穂って、何でこう、笑いを取るのに全力なんだろうなぁ。
「あこうくん!つぎ、あこうくんのばんだよ?」
「え?ああ、サンキュー」
クラスの子に声をかけられて、俺は我に返った。
アイツにツボり過ぎて競技忘れるとかどんだけだよ。
そう思いながら、俺は幾つ目になるのか、そもそも次何だっけ?なんて思いながら、スタート地点へ急いだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「キャー!カッコ良いー!」
「可愛いー焔君っ」
「赤河くーん、こっちむいてー!」
どうしてこうなったんだろう。
俺は、若干げんなりしながらも、笑顔で手を振る。
前世でこんな経験した事ないから、ちょっと笑顔が引き攣った気がする。
これも、主人公としての特権か。
でも、大して嬉しくない。
あんなに望んだハーレムだけど、相手が子供だからか、それとも違う理由か。
俺は全然喜べずにいた。
これなら、瑞穂を見てる方がよっぽど楽しいし、嬉しい。
そう思って、アイツの姿を人ごみの中探す。
予想よりもすぐに見つかった。
悠馬と肩を組んで、機嫌良く変なダンスを踊っている。
中身は随分年上だろうに、ただの子供にしか見えない。
楽しい…は楽しいけど、どうしてだろうか。
さっきまでより楽しくない。
俺は首を傾げる。
あの変な仮装を止めたからか?
他に理由も分からないし、多分そうなんだろう。
「ほむらくん、どうかしたの?」
「えっ?ああ、千歳…」
無邪気な笑顔で俺に声をかけて来る千歳。
俺は、勝手な我儘で、この子の未来を奪う所だったのか。
ふとそう思うと、何だかやるせない気持ちになる。
そんな暗い顔をしていたら、気にさせる。
俺は、出来る限り明るい顔をして答えた。
「瑞穂と話してる方がよっぽど楽しいなーと思ってさ」
「そうだよね!ちとせもそうおもう!どうしてテキなのー?」
「あはは」
ぷぅ、と頬を膨らませた千歳に笑いが零れる。
つんっと膨らんだ頬をつつくと、柔らかい弾力が返って来る。
こうして接してると、妹にしか思えない。
変に漫画みたいな展開が、これ以上起こらなけりゃ良いなぁ。
思わず溜息をついてしまう。
大体、旅行先でもあんなヒロインホイホイするなんて…。
あれは瑞穂のせいって言うより、俺のせいもあったけど。
「ねー、ほむらくん」
「ん?」
ああ、また暗い顔でもしちまったか?
千歳の心配そうな声に、俺は少し慌てる。
でも、千歳の言いたい事は、それとはちょっと違ったみたいだ。
俺は思わず、言い訳の言葉を飲み込んだ。
「別に何でもー…」
「みずほちゃんとこ、いこう?」
「へっ?な、なんで…」
「だって、ほむらくん、みずほちゃんのことだいすきでしょ?みずほちゃんといるときに、そんなくるしそうなかおしてたことないもん!だからはやく!」
俺は、半ば呆然としながら、瑞穂に視線をやった。
そんな、分かりやすい位、俺苦しそうな顔してたか?
で、アイツといれば、大丈夫?
どう言う意味だ?
千歳の言葉を疑う余地は無い。
千歳は、嘘をつかない。
子供らしく、正直で、ストレートだ。
だからこそ、訳が分からない。
苦しそうな顔をしたのは、多分、いや間違いなく、完全にフラグが立ってしまっただろうかぐやの事を考えたからだ。
嫌いじゃないけど、俺、あんな肉食女子受け止められないし。
刺されそうってのは、あくまでも俺の感想だけど、本編でかぐやを振るシーンは作中で一番緊張した。
あれは、主人公の焔が、本気で千歳を好きになって、その上で振るから、かぐやは納得するのだ。
俺の、フワッとした性格で、無事に断れる気がしない。
それまでに、本気で好きになれる人が現れる気もしなかった。
俺の、社会的か、それとも物理的かの命がかかっている。
そんな事を考えていて、そうだ。
旅行の後しばらく、俺は落ち込んでいた。
そんな俺に遠慮してか、しばらく瑞穂が静かにしてたら、何か更に気持ちが落ち込んだのを覚えている。
そうだ。
考えても見れば、俺はどうやって立ち直った。
急に瑞穂が、ウザいぐらい絡んで来たタイミングじゃなかったか?
そう考えると、全部がしっくり行く。
ただ、どうしてだろう。
アイツのアホ面見てると、すげー認めたくない。
確かに、アイツが手を差し伸べてくれた事で、俺の世界は広がった。
でも、付き合いが長くなればなるほど、なんか素直に認めたくなくなって来る。
「千歳。俺は大丈夫だから」
「えぇ?ウソはいけませんよ?」
「嘘じゃないって」
「んー……わかった。じゃあ、ちとせだけみずほちゃんとこいく」
「あっ、おい」
もしかして、自分が行きたかっただけじゃ…。
俺は苦笑気味に、小さな背中を見送る。
千歳、もうちゃんと出場競技ないんだろうな?
「(にしても、だいすき、か…)」
千歳から見て、俺は瑞穂を大好きなのか。
何か、それもしっくり来ない。
嫌いじゃないけど、考えてるとムカムカして来る事も多い。
俺は恋なんて知らないけど、少なくとも恋心なんて抱いてないだろう。
じゃあ、家族愛?
それも何か違いそうだ。
言うなれば、やっぱり、同士とか、親友?
そんな感じ。
…なら、大好きって言っても良いのか?
でも、アイツから見た俺なんてペットみたいなものだろうし、俺だってそう言う風にしか見えない時だってある。
そう思うと、何だかお腹の奥がズンと重くなる。
これはあれだ。ストレスだ。
きっと、瑞穂の存在が、漫画だとか、運命だとかより大きな問題になって、俺に圧し掛かってるんだろう。
だから、落ち込んでる余裕がなくなるんだ。
そう考えると、腑に落ちる気がした。
まぁ、いちいちアイツの事でイライラさせられるのは不満だけどな。
「よし、じゃあ最初の宣言通り、負かして来るか!」
次に見た瑞穂は、悠馬を撫で回して愛してるとか、トチ狂った事を言っていた。
それを見たイライラをぶつけるように、俺は最終競技であるリレーへの準備を開始するのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「くそおおお!!何で?どうして勝てないの!?」
「はっはっはっ!俺の方が一枚上手だったって事だな!」
「ぐやしぃぃぃい!!」
運動会は終わりを告げた。
私も焔も、個人的な成績では殆ど大差なんてなかった。
だけど、あんなになりふり構わずにポイント稼ぎに出たのに、結局は最終競技のリレーにおける焔の大活躍で、僅差で私は敗れてしまった。
「焔なんて可愛いお姉様達にキャーキャー言われてただけだったのに!」
「はぁ?お前、そんなの見てたのか?」
「見るよー。だってムカつくじゃん」
「えっ」
何でか、焔が信じられないものを見る様な目で見て来た。
ん?私、何か変な事言った?
首を傾げていると、焔は顔を急に赤くした。
そして、謎の言葉を叫ぶ。
「違うから!」
「え?」
「お前の事なんか大好きじゃないからな!嫌いでもないけど!?」
「ああ、そうなの?私は大好きだけどね。あっ、寧ろ愛して…」
「うるさーい!!」
「あのー…ど、どうかした?何か様子変だけど…」
焔の癖に生意気だ、と言いたいだけだったんだけど。
何がどうしてこうなったのか。
焔はそのまま、訳の分からない事を叫びながら、自宅に飛び込んで行った。
うーん……お腹でも痛かったのかな?
こうして、何かスッキリしないまま、日は傾いて行きました。
「ぶふっ!ちょ、若分かりやす過ぎ!」
「ついて来るなよ、晴臣ぃ!」
「小一で初恋なんて、おませさんですねぇ、若!」
「違う!勘違いだ!運動会マジックだ!!」
「またまたぁ、嬉しかった癖にぃ」
「……趣味が悪いぞ、晴臣…」
運動会の話なのに、全然運動会してない…。
本格的に運動会するのは、二年生編以降です。多分。