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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(一年生)
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25.What's your name?

「あなたの名前は何ですか?」

 旅館に滞在し始めて、明日で一週間になる。

 とうとう家に帰れるのかと思うと心底嬉しい。

 ただ旅行に来ただけで何を言ってるんだ、と言う感じだけど、聞いて欲しい。

 こんな風に疲れているのには、理由がある。

 言わずもがな、あの少年である。


 悪い子だった訳じゃない。

 最初の印象通り、暗くて卑屈な感じだけど、その代わり裏が無い子だ。


「あっ、よかった来てくれた!ボク、朝からずっとまってたんだよ。あそぼう!」


 ニッコリとした、純真百%。

 一切の邪気が混じる事の無い笑顔。


 普通なら、そんな笑顔を向けられたら嬉しい。

 だけど、彼がこのセリフを言った時間帯は、既に夕方であった。


 朝からずっと?待ってた?

 時間を決めずに走り去ったのはこの子だし、原因はこの子にあるかもしれないけど、それにしてもちょっと怖い。


 同じ旅館に宿泊してる子供なんて、大していないだろうし、何処に泊まってるか位、誰かに聞けばすぐ分かるはずだ。

 そう思って尋ねれば、彼は首を横に振った。


「ボク、まつのとくいだから。いつまででもまってるよ!」


 ちょっと眩暈がした。

 だって友達だもん、じゃないよ!!

 そんな事言って良いのは幼稚園に入るまでだよ!

 だけど、彼の恐ろしい所は、その粘着質な所ではなかった。


「わ、私達来ないかもしれなかったじゃないですか?」

「え?そ、そんなことないよ。だってヤクソクしたじゃないか」

「破るかもしれないし…」

「でも…ボクが見たこと…いわないでほしいんでしょ?」

「……」

「だから、だいじょーぶ!」


 要するに、彼は私達が黒歴史を他人に知られたくないと分かっていて、絶対に私達が約束を破る事はないと確信していたのである。

 なんてスマートな確信犯でしょう。

 しかも、彼は無自覚に脅してきている。


「お、脅すつもりですか?」

「え?どうして友だちをおどさなきゃいけないの?」


 心底分からない、と言ったトーンで首を傾げる少年。

 嘘をついているようには見えなかった。


 出会って二日目。

 私は、彼との出会いを後悔しつつあった。

 (まさ)君とは別のベクトルのヤンデレじゃね?

 そんな疑問は押し込んで遊んだ。

 当然、(ほむら)も引っ張って行った。

 天然小悪魔な少年と二人きりでなんて遊べるかー!


 で、昨日まで欠かさず、時間が空けばこの公園に来た。

 幸いな事に、ヒロインとの遭遇イベントは起きていない。

 神様も、ある意味自業自得とは言え、彼に振り回される私を哀れに思って、少し優しさを見せてくれているのだろうか。

 もしそうなら、お礼を言っておこう。


 ただ、ここまで説明すると、私が彼を嫌っているように聞こえるかもしれない。

 しかし、正確に言えば、嫌いではない。

 苦手なだけなのだ。

 彼と遊ぶのは楽しいし、嫌いではない。

 苦手なだけなのだ。


 けれど、そんな日々も今日で終わり。

 明日は帰る日だし、遊んでいる時間はないだろう。

 もう少年との事で、神経をすり減らす必要はないのだ。

 なんて解放感!


 え?そんなに疲れるなら、双子に押しつければ良かったじゃないか?

 いやいや、幾らなんでもそこまで鬼畜な事は出来ないよ。

 ま、まぁ、もし二人がそれぞれ伯父さんだったりお母さんだったりにムチャ振りと言う名の用事を言いつけられてなかったら、分からなかったけどね。


 ……いやいやいや。

 流石の私もないない。

 自分が嫌な事を人にしちゃいけないって習ってるからね。


「ふ、二人共、帰っちゃうの…?」

「あー、ハイ。すみません」


 ボーッとしてる間に、(ほむら)から明日帰る、と言う事が少年に伝えられていた。

 やだなぁ、誰だよ押し付けたなって言ったのは。

 違うよ、押し付けてないよ。

 じゃんけんして平等に決めたよ。

 素直すぎて若干出来レースっぽくなったけど、本人が気付いてないからOKだ。

 問題ない。


「そ、そ、そっか……」


 意外にも、少年は大人しい反応だった。

 視線を落として、しゅんとしている。

 てっきり精神攻撃を与えて来るかと思っててごめんなさい。

 真面目に謝ろう。

 いや、直接謝った方が不快にさせるから黙ってるけど。

 今更だけど、私相当中身腐ってるな。

 生まれ変わってすら手遅れか。そうですか。


「うぅ…せ、せっかく仲良くなったのにぃ……」


 縋るように、私を抱き締めて泣く少年。

 私は、罪悪感から彼の背中をよしよしと撫でる。

 撫でながら、罪悪感以上に違和感を感じはじめた。


「(ん?なんか(やわ)いよーな……)」


 ……やっぱり、何か引き寄せるものでも持ってるんだろうか。


 内心で、否定したい可能性に気付いてしまった私。

 とりあえず思う存分撫で回す。

 こうして触れてみると、何だかこの子も可愛らしく見えてくる。

 誰だ、地雷なんて言ったのは。

 唯一仲良くなった私達を引き留めようとする所の、何処が怖いと言うのか。

 可愛いもんじゃないか。

 え?言ったのは私?知らんな。


「そ、その代わり今日はたくさん遊びますから」

「ホント?」

「はい」

「じゃ、じゃあ、まえにやってた、ブランコとぶヤツがいい!!」


 パッと私から離れると、焔の手を引っ張ってブランコへ。

 いや、これフラグ立ってるの私じゃないよね。(ほむら)だよね。

 私は、生温かい目で二人を見守る。


 そう言えば、出会ってから一度も名前を聞いていなかった。

 私と(ほむら)は名前で呼び合ってるから、向こうは知ってるかもしれないけど。

 それが、全ての災いの始まりか。

 それとも、それが主人公たる所以か。

 後者っぽいなー。


「つ、疲れた……。見てないで変われよ、瑞穂(みずほ)

「良いよー。了解しました」

「?何でお前ちょっとニコニコしてんの?」

「いや、運命って恐ろしいなーと思って」

「???」


 首を傾げる(ほむら)を無視してブランコに乗る。

 早く早くと、無邪気に呼びかける声。

 一体どうして、少年だなんて思ったのか。

 双子の成長速度が早すぎるのがいけない。

 彼らは、身体だけで判断すればもう大人だし。


 確かに、この子の背は高い。

 でも、背の高さに反して、声は高いまま。

 すぐ分かっても良い事だった。


 彼…いや、彼女(・・)が、いつも従業員棟の方から走って来る事からも。


「ボク、じょーずになったよ!」

「うん。そうだね!」

「わっ、ミズホちゃん、けいご…」

「だって、私達もう友達でしょ?」

「っ、えへへ……」


 嬉しそうに頬を染める少年、改め少女。

 どんなに激しく動いても、取れる事のないフード。

 風が吹いてもかき分けられる事のない前髪。

 身体のラインなんて死んでも守るブカブカのパーカー。


 これがつまりは、ヒロイン力か。


 変身しても服以外変わってないのに、誰にも気づかれない程度の仕様。

 現実のはずなんだけど、その辺りは漫画なのか。

 そっちの方が怖いな。

 もしかして、かくかくしかじかって説明しても通じるのかな?

 …幾らなんでも、それはないよね。


「よーし!今日こそ、ミズホちゃんよりとおくに…きゃっ!?」

「あっ、ぶない!!」


 私の友達宣言に、あまりにも浮足立ったせいか。

 少女はバランスを崩して、ブランコから投げ出されてしまった。

 私は慌てて呼びかけたけど、流石ヒロイン。

 何の問題もなく、主人公に抱き留められていた。


「おい、大丈夫か!?」

「あ……」

「まったく。ちゃんと気を付けろよ…って、ん?」


 うっとりと(ほむら)を見上げる少女。

 その頭を覆う、鉄壁のフードが、外れていた。

 イベントか。

 これが話に聞いていたアバンチュールイベントか。


 フードから流れ落ちる、美しく長い黒髪。

 こうして全体像を拝めば、それがまさに日本人形と呼ぶに相応しいだけの艶めきを持つ事が分かる。

 前髪だけでもあんなにサラサラで綺麗だったし、今思えば当然なんだけど。


 それでも、漫画の世界にはロン毛の男の一人や二人はいる。

 否定出来る材料はある。


 抱き留めてさえいなければ。


「うっ、うわぁあああ!??」


 (ほむら)は、顔を真っ赤にして後ずさって、勢い良く遊具に頭をぶつけた。

 流石は精神中学生。

 スタイルの良い女の子のバスト様のダメージをあそこまで受けるとは。

 弱点、女体か。この野郎。

 私じゃあそこまでの反応見せない癖に。

 まぁ、今の私はどっからどう見ても幼女ですけどね!

 ドヤァ!


「なっ、ななな!お、おまっ、おおお、女の、子??」

「うっ、うん。何でそんなあたりまえのこときくの?」

「えっ」

「や、やっぱりこんな大きくちゃカワイくない!?ウスノロでやくにたたなくてきもちわるい!?ヒドイッ!」


 少女はしゃがみ込んで、わっと泣き出す。

 ちーちゃんとは違う方向の、圧倒的ヒロイン力だ。

 素晴らしい。

 その勢いで、思い人は力ずくでゲットだ。ガンバ!

 って言うか、ウスノロ云々って、被害妄想にしちゃやけに具体的だよね。

 もしかして誰かに言われてるんだろうか。

 流石に酷いな、それ。


「い、いや、別に可愛くなくないけど」

「うわ微っ妙」

「う、煩いなぁ!」


 茶々入れたら怒られた。

 そうだよね、イベントの邪魔されたら嫌だよね。

 じゃあ黙ってましょうか。

 その代わり、後で文句言われても知らないからねー?


「ホント!?可愛い?」

「う、うん」

「じゃあボクのことスキ!?」

「へっ?」

「キライなんだ…」

「いや!キライじゃないけど!」

「じゃあスキ?」

「えっと、」

「スキだよね?やった、ボクもホムラ君のこと大スキだよっ!」

「えー、あー、その…ま、まぁ」


 圧倒的ヒロイン力(物理)である。

 何と言う勢い。

 ネガティブ発言、ネガティブ理解に飽き足らず、都合の良いように曲解、更には人の意見まで強制的に誘導出来るとは、何てスペックの高さだろうか。

 私、主人公じゃなくて良かった。

 アレは確かに刺されそうで怖いわ。


「って、待てよ。このセリフに覚えが…」


 ようやく気付いたらしい主人公君。

 顔を真っ青にして、恐る恐る少女の方を見た。


「そ、そう言えば、名前まで聞いてなかった、よな?」

「ん?ボクのナマエ?」

「そう…」

「ボクは…」


「かぐや!向田(むこうだ)かぐやだよ!」


 最高の笑顔で、(ほむら)にとって最悪の名乗りが飛んで来た。

 それから、(ほむら)が何も言わずにぶっ倒れた。


 思い込みの激しい、押しかけ女房かぐやさん。

 果たして物語の通りの性格なのかはさておき、そんな彼女との出会いは、そんな散々なものであった。


 …まぁ、(ほむら)にとってだけどね!


 私は別にそこまで気にしてないよ!

 そんな、内面では年上であるはずの私が、良いようにやり込められてショックだなんて、そんなまさか。

 あはは。

 うん。気にしてないよ。

 気にしてない。


 ……気にしてないったら気にしてない!!


「ボクは向田かぐやです!」

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