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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(一年生)
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24.謎の少年との遭遇

 一(しき)(ほむら)と騒ぐと、ようやくテンションが落ち着いて来る。

 私達は、顔を見合わせると、この日の出来事を永遠に封印する事で合意した。

 会話は交わしていないけれど、多分通じ合ったと思う。

 大丈夫だ、問題ない。


 もしも、この旅館にさえSPさんがついて来てるとしたら、私達だけの秘密とは出来ないかもしれないけど、一度も姿を見た事のない人達を恐れる必要はない。

 大丈夫だ、問題ない。


 問題は一つ。

 私達の目の前で、ビクビクと目線を彷徨わせる少年だ。


 ブカブカのフード付きのパーカーを着て、フードを限界まで引っ張って被っていて、目が隠れる程長い前髪の影響もあって、非常に根暗な印象を受ける。

 ズボンもブカブカだ。

 ワイドパンツが流行っているとか聞いた事があるけど、これはそう言う物じゃない。適切なサイズを着ていないだけだ。


 背中は丸められていて、俯きがち。

 目線を彷徨わせている時点で分かっていたけど、相当なコミュ障らしい。

 そんなコミュ障が、こんな高級そうな旅館にいるとは、これ如何に。

 そう思ったけど、まぁ人には色々な事情があるものだ。

 詮索するまい。


 とにかく、目下の問題は、彼がうっかり私達の黒歴史を暴露してしまわないか、と言うただ一点に尽きる。

 私と(ほむら)はもう一度頷き合って、彼に声をかけた。


「いやー、吃驚しましたよね?」

「お恥ずかしい所をお見せしてすみませんでした!」

「えっ、と、その……」


 少年はオロオロと挙動不審に後ずさる。

 だが、ここで逃す訳にはいかない。

 私と(ほむら)のコンビネーションが炸裂した。

 アイコンタクトすら取らずに、サッと彼の退路を的確に塞ぐ。

 元々彼は、遊具の隙間に立っていた。

 図らずも、状況は我々にとって優位であった。


 くくく。

 黒歴史を誰にも明かさないと言質(げんち)を取るまでは逃がさないぜお兄ちゃん。


 え?悪役っぽい?

 大丈夫、大丈夫。

 私達、見た目だけはいたいけな小学生だから。


 多少、ビクビクする年上のお兄さんを恐喝でもしているように見えなくもないけど、それは私達が当事者で、状況を理解しているからだ。

 遠目に見れば、年上のお兄さんに遊びをせがむ子供達に相違ないはず。

 大丈夫だ、問題ない!


「ご、ごめん、なさい…」

「え?」

「は?」


 ちょっと悪役っぽいと、先程までの妙なテンションを若干引きずりながら、自分の世界に浸っていると、少年が急に謝り出した。

 私達からは、訳が分からない、と言う気の抜けた声が飛び出した。

 一瞬、本気で私達が悪いんじゃないかとさえ思った。

 え?悪くないよね?ね??


「ぼ、ボク、じゃ、じゃまするつもりじゃ、なくて……」

「邪魔?」

「楽しそうだなって、み、みてただけ、なんだ。ごめんなさいぃ…」


 彼は、私達が謎テンションで騒いでいるのを、楽しそう、と解釈。

 そして、彼の存在に気付いた直後、私達が遊ぶのを止めた為に、邪魔をした、と思い、謝っている、とそう言う事だろうか。


 …どうしよう、良い子だ。


 被害妄想豊か、と言う面も否めないけれど、彼は私達の邪魔をしてしまったと、そう思ったから謝っている。

 うん。ここは大人の(ずる)さを遺憾なく発揮せざるを得ない。

 私は、ニッコリと笑って口を開いた。


「全然、邪魔じゃないですよ!怒ってないですし」

「ほ、ホント…?」

「はい!でも、邪魔したなーって思うなら、一つ約束して欲しいんですけど」

「な、なに…?」


 私の言葉に、あからさまにホッとした少年に、畳みかけるように言葉を続けた。

 すると今度は、何て言われるんだろう?とビクつく少年。

 ここまで分かりやすいと、罪悪感しか沸いてこない。

 私、マジ人間の屑だな。


「今ここで見た事、誰にも言わないで欲しいんです!」

「えっ?」


 そんな事で良いの?とばかりに、少年は首を傾げる。

 私は、力強く頷いて見せた。

 そもそも、私は見られていた事について、全く怒っていない。

 ただひたすらに恥ずかしいだけで。


 強いて怒っていると言うとすれば、自分の浅はかさくらいだ。

 何故誰の目もないと思ったのか。

 馬鹿である。


「も、も、もちろん!だれにも言わないよ!」

「そうですか!ありがとうございますっ」

「ひうっ!?」


 すかさず相手の手を握る。

 どうだ、相手の優しさに感銘を受ける純粋な少女のいっちょ完成だ。


 と言うか…おい、(ほむら)

 君も同罪でしょーが。

 何だその目は。

 俺知ーらね、とばかりのその目は。


 ガシッ!


「ん?」


 効果音が耳に届きそうな程、力強い衝撃が私の手を襲った。

 (ほむら)を見過ぎていた。

 いかんいかん、と我に返って正面を見ると、少年が私の手を包みこんでいた。

 何だこのトキメキイベントみたいな展開は。

 気付くと、長すぎる前髪の隙間から、熱っぽい目が私を映している。


「あっ、あの!」

「は、はいっ!?」


 思わず声が上擦ってしまった。

 いや、これまさかとは思うけど、マジでイベントなんじゃ?

 そう思うけど、(ほむら)はドン引いてるだけで、それ以外の反応はない。

 別に、この少年が他の主要キャラ、と言う訳ではないのだろう。

 ひとまずは安心である。

 一切何も解決してないけど。


「こ、ここ、これって、あくしゅ…だよね!?」

「そ、そうですね」

「じゃあ、ボクたち、これで…友だち!?」

「え?」


 必死に何を言うかと思えば。

 あまりの必死さに押されて、一瞬何を言われているのか分からなかった。

 隙間から覗く、綺麗な真っ黒い瞳が、不安からか揺らめく。


 えーと、これはどう答えたものかな。

 イベントじゃないなら、好きに答えて良いよね?

 まぁ、イベントだったとしても、好きに答えるけどさ。


「えーと、そうですね。友達です」

「!アナタも、これでボクと友だち!?」

「俺!?」

「友だちの友だちは、友だちだって聞いた。ち、ちがうの?」


 私が同意すると、少年は嬉しそうにパッと目を輝かせた。

 そしてほぼ同時に、(ほむら)の方を向く。

 急に会話に引っ張り込まれてうろたえる(ほむら)

 流石は、元ぼっち。

 急に話を振られても対応出来ないと見える。


 なんて、焔の反応の理由など知る由もない少年は、ぷるぷると震え出す。

 もしかすると、泣きそうなのかもしれない。

 (ほむら)は更にうろたえながら、やがて何度も頷いた。


「あっ、ああ、うん。そうですね、友達です」

「!!や、やったぁ!!」

「!?だ、大丈夫ですか?」


 私から手を離すと、喜びからか少年はその場に崩れ落ちた。

 一体どう言う展開なんだ。

 私は呆気に取られながらも、彼を案じる。

 けどまぁ、心配は無用だったようで、少年はすぐさま立ち上がった。

 そのあまりの勢いに、私はまた目を瞬いた。


「あの!」

「はい」

「ぼ、ボク、と、友だちが出来たら、ずっと、あそびたかったんだ!」

「えーと、そうなんですか」

「うん!だから、ボクも、さっきのアレ、やってみたい!」


 目をキラキラさせて遊具を指す少年。

 私達は、思わず顔を見合わせた。

 コミュ障通り越して、変な所に針を振り切ったんだろうか。


「あの、残念なんですけど、」

「あそんでくれないの!?」

「遊ばないと言うか…」

「や、や、やっぱり、ボクじゃダメなんだ。ボクがウスノロだから…っうう」


 これ見よがしに泣き出した。

 これをどう処理しろと?

 頬が引き攣るのを感じながら、チラッと(ほむら)を見ると、目を逸らされた。


 畜生、押しつけやがって。

 あとで夕食のメイン奪ってやる。


「いやいや、一緒に遊ぶのが嫌なんじゃなくて、もう戻らないといけないんです」

「ボクが、どんくさくていみもなくおおきくてじゃまだからじゃなくて?」

「何で初対面の人にそこまで悪い感情を抱かなくちゃいけないんですか」


 そんな鬼畜がこの世の中にいるのか。

 と言うか、言う程大きくないし、この子。

 もし彼が言葉通り邪魔にされているとしたら、この被害妄想豊かな所が原因じゃないだろうか。

 てか、そうとしか思えない。


「キライじゃない?」

「そうですね。ねっ、(ほむら)!」

「え?ああ、そうだな」


 無理矢理話題を振って、(ほむら)にも同意させる。

 すると、ようやく少年は泣きやんでくれた。

 納得してくれたようだ。


 ただちょっと、黒歴史の流出を防ぎたかっただけなのに、どうしてこんなに疲れなければならないのか。

 この少年は、もしや地雷イベントだっただろうか。

 遠い目をしていると、少年が遊具を指した。


「じゃあ、あした!あしたならあそんでくれる?」

「えっ」

「や、やっぱり、ボクとじゃ…」

「わー!わー!分かりました、遊びます!」

「やったぁ!」


 あっ、これ地雷とかそんな生易しいイベントじゃなかったわ。

 差し詰め、蟻地獄と言った所か。

 別に断る選択をしても良いけど、ひたすらに断ったら良心が痛むよー?って主張してくる、何か面倒臭いイベント。


 …もしかすると、アレか。

 私が、黒い事考えちゃった報いか。

 すいません、神様。

 いるなら許して下さい。


「じゃ、じゃあ、またあしたね!約束、わすれたらダメだからね!」

「あ、はーい…」


 笑顔で立ち去っていく彼に、力なく手を振った。


「…ちょっと」

「何だよ」

「お前何勝手に約束してんだよー、みたいな視線やめてくれる?」

「事実じゃねーか」

「あれは無理だよ!約束しない方が困難だよ!!」


 思わず天を仰いだ。

 私悪くなくない?悪くないよね?


「ってかお前、本当に良くも悪くも主人公体質だなー」

「他人事みたいに言わないでよ。主人公の癖に」

「うっせぇ」


 私達は、揃って肩を落としながら部屋へ戻った。

 この上更に、メインヒロインとの遭遇イベントに巻き込まれたらどうしようかと気をもんだけど、それは完全に杞憂だった。

 伯父さん達の話し合いなのか雑談なのかは終わって、特に夕食をご一緒する、などと言う事もなかったからだ。

 少なくとも今日の所は難を逃れた、と私達は同時に溜息をついた。


「温泉で癒されない日が来るとは、恐怖だね…」

「確かになー…」


 だだっ広い温泉を、貸し切りで入れたのは非常に嬉しかった。

 何なら泳いでも良い位だった。

 でも、流石の私の精神力も底をついていて出来なかった。

 お母さんがご機嫌なのだけが救いだった。

 あのホワホワな笑顔を見ていると、私も幸せな気持ちになるから。

 でも、完全には癒されなかったのだ。


 私達は部屋に戻ると、同時に布団に突っ伏した。

 夕飯は非常に美味しかった。

 夏のお野菜のてんぷらとか最高だった。

 でも、それでも癒されなかった。


「何で私はあんなテンションになってしまったんだろう!!」

「言うなー。俺もめっちゃ後悔してる所だからさぁ」


 溜息が被る。

 あの少年との約束も、憂鬱っちゃ憂鬱だけど、黒歴史を更新してしまった事の方が、今は余程精神的に厳しい。

 眠って忘れられますように。

 そう祈りながら、私は眠りに落ちたのだった。


焔のてんぷらも美味しく頂きました。

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