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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(一年生)
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23.第一次遊具戦線

本日、PV数が十万件を突破致しました。

この場を借りてお礼申し上げます!

「それじゃあ、レッツラゴー!」

「レッツゴーじゃなくてか?」

「ノリと勢いで言ってる部分を突っ込んだら駄目だよ、(ほむら)!」

「そう言うもん?」

「そう言うもん」


 などと、アホな会話をしながら、私は部屋を襖を開く。

 前世の実家の襖とは比べ物にならないスライド感だ。

 何処にも引っかからないし、スムーズに開く。

 思わず、何度か開け閉めしてしまう位だ。


「何で何回もガラガラやってるんだよ」

「ガラガラじゃないよ。シャッシャッだよ!」

「擬音の違いは主張しなくて良いから!」


 ビシッと頭にチョップを食らってしまう。

 いやいや、ここは何度も開け閉めしたくなる魅力があるでしょう。

 分からない(ほむら)はお子様だな。うん。


「まさか入り口からこんなトラップが仕掛けられているとは…驚きですね」

「こんな所で立ち止まるのお前位だから」

「やだ、そんな褒めないでよ」

「褒めてないからな!?」


 冗談が通じない男は嫌われるよ。

 なんて冗談はさておき、私はようやく部屋から出る。


 長い木造の廊下は、ほんのりと木の香りが漂っていて心地良い。

 当然ギシギシなんて音は出ないし、スリッパ越しでも優しい感触が分かる。

 残念ながら、建材に詳しくないので、明確に表現は出来ないけれど、ヒノキとかスギとかの良い物なんじゃないだろうかと思う。

 石と言えば大理石!位の薄い表現かもしれない。


 自分の浅学さが嫌になるけど、まぁ気にしないでおく。

 何なら後で調べておこう。


「で、探検って何処行くんだ?」

「とりあえず、行けそうな所をグルッと回って来ようと思うよ」

「そうか。探検ってより散歩だな」

「道の場所を開拓していくんだから、間違いなく探検だよ」

「そうかぁ?」


 言葉では私に呆れている風に言っているけど、甘いぞ(ほむら)よ。

 私には、探検ってワードにちょっとウキウキしてるのが伝わってきているぞ。

 言ったら機嫌が悪くなるだろうから言わないけど。


「何かその顔ムカつくんだが」

「え?何で?」

「生温かい目って言うか…お前、今絶対失礼な事考えてるだろ」

「そんな馬鹿な。今私の頭の中は探検でいっぱいだよ?」

「ふーん」


 あっ、正直に言ってもいないのに機嫌悪くなった。

 いかんな。

 この顔に出る癖を直さないと、後々面倒な事になるかもしれない。


 ……まぁ、顔に出るの、(ほむら)イジリしてる時だけなんだけどね!


「ごめんって。拗ねないでよー」

「べ、別に拗ねてないし!って、抱きつくな!!」

「じゃあ、ヨシヨシして進ぜよう」

「子供扱いするなよ!」

「中身は私のが上じゃないか」

「肉体年齢優先だ!」

「それでも私のが半年くらい誕生日早いもんねー」

「何だその屁理屈は!ガキじゃねーか!!」

「あははー」


 場合に寄りけりだけど、屁理屈も理屈の内だよ。

 あんまりやり過ぎると人間関係がズッタズタになるかもしれないから、あんまり使っちゃいけない裏技みたいなモノだけどね!


 良い子の皆!

 あんまり屁理屈も理屈とか言っちゃ駄目だと思うよ!

 良い大人の皆!

 ……は、自己責任で頑張れ!


「あれ?」

「?どうかしたの、(ほむら)

「ん、あんま旅館っぽくないなーと思って」

「っぽくない?」


 宿泊している二階から一階へ降りて、旅館の裏手の方へ回ると、不思議な空間が広がっていた。

 旅館は、山を切り開いて建てられたのだろう感じで、周囲を木々が囲っている。

 正面から右手側は、景色の良い渓谷になっていて、左手側から裏手にかけては、文字通り木々だけ。

 そのはずが、裏手の渡り廊下から外を見ると、広場のようなスペースがあって、しかもそこには、数々の木造の遊具が設置されていた。

 旅館の庭と言えば、お洒落な石庭とか、そう言ったイメージが強かっただけに、思わず目を瞬いた。


「社長さんか女将さんの趣味、とか?」

「おいおい、趣味でこう言うの設置するもんか?」

「だって、この旅館のパンフレット見たけど、こんなの売りにしてなかったし」


 廊下の壁にかけてある注意事項に目をやる。

 小学生未満のお子様は、大人の同伴必須。などなど。

 常識的な注意しか書いてない。

 とりあえず、許可なく遊んでも大丈夫そう、と言う所だけ把握すれば良いか。


「よし。折角だし遊んで行こう!」

「何がどう折角なんだよ。良い年してブランコ乗んのか?」

「肉体年齢優先って言ったのは何処の誰だったかな?」

「くぅ…」


 私の反撃に、(ほむら)が閉口する。

 全く、素直になれば良いのに。

 遊びたいって顔に書いてあるのに、本人は気付いていないのだろうか。

 …自分の顔は見えないからかな。


「よし、シーソーやろうシーソー!」

「引っ張んなよ!」

「だって、ブランコは一人でも出来るけど、シーソーは二人いないと出来ないんだよ?もう引っ張っていかざるを得ない」

「そ、そこまでしてやるもんでもないだろ?」


 ブツブツ文句を言いながらも、(ほむら)は反対側に座ってくれた。

 流石は(ほむら)!優しいね!

 私は、満面の笑みを浮かべながら、勢い良く地面を蹴った。


「イエーイ!楽しーいっ!」

「ちょっ、おまっ!!勢い強過ぎ!もうちょっとゆっくりや…いてぇっ!!」

「あ、ゴメン。ちょっとテンション上がりすぎたー」


 勢い良く蹴り過ぎて、(ほむら)が足を地面に打ち付けたらしい。

 何と言う事でしょう。

 久しぶり過ぎて、感覚が鈍ってるようです。


「ったく…。そっちがその気ならこっちもやってやる!」

「おお、ノリが良いね!さぁ来い!」

「覚悟しろ、瑞穂(みずほ)!」

「望む所だ!」


 うおおおお、と叫びながら、ギッタンバッタンと勢い良くシーソーを傾ける。

 傍から見れば、何やってんだあのガキ共、と言った光景である。

 でも、当事者だから私は知らんな。


「ど、どうだ、参ったか……?」

「そっちこそ、息が切れてるんじゃない?」

「幻聴だ幻聴。…って、それよりよー。考えても見たら、シーソーじゃ勝敗が良く分かんねーし、別のにしようぜ」

「なるほど、納得。じゃあ、何にする?」


 体感時間で三十分位、シーソーをやりまくった私達は、シーソーで争う事の根本的な問題にようやく気付いて、シーソーから降りた。

 全くフラフラになっていない辺り、流石は子供の身体である。

 もしこれが、前世の私の身体だったら、今頃フラフラになってたと思う。

 体力がない訳じゃなかったけど、まぁ年かな!

 あっ、これ墓穴っぽい。ババアじゃないよ!まだ二十代だったよ!


「ブランコ漕いで、何処まで跳べるか、とかどうよ」

「あー、やったやった。懐かしいね」

「じゃあ決まりだな!」

「でもタンマ!この庭だと、下手したら怪我しそうだし、別のにしようよ」


 砂利とまでは言わないけど、残念ながらブランコの周りに砂場はなかった。

 此処が近所の公園だったら、怪我の一つや二つ位気にせず、アイキャンフラーイと馬鹿みたいに叫んだけど、此処は旅行先だ。

 シーソーで一心不乱に遊ぶ分は、まだ微笑ましいで済ませられるけど、流石に怪我したら面倒な事になりそうだ。

 あと、最悪壊したらもっと面倒事になりそう。

 それは是非ともご免蒙りたい。

 そう思って言ったのに、(ほむら)は鼻で笑う。


「何だよ。自信ないのか?」

「ん?」

「ほら、俺が乗っても余裕そうだし、壊れる心配はないよ。なら、怪我しないで俺と勝負する自信がないって事になるだろ?ま、俺は別に良いけどね。不戦勝でも、普通に嬉しいし」

「うっわ、何て下手糞な挑発」


 一笑にふせば良いだけの可愛い挑発だ。

 それは分かるんだけど、何だろうね。

 私も結構負けず嫌いでしてね。

 看過できない訳ですよ。ええ。


 あ。決して言い訳してる訳じゃないですよ?はい。


「慣れない挑発をした事を後悔させてやろう」

「出来るもんならやってみろ!」


 嬉しそうな(ほむら)の言葉の後、史上最も子供らしい争いの火蓋が切って落とされた。

 やばい、シーソー以上に誰にも見せられない争いだ。

 ちょっと普通に恥ずかしい。


 でも、上がってしまったテンションは、なかなか元には戻せない。

 深夜のテンションみたいだ。

 凄い今私天才!良い仕事してる!とその時は思ったのに、朝起きて見てみたら、死にたくなるような出来だった、って言う。

 特にブログとかは深夜に更新したら駄目だ。

 本当に死にたくなる。


 話が逸れた。

 ともかく、私達は跳んだ。

 跳んで跳んで跳びまくった。


 最初は私が勝って、次は(ほむら)。その次が私で、更に次が(ほむら)…。

 みたいな感じで、一進一退の攻防が続いた。

 気付けば、高かったはずの日が、大分傾いていた。


「もう降参したらどう?」

瑞穂(みずほ)こそ。流石にフラフラじゃねーか」

「くくく、冗談を言うんじゃない。私はまだまだやれるぞ!」

「やべぇ、そのセリフ。超三下っぽい」

「あー、馬鹿にして!分かったよ。次で最後にしよう!」

「分かった!」


 私達は頷き合い、もう何で争ってるのかも忘れて、ブランコに飛び乗った。

 そして、何度も揺らし、同時に跳び上がる。


 それは、過去最高のジャンプだった。

 隣を見れば、(ほむら)もまた、過去最高の伸びを見せている。

 負けられるかと、腕を振って少しでも遠くへ着地出来るように頑張る。


 一瞬とも、永遠ともつかない時間を経て、私達は地面へ降り立った。


 結果は、恐ろしい程に全く一緒。

 私達は、奇妙な縁を感じて、どちらともなく笑い出した。


「あー、おかしい!私達何してたんだろうねぇ」

「だな。てか、テンションいつもと違いすぎ、ウケる」


 お互いに健闘を称え合い、グッと握手をかわす。

 何か良く分からないけど、友情が深まった気がした。


「やっぱ俺ら、最高の仲間だな!」

「そうだね!」

「よし。そんじゃ戻……あ」


 会話の途中で、不自然に(ほむら)が固まる。

 私は理由が分からずに首を傾げ、(ほむら)の視線の方向へ振り返る。

 そして、私も同様に固まった。


「…あ、ぼ、ボクは、その…」

「……」

「……」


 遊具と遊具の間の、微妙な隙間。

 そこに、パーカーのフードを目深に被った少年がしゃがんでいたのだ。

 絶妙な位置だったのだろう。

 今まで全く見えなかった。


 いや、でもまぁ、彼が見えたか見えなかったかなんて問題ではない。

 問題は、彼が今まで、私達を見ていたかどうか、だ。


「……見てました?」

「あ、えっと、……」


 長く、黒い前髪で目は見えないけれど、迷ったように目線を逸らされる。

 少年は、やがてゆっくりと頷いた。

 希望が打ち砕かれた瞬間である。


「あああああ!あんな深夜テンションを人に見られてしまったー!」

「あれは違う!いつもの俺じゃないから!たまたまだから!たまたま!」

「もうお嫁に行けないーーー!恥ずかしすぎるーーー!!」

「いっそ殴ってくれーー!!!」


 私達はそうして、更にしばらくの間、羞恥心から地面をのたうち回った。

 うん。黒歴史って、こうして更新されて行くんだね!


「子供心を忘れない大人でありたいな」by緋王

「伯父さんは子供心を忘れない大人じゃなくて、寧ろ子供より立派な子供だと思う」by瑞穂

「瑞穂も負けてないと思う」by焔

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