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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(一年生)
23/152

21.強制イベント:旅行

「実は明後日、関西支部で会合に出席しなければならなくなった。いつも通り俺と桐吾(とうご)で行こうと思っていたんだが、宿泊する予定の『つきの都』さんが、御好意で部屋を用意してくれる事になった。


 と、言う訳で、明日から旅行に行くぞ、お前達!」


 一体、何がどうなってどういう訳で旅行へ行く事に繋がったのか。


 久々に家族全員が集合した赤河(あこう)家のリビングに、ドヤ顔で言い放った伯父さんの言葉の余韻が響き渡る。

 特に部屋には音響設備など整っていないはずなんだけど、自然とエコーがかかるとは、もう伯父さんがこの世界の主人公で良いんじゃないだろうか。

 慣れはしても、なかなかこのテンションについて行けない私と(ほむら)は、微妙に呆然と伯父さんを見つめる。


 一方で、すっかり慣れっこのお父さんは、ナチュラルに伯父さんのコーヒーのお代わりを注いでいるし、伯母さんは平然と紅茶に口を付けている。

 お母さんに至っては、きゃいきゃい、と女子高生も真っ青になりそうな程の愛らしさを遺憾なく発揮し、頬を赤く染めてはしゃいでいる。

 その順応力、私も引き継ぎたかった。


 …訂正。引き継いだら、何か普通の人間としての常識を失いそうだから、やっぱ要らないや。誰だ、既に失ってるじゃないかって言ったのは。

 伯父さんぶつけるぞ。


「『つきの都』、(わたくし)噂に聞いてから、是非一度訪れたいと思ってましたの!素晴らしいですわ、流石お兄様でいらっしゃいますわね!」

「そうだろう、そうだろう!もっと褒め称えて構わんぞ、美紗子(みさこ)!」

「敏腕社長の緋王(ひおう)お兄様に、出来ない事はありませんわね!尊敬致しますわ!」

「はっはっはっ!いや、それ程でもあるな!」

「お兄様、素敵!」


 普通の人であれば、まぁ完全にお世辞だろう言葉達。

 そんな言葉を、哀しいかな、お母さんは素で言っている。

 ドン引きである。流石生粋のお嬢様。


 また、それらを普通の人であれば、こう素直に受け止めたりしないだろう。

 そんな言葉を、哀しいかな、伯父さんは素で当然の事だと受け入れている。

 ドン引き通り越して尊敬である。流石生粋のお坊ちゃま。


「おい、見ろよ。あれが俺達の親なんだぜ…」

「しっかりしなよ、(ほむら)。夢落ちじゃないんだから、現実逃避しても無駄だよ?」

「…楽しい家族で嬉しいけど、すっげぇ他人のフリしたい」

「同感だけどさ…」


 思わず苦笑が漏れる。

 あんな常識はずれで自信家で相当俺様で自己中な人達だけど、私は好きだ。

 立場上色々思う所はあるだろうに、意外にも家族以外の人にも優しいし。

 痛々しい発言が目立つけど、それに見合う地位も実力もあると来た。

 尊敬以外の道は残されていない。


 ただまぁ…ね。

 お母さんや伯父さんと一緒の時間は、非常に疲れる。

 仕事やら何やらで、常に一緒、と言う訳でもないのに、思い出しただけで疲れるのだから、相当の精神ダメージを貰っている事が分かる。

 楽しい事大好きな私でも、流石に、あの二人私の家族なんだよ!と元気良く宣言するのは憚られてしまうのだ。


「でも、自信持ちなよ(ほむら)

「何について?」

「私に何だかんだと文句言ってた時の(ほむら)、伯父さんソックリだったから!」

「酷ェ!えっ、それ褒めてると見せかけて貶してるよな?」


 考え得る最高の笑顔で、グッと親指を立てて褒めてあげたのに、何て言い草だ。

 当然貶してなんていない。褒めているのである。

 貶してるようにしか聞こえない?

 是非、ご近所の耳鼻科を受診下さい。


「そんな事ないよ。だって俺が主人公だー、みたいな自己中発言とか、発言の痛さなんて、伯父さんに勝るとも劣らぬクオリティーだったよ?」

「ぐぬぬ…過去の話を蒸し返すとは…この性悪女!」

「うわ、久々に聞いたその嬉しくない呼び名。何か、こうして思うと懐かしいね」

「何のダメージも受けていない…だと…?」


 ガーンと、露骨にショックを受けた様な顔をする(ほむら)

 冗談抜きに、そう言う所が伯父さんソックリだと思うんだけど。

 思わずニヤつきそうになる頬を抑えて、紅茶に口を付ける。

 うーん、落ち着きますな。


「そ、そっちがその気なら、今の俺には他にも反撃手段があるんだからな」

「え?」

「謝るなら今の内だぞ、瑞穂(みずほ)…」

「て言うか、だからそう言う所がソックリ…」

「覚悟しろ!」


 可愛い奴である。

 私は、尚も紅茶を飲みながら、余裕で(ほむら)の言葉を待つ。

 そして、次の瞬間、ちょっと謝っとけば良かった、と言う軽い後悔を覚えた。


「俺の事連れ回す時に良く言う「いいからいいから」って口癖!すげー叔母さんに似てるぞ!」

「っゲホゴホッ!!」


 紅茶が気道に入りかけた。うおお、苦しいっ!

 思い返してみれば確かに、お母さんがこっちの予定や都合総無視で私の腕を引いてどこぞへ向かう時、「いいからいいから」ってほんわり笑ってた気がする。

 すげー似てる!

 えっ、DNAって魂より影響力強いの?

 それとも、赤河家のDNAが強いの?

 つまり、私も成長すれば、立派な空気読めないお嬢様に……。


 ……何も想像してない。

 魔法の言葉を呟いて、さっさと忘れよう。


「何だ夢か」

「俺の気持ちが分かったか?」

「痛い程」

「じゃあ、もう言うなよ」

「おーらい」


 まぁ、二度と言わないと約束は出来ないけどね。

 それ程までに、(ほむら)をからかうと面白いのだ。

 あっ、思わずからかってた事認めちゃった。

 なに、愛故ですよ、愛故。


「どうかしましたの、瑞穂(みずほ)ちゃん?」

「あまりにも突然旅行の話が出ましたし、驚いたのではなくって?」


 私を心配そうに覗くお母さんに、曖昧な笑みを返す。

 伯母さんはクールに背中をさすってくれた。

 私、どうせなら伯母さんみたいになりたい!

 女王然としてるのに、全然女王様な性格じゃないし、寧ろ優しいし空気読めるしおまけに超絶美人。

 美人は目指してもなれないだろうけど、性格美人なら目指せる。目指そう。


「?(わたくし)の顔に何か?」

「あー、いえ。奥様は本当に美人でらっしゃるな、と思いまして」

「そうだろうそうだろう!翔子(しょうこ)は世界一の美女だ!何しろ、俺の奥さんだからな」


 何故そっちの好感度が上がるのだ。

 もしここがギャルゲーの世界で、翔子(しょうこ)伯母さんを攻略しようと思ったら、漏れなく伯父さんが邪魔して来そうで怖い。

 ま、まぁ既婚だし、攻略対象者になんてなり得ないだろうけどね!


「ふふ。瑞穂(みずほ)さんも、美人ですわよ」

「そうですわよね、お義姉様!何しろ(わたくし)の愛する一人娘ですもの!」


 だから何故そっちの好感度が上がるのだ。

 いや、私も嬉しかったしキュンとしたけど。

 赤河(あこう)家の人は、自分よりも、自分の大切な物とか人が褒められる方が、好感度が上がりやすいのだろうか。

 でも、良く見たらお父さんもうんうん、としたり顔で頷いている。

 何だ。ただ単に、ここに子煩悩しかいないだけか。納得だ。


「ところで、父さん。旅行と言うのは一体…?」


 おずおずとした、(ほむら)のひと言で、私はようやく、現在最も問題にするべき話題について思い出した。

 か、完全にすっかり忘れてた訳じゃないですけどね。

 か、勘違いしないでよね。


 とまぁ、ツンデレが出た所で、本題に戻ろう。

 私は、嬉しそうに笑う伯父さんへ視線を移した。


「そうか、そんなに楽しみか。俺も嬉しいぞ、(ほむら)!」


 相変わらずの斜め解釈である。

 このまま話に付き合っていては、話が逸れまくって、戻れなくなる可能性がある…と言うか、寧ろその未来しかない。

 (ほむら)は、若干死んだ目でお父さんの方を見た。

 伯父さんのフォローを完璧にやってのける超人執事なお父さんは、それだけで、何を求められてるのか理解したらいく、そっと口を開いた。


「旦那様。私から説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「うん?あぁ、構わんぞ」


 お父さんを信頼している伯父さんは、アッサリと頷く。

 こうして見ると、非常に扱いやすそうに見えるけれど、騙されてはいけない。

 これは、あくまでも伯父さんのマイペースっぷりに振り回されまくって、伯父さんの信頼を得たお父さんだからこその結果であって、私や焔が説得を試みた所で、話が本題に戻る事はないのである。

 寧ろ、私はともかく、(ほむら)と話すのが大好きな伯父さんは、ご機嫌で明後日どころか全くの別世界くらい異なるベクトルに話を持って行く。

 つまり、ひと言で言えば、お父さんグッジョブ。である。


「当社が日本各地に支部…会社の子供の様な物を置いているのは御存知ですか?」

「はい、一応は」


 まずは、分かりやすい所から説明してくれるらしい。

 私と(ほむら)は、お父さんの問いに頷く。

 お父さんは、私達の答えに頷き返し、説明を続ける。


「支部では定期的に、本社との会合が開かれています。今年は、関西支部での会合が開かれる事が決まっていますが、この会合に、社長である緋王(ひおう)様は参加しなければなりません」

「…」

「通常であれば、緋王(ひおう)様と世話役である私だけで支部へ向かい、その日は近くにある、我々と仲の良いホテルや旅館に泊まり、家に帰って来る事になります」

「なるほど」


 仲の良い、と言うのは、どのレベルでの事なんだろうか。

 分かりやすく説明してくれているお陰で、詳細が分からない。

 けど、お父さんがそうザックリ説明していると言う事は、別に私達が理解する必要はない事なのだろう。

 そう思って、黙って頷いてみせる。


「しかし今回、関西支部の近隣にある旅館、『つきの都』の社長さんとお話をする機会がありまして、緋王(ひおう)様は、ご家族…つまり、(ほむら)様達の事を話題に上げました」

「……」

「すると、『つきの都』の社長さんにも、同じ年くらいのお子さんがいらっしゃると言う事で、盛り上がりまして、社長さんから、是非ご家族で旅行に来てもらえないか、と誘って頂いたのです」

「つまり親…父さんは、その誘いを受けた、と」

「はい」


 私は、思わず(ほむら)を見る。

 (ほむら)もまた、同時に私を見た様で、目が合った。

 私も(ほむら)も、考える事は一つ、と言う事だろう。


 これ、漫画のイベントだ!


 旅館の名前までは聞いてなかったけど、間違いない。

 何ちゃんだっけ?えーっと、まぁ良いや。

 メインヒロインの一人、日本人形ちゃんとの出会いイベント。

 ひと夏のアバンチュール。けしからん。


 一応は、避けられそうなら避ける、を目標に上げていた。

 でも、少なくとも伯父さんとお母さんの様子を見る限り、何の理由も無しに行きたくない、なんて駄々をこねた所で通らないだろう。


 行くしかない。

 これが所謂、強制イベント、と言う奴だ。


 【旅行に行く?】

  はい。

 ⇒いいえ。


 ピッ


 【旅行に行く…?】

  はい。

 ⇒いいえ。


 ピッ


 【旅行に行くよね?】

  はい。

 ⇒いいえ。


 ピッ


 【旅行に行きなさい】

 ⇒はい。

  YES。


 ……。


 って言う。


 世界を救う云々ならともかくとして、こう言う日常イベントくらい、避ける道筋の一つや二つくらいあっても良いと思うけど。

 いや、まぁ強制の方が良いか。

 じゃないと、「今日部活だったんだぞ!何処に行っていた!?」「デートです」なんてマヌケな会話を晒す羽目になる。あれは恥ずかしい。


「納得なさいましたか?」

「はい。た、楽しみですね!」

「そうか、楽しみか!あそこは風呂が良いぞ。存分に楽しめ、我が息子よ!」

「美肌の湯ですわね!素晴らしいですわ!」

「は、はは…」


 うん。家族なんだから、早く慣れよう。このテンション。

 じゃないと、生き辛いわ。

 内心でひっそり決意しながら、私は、諸々の準備をどうするか、考え始めた。


 何だかんだで楽しみに思う辺り、やっぱり私もこの家の一員なのかもしれない。

 ちょっと複雑ですが。


「まぁ何だ。一緒に頑張ろうね、(ほむら)!」

「わ、分かったよ。…かぐやイベントかー…」


旅館『つきの都』の娘、かぐやたん。

勿論、洒落です。駄洒落じゃないよ、洒落だよ。

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