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01.家族の事

 どもども、青島(あおしま)瑞穂(みずほ)です。

 あれから半年?もう少しかな、経って、私も立てるようになった。

 ふふふ、自分でも自分の成長が恐ろしいわ。

 青島(あおしま)瑞穂(みずほ)…恐ろしい子!なんつって。


 まぁ、冗談はさておこうか。

 今日は、自分の周辺環境についてまとめてみよう。

 まだ上手くおしゃべり出来ないから、暇だしね。

 早く漫画読めるようになりたい。


「おや。瑞穂(みずほ)。起きていたのですか?」

「あうあー」

「ふふ、今日も元気ですね」


 このオールバックでモノクルをかけて、ビシッとした燕尾服を纏っている執事に

しか見えないイケメンは、何を隠そう我が新しい父親である。

 前世の父親は、なんて言うか残念な狸だった。

 いや、それじゃ可哀想か。

 えーと、明るくて友達の多い、腹の出た糖尿病患者だった。

 え?まだ酷い?ソンナコトナイヨ!

 嫌いどころか、寧ろ尊敬もしていたし、好きだったけど、新たな父親とは勝負に

ならない。

 新たな父親に失礼だ。ごめん、前世のお父さん。好きだよ!


 もう会えないだろうお父さんに気を使ったところで、新しい父親についてだ。

 彼の名前は青島(あおしま)桐吾(とうご)

 年齢は、普段の会話で持ち上がるテーマじゃないから知らない。

 とりあえず、外見年齢は20代後半から30代前半。

 燕尾服を着ていなければ、誰もが迷わず、職業はモデルか俳優、と言うような、

整った外見だ。我が父ながら眼福である。


 そして、まぁ燕尾服なんて着ている事で分かると思うが、職業は残念ながら、モ

デルでも、俳優でもなく、執事である。

 一応、部屋にあるテレビやら何やらで、私の前世と、そう変わらない文化レベル

である事は分かっているので、最初は耳を疑った。

 華族とか貴族とか、そんなのないこの時代に、執事。

 イギリスとかならともかく、ここは現代日本。

 この世界が、漫画である可能性がグンと上がった気がしたが、真面目に、間違い

なく、父親の職業は執事であるらしいのだ。


 そして、父親が仕える家は、赤河(あこう)家と言って、何かのグループを、多

角的に経営しているお金持ちらしい。詳細は不明だ。

 まぁ、普通赤ん坊のいる部屋で、そんな重要な事話さないだろうし、仕方ない。

 そもそも、詳細を話してもらえた所で、私の知識では、あぁそうふーん、で終わ

りだ。

 経営なんて分かるはずもないですよ。

 大体、何でラノベの主人公達ってあんな有能なの?

 私無理だよ?異世界で一人現代の知識活かそうと思い立った所で、おにぎりすら

作れないよ、きっと。

 塩の蒸留方法とか思いつかないし。

 悪役令嬢頑張るよ!とか言ったけど、貴族の暮らしとかサッパリだし。

 厭味の応酬?日本語でおk。

 おっと、話が逸れた。


 要するに、お父さんは金持ちに仕える執事である。

 あと、我が青島(あおしま)家は、代々赤河(あこう)家に仕える家である。

 この二つが理解出来れば、十分だ。

 十分じゃないと、私がまだ理解出来てないから困る。

 なんだ。これで良いのだ。うん。


「あら、貴方。もうお仕事はよろしいの?」

「はい。美紗子(みさこ)さん、只今戻りました」

「お疲れ様でした。お兄様のご様子はどうでしたの?」

「ええ、案の定…仕事に手が付かない状態でしたよ」

「まったくもう…仕方のない人ね」


 じゃあ次だ。

 今部屋に入って来た美人さんが、私の新たな母親。

 彼女の名前は、青島(あおしま)美紗子(みさこ)

 年齢は同じく不明。

 外見年齢は、下手をしたら十代後半と、かなり若い。

 制服を着てキャピキャピしてたら、マジで学生だと思うかもしれない。

 真っ黒く、艶やかなロングヘアーは腰辺りまで伸びている。

 にも関わらず、うねってるダメージヘアーは見つからない。

 当然、白髪なんて持っての他だ。羨ましい。

 一体何をどうしたらこんな美しい髪が…って、髪について語り過ぎだな私。

 髪はもう良い。

 着ているのは、ふわふわのミモレ丈のワンピースに、落ち着いた印象のニットの

ボレロ。

 どう少なく見積もっても、良家の子女だ。


 そんな彼女の職業は、専業主婦ではある。

 けれど、まぁ口調で察して頂けるだろうか。

 母親は何と、(くだん)赤河(あこう)家当主の妹である。

 前当主からすれば、娘。


 おい、父!桐吾(とうご)さん!


 全国から突っ込みが聞こえる。

 同志たちよ。私も突っ込みたい。

 お仕えしている家の娘さんに手ェ出したんかい!と。


 一応はフォローしておこう。

 好きになったのは、どうやら母親が先らしい。

 外見通り生真面目な父親は、その想いを拒み続けていた。エライ。

 でも、大人しい見た目に反して、結構アグレッシブな母親は、そんなやんわりと

した拒絶に、身を引く事はなかった。


 激しくなるアプローチ。

 どんどん埋められて行く外堀。

 気付けば、父親はコロッと落とされていた。


 そうだ。

 これはギャルゲーか乙女ゲーかと聞かれれば乙女ゲーだ。

 母親が、攻略難易度高めの父親を落としたのだ。

 うん。どんな恋愛映画だよ。初めて聞いた時は突っ込んだ。

 でも、もうスルーだ。

 現状では砂を吐くようなセリフを夜毎どころか会う度に囁き合うラブラブ夫婦。

 何も言うまい。

 これからも仲良くしてね!!


 そして、次に赤河(あこう)家についてまとめておこうか。

 先程も言った通り、赤河(あこう)家は金持ちだ。

 どんな稼ぎ方をしているかは良く分からない。

 特段、華族とかの系列ではないらしい。

 どこぞの商人の流れにあるとかないとか。

 あやふや?うん、承知の助です。だって、良く分からないんだもん。


 私に分かるのは、江戸時代くらいから続く家系で、ずっと金持ちだった事。

 ……ああ、マジでこれ位だ。

 現時点で一体何をどう経営しているかもサッパリ分からない。

 馬鹿じゃないか?そうです。あんまり頭良くないです。


 えー、私をディスるのはこの辺にしておこう。

 と言うか、この辺で許して下さい。

 意外と豆腐メンタルなんです。ごめんなさい。


 で、他に分かる事と言うと、現在の家族についてだろうか。

 赤河(あこう)家の親戚は、現在の当主である伯父さん。

 その妻である伯母さん。

 伯母さんは嫁入りで、伯父さんが赤河(あこう)家直系の息子らしい。

 で、前当主のおじいちゃんとおばあちゃん。…この位か。


 前当主は、事業の引き継ぎをさっさとやって、さっさと世界旅行に出た。

 だから、私は一度も会っていない。

 私の写真は送ったらしいけど、興味がない…というよりは、探索中の遺跡に夢中

らしくて、今の所は帰るつもりはないのだとか。

 初孫より遺跡!?なんて祖父母だ!

 引退するには早い年だろうに、と言う文句すら言えない行動力。

 参考にしておこうと思う。


 青島(あおしま)家の方のおばあさんは既に亡くなっている。

 おじいさんは健在だけど、前当主の執事、という立場から一緒に海外にいる。

 お陰様で、物凄く私に会いたいのに会えない状況にある、らしい。

 お父さんは一人っ子なので、此方に親戚は他にはいない。

 まぁ、実にシンプルだ。


 他には…まとめるとすれば現在地だろうか。

 私が今住んでいるのは、普通の一軒家だ。

 驚く程普通の一軒家。

 金持ちに仕えているからと言って、一応母親は金持ちの家の出だからと言って、

 特に豪華な暮らしを堪能している訳ではない。

 私としては十分だけど、金持ちの暮らしも興味がある。

 是非とも一度、赤河(あこう)家に出向いてみたいものだ。


 ん?お母さんが降嫁的な結婚をした事の弊害はないのかって?


 ないよ。

 うちの愛らしいお母様を甘く見ないでもらいたい。

 なんて言うか……説き伏せたんだって。

 怖くてそれ以上聞けないよ。

 まぁ、私まだしゃべれないんだけどね。


「ん?電話ですね」

(わたくし)が出ますわ。はい、もしもし?」


 家の電話が鳴り響く。

 考え事はここらで中断か。

 私は軽く一息ついて、母親の声に耳をそばだてる。

 何か面白いニュースでも入っては来ないだろうか。

 なんて言うか、暇なんです!

 すっごく暇!

 ハイハイして別の部屋に行くと、すぐに回収されちゃうし。

 心配性な親を持つと息苦しいですなー。

 …まぁ、心配させるのが心苦しい、って気持ちの方が大きいけど。


「まぁ!それは本当ですの?すぐに参りますわ」


 ウキウキとした声と共に、母親が受話器を置く。

 私を高い高いしていた父親が母親の方を向いた。


「何の用事でしたか?」

「生まれたのですって!」

「えっ。予定より早くありませんか?」

「でも、聞き間違えたりしておりませんわ。急いで向かいましょう!」

「かしこまりました。すぐに参りましょう」


 父親は、私を優しくベッドに下ろすと、慌ただしく姿を消した。

 母親もまた、パタパタと化粧室へと向かう。

 生まれたって…誰ですか?

 なんて、ボケた事言う私じゃない。

 当然分かっている。


 イトコだ。イトコが生まれたのだ。


 赤河(あこう)家の子供だ。

 伯母は、良く私の様子を見に来てくれていたが、そのお腹は膨らんでいた。

 明確にどう、という話を、私の前でした事はなかったけれど、当然分かる。

 イトコとは言え、私は青島(あおしま)の娘だし、下の立場になるはず。

 けど、他に年の近い子はいないし、素直に嬉しい。

 友達になれると良いな!

 俺様だったらどうしよう。

 こっそり性格矯正しようかな、なんつって。


 ニマニマしている内に、両親の準備が終わったらしく、私は母親に抱き上げられ

た。見た目細いのに、慣れた手つき。流石はお母さん。

 私に微笑みかけると、母親は私にそっと小さな毛布をかける。

 季節は冬。

 外に出るのだから、気を遣ってくれたのだろう。

 さんきゅーマザー。


「どんな子でしょうね。勿論、お兄様とお義姉様に似て可愛いのでしょうけど」

「利発そうな子かもしれませんね」

「楽しみですわね」

「ええ」


 さて、どうやって移動するのか。

 そう思っていたら、両親は扉を開くと、普通に歩いて行く。

 何気に家から離れるのが初めてな私は、目を見開いて周囲を見回した。

 なんて言うか…普通の住宅街だ。

 庭が結構広かったから気付かなかったけれど、うん、普通だ。

 多少、広い庭が多い事から、お金持ちの家が集合しているような気がしないでも

ないけれど、そう言えば前世の田舎もこの位の庭持ちは普通だった。

 やっぱり、別に特別お金持ちを実感する感じではない。


瑞穂(みずほ)ちゃんは初めてお邪魔するわね。ここが伯父様達の家よ?」

「只今参りました。青島(あおしま)でございます」


 多少大きな門が見えて来た。

 徒歩二分くらい。要するに、赤河(あこう)家は、隣の家だった。

 私の家よりも庭は広いけれど、豪邸と言うには狭い一軒家。

 丁寧に手入れされている庭からも、門柱からも、センスの良さを感じる。

 でも、予想よりシンプルだ。

 この様子からでは、誰がこの家の主が金持ちだと思うだろうか。

 もしかすると、防犯上逆に良いのだろうか…。

 あっ、でも車庫広い。

 羨ましい…って、今は前世じゃないんだから、関係ないか。

 前世の父親がお金もないのに車を買って来て、うちの何処に置く場所があるのよ

なんて、前世の母親が怒鳴っていたのを思い出して空笑いを浮かべる。

 生まれ変わろうと感覚は庶民だ。

 喜ぶべきか哀しむべきか…。


「失礼致します」


 父親が、インターホンで少しの会話を交わすと、門の鍵が開いた音がした。

 えっ、全自動?そこは金持ちっぽい!

 素直に感動していると、父親が慣れた手つきで門を開く。

 そして、優雅に母親の手を取って敷地内へ入れると、自分も入って門を閉じる。

 こういう所は、金持ちっぽい。

 そんな、金持らしくない思考をしている中、気付くと既に家の中に入っていた。


「良く来たな、桐吾(とうご)美紗子(みさこ)!」

「お兄様、お待たせ致しましたわ」


 出迎えてくれたのはメイドさん…ではなく、現当主本人だった。

 うちの母親に良く似た柔らかい面差しに、サラサラの黒髪。

 和風王子様と呼んでも良さそうな伯父の外見年齢は、二十代だ。

 でも、聞いた所によると、三十後半らしいから、凄い若造りと言える。

 一切の無理を感じない所が、何とも羨ましい。

 洋画に出て来る金持ちみたいな、価値の分からない真っ赤なガウンを羽織ってい

るけれど、普通なら感じるだろう痛々しい感じが一切ない。

 私の感想としては、何故それが似合う!?である。


 そんなイケメンな伯父の名前は、赤河(あこう)緋王(ひおう)

 中二病も吃驚なその名前。

 誰も笑わないし突っ込まないので、多分触れちゃいけない事なんだろう。

 外見からして、似合っているのがまた恐怖である。

 これで、想像している以上にデカいグループの主だったら、似合いすぎて引く。


「早くおいで、三人共。息子が待っている」

「まぁ、男の子でしたのね?」

「あぁ」


 伯父が、嬉しそうに目を細めながら、落ち着きなさそうに手招く。

 その後を、両親はこれまた落ち着きなさそうに付いて行く。

 言わずもがな、一番落ち着いているのは父親だ。

 伯父と母親のそわそわっぷりは、何ともソックリで笑えて来る。

 笑えて来るけど、私を抱く母親の身体が揺れる度に、ちょっと笑えなくなる。

 頼むから落とさないでね…。


「あら!良く来てくれましたわね」


 気の強そうな声は伯母のものだ。

 二階の部屋に入ると、代わりに数人の女性達が部屋を出て行った。

 恐らくは、格好からして助産婦さんか何かだろう。

 生まれた!と言って自宅に来たのだから、そうだとは思ってたけど、家で出産し

たのか。凄いな…。

 私は一瞬彼女らに視線を向け、それから伯母に視線を戻した。


 気の強そうな声そのままに、キリリとつり上がった目。

 けれど、決して怖い印象は抱かない、圧倒的な安心感。

 出産直後だからか、若干頬がこけているけれど、自慢げな目の光は強い。

 女帝という表現が相応しいか。

 着ている服はユルユルでも、決して衰えない美しさを持つ女性。

 そんな美女な伯母の名前は、赤河(あこう)翔子(しょうこ)

 私が男だったら、思わず抱いて下さい!と言ってしまいそうだ。

 言ったら多分、伯母を溺愛する伯父に殺されるけど。


「お義姉様!体調はよろしいのですか?」

「勿論!息子の顔を見たら吹き飛びましてよ」

「ふふ、そうですわよねぇ」


 母親が駆け寄って伯母に声をかける。

 前世で私は経験出来なかったけれど、出産って凄いなぁ。

 物凄く痛いらしいのに、この輝き。

 働く女性は美しい。

 いや、出産は勤労ではないけれど。ん?勤労かな??


「ほら、見て下さいな。(わたくし)に似て、賢そうな子でしょう?」

「あら、本当!瑞穂(みずほ)ちゃんもご覧なさい?貴方の未来のご主人様でしてよ?」


 母親の言葉に、私はやっぱりこの子に仕える事になるのかと考える。

 考えながら、絶対イケメンに育つんだろうなぁ。

 なら、ラッキーだな。

 見た目に拘りはないけど、豚みたいな男に仕えるのは嫌だしなぁ。

 などと、失礼な事を、実際に言葉にはならないけれど、呟く。


「名前も決まっておりますの。(ほむら)赤河(あこう)(ほむら)ですわ!」


 伯母の言葉を聞きながら、私は若干の違和感を覚えた。

 赤ん坊にしては、何と言うか…表情が大人びている。

 泣くでもなく、笑うでもなく、不思議そうに私を見ているのだ。

 んー?普通の赤ん坊ってこんなんだっけ?

 首を捻っていると、赤ん坊…(ほむら)は自分の父親を見て固まった。

 そして叫ぶ。


「あうあうあああー!!」


 ん?何か覚えがあるぞ?

 そうだな、確かあれは私が生まれた時の私……ん?


「まぁ、流石は男の子ですわ」

「ええ。元気いっぱい!このまま男らしく育つのですよ、(ほむら)!」


 母親と伯母が、きゃいきゃいと嬉しそうに話す中。

 私は一人、私の想像が当たっていたとしたら、どうしようか、考えていた。


 二度ある事は三度ある。

 まさか、私以外にも転生者がいたり…。

 ……その時はその時だよね。うん!


 それは、ある晴れたクリスマスの事だった。


合点承知の助!って、死語ですか?

私は結構好きです。

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