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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(一年生)
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15.水族館への誘い

「お嬢様」

「え?」

「少々、お時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」


 小学生生活を満喫し、早一ヶ月程。

 休日に時間を持て余して、リビングでゴロゴロしている所に、晴雅(はるまさ)君から声をかけられた。

 晴雅(はるまさ)君から声をかけられる事は、意外にも少ない。

 隙あらば世話を焼いてこようとはするけれど、大抵そう言った時には、時間をもらっても良いか、なんて聞き方はしてこない。

 何々がどうこうした、とか、どれそれをあれこれしたい、とか、ざっくり本題から話して来るのである。

 雑談好きな私としては、本題に入る前の他愛のない話を期待するんだけど、今までそういった事は、打ち解ける前も今も、殆どなかった。


 けれど、今はその数少ない事態であると、私はすぐに気付く。

 何しろ時間をもらっても良いか、だ。

 ちょっと緊張した面持ちなのが、またポイント高い。

 良いんだよ、何でもお姉さんに言ってごらん!なんて、まさか面と向かって言う事は出来ないけれど、私は嬉々として頷いた。

 ついでに姿勢を直す。

 流石に、ソファーにうつ伏せになっている状態で話を聞くのは(はばか)られた。


「勿論!何々?コンビニの期間限定スイーツについてとか?」

「いえ、違います。…お望みでしたら、お持ち致しますが」


 くそう、この男、表情一つ変えやがらない。

 つまらん。

 私は、はあぁ、と深い溜息をつきながら否定した。

 そうじゃないよ。

 私は君と、言葉のキャッチボールで遊びたいだけなんだよ。

 何故そんな簡単な事が伝わらないのか。

 …私の表現が悪い、訳じゃないよね?ね?


「そうじゃないよ。ただお話したかっただけ」

「?今、お話させて頂いておりますが」

「……え、本気で言ってる?」

「何かおかしい事を申し上げましたでしょうか」


 この男、真顔である。


 まさかコミュ症なの?

 あんまり人と話すの好きじゃないんだろうなぁ、とは思ってたけど、言葉が通じないレベルなの?

 私は、内心で愕然としながら、更に溜息をついた。

 (ほむら)の将来も心配だけど、晴雅(はるまさ)君の将来も大いに心配だ。

 一時的な拠り所になりながら、成長を温かく見守ろうと思ってたけど、結構テコ入れしないとマズイだろうか。

 でもそんな事、本人に言っても無駄だろう。

 何せ、この会話レベルだ。

 別に他人と会話しなくても、普通に生活していける、とか言うんだろう。

 違うんだよ!そうじゃないんだよ!


「失礼ながら、眉を顰めて如何なさいましたか?体調でも悪いのでしょうか?」

「あー、体調はすこぶる良好ですよ。ただねー、ちょっと気疲れしたと言うか」


 何が悲しくて、小学一年生の身空で気疲れしなきゃならないのか。

 あからさまに肩を落として見せると、晴雅(はるまさ)君の表情が、サッと悪くなった。

 そして、慌てて頭を下げる。


「それは…気付く事が出来ずに大変申し訳ありませんでした。話はまた後日に…」

「いやいや!大丈夫だから続けて!」

「ですが」

「本当に大丈夫だから。ね?」

「…お嬢様がそう仰るのであれば」


 寧ろ私の方が慌てた。

 選択肢ミスの結果、折角晴雅(はるまさ)君と普通にお話出来る所だったのに、自分からその機会を壊すなんて、悔やんでも悔やみきれない。

 まだ私の体調を心配しているようで、晴雅(はるまさ)君は窺うような表情をしている。

 その心遣いは非常に嬉しいんだけど、是非とも結果を伴わせて欲しい。


「それで、何か用事があったんだよね?」

「はい。お嬢様は、水族館へ行った事はありませんでしたよね?」

「うん、そうだね」


 私はその質問に、深く頷いてみせた。

 前世では数度行った事があったけれど、今は一度もない。

 私は生まれてから今までの記憶を全て保持しているけれど、その覚えはない。

 私が覚えていない位小さい頃に行った事があるんだよー的な可能性はあり得ない。

 つまり、行った事はない、と言う返答で間違いないはず。


 そんな風に思ってから、私は、はたと動きを止める。

 晴雅(はるまさ)君が、初めて、自分から雑談を振って来た可能性に気付いたからだった。

 いや、だってこれ…雑談じゃない?世間話じゃない?

 合理的な晴雅(はるまさ)君からすれば、何か帰結する理由があるのかもしれないけど、私からすれば、これは立派に雑談だ。

 期待してしまうのは仕方ないだろう。

 私は、まだこの双子とも普通に仲良くなる事を諦めてはいないのだ。


「水族館は御存知ですよね?お好きですか?」


 そんな、内心でテンション上がりまくりな私には気付かず、晴雅(はるまさ)君は質問を重ねて行く。

 これから、どんな話に繋がるか分からないけれど、とても嬉しい。

 例え、本題に向けての繋ぎであろうとも、まさにこれらの質問は、私のプライバシーに関わる問いだ。

 一歩にも満たないかもしれない踏み込みだけれど、お嬢様とその世話役から解き放たれたかのような錯覚に酔えた私は、ホクホクとしながら何度も頷いた。


「勿論知ってるし、好きだよ!ペンギンとか最高だよね!!」

「それは良うございました。ところでお嬢様…」


 あっ、儚い夢でした。

 晴雅(はるまさ)君は何が好き?とか、そんな感じで会話が弾むなんて幻想でした。

 だけど、そんなガッカリ感はおくびにも出さない。

 勝手に期待したのはこっちだ。

 私がそんな事でガッカリしたと知ってしまえば、もしかしたら晴雅(はるまさ)君は、家出でもしてしまうかもしれない。

 それは嫌だ。

 寝覚めが悪いのもそうだけど、私認識では、彼もまた、友達だ。

 友達が、私の不用意な発言でショックを受ける所なんて見たくない。


「実は本日、晴臣(はるおみ)と共に買い出しに出ていたのですが」

「日課のだよね?」

「はい。その際、福引をしておりまして…僕は差し出がましいと言ったのですが、晴臣(はるおみ)が福引を回してしまいまして」

「ふんふん」


 差し出がましいと言うと、赤河(あこう)家のお金で買った物に対してついて来た福引を、勝手に使ってしまう事、についてかな。

 その位なら、事後報告でも構わないと思うんだけどな。

 伯父さんも伯母さんも、その辺りは軽いし。

 まぁ、かと言って金銭が関わる問題だし、緩く考えるのも危険か。

 念の為、報告したのか尋ねると、それについては晴臣(はるおみ)君がちゃんとしたらしい。

 しっかりしてると言うか、ちゃっかりしてると言うか…。

 本当にこの二人が双子なのか疑わしく思えてしまう。


「そこで、水族館の入館無料チケットを引き当てたのです。しかし、晴臣(はるおみ)は水族館に興味はない、と申していまして。もしも、お嬢様にご興味が御有りのようでしたら、ご学友と共に遊びに行っては如何かと、こうして確認に上がった次第です」

「えっ、行っても良いの!?」

「勿論、旦那様や桐吾(とうご)様にお許しを頂けたら、になってしまいますが」


 晴雅(はるまさ)君の手には、チケットが五枚。

 一枚もらって内容を読むと、中学生まで無料、と書いてある。

 学友、と言うとちーちゃんやゆーちゃんの事だ。

 だけど、私達だけで既に四人。

 多分お目付け役として二人も来るんだろうに、一枚足りない。

 まぁ、中学生料金なんて大した事ないし、平気なんだろうけど。


「もしかして、晴臣(はるおみ)君は来れないの?」

「……」


 晴雅(はるまさ)君は、曖昧な笑みを浮かべる。

 これは…来れないと言うより、来ない、と言ったのだろう。

 その心は果たして、気を遣って辞したのか、単に子守りが面倒だったから逃げたのか。恐らく後者であろうが。

 私は、苦笑を浮かべて言った。


「興味ないなら仕方ないね。でも、私は行きたいから、晴雅(はるまさ)君、ちょっと許可取りに行くのに付き合って!」

「はい。どこまでもお供致します」

「いや、ちょっとそこまでだよ…」


 珍しく家でゆっくりしていたお父さんの部屋へ向かう。

 生真面目な父親の事だから、まだ早い、とか止められるかなーと身構えていたけれど、そんな事はなく、微笑ましく了承してくれた。


「父様は、勿論構いませんよ。ただ、きちんとお友達の都合も考えて、断られたとしても、嘆いてはいけませんよ」

「は、はいっ」


 なんてネガティブシンキング。

 少し面喰ったけど、お父さんの仕事柄、最悪の状態を常に想定して動くのが、恐らくは普通の事なのだろう。

 言っている事も間違ってないと思うし、私は力強く頷いた。


 次に向かうは、赤河(あこう)家である。

 晴雅(はるまさ)君を引き連れて、私は颯爽と(ほむら)の扉をノック無しに開く。


(ほむら)ー!GWに一狩り行こうぜ!」

「は!?突然何だよ?ってか、急に入って来るな!ノックくらいしろ!」

「間違えた。水族館行こう」

「何をどうしたら「一狩り行こうぜ」になるんだ?水族館の魚狩り尽くす気か、お前は」


 やれやれ、と言った様子で溜息をつく(ほむら)

 まったく、溜息をついたら幸せが逃げて行くのを知らないのかな。

 あっ、その法則で行くと、今日だけで結構私幸せ逃がしてるわ。


「急にどうしたんだよ?」

晴雅(はるまさ)君、説明!」

「かしこまりました」


 かくかくしかしがで通じるのは創作物だけ。

 と言う訳で、晴雅(はるまさ)君が簡潔に事の次第を説明する。

 納得したらしい(ほむら)は、一も二もなく了承してくれた。


「俺、実は友達と水族館って夢だったんだよなー」

「そ、そうなんだ!」


 私も人の事言えないけど、(ほむら)も寂しかったんだよね!!

 分かってはいたけど、何かこの発言でその事実を強く実感した。

 キラキラした笑みを浮かべる(ほむら)の肩を優しく叩くと、絶対にこの予定を実現させるべく、伯父さんの元へ急いだ。


「おおー!水族館か、良いなぁ。俺も時間があったら良かったんだが」


 幸いな事に、伯父さんもすぐにオッケーしてくれた。

 理解のある一家で本当にありがたい。

 物語にある金持ちって、金持ちなだけに、行動制限されたりしてて大変そうだもんね。

 まぁ、金持ちに限らず、過剰に心配する親とかだったら、子供の行動を普通に制限してたりするだろうけどね。

 そう考えると、お父さんも伯父さんも、過保護気味ではあるけど、理解はあるし自立性も重んじてくれるし、素晴らしい親と言えるかもしれない。


「にしても、晴臣(はるおみ)は行かんのか?勿体ない」

「「チケットが五枚しかないなら、俺は良いや」と申しておりました」

「ふーん」


 伯父さんが、何かを企んでいるような光を目に灯す。

 あっ、嫌な予感。

 私は、晴雅(はるまさ)君の腕を掴むと、勢い良く頭を下げて、素早く部屋を出た。


「許可を頂き、ありがとうございます!失礼致しました!!」

「…失礼致しました」


 晴臣(はるおみ)君は、私と(ほむら)…主に私を警戒している。

 恐らくは、晴雅(はるまさ)君の態度を変えさせたせいなんだろうけど、だからこそ、仲良くなりたいと思ってはいるけど、彼の心の休まる時間を提供してあげたいとも思っている。

 学校では別行動だけど、基本的に晴臣(はるおみ)君の仕事は、私の兄代わりで護衛。

 守るも何もあったものじゃない位、毎日が平和だから、ほぼ私と一緒にいるだけが仕事だったりする。

 苦手な相手と一日中一緒。何て辛い仕事なのか。

 GW位、自由に過ごさせてあげたいと思う私、超大人!なんちゃって。


 まぁ、そんな冗談はさておき、伯父さんの今の目。

 折角だから、水族館で仲良くなりゃ良いじゃん!みたいな事言って、無理矢理にでも晴臣(はるおみ)君を水族館に付き添わせかねない。

 サッと離脱して来たし、杞憂に終わると良いな。


「後は、ご学友への確認ですね。如何なさいますか?」

「学校で聞くから、今日の所はもう終わりだね」

「それでは、戻りましょうか。お送り致します」

「うんっ」


 そして週明け、教室でゆーちゃんに、お昼休みに中庭でちーちゃんに、水族館への誘いをかけた。

 本人達はめちゃめちゃ乗り気だったけど、まだ小学一年生だし、本人の判断で決められるはずがないから、それぞれのご両親にも、ちゃんと確認を取る事にした。

 お父さんが、それぞれの家に確認の電話をかけてくれる事になって、お任せしていると、その日の内に許可が下りた。

 流石は敏腕執事。隙がない。


 こうして、あれよあれよと言う間に、GWの水族館行きが決定した。

 割と近場にある水族館なので、付き添いは晴雅(はるまさ)君だけでも十分だ。

 小規模の癖に、白クマがいると言う。

 子供っぽいと、また(ほむら)は笑うが、非常に楽しみである。


「当日晴れると良いね!」

「屋内施設なんだから天気関係ないだろ」

「そう言う問題じゃないよ、つまらない男だなー、(ほむら)は」

「これ見よがしに溜息つくな!」


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