14.ほのぼの昼下がり
ゆーちゃんが可愛過ぎて辛い。
はっ!今私は何を口走っていたのだ!?
危ない危ない。
危うく版権に盾突く所であった。
過ぎたる天使要素は、及ばざるが如し。冷静にならねば。
「みーちゃん、みーちゃん!」
ぐはあぁっ!いかん、駄目だ。
満面の笑みを浮かべて私の後ろをチョコチョコついて来る天使の前に、私の理性など砂上の楼閣よりも脆かった!
私は、思わずギュッと天使を抱きしめる。
すると、ゆーちゃんは、これまた嬉しそうに抱き締め返して来てくれるのだ。
やだ、私ったら今更リア充。
「あー、ゆーちゃん可愛いいいいー」
「みーちゃんもかわいいよ?」
「ゆーちゃん程じゃないよ」
「?よくわかんないけど、みーちゃんスキー」
「ぎゃあああ!死ぬ!萌え死ぬ!!」
グリグリと、ゆーちゃんの頭に頬ずりする。
自分でも引くくらいのテンションの高さなのだが、ゆーちゃんに怯む様子は一切無い。
初日にオドオドしていたのは、やっぱりただの人見知りだった。
すぐに打ち解けてくれたゆーちゃんは、今ではこんな、一点の曇りもない笑顔を向けてくれる。
どっかの双子とは大違いだよ!
あっ、ゴメン二人共。嫌いじゃないんだ。寧ろ好きなんだ。
「むうう……」
「あっ、ちーちゃん!」
内心で、今は近くにいない二人に言い訳をしていると、もう一人の天使の姿を見つけた。
因みに現在は、泣く子も笑うお昼休みだ。
白鶴学園初等部では、その教育方針に則って、皆が給食を摂る。
ジェネレーションギャップなのか、それとも学校の質の問題か、記憶にある物よりもかなり豪華なお昼ご飯を食べ終えると、三十分程自由時間が生まれる。
しばらくは教室の他の子達とおしゃべりをしたりして過ごしたけれど、こうして学校に慣れた今、是非とも校内散策に挑みたい衝動に駆られた私。
ようやく担任の先生からの許可を得た私は、こうして中庭へとやって来ていた。
中庭は広く、私の記憶にある学校よりもずっと草花で溢れ、また、手入れされていて美しかった。
流石に、此処で鬼ごっこをするのは憚られ、本当に散歩をする事にした。
それでも、ゆーちゃんと二人でウロウロしていれば、飽きる事はなかった。
どころか、物凄くテンションが上がって、恋愛映画のカップルも真っ青になるレベルでイチャついていた訳になるんだけれど…。
「ズルイーっ!」
「へっ?」
「みずほちゃんは、ちとせのおうじさまだもんっ。ほかのひとのじゃないもんっ」
それを目撃したちーちゃんが、ほっぺを膨らませて睨んで来ていた。
あら、やだ可愛い。
トキめいてる場合じゃないけど、トキめく。
流石は、未来のメインヒロインだ。
見ろよ、あの煌めきを。
現実世界にあって尚、お花背負えるんだぜ。
「あはは。ちーちゃんも来る?」
「!うんっ」
はい、と身体をズラしてスペースを作ってちーちゃんを手招く。
すると、ちーちゃんは分かりやすい位に満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
右手側にはゆーちゃん。
左手側にはちーちゃん。
「楽園は小学校にあったのか」
「真面目な顔して何言ってんだよ、馬鹿」
「あいたっ」
ペシッと、効果音が付く様な勢いで、軽く後頭部を叩かれる。
一体誰だ、こんな幸せな時間を邪魔するなんて。
衝撃のあった後ろへ、少し身体を動かして視線をやる。
そこにいたのは、案の定と言うか何と言うか、焔だった。
「もー、何するのー?」
「寧ろお前が何してるんだって」
呆れた様な顔で溜息をつく焔。
おかしいな。
私の方が精神的には年上のはずなのに、何か最近焔が、私の事を残念な子供を見るかのような目で見て来るんだけど。
あれか。ナメられているのか、私は。
ここは一度、どこかで年上としての威厳を見せておくべきなのでは!?
「何って、天使達を愛でてる」
「馬鹿丸出しじゃねーか」
「あいたーっ!」
さっきより強く叩かれた。
ちょっ、ヒドくね!?
年上年下云々以前に、人として見られてなくね!?
「だいじょうぶ?みーちゃん」
「もー、ほむらくん!ダメですよ!」
「イタイのイタイのとんでいけーっ」
「ヨシヨシはちとせがやるのーっ」
「ふ、二人共……!」
ゆーちゃんは、心配そうに眉を下げながら、私の頭を優しく撫でる。
ちーちゃんは、焔を叱りつけながら、ゆーちゃんに負けじと私の頭をちょっと豪快に撫でる。
感極まった私は、二人を更にギューッと抱き締めた。
「ありがとー、二人共!大好きだよー!!」
「わっ」
「ちとせも!ちとせもみずほちゃんスキよ?」
「……うわぁ…」
渇き切った心が、一瞬で潤って行く。
前世の私に教えてあげたい。
来世に、こんな素晴らしい天使がいますよ、って!
ああ、そもそも私って、何であんな渇いた人生歩んでたんだっけ?
…頭痛い。思い出せないし、どうでも良いか。
「ねぇ、ところでアナタ、だれ?」
「ん?あれ、知り合いじゃなかったっけ」
「う、うん……」
ちーちゃんのふとした問いに、私はあれっ?と首を傾げる。
何だか、もう何年もこうして皆で一緒にいるような錯覚に陥っていた。
まさかゆーちゃん達が初対面だったとは。
…考えてみれば当然だ。
ここ数日、私達は、クラスメートと話す事が多かったのだ。
「ちとせは、おやまだちとせよ」
「あ。俺は焔だ。よろしくな」
「あっ、えっと、そ、その…ぼくは、かざま、ゆうま……です」
声が段々小さくなっていってしまうゆーちゃん可愛い。
友達である私にくっついていたから、一応大丈夫だっただけらしい。
話の矛先が自分に向いたと分かるや否や、急に目を泳がせてしまった。
そんなゆーちゃんを、ちーちゃんは不満げに見ている。
「ゆーまくんはもうはなれてよぉ!」
「えっ、な、なんで??」
「みずほちゃんは、ぜんぶちとせのなのーっ」
「ぼ、ぼくも、ともだちだもんっ」
「ちがうー!ちとせのーっ」
「ふ、ふぇ……」
こ、これが修羅場か……。
なんてふざけてる場合じゃないか。
ちーちゃんも、イジメられてたのは幻だったのか、と言うくらい強気に出られるようになったのは良いんだけど、ちょっと将来が心配になる。
いや、寧ろツンデレヒロインとしての片鱗が見え隠れしてる。
ん?それなら美味しいし良いのか?
……いや、駄目だろ。ゆーちゃん泣かせそうになっちゃってるし。
「コラコラ、ちーちゃん。仲良くしなきゃ駄目でしょー?」
「でもぉ…」
「ちーちゃんだって、泣かされるのは嫌いでしょ?自分が嫌な事は人にやっちゃいけないんだから」
「むぅぅ……ご、ごめんなさい……」
「ハイ!良く出来ましたーっ」
「えへへっ」
まぁ、自分が嫌じゃない事ならやっても良いのか、とか別問題もあるんだけど、ちーちゃんは素直に受け入れてくれたからオッケーだ。
私は笑顔でちーちゃんの頭を撫でると、ついでにゆーちゃんも撫でた。
「ほむらくんは、ギューッてしないの?」
「は?し、しねーよ!」
泣きやんだゆーちゃんが、思い出したように焔に目線を向けた。
おや、人見知りはしないのだろうか?
もしかすると、相手が男の子なら、別に緊張しないのかもしれない。
私は、小さい頃から相手の性別なんて正直どうでも良かったけど、そうじゃない子も多いもんね。
うんうん、と一人頷いていると、焔が噛みついて来た。
「なっ、何分かった様な顔して頷いてんだ馬鹿!」
「はい?突然どうしたの?反抗期?」
「ちげーよ!別に俺は……」
ボソボソと何ごとかを呟く焔。
これは、お察し下さい、と言う事だな。
真っ赤な顔で、べ、べっつにー、みたいに言ってるんだから…よし、把握。
「混ざりたいなら早く言えば良かったのに。仲間外れみたいで寂しかったんでしょ?」
「なっ、ななっ」
「あ、でもゴメンね。今手がふさがってるから…焔が抱き締めて!」
「はぁああ!?」
「さぁ、カモン!」
「カモン…じゃねーよ!!正気か!?」
至って正気だ。
私の腕は二本しかない。
右手にゆーちゃん。
左手にちーちゃん。
ならば、正面から焔に抱き締めてもらう以外、全員でくっつく方法は無い。
何か間違っているだろうか。
「ちょっ、何で無言でにじり寄ってくるんだよ!?」
「素直になれないみたいだから、こっちから近付いてあげようかと思って」
キーンコーンカーンコーン。
「あ」
「あーあ、予鈴かー」
私は、その音を聞くと、渋々と二人を離した。
二人は残念そうにしてたけど、もう授業が始まるし、仕方ない。
「っと、隙ありー!!」
「うわぁああ!?」
さて、教室に戻るか、と見せかけて最後に焔に抱き付いた。
焔は目を白黒させてたけど、私は見てしまったのだ。
焔が、ホッとしたような、それでいて、ちょっとガッカリしたような表情を浮かべているのを。
これはもう、愛でてやる他ない。
焔は、独りぼっちが苦手な、寂しがり屋だ。
私が安心させてやらないと。
「何するんだよ!?」
「別に?隙があったから抱き付いただけだよ?」
「だから、何で抱き付くんだよ、お前は!」
「え?うーん…何でだろうね。楽しいからかな!」
「俺は、楽しくない!!」
顔を真っ赤にさせて怒る焔。
怒ってる間は、少なくとも寂しくないよね。
よっしゃ、結果オーライ。
私は、ニヘラと笑ってすぐさま戦線離脱した。
「あっ、コラ!逃げる気か、瑞穂ー!」
「遅刻したくないもーん!」
背中に響く怒声。
私を追いかける足音。
鳴り響く本鈴。
今日も平和な、ある日の昼下がり。




