13.小学校入学!
とうとうこの日がやって来た。
小さな頭を覆う、黄色い帽子。
胸を彩る名札。
そして極めつきは、背中に陣取る真っ赤なランドセル。
そう!私こと、青島瑞穂は、本日をもって小学生となるのです!イエーイ!
転生者仲間の焔は、別に二回目の小学生だからって、テンションは上がらないと言う。
オーマイブッダ!
何事をも楽しむ心を忘れるなんて、どう言う事なのでしょうか!
私は焔と違って、大学まで卒業してるから、果たして何度目の入学式か、と言う感じだけど、物凄く楽しみだって言うのにね。
え?私の方が子供?
馬鹿言っちゃいけないよ。
大人になっても、子供心を忘れない。そんな人が魅力的なんじゃないか。
…と、言う訳で、私は魅力的な大人だ。
まぁ、肉体年齢はまだたったの七歳なんだけどね!!
よし、気を取り直して白鶴学園初等部の制服についてでも説明しようか。
女子は、愛らしい紺色のブレザーが制服だ。
プリーツスカートも、同じく紺色。
リボンだけ特徴的なチェック柄をしていて目立っている。
前世では、普通に公立の小学校に通っていたから、制服なんてなかった。
転生したお陰で、こんな貴重な体験が出来てとても嬉しい。
前世の姿なら似合わなかっただろうけど、現在はクラスで二、三番目位に可愛い外見をしているから何の問題もない。
超似合ってる。
「お嬢様。非常に良くお似合いですね」
「確かに、カワイーですね。お嬢サン」
「ありがとうございます、二人共」
私を真っ直ぐに褒める晴雅君と、ちょっとした皮肉を込めて褒める晴臣君。
二人も、今日から白鶴学園の中等部に転入するとの事で、制服を着ている。
因みに、白鶴学園中等部の制服は、男子が学ラン、女子がセーラーだ。
なかなかクラシカルで好ましいデザインだ。
二人の以前の学校の制服も学ランだったけど、前のと少しずつデザインが違うせいか、結構印象も変わっている。
白鶴学園の学ランは、ボタンが四角くて、少し銀色の縁が入っている。何とも芸が細かくてお洒落だ。
他にも、全体的に一見すると黒いけど、良く見てみると紺色がかってるとか…細かい所で他校と差を付けているのだろうか。
流石白鶴学園。詳細は良く知らないけど。
白鶴学園と言えば、幼等部の時にお金持ちが良く通う学校、と説明した記憶があるが、初等部に入る今年は、更に面白い話を聞いた。
何でも、初等部以上になると、お金持ちと庶民の割合が、大体同じくらいになるようにして調整されるらしい。
どう言う事なの?と最初は耳を疑ったけれど、驚くべき事に、白鶴学園に通う、お金持ちの生徒の選民意識を無くしたり、一般常識を庶民から学んだりする事を、学園全体の目標として掲げているから、なのだそうだ。
意味分からん。
でも、努力の甲斐あって、今では生徒皆が丁度良い価値観を持っているらしい。
それ…普通の学校に通うんじゃ駄目なの?と思ったのは内緒だ。
何とかですわ、おほほ…みたいなしゃべり方をしなくても大丈夫そう、と言う事実は、予想以上に心に安寧を齎したし、突っ込みはしないでおくのだ。
ありがとう、理事長。
理事長が決めたルールかは知らないけどね。
「入学式に出席出来ない事が心残りですが…」
「早く行けよ、晴雅。いい加減にしないと、晴臣めっちゃイライラしてるし」
「何を言うんですか、坊っちゃん。イライラなんてしてないですってぇ」
「いや、めっちゃイライラしてるよね」
「何か言いましたかー?お嬢サマ」
「いえ、何にも?」
晴臣君と、言葉のジャブを交わし合う。
ああ…会話の内容自体は、悪友!って感じで楽しいのに…。
心が通じ合っていない事に、内心でガッカリしていると、やがて流石に時間が厳しい事に気付いた晴雅君が立ち上がった。
そして、後ろ髪が引かれてます!と言う表情で、トボトボと中等部の方へと歩いて行った。
因みにだけど、晴臣君は清々した、と言った表情だった。
畜生、悔しい。
あの双子、足して二で割りたい。
「おーい、瑞穂!ボーッとしてないで、クラス分け見に行こうぜ」
「うん!…って、あれ?保護者達は?」
「先に見に行った。…ったく、ホント自由人だよなー」
「だねー」
本来であれば、子供達は保護者と一緒にクラス分けを見て、その指定のクラスまで保護者に付き添われて行く。
そこから先は、担任の先生の指示下に入るから、保護者の実質的な出番はそこまでで良いんだけど、どこに子供ほっぽり出して先にクラス分けを見に行く保護者達がいるんだ。
目の前にいるけど。
「良かったな、焔!一組の一番。素晴らしい!何事も一番でないとな」
「良うございましたね、緋王様」
「ああ。流石は俺の息子だ。引きが強いじゃないか」
「まぁ、瑞穂ちゃんと焔さんが分かれてしまいましたわ…」
「二人共自立心旺盛ですし、問題無いのではなくって?」
「ですがお義姉様!私、二人が机を並べている姿を見たかったのです……」
赤河家の血筋二人は流石だな…。
見事にマイペースに持論を展開してらっしゃる。
私にも、あの血が流れているのか。ちょっと怖いな。
…おい誰だ。既に十分マイペースだろって言った奴は。
伯父さんに頼んで、本名をアウストラロピテクスに変えてやるぞ!
わ、我ながらなんてえげつないのかしら…!!
「瑞穂は二組か。隣だし、別にそこまで困る事もないな」
「仮に六組だろうと七組だろうと何の問題もないけどねー」
「そりゃそうだ」
改めてクラス分け表に目をやる。
って、二組の女子の「あい○○」率高っ!!
私もどうせ一番目だろうと思ってたのに……六番目!?嘘でしょ!?
愛川さん、逢坂さん、藍園さん、会田さん、相葉さん、そして私。青島。
どう言う事だ。
何らかの意図を感じるぞ。
いや、でも前世でもあったなー、こう言う事。
確か、学年全体で十人いる鈴木の内、八人が私のクラスに集合しちゃって…。
呼びにくい上に、他のクラスから鈴木組とか呼ばれて超笑ったんだよねー。
内心でだけだったけど。
あはは、懐かしい。
「うわっ、お前のクラスなんだよそれ。すっげぇア行ばっか」
「ねー。意外と私後ろの席だよこれ。ラッキー」
「瑞穂を後ろの席にやるとか、愚の骨頂だろ」
「?何で?」
「そりゃー勿論、見えない所でどんな内職するか分かんないから」
「失敬な!それを言うなら焔だってー……」
「お二人共。教室へ行かないと、遅刻してしまわれますよ?」
「「あっ」」
危うく本格的な口喧嘩に発展しそうになったのを、西さんが止めてくれた。
確かに、周囲を見れば大分人の波が去っている。
早く行かなければ、まさかの入学式に遅刻してしまう。
そんな昔の少女漫画みたいなスタート切りたくない。
第二の人生、多少は目立つ道を歩んでも良いかなとは思うけど、そんなマイナスな目立ち方したくない。
「よし。一時休戦と行こうか、焔」
「休戦ってか終戦な。蒸し返さなくても良いだろ、別に」
「いや、それはない。私納得してないから」
「あーハイハイ。分かったよ、じゃあ後でな」
「うん」
私達は頷き合うと、一緒に来てもらうと逆に面倒な事になる保護者達に、先に保護者席に行っていて欲しいとお願いし、駆け足で教室へ向かった。
一年生の教室は、非常に分かりやすい事に、昇降口から入ってすぐ右手に並んでいた。
焔の一組が一番手前で、私の二組はその次だ。
教室内をチラッと覗くと、机の上に、大きく平仮名で名前が書いてある。
あれを目安に座れば良い訳だ。
納得すると、私は焔の黒いランドセルを軽く叩いた。
「じゃー気張ってこーい!」
「どの立場だよ、お前!?…あー、まぁ、瑞穂もほどほどにな」
「あいよー」
ヘラリと笑って、私は教室内に消える焔を見送り、それから自分の教室に入る。
小学生、とは言え、まだ幼稚園生に毛が生えた程度の子供達だ。
入ったら、殆どの子が自分の席に座っていなくて、ランドセルだけが悲しげに鎮座しているのが見えた。
私も一緒にハッスルしても良いかなー、と思ったけど、私の宛がわれている背の隣の男の子は、ちゃんと自分の席に座っていたから、私も落ち着いて座っておく事にした。
「おはよう!今日から隣だね、よろしく」
「!あ、えっと、うん。よ、よろしく…」
ニッコリと満面の笑みを浮かべて名乗ると、男の子はビクッと身体を揺らした。
目が泳いでいるけれど、ちゃんと挨拶は返してくれた。
きっと人見知りなんだろう。
ジッと見つめると、何とも落ち着く顔をしているのに気付いた。
転生してからこっち、どうも見目の整った人ばかりが周囲にいたから、少しばかり美的感覚が麻痺していたのかもしれない。
隣の席の男の子は、なんとまぁ日本男児、と言った顔をしていた。
イケメンと言うには微妙。
だけど、素朴で何とも愛らしい。
赤河家関係者達が、お洒落な洋食なら、彼はお米だ。日本食だ。ご飯万歳!
外見だけで、何とも失礼な事ながら、私は彼の事がすっかり気に入った。
ちーちゃんも違うクラスだったし、一人でどうしようかな、と少しは不安を感じていたけれど、何の事はない。
新しく作れば良いだけだ!
先生が来るまでに、まずは名前だけでも…。
私は、彼の机の上に目をやる。
私の机の上にもある、大きな名札。
手作りらしいそれには、可愛らしい丸文字で、「かざまゆうま」と書いてある。
くっ、漢字が分からん…。
若干口惜しく思いながらも、私は再び笑顔を作る。
そして、出来る限り柔らかい声を心掛けて話しかけた。
「ゆうま君って言うの?」
「うん。そ、そうだよ」
「私はね、瑞穂って言うの!ゆーちゃんって呼んでも良い?」
「えっ?えーっと、あの、」
「お友達になろうよ!」
「ともだちに?」
「うんっ!駄目?」
ずけずけと言いすぎただろうか。
いや、だってちょっとテンションあがっちゃったんだもん、許して。
もしかすると、いたいけな少年に、トラウマを植え付けちゃっただろうかと、少しばかり戦々恐々としながら反応を待つ。
けれど、そんな心配は杞憂だった。
ゆうま君ことゆーちゃんは、嬉しそうに、気の抜けるような笑みを浮かべて、了承してくれたのだ。
「ううん。うれしい!あの、よろしくね、みーちゃん」
「ゆーちゃん…!!可愛いっ」
「え?ありがとー?」
思わず抱き締めた。
私の言っている意味が分からずに首を傾げながらも、嬉しそうに笑ってくれるこの子は何?天使ですね、分かります。
みーちゃん、なんて呼ばれるのは初めてだ。
何故か幼等部では、皆私の事を瑞穂瑞穂って呼び捨てだった。
あだ名!憧れるよね、あだ名!
家に帰ったら、焔にも何か付けてあげようかな!
あっ、でも絶対嫌がるよね。流石に止めておいてあげよう。
そうしてホクホクした私は、後でやって来た先生の話も耳に入らず、体育館に向かった後、良くある校長先生の長い話すら耳に入らず、我に返ったのは、家に着いて、自室に落ち着いた時だった。
あれっ、時間が妙に過ぎてるぞ?
さっきまで天使と戯れていたはずが…はっ!もしや、夢?
なんてふざけながらも、ランドセルの中に手を突っ込む。
引っ張りだしたメモ帳には、ちゃんと準備しなければならない諸々の情報が書き記してあった。
しかもちゃんと私の字だ。
うんうん、流石は私。
ゆーちゃんのあまりの可愛さに昇天しながらも、事務作業は完璧だったんだね。
「おい、瑞穂。浮かれ切ってどうかしたのか?」
「あっ、聞いてよ焔!友達が出来たんだよ!」
「早っ!マジかよ、お前…」
呆れる焔なぞ知った事か!
私は、まくしたてるように、隣の席の天使について話して聞かせた。
そうしたら、呆れた様な焔の表情が、信じられない、と言う表情に変わった。
「あれ?どうかしたの、焔」
「どうかしたのじゃない…お前、本当に漫画の内容知らないのかよ??」
「そこで嘘ついてどうするのさ」
「分かってるけど……はぁぁぁ」
「ちょっ、人の顔見ながら溜息つかないで!」
疑問符を浮かべる私に、更に溜息をつく焔。
やがて、小さく呟いた。
「風間悠馬って言えば…赤河焔の親友キャラだよ」
オーマイゴッド。
何だ、このキャラクターホイホイは。私か。
信じがたい情報に戸惑いつつも、私の頭は冷静に次に取るべき行動について指し示す。
そう、今の焔の言葉の中で、非常に重要な情報があったから、聞かなければ!
「ねぇ、焔。一つ聞いて良い?」
「何だ?俺に分かる事なら良いけどな」
「ゆーちゃんて……どんな漢字で書くの?」
「それ、今一番どうでも良い情報だろー!?」
「うっさい!私にとって何よりも重要な情報だよ!!」
「いや、本気でどうでも良いよ!大体後で分かるだろ?同級生なんだし」
「そう言う問題じゃないよ!あっ、今思い出しちゃった。焔と休戦中だった。よし再開しようぜ」
「今思い出すなよ!?」
「今思い出さなきゃいつ思い出すの!?そう、思い出すなら今でしょ!」
「古っ!もう使ってる奴いなくねぇ!?」
「いる!ここにいる!」
…………。
別にイベントに関わろう!とか、そんな事を思ってる訳じゃないのに、狙ったかのように、メインキャラクターに絡んで行く私。
果たして、小学校も面白おかしく過ごして行けるのか…。
……寧ろ、面白おかしくしかならなそうだから、別に良い気がするのは、私だけだろうか?
うん、まぁ良いや。
とりあえず、小学校生活も頑張ろう!おー!
「おい、自分で喧嘩吹っ掛けといて逃げるなー!」
「何の事かな?」
「瑞穂ー!!」
初等部男子の制服は、女子と殆ど同じで、上着のあわせ、ズボンとサスペンダーといった箇所が異なっています。




