139.ヤの付くフラグは避けられない
前回までのあらすじ!
ヤの付く自由業の人たちに絡まれていたゆーちゃんを救う為に身を挺した私、瑞穂は気付けば彼らの興味を惹いてしまっていた。
しかも、折角正体を隠してたのに、私のうっかりミス(?)で年齢がバレちゃって、しらみつぶしとは言え、ドンピシャで私の小学校まで辿り着かれてしまったの。
ここから上手く誤魔化せば時間を稼げるって思ってたのに、親愛なる双子は自ら身バレしよう! と提案する始末!!
えーっ、私これからどーなっちゃうのー?
本編、始まるよーっ。
「痛いっ! 何で叩くの、焔!」
「今、すごくどうでも良いこと考えてる気がしたから」
「的確ぅ!」
……なんて、実際ふざけてる場合じゃないんですよねー。
えっと、経緯は今考えた通りで、私たちは校舎内からヤの付く集団を見下ろしてる状態だ。
双子はニコニコ、いや臣くんがニコニコ、雅くんが無表情と、まさにいつも通り。
チラリと横目で見た焔は、脳内で処理が追い付いてないのか渋面。
ハットリくんは、見るからに動揺しているのか真っ青のままだ。
うーん、カオス!
「ねぇ2人とも。身バレを提案するってことは、メリットがあるってことだよね? 理由聞いても良い?」
「そーですねぇ……。お嬢も薄々察してると思いますけど、アイツらかなり面倒な組織なんですよね」
「薄々どころか、それは多分かなり前から分かってたかな」
何しろ、あれだけ盛大にウロついててもしょっ引かれてなかったからね。
……あれ? しょっ引くは死語? 大丈夫? 通じる??
「まぁ、赤河家の力があれば対処はそう難しくないらしいんですけど、とは言え潰す訳にはいかない事情もあるみたいなんです」
それは初耳だ!
目を丸くする私に、雅くんが補足を入れてくれる。
「彼らも秘匿しているので察するのは難しいかと思いますが、彼らはそれぞれ霊的なものを抑える役割を担っているのです」
なるほど。それはさっきの話から推測出来て然るべきだったかもね。
妖怪だ何だが実際に存在してるなら、ファンタジーもののテッパン組織だよね。
必要悪って言うか……何なら悪ですらないかもしれないのかも。
「んで、その仕事って何だかんだ血生臭くなることも多いようで、それでヤクザっぽい形態に落ち着いたらしいんですよね」
「要するに、一般人の目を誤魔化す為の擬態のようなもので、実質的に彼らはヤクザではないのです」
普通に悪じゃなかったみたいだわ。
「それにしては、オラついてるように見えたけど、それってどうなんだ?」
「一定年齢に達するまでは、その辺りの事情は身内にも秘密にしているようですよ」
「なら、あの絡んで来た奴らは……鬼壱組は普通に自分たちをヤクザだと思ってて、狐九組はー……知ってるからこそ、あの態度って感じなのか?」
「恐らくは」
「うへぇ」
焔の疑問に、雅くんが淡々と答える。
何だか、九尾さんの厄介さゲージがどんどん上がってる気がするのは気のせいかな?
「あれ? ところで、佐助くんはその辺りの事情分かってたみたいだったよね。教えてもらってたの?」
ふと気になってハットリくんを見ると、弱々しくも頷いてくれた。
「はい。これでも俺は、1人で行動するのを認められておりますので……」
「い、一人前ってこと?」
「はい。……何故そんなに驚いてらっしゃるのでしょうか?」
「……ゴメン」
「えっ」
思わず目を逸らした。
ああ、けどこうして素のハットリくんと話してると、優秀っぽい感じはするから、これで認められたのかな。
ほら、忍者コスプレしてる時のハットリくんは、ほら、アレだからね、アレ。うん。
「話戻しますよー」
「あ、お願い」
「今の流れで分かったと思いますけど、赤河家としては、彼らと事を構えたくはないんですよね。とは言え、そこはお嬢も最初からそのスタンスだったんで、一応前提として考えといてください」
「うん」
前提:事は構えたくない。
ざっくり言えば、ガチの殴り合いは避けたいってことだよね。オーケー。
「それで、奴らって脳筋っぽく見えて結構諜報能力も高いんですよね。しかもしつこい。これだけ言えば、大分分かって来ませんか?」
「……要するに、赤河家の力だけじゃ、隠しきるのは難しい?」
「いえ。本気になれば隠し切れますけど、今回は本気は出さないって話じゃないですか」
「あー……私たちに任せるって言ったからかー」
「ですです」
やっぱり、伯父さんにお任せすれば全部アッサリ片付く訳だ。
けど、その辺の対処も私たちに投げて、その行動を見て色々試したいってところだよね。
うーん……伯父さん、やっぱ底知れないわー。
「親父が静観してるってことは、命の危険はないってことか?」
「いやー、それはどうかなぁ? 俺らが軽く探り入れた感じだと、危険はありますよ」
「マジで!?」
「はい。主にお嬢の貞操が」
「ひぇ」
「うわぁ……」
マジかよオマエ、みたいな目で見られてもそれは私のせいじゃない。
断じて違う。だって生まれつきだもの。それ、私がどうこう出来る問題じゃないよ。
「流石に、そこまで行けば旦那様か桐吾さんが出てくると思いますけどね」
「俺らも絶対許しませんしねー」
伯父さんとお父さんもフォローしてくれるって言ってたしね。
……って、それは良いけど2人とも、目が笑ってないよ。
この話題が続くと怖い気がするので、とりあえず話を進めよう。
「うーん、情報集めて避けてれば良い段階は既に過ぎてる訳で、力尽くで黙らせるみたいなアグレッシブな対応はNG。出来れば正体は隠し続けたいけどー……いつかは暴かれることになるし、それまでずーっと周辺が騒がしいままになっちゃうのか。……結局、だから自分からカミングアウトした方が話が早いってことかな?」
私が、双子の提案する自ら身バレ&お話し合いという考えに至った理由諸々について考えながらまとめると、2人は頷いた。
「それに加えて、現段階でこちらから話を切り出すことで精神的優位を勝ち得ようという意図もあります」
「そっか。確かに、向こうに突き止められてから話し合いに入ると、私たちが不利になっちゃいそうだもんね」
「はい。やりようが全くないとは申しませんが、些か厳しいものになるかと」
なるほどねぇ。まぁ、身も蓋もない話をしちゃうと、あんなに情報収集してて避け切れなかった私が悪いんだから、不利も何もあったもんじゃないんだけどね!
何なら自ら首を突っ込んだとまで言える。言わないけど。
いや、だってゆーちゃんのこと見捨てられないもん、私! 勿論、ハットリくんもだとも!
「けどそれって、アイツらとそれなりに関わりは持たないといけなくなるってことだろ?」
「若はご不満ですか?」
「そりゃそうだろ。そんな悪いことしてないにしても、バトル漫画みたいな生活してる奴らだろ? 命が幾つあっても足りないじゃないか」
「奇遇ですねぇ。本当は、俺らもイヤなんですよ、あんな連中お嬢に近付けるの」
「そうなのか?」
焔は、状況を理解してるし、2人の提案を受け入れるのがどうやら良さそうだ、とは分かるけど腑に落ちない、といった様子で溜息をついた。
そんな焔に対して、意外にも提案した本人たちも同意を示した。
驚いたのか目を見開いた焔が、窺うように黙っている雅くんを見ると、雅くんはしっかりと頷く。
「不本意に決まっているでしょう。僕たちのお嬢様に不埒な目を向ける輩と、どうして関わり合いになりたいと思いましょうか」
「けど、仕方ないんですよねぇ。俺らだけで何とかするには、お嬢がこれから海外に高飛びするくらいしかないんですもん」
「それはイヤだなぁ」
「ですよね」
仲の良い友だち皆の身の安全とか、その辺を考えると、敢えて接触してそれなりに直接コントロール出来るようになっておく必要があるってことか。
まぁ、そうだよね。こっちは組織って程の人数動員出来ないし、そもそもただの小学生ですからね!
「はー。結局、ヤの付くフラグは避けられなかったかぁ」
「主にお前のせいだから、反省しとけよ瑞穂」
「善処しまーす!」
「マジで頼むぞ!!」
こう見えても私だって色々考えてるし、頑張ってるんだよー。
全然信じてくれてなさそうな顔で焔が見て来るけど、平気平気。
今までも何とかなってるんだし、何とかなるとも。
ハレハレ本番の高校生までに主人公の焔と、呼び出し係の私が死ぬ訳ないし。平気平気。
……あれ? モブの私は、別の人に替えがきくから平気じゃない説ある? ……いやいや、平気平気平気。
「2人は、具体案とかある? 私は、その方向性で行くんなら、最初はロングコートのマチコさんファッションで行くべきだと思うんだけど」
「そうですね。お嬢と……俺らもあの時の変装バージョンで行きましょう」
「俺は家に帰って待機ってトコか?」
「よろしくお願いします、焔様。旦那様方への説明は既に終えておりますが、念の為にお嬢様には盗聴器をお持ち頂きますので、その内容を聞いて、もし危険が迫っていると判断した場合は、旦那様方に助けを求めて頂きたく存じます」
「任せろ」
「私、盗聴器仕込まれるの!? プライバシーは!?」
「そんなもんある訳ねーだろ!」
ちょっとじゃれ合いつつ、作戦を立てていく。
まぁ、作戦って言っても殆ど出たとこ勝負みたいだけどね。
何しろ、相手は大きな組織2つだ。
「……俺は、どうしましょう?」
硬い表情のまま、ハットリくんがそう口にする。
ハットリくん的には、色々起き過ぎてて辛いところだろう。
けど、我慢だよ、ハットリくん! 多分、このお話し合いが終われば平和な日常が戻って来るから!
「佐助も格好を改めて、あとは可能な限り静かに……いや、お嬢様の御身に気を配るように」
「!」
何と、雅くんはハットリくんにもお仕事を与えることにしたようだ。
しかも、私の護衛だ。
え、大丈夫? やる気空回って変なことにならない? 変なスイッチ押さない?
「ありがとうございます! 俺……俺、精一杯お守り致します!! この身に変えても!!」
私の不安を余所に、凄まじい勢いで頷くハットリくん。
ロングコートのマチコさん。
口調丁寧な臣くん(変装)。
口調雑な雅くん(変装)。
そして、へっぽこ忍者のハットリくん(忍者コスプレ)。
えっ、この面子、本当に大丈夫ですか?
反射的に焔を見ると、焔は力強く頷いてくれた。
いや、これ絶対「大丈夫だから行って来い」じゃなくて、「逝って来い」って言ってるよね!
私には分かるよ、焔ちょっと面倒くさくなってない!?
……という訳で、私はヤの付く2大集団に、マチコさんとして突っ込んでいくことになったのでしたー。
嫌な予感しかしないんですけどー!!?