137.背中は押すなってあれ程(ry
ヤの付く人々とのひと騒動の翌日……じゃない。ゆーちゃんとの記念すべき仲直りから一夜明け。
今私は、最高にテンションが低かった。
あれ、低いんだから最高じゃなくて最低って言うのかな。うーむ、調子が出ない……。
「ねー、ゆーちゃぁん! 慰めてぇー!!」
「ゆーちゃんは止めてって言ったろ、瑞穂! ……けど、元気ないの多分オレのせいだろ? だから、なぐさめる!!」
「わーい、ありがとー!!」
ギューッとゆーちゃんに抱きついて、胸に頭をグリグリすり寄せる。
そんな私の頭を、ゆーちゃんは若干乱暴ながらも、優しく撫でてくれる。嬉しい。
今までなら避けられてた行為が、あたかも当然のように受け止められている現状の、何と幸せなことか!
私は感激しながらも溜息を漏らす。
……昨日の、双子&焔の分からせさえなければなー。
え? 何があったかって? そんなの勿論、内緒に決まってる。沽券に関わるし。うん。
「……ちょっと、オレのせいって何よそれ。昨日、何かあったの?」
ムッとしたようなちーちゃんの声が飛んで来る。
いっけない。優しいちーちゃんを心配させちゃって、私ったらダメな子だ。
私は、ゆーちゃんからそっと離れるとちーちゃんに笑顔を向けた。
「ちーちゃんが心配するようなことは何もなかったよ。ただちょっと、ゆーちゃんとの仲直りに邪魔が入ったって言うかね」
「オレが大人に絡まれてたのを瑞穂が助けてくれたんだ。カッコ良かったぞ」
ゆーちゃんが続けて言った言葉は、当たり障りのなさそうなものだった。
ので、とりあえず口止めとかはしないでおく。
ただ、更に心配になりそうな内容のような気もしたので、双子が最終的に助けてくれたよ、と追加しておいたけど。
「あー、そうだ。千歳も悪かったな。変に八つ当たりして……」
「それは、別に……」
「けど、オマエの言う通りだったな。やっぱり、瑞穂はオレのことどうでも良くなんてなかったんだ。だからオレ、もっと大人になって我慢を覚えることにしたんだ!」
パッと笑顔になったゆーちゃんに反して、ちーちゃんの顔が一気に曇る。
えっと、あれ? 何で泣きそうな顔??
私は反射的に焔を見る。と、非常に複雑そうな顔を浮かべているのが見えた。
「そ、そう……良かったじゃない?」
「おー!」
「けど、瑞穂ちゃんのこと、危ないことに巻き込むのは頂けないわ! ちゃんと謝ったの?」
「謝っ……って、なかったっけ? あー、瑞穂なら大丈夫とか思ってたし、言ってなかったかも。昨日、変なことに巻き込んでごめん」
「全然大丈夫! 友だちだし、困ってる時は助けるものだもの!」
とりあえず、表面上はそのまま話が進むようなので、とりあえずスルーする。
う、うむむ。訳知り顔の焔が気がかりだけど、今指摘することじゃないのだけは分かるし、仕方ないか。
ちーちゃん、どうしちゃったんだろ。
「しかし、本当に2人が仲直りしてくれて良かった。俺も安心したよ」
「いやー、ごめんね委員長! これからは皆仲良くラブラブスクールライフといこう!」
「らぶらぶすくーるらいふ? の意味は分からないが、仲良くするのは賛成だ。今後ともよろしく頼む」
「ぷはーっ! よーすけったら相変わらずかったーい!」
キチッと堅苦しい感じで頭を下げる委員長を、さっちゃんはケタケタ楽しそうに笑う。
委員長の良いところはこういうところだから。
そして、さっちゃんの良いところもそういうところだから良いんだけど。
「ま、瑞穂が謝ることでもないし、あんま気にしすぎるなよ」
「……昨日あんな激怒した人の言うことかな……?」
「俺は別に、ケンカの件で怒ったりしたつもりはないぞ。ん? 俺らが言いたかったこと、まだ理解してなかったか? おかわりいるか?」
「ひぇ」
お説教のおかわりなんて居るはずがない。
私は戦慄しながら委員長の背中に隠れる。
「あ。チャイム」
仲の良い皆には、仲直りの報告をしたいと思って朝一で集合してたので、これから朝のホームルームだ。
次のチャイムが鳴るまでには席に戻っておかないといけない。
皆でふざけ合うのはとても楽しいけど、授業をサボってまですることではない。
「じゃあ、また後でねー!」
「あ、瑞穂ちょっと待った」
「ん?」
さーて、教室に戻ろう、というところで焔が声を上げた。
何の話だろう? 他の皆に用事ならともかく、私に用事なら家に帰ってからだって良いのに。
首を傾げていると、割と真面目な顔で手招きしている。
「おーっしゃ、ゆーま先戻るよー」
「はぁ!? 何で明佳にひっぱられなきゃならな……ちょっ、待てって! 服のびる!!」
「あ。じゃあわたしたちも戻りましょう、陽介くん」
「ああ。それでは」
何かを察してくれたさっちゃんとちーちゃんが、それぞれ男衆を連れて教室へ戻っていく。
なんて空気を読める素晴らしい友なんだろう。
どっちかって言うと、今一番空気読めてないの私なんだけど。
何の用だろう?
「今日、放課後時間あるか?」
「んー? 何か用事? 帰ってからじゃダメだったの?」
首を傾げる私に、焔は呆れ顔だ。
何だ、その馬鹿な子どもを見るような顔は。
「お前なぁ……。顔こそバレてないにしても、奴らに小学校6年生だってバレたんだろ? 何か対策練っとかないと、今日明日にでも補足されっかもしれないじゃないか」
「えぇ? 流石に昨日の今日は平気じゃない?」
「何馬鹿言ってんだ馬鹿」
「2回も馬鹿って言った!?」
焔は、ヤの付く自由業の方々を警戒しているようだ。
いや、まぁ私だって情報収集なりもっと本腰入れてやらないといけないとは思ってたよ。
けどそんなに急ぐことかなぁ?
「忘れてる訳じゃないだろ? ここは漫画の世界だ。そこのぶっ飛んだキャラクターが、ハイスペックじゃない訳ないだろ。警戒しすぎなんてことないって」
「でも、登場人物じゃないでしょ?」
「言葉を返すようだが……奴らが、漫画のキャラじゃないって言われて納得出来るか?」
「…………」
寧ろ、漫画とかゲームのキャラって言われた方が納得出来るいで立ちではあった。
そうっと視線を逸らす私に、焔は「だろ」と呟く。
「本当は昨日の内に方針の一つでも決めときたかったんだが……あれ以上は限界だったろ?」
「えへへ」
「晴臣たちにはさっき伝えといたけど、お前寝惚けてたからどうせ聞いてなかったろ?」
「ざっつらーいと!」
「胸張るようなことじゃねーよ、ど阿呆!」
「痛い! 焔のチョップが脳天に突き刺さって痛い!!」
痛みに呻く私を、残念なものを見るような目で見下ろしつつ、焔は続けた。
「だから、今日は対策会議な。ハットリもどうせ来るだろうから、アイツ込みで」
「あいあいさー。用事はないから問題なしだよ。つまり、帰り道も張られてるかもしれないから、帰る前に方針決めとこうってことだね?」
「そういうこと。忘れるなよ!」
そう言うと、片手をあげて教室へ戻っていく焔。
……全然関係ないけど、立ち去る焔の後ろ姿、滅茶苦茶決まってるな。少女漫画のヒーローみたいだ。
いや、少年漫画のヒーローなんだから、あながち間違ってないんだろうけど。
「……にしても、あの人たちについて、ね。どうしたもんかなぁー?」
もたもたと廊下を歩きながら頭を抱える。
実際、考えなしに関わってしまったという後悔がないでもないけど、仕方なかったのだ。後悔は忘れよう。
問題はこれからについてだ。
真面目に考えると大変としか言いようのない、かなり大きな組織の上の方に目を付けられている現状。最悪である。
「うー……まぁ、けど何とかなるよね! あはは!!! ……はぁ」
無理やりに前向き思考に持って行こうとする私だけど、流石に上手くいかず、今日は1日陰鬱な気持ちで過ごすことになってしまった。
畜生。ゆーちゃんと仲直り出来て、人生ハッピー! って感じで楽しく暮らしたかったのに。
もう全部奴らのせいだ! くっそー!!
……なんて、考えてたのがいけないのだろうか。
対策会議を講じようとしていたその放課後。
「何あれ、校門前に怖い人たちがいるよ……」
「人を探してるらしいけど……?」
「うぅ、お父様お母様……」
何かに怯える同級生以下後輩たちの姿を不思議に思う私の目に飛び込んで来たのは、信じがたい光景だった。
「んでここにいるんだァ、九尾テメェ!!」
「おやおや。まさかキミなどと思考が重なってしまうとは……今日は厄日ですかねぇ」
「るっせェ!!」
な、ななななな、何でヤの付く方々がウチの校門前に勢揃いしてるんですかねぇ!!??