136.単独行動、ダメ、絶対
2年まではいってないからセーフ!
……そんな訳がないですね。申し訳ございません。
すぐエタる作者ですが、また再開させて頂きます。
どんなに間が空いても必ず完結させますので、見捨てずに読んで頂けると幸いです。
何卒、よろしくお願い申し上げます。
無事にゆーちゃんと仲直り出来て、ゆーちゃんが厄介な奴らにストーキングされてないことを確認した私は、ご機嫌で家路についていた。
それはもう、この世の春かってくらい満面の笑みに鼻歌までついてたと思う。
そんな私の能天気な顔は、家に到着して私の部屋に入った瞬間、背後から真冬の雪山みたいに冷え切った風を感じて凍り付いた。
「お、じょ、お~。分かってますよねぇ~?」
「お嬢様」
「ひぇっ」
珍しく無言で私の部屋まで一緒について来た臣君と雅君が、両側からガシッと私の肩に手を置いた。
それに加えて、耳元にお色気満点のウィスパーボイス。しかも両側から。これは何の拷問でしょうか。
どっちもガチ切れしてる。やだ、怖い。
「せ、せめて手洗いうがいに着替えをしてから……」
恐る恐る振り向くと、普段は印象真逆の美形双子が、まったく同じと言っても過言ではない、やけに据わった視線を私に向けているのが見えた。やだ、怖い。
「それを許したら、お嬢、何事もなかったかのように流すでしょ? 許すと思います?」
「オモイマセン」
「お嬢様。僭越ながら、我々は貴女が心配なのです。僕たちのことを少しでも思うのなら、耳を傾けて頂けないでしょうか?」
「ううぅ……」
正直、雅君の言い方のがダメージを受ける。
いや、分かってるんだよ。私だって。
最低限保身について考えてはいたけど、実際あの行動が最適解だったなんて私も思わない。
危ないし、余計な火種を撒いてしまうかもしれないし……実際撒いちゃった気もするし。
「……ごめんなさい」
「何で話を聞く前に謝るんですか」
肩を落とした私に、臣君が呆れたように息を吐く。
「正直言ってさ、お嬢。俺ら……俺は、お嬢のそういうところが特に心配なんですよ」
「そういう?」
「全部自分で決めるところですよ。自覚、あるでしょう?」
「…………」
何か、予想外の方向から来たな。
私はグッと口を引き結ぶ。
確かに、私にはそういうところがある。
結論を急ぎ過ぎるところがあるっていうか、黒か白かハッキリしないと気が済まないところがあるっていうか。
私の中で答えを出しても、それが正しいとは限らないって分かってるけど。
だから、多分今回も、ゆーちゃんのことが分からなくなって、混乱したんだと思う。
「僕も、晴臣と同意見です。お嬢様」
本当に、意外な感じだ。雅君は、悪い意味で私の言うこと全部受け入れるイメージがあった。
……いや、ヤンデレ化は進行してないって信じてるけどね!
なんて思っていると、雅君がゆったりと頬を緩めた。
「……僕のすべてはお嬢様の為にありますから。お嬢様が信じて道を踏み外すと言うのならば、地獄の果てまでもお供する所存ではありますが、お嬢様ご自身が望んでいない方向へ進まれる時は、全力でお諫めしますよ」
「そ、そっか……」
安心してくださいね! って感じの目をしてるけど、いや、それ全然安心出来ないよね?
あれ、おかしいな。ヤンデレ化は進行してないよね? ね??
思わず臣君を見たけど、一瞬目を逸らされた。いや、まさかね。
「お嬢様は、赤河家縁者の御令嬢としても、赤河家にお仕えする使用人としても、決断をなさるお立場ではあります。ですので、僕たちも決して、貴女がお1人で行動をお決めになることに反対している訳ではありません」
「……うん」
「付け加えとくと、ああいう連中と事を構えるなーとも言ってませんよ」
「……うん?」
危ないから事前に相談しろ、とかそういう話じゃなかったっけ?
私が首を傾げると、呆れたように臣君が私の額をつついた。
「ほら、また勝手に結論出したでしょ?」
「え?」
「……今。俺らに凄まれて、何について怒られるのか。勝手に決めつけてませんでした?」
……あらヤダ、怖い。
私は心当たりがあり過ぎて、そうっと視線を逸らす。
すると、珍しく雅君が私の頬に手を当てて視線を無理やり戻させた。
「お嬢様。貴女は僕らにただご命令をくだされば良いのです。些細なことでも、困難なことでも、どのような内容でも構いません。どうぞ、僕らをもっと頼ってください」
「雅くん……」
それはつまり……。
「今回の件については……ゆーちゃんと仲直りしたいから、ゆーちゃんのこと足止めして! ……とか先に頼んでもらいたかったって……こと?」
双子の笑顔が重なる。
そ、そんなことで、と思わなくもないけど……いや、私が軽く考えてた事態が何故か悪化して、ヤの付く人々と事を構える羽目になったんだから、寧ろそのくらい慎重な方が良いのかな……?
渋る私に、本当に珍しく一点の曇りもない満面の笑みを浮かべる雅くんが、そっと私の腕をとった。
あらやだ、怖い。
「そうして頂ければ、このような……お嬢様が傷つくなどという有り得ない事態は防げたのですよ」
「げっ! お嬢、全然痛くないみたいな顔してたのに、結構ザックリいってんじゃないか! クソ、あの雑魚忍者許さねぇ……」
「……まぁ、彼の途方もないうっかり具合は把握してましたし、どちらかと言えば多少なりと目を離した自分に腹が立ってるんですけどね……」
ぺろりとまくられた袖の下から出て来た、一筋の傷跡。
もう血は出てないけど、確かに結構ザックリいってる。
うひー。改めて見ると痛いなぁ。
「……うん、確かにしなくて良い怪我して心配かけちゃったね。次は無い方が良いけど、次からはちゃんと2人に相談してから行動することにするよ」
「頼んますよ」
「はい」
まぁ、そもそも私の想定の遥か彼方からイベントの方が飛び込んで来る訳で、全部に対応出来る訳じゃないと思うけどね!
だって、対応出来るんだったら、今頃あんなヤの付く人々と関わりなんて持ってなかったはずだしね!
「さ、早く部屋に戻って治療致しましょう」
「うん。そうだね」
「そんで、お嬢のお仕置きタイムだな」
「そうですね」
「うん、そう……え?」
おや? 何だか変な単語が聞こえたような……?
私の気のせいかな??
混乱する私の手を優しく引く双子。何故か連行される宇宙人を想起させる様だ。あれ?
「だってさ、お嬢。お嬢は結構無責任に了承するじゃないですか。ここは本腰入れて反省してもらわないといけないと思いません?」
ニヤリと悪戯っ子のように目を細め、口角を上げて私を見つめる臣くん。
その実に大人の色気溢れる笑顔に、私は冷や汗が禁じ得ない。
いやいや、あの、お仕置きって、R18的な何かじゃないですか? 大丈夫? 問題ない? 私、12歳ですけど???
「顔色が悪いようですが……やはりあのような輩と一戦を交えた心労があったのでしょうか?」
「んー? どした、お嬢? そんな赤い顔して……」
心配そうに眉を下げる雅くんに対して、臣くんは確実に分かってる顔だ。
ニヤニヤ笑顔を更に深めて、そうっと私の耳元に口を近づけて、敢えて囁くように続ける。
「もしかして、ちょっとイケナイ想像でもしちゃったんですかねぇ?」
「そんっ……!!」
……な訳ないじゃない、と続こうとした私の言葉は一瞬で遮られる。
「お嬢のエッチ」
「………っ!!!???」
一拍置いて、「あ」に濁点が付く勢いの奇声を上げる私を、臣くんはゲラゲラと楽しそうに見つめ、雅くんは微笑ましいものを見るように何度も無表情で頷いていた。
ちょっと、やめて頂けませんかねぇ!? 私、精神年齢的には年上だよ!?
いや、からかわれる私が悪いのかな!? どうなんですかねぇ!?
「――瑞穂」
「ぐえっ」
更に悪いことは続くもので、家の中から般若としか言いようのない最愛の従兄弟殿が姿を現した。
多分、いや絶対、私の奇声を聞きつけてやって来たのだろう。
「やけに帰りが遅いなと思って心配してれば……何、その怪我?」
「あ、いや、これはそのー……」
「先に戻ってたハットリも、自分のせいで主君が危険にーとか何とか言ってるし……なぁ、瑞穂」
「ひゃい」
いやー、今日はやけにイケメンの笑顔が見れるなー。
あははー、眼福だなー。あははははー。
「何があったか、包み隠さず全部、吐いてもらうから覚悟しとけよ?」
「ひぇ……」
――本日の教訓:1人で勝手に行動しない。