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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(六年生)
140/152

132.仲直り大作戦(3)

九尾(くお)狐次郎(こじろう)ォー!!」

「おやおや。鬼のところの倅じゃないですか。ボクに何か用でも?」


 ゆーちゃんと仲直りすべく、逃げるゆーちゃんを追いかけていたほんの30分前が既に懐かしい。私は、お面の中で遠い目をしながら、私と関係ないところで盛り上がる周辺を窺っていた。


「白々しい。テメェが何も考えねェでこんな所ウロついてるはずねェだろォが」

「キミは相変わらず態度が悪いですねぇ。目上の人間への言葉遣いも、お父上から学んだら如何かな?」

「しゃらくせェ」


 路地に入るところで仁王立ちする1人の青年。

 ざっくり言ってしまえば鬼壱組(キイチゴ)のトップの息子、将己(まさき)さん。

 その風格は、まさにムショ帰り。2、3人アレしちゃってそうな雰囲気だけど、彼はまだ中学生である。


 そんな彼が睨みつける路地中頃にいる、ほっそりとした和服の青年。

 さっきの自己紹介をそのまま信じるとすれば、狐九組(イチジク)の若頭、九尾(くお)狐次郎(こじろう)さん。

 その雰囲気は、江戸時代の商家の放蕩息子か、はたまた長い歴史の裏を狡猾に生き延びて来た大妖怪か、といった感じ。

 まったく雰囲気の違う、とげとげした逆三角形の体格のお兄さんやおじさんたちをまとめているけれど、違和感はない。


 そして、そんな2つの集団(片方単独だけど)の間に挟まれているのが、この私。ランドセルを背負った哀れな一般人、ごく普通の小学生である青島(あおしま)瑞穂(みずほ)(12)である。


(にしても、まさか将己(まさき)さんが出て来るとは想定外だったな……)


 ピリピリとした睨み合いが続く中、私は歯噛みしていた。

 冷静なつもりだったけど、ゆーちゃんを助けないとと結構焦っていたらしくて、正体を中途半端に隠してしまったのが痛かった。

 マチコさんの振りをする必要がないどころか、結び付けて考えてもらったら困るんだから、マフラーのこの巻き方はいけなかった。

 元から、今の私は身長を誤魔化す術がないのだから、年齢を偽るのは諦めて、正直にちびっこい怪しいヤツを演じれば良かった。


 九尾(くお)さんには、ハッキリ答えていないけれど、私の反応から確信を得られてしまったようだし、加えて将己(まさき)さんだ。

 彼には一度、マチコさんの立ち回りを一部とは言え見られているから、いかに今の私の身長が違ったり、ランドセルを背負って居たりと相違点があろうが、恐らく気付かれる。

 どうして私は、安直な変装をしてしまったのか。お面だけで良かった。


「おォ、そこのガキ。悪ィことは言わねェ。邪魔ンなるからどっか行きな」

「え? は、はぁ……」


 さて、どう動いたら良いだろうかと思っていたら、将己(まさき)さんが九尾(くお)さんから少しも視線を外すことなく、私に向かってそう言った。

 シッシッと、犬を追い払うような動き付きだ。なかなか失礼だけど、ことこの場面においては、腹を立てる必要もないだろう。

 私の大切なゲンキ君ストラップは人質に取られたままだけど、まぁ最悪アレはあげてしまったって良い訳だ。堂々と離脱出来るチャンスがあるのなら、離脱しておくに越したことはないだろう。


 それにしても、私に一番に離脱を促すとは……将己(まさき)さんの所の組は、「堅気には手を出さない」というフィクションでしか聞いたことのないような仁義を重んじる組らしいと聞いてはいたけど、どうやら本当だったようだ。

 素晴らしい。前にお腹ブン殴ってゴメンね。内心でしか謝らないけど。


「それじゃあ、失礼ー」

「おやおや。そう簡単に逃がすとお思いで?」


 ニコニコというよりニヤニヤと笑う九尾(くお)さんは、私のゲンキ君を長い指先でクルクルと弄びながら、もう片方の手で指を鳴らした。

 パチン、という小気味の良い音が響いたと思ったら、背後を男の人たちに囲まれていた。

 どうやら、私が確認していた以上に人員を配置していたか、ここでの会話に気を取られている内に増員していたかしたらしい。

 こうなって来ると、ゆーちゃん1人で逃がしたのは失敗だったかな、とちょっと不安になる。

 言葉の通り、見逃してくれているか、双子のどっちかが先に合流してくれていると良いんだけど。


「チッ。相変わらず胸糞悪ィ男だな。こんなチビガキ相手にもそこまで容赦しねェかよ」


 将己(まさき)さんが、心底不愉快そうに唾を吐き出す。いや、汚いよ兄貴。


「何か勘違いしているようですねぇ。そちらの彼女相手に、ボクが容赦なんて出来ると思っているとは」

「あァ?」

「まだ気付かないのですか?」


 いや、気付かないで良いよ。

 私は九尾(くお)さんが、挑発の一環か、それともただ愉快だからか、私=マチコさん説に気付いていないらしい将己(まさき)さんをつつく様を見て、思わず頬を引きつらせた。

 この人に気付かれたら、絶対面倒くさいことになるじゃん! イヤだよ、2組からまとめて狙われるとか!


「そちらの彼女が、貴方がお探しの女性ですよ」

「なにィ?」

「ロングコートのマチコさん、と仰いましたよね。貴方が珍しく懸想していた女性の名は」


 ふざけた名前だ、と笑う九尾(くお)さん、状況が許せば後でブッパするから覚悟しとけよ。ふざけてないですから。至って真面目に付けた通り名ですから! マチコ馬鹿にすんなよ!


「マチコ……?」


 ジットリとした視線が、背中に突き刺さる。その方向には、九尾(くお)さん一派もいるけれど、この視線は確実に将己(まさき)さんのものだ。

 振り返りたくない。けど、一応確認しておかないといけないだろう。

 私はギシギシと音の鳴りそうな程、いびつな動きで振り向いた。

 すると、一瞬だけ意志の強そうな釣り目と目が合った。でも、本当に一瞬だった。


「馬鹿言うな。あン人はもっと大人だ。こんなチビガキじゃねェ」

「それではキミは、こんな頭のわいてしまったような恰好で、我々のような人間の前に果敢にも躍り出て来るような勇気ある女性が、そう何人もいるとでも?」

「それァ……」


 また目が合った。

 穴が開きそうな程見つめられる。どうしよう。お面に穴が開いちゃうわ。……元々目のところ空いてるけど。


「……おい、チビガキ」

「え?」

「先に謝っとく」

「へ!?」

「殺したら悪ィな!!」

「はぁ!?」


 唐突に何を言うかと思えば、最低の謝罪の言葉だった。

 私はドン引きながらも、状況を把握する。

 将己(まさき)さんは何を思ったのか、九尾(くお)さん相手じゃなくて、私に向かって距離を詰めて来た。しかも、かなりガチで拳を振るって来る。当たったら、私程度のチビっ子小学生は、良くて吹き飛んで失神。最悪死亡するだろう威力が乗っているのが見て取れる。

 何よ、ヒュゴォッて効果音おかしいでしょ!!


「急に何なのよ!!」


 私は悲鳴にも似た文句を叫びながら、その飛んで来た拳に掌を合わせて方向を逸らしながら、半身を捻って距離を詰めて、そのまま相手の勢いを利用するように膝を突き出した。

 渾身の膝蹴りが、思い切り将己(まさき)さんのお腹にクリーンヒットした。

 よろめく将己(まさき)さん。私は頭上から降って来るゴフッという呻き声を聞きながら、ついでに追撃を加えるべく縮こまり、回転しながら蹴り飛ばした。


「……ごめん、やり過ぎた」


 お腹を抱えて蹲る将己(まさき)さんの哀れを誘う姿に、思わず素で謝った。

 流石に殺したりはしないと思ってたけど、威力は結構あったようだ。


「これはこれは……噂に違わぬ実力をお持ちのようだ」


 九尾(くお)さんは、大層ご満悦、といった様子で笑っている。

 でも、その向こうで部下たちに何やら指示を飛ばしているのを見る限り、私への警戒を更に高めているように見える。

 やっちまったかもしれない。

 きっと九尾(くお)さんは、将己(まさき)さんをたきつけて、私の実力の一端でも確認しようと思っていたに違いない。

 そうだとするのなら、わざわざ相手の思惑に乗ってしまった。まぁ、別に本気じゃないし、見られても問題ない程度だけど。


「お前ェ……」


 ヨロヨロと立ち上がった将己(まさき)さんの、ギラギラした目が私を見据える。

 これは、前回に叩きのめしちゃったことも合わさって、相当恨みを買ってしまったことだろう。

 ヤバイな。ただでさえここから良い感じに逃走する作戦も思いついていないのに。

 ……因みに、全員叩きのめして逃げるだと、後々迷惑がかかるかもしれないから避けたいところだ。


「おい!」

「っ」


 痛みを堪えるように目を細めた将己(まさき)さんは、般若のような顔で一歩一歩大股で私に近付いて来る。

 これは、完全に怒っている。どうする。

 九尾(くお)さんは、私と将己(まさき)さんがひと悶着起こしてる隙をついてどうこうする気は、今のところはなさそうだけど、ここからは分からない。

 何か良策は、と思ったところで、私の両肩に手が乗った。

 随分上にあった顔が、同じ高さに合わせるように下がって来る。頭突きか? 頭突きして来るのか? 流石に頭の硬さには自信がないけど。

 とりあえず睨み返していると、無言でいた将己(まさき)さんの顔が、ボッと赤くなった。……え?


「マチコォ!!」

「は、はいっ」

「俺の女になれェ!!」

「……は?」


 次いで飛んで来た言葉が、あまりにも斜め横を行くものだったせいで、私の思考はマジで一瞬停止した。

 文字通り真っ白だ。訳が分からないよ。

 目を点にする私を、将己(まさき)さんはやけに真剣に見つめている。


「まさか、こんなチビっこいとは思わなかったが……おい、お前ェ幾つだ?」

「は?」

「年齢だ。まさか、3年生とか4年生とか言うか?」

「ろ、6年生だけど……」

「なら、3歳差じゃねェか。大したことねェな。ヨシ、やっぱ俺の女ンなれ」

「いや、意味分かんない」


 思わず口に出してしまった。

 マジか。この人、マジで言ってるのか。

 私は愕然としながら、反射的に視線を逸らした。


「何だ。照れてンのか。可愛いとこもあンじゃねェか」

「いや、照れてない」

「その面が邪魔だなァ。取るぞ」

「取るな!!」


 肩に置かれていた手がお面に伸びたので、とりあえず叩き落しておいた。

 身バレは、最終的にはするにしても、出来る限り伸ばしておきたい。

 ガルルと唸るように距離を取ると、何故か将己(まさき)さんは照れたように笑った。獰猛な感じの笑顔だ。


「クソ、可愛い。そうだよなァ。こんなクソ共の前で、お前ェの顔晒す訳にゃァいかねェもんなァ」

「いや、アンタにも見せたくないんだけど」

「俺ァお前ェの未来の夫だぞ」

「いつ決まったぁ!?」


 ちょっと、何このやり取り! ハットリ君に対する時に近しい空気を感じる。

 私、ツッコミじゃないんですけどぉ!!


「これはこれは……何ともまぁ、鬼の倅が怪しい女に懸想してるっていうのは聞いてましたが……まさか、本当だったとは。何かの冗談かと思ってましたよ」


 不意に、呆れたような声が響いた。

 さしもの九尾(くお)さんも、ただ笑って見ている訳にはいかなかったらしい。

 ……いやいや、アンタがけしかけたんだから、アンタが回収してよ。マジで。


「あァ。そういや、お前ェいたんだっけなァ」

「しかも、忘れていたと仰る。……そうですかぁ……」


 キラと、呆れていたような九尾(くお)さんの目に、好奇心の光が満ちた。

 視線が向かう先は、言わずと知れた私で……。私は、盛大に溜息をついた。


「ボク、キミに俄然興味が湧いてきましたよ。先ほどまでは、そこまででもなかったんですがね」

「それはどーも……」

「ふふふ。お嬢さん、もうしばらくボクらにお付き合いくださいますよねぇ?」


 決定事項のように言わないで頂きたい。


「あァ? マチコがお前ェなんざの所に行くわきゃねェだろが。俺ン所に来て嫁入り準備だ。クソが」


 しないから。嫁入りって何の話だ!!

 私は、心の底から貞操の危険を感じながら、一刻も早く撤退しようと心に決めた。

 これ以上ここに居ても、精神を擦り切られるだけだ。


(でも、人数スゴイなー……ここをまかり通るには、2、3人以上倒していかないとか……)


 溜息が出そうだ。


「――マチコさんっ!!」

「え?」

「伏せてくだされ!!」


 ふと、上空から聞き慣れた声が、聞き慣れない呼び名で私を呼んだ。

 一体何が、と思った瞬間、ぶわっと辺りに暗い緑色の煙が広がる。

 目くらまし。煙玉的なものだろうとすぐに分かったけれど、伏せろという指示に対して、起きた現象がおかしくはないだろうか。


「うわああ! うっかりしてたでござるー!!」


 ついでに、情けない悲鳴と一緒に、何かが弾けるような音がした。

 直後、私に向かって飛んで来る謎の飛来物。

 私は慌ててそれを避けようとして、何かに躓いて避け損ねた。


「いたっ!」


 結構久しぶりの怪我だ。

 私は、腕に一本筋のついた切り傷を見て、思わず涙目になる。

 気配は読んでたから、避けられるはずだったのに、想定外のところに絶妙なタイミングで転がって来るようなうっかりさんに、私は他に心当たりはない。


「ハットリ君!!」


 煙が晴れる。

 私の足元に現れたのは、やはりと言うかうっかり忍者ことハットリ君だった。


「も、申し訳ないでござるぅー……」

「これ何しに来たのかな!?」

「す、助太刀に……」

「この忍者は本当にもうさぁっ!!」


 助けに来てくれたのは嬉しいけど、状況は全然よろしくない。

 強いて言うのなら、男たちに囲まれた輪の中に、ただハットリ君が現れて、私の腕に傷がついたくらいの変化しかない。普通に無駄だよ!!


 せめて、四方八方に飛んだっぽい仕込みクナイの攻撃が、私以外にもあたっていれば、と思ったけど残念ながら被弾したのは私だけだった。

 良く見てみれば、九尾(くお)さんは一本のクナイをキャッチした様子だけど、あれは私の腕を切った一本だ。別にダメージにもなっていない。


「……マチコがいる時点でもしやとは思ったがァ……会いたかったぜェ、見習い忍者ァ」

「見習いではござらぬ!!」


 将己(まさき)さんとのにらみ合いも始まるし……ハットリ君何しに来たの!?

 内心で忙しくハットリ君にツッコミを入れていると、私は異様な空気を感じ取った。

 

「若頭? どうなさったんで……?」

「おい、若頭の様子が変だぞ……」


 男たちがざわつき始めたのだ。

 え、まさかあのクナイに毒が仕込んであって、キャッチした九尾(くお)さんに影響が?

 ……なんて思ったけど、それなら私に先に影響が出るだろう。ガッツリ切られてるし。縫うレベルじゃなさそうだけど。


「……この、血……」


 血? 頭を抱えて震える九尾(くお)さんが見つめるのは、手にしているクナイ。

 あそこについてる血と言えば、私のに他ならない。

 私が首を傾げていると、ガッと一気に上がった視線が私を射抜いた。


「まさか……こんな、所で、会うことになるなんて……!!」

「え? な、何が??」

「ボクのっ……彼女はボクの(つがい)だ! 決して逃すな!!」


 ……何か、急に謎の執着心を持たれたようなんですが。

 私はドン引きながら、地面にお面を叩きつけたい衝動と戦っていた。

 これ絶対、前世の罪とか咎だよ。そうじゃなければ、何でいつでも逃げられるはずの場所にこういつまでも留まってなきゃならないの!

 何ならハットリ君も、会ったこともない神様の刺客か何かじゃない!? 何でこう的確かなぁ!!


「お前ェのじゃねェ。俺の嫁だ」

「ボクの(つがい)です」

「俺のだ! 渡すか!!」

「ボクのものです! ようやく見つけた、ボクの!!」


 訳分かんないしね、もおおおっ!!


「マチコさん、今の内に逃げましょうぞ!」

「逃げ損ねたのハットリ君のせいだけどね!!!」


仲直りとは何だったのか。

あと、そろそろ「逆ハーレム」タグが火を噴き始める(予定)です。

気に入るキャラクターがおりましたら、応援して頂けると登場割合が変わるかもしれません。

よろしくお願いします。

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