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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(六年生)
138/152

130.仲直り大作戦(1)

 ――夏が来る。


 私は、夏休み間近のこの日、一つの決意を胸にまだギリギリ私と同じくらいのサイズの背中を睨みつけていた。

 決意とは何のことか。簡単なことである。

 すなわち……。


(ゆーちゃんと仲直り、するっ!!)


 私が、一体何の理由でゆーちゃんを怒らせてしまったのかが分からない以上、私から謝ってもどうしようもないことは、既に実証済みだ。

 最初に謝った時なんて、「どうせオレの気持ちなんて分からないクセに」と、非常に沈痛な面持ちでなじられた。

 私をなじることで仲直り出来るのなら、幾らだってなじって構わないんだけど、心優しいゆーちゃんは、寧ろ私をなじる度に自分を責めるような顔をするので却下だ。


 なら、ゆーちゃんの怒りが収まるのを待ってから、と思って幾星霜。

 ……いや、幾星霜は流石に言い過ぎだけど、私の気分的にね。

 まぁ、ともかく結構な時間が経過したけど、未だに私たちの間に会話はない。

 稀にプリントのやり取りとかで話すことはあったけど、目なんて全然合わなかったし、本当に必要最低限だった。


 ダメだ。耐えられない。

 他の友だちたちに愚痴ったりもしてみたけど、やっぱり耐えられない。

 幸いなのは、(ほむら)が拗ねた時より精神的に落ち着いていることくらいだけど、だからどうだって話だし。


 そこで私が考えたのは、お互いに納得がいくまでひざを突き合わせて話し合おうじゃあないか、ということである。

 至ってシンプルだけど、だからこそ、解決への寧ろ近道なのではないか、と考えた次第だ。

 あながち、見当はずれということでもないと思う。

 私のこのアイディアに、(ほむら)も賛成してくれてたし、いけるいける!


「それでは、来週までさようなら」


(来た!!)


 担任の先生のホームルーム最後の挨拶が響く。

 ほぼ同時に、クラスメートたちのさようなら、という声が重なる。

 掃除当番の子たちは、ここから掃除に入るけれど、私もゆーちゃんも今日は掃除当番じゃないから、もう帰れる。

 いや、本当は私は掃除当番だったんだけど、さっちゃんに事情を話して変わってもらった。ありがてぇ。

 因みに、部活も今日はお互いにないのは確認済みである。


「待って、ゆー……悠馬(ゆうま)君! 話があるの!」

「!!」


 とにかく急いで帰ろうとするゆーちゃんが、絶対に私を視界に入れないようにしているのは態度で分かる。

 でも、逃がすはずがない。私は既に、過度のゆーちゃん摂取不足で、既に発作が出ているレベルだ。

 一瞬といっても良いレベルで帰り支度を終えた私は、素早くランドセルを背負うとゆーちゃんを追いかける。

 修行していないはずなのに、ゆーちゃんは足が速い。流石運動部。なんて内心ちゃかしながら、最後に1回だけ振り返って、さっちゃんに敬礼しておいた。


「……馬鹿なことやってないで、さっさと行けば?」

「さっちゃんってば辛辣ぅ!!」


 そんな短いやり取りに満足すると、私は急いで追いかけた。

 ……って、マジで速いなゆーちゃん。もう背中見えないんですけどぉ!!


◇◇◇


「……ま、まさかここまで足が速いとは……」


 私は、早くも計画がとん挫しそうな予感に喘いでいた。

 どうせ、昇降口で追いつけるだろうと当たりを付けていた私は、ハッキリ言って甘かった。

 私が昇降口についた時には、既にゆーちゃんの背中は校門のところにあって、私が昇降口を出た時には、既に見えなくなっていたのだ。


 勿論、ゆーちゃんの家は何度か行ったことがあるし、場所もちゃんと覚えている。

 でも、私が追いかけて来ているのを知っている状態で、素直に家に帰るだろうか。


 ……確かゆーちゃんのお母さんはパートをしているはずで、勤務時間から言っても家にはいるはずだ。

 最悪、ゆーちゃんのお母さんにお願いして、帰って来るまで待たせてもらうパターンはありだけど、本当に最後の手段だと思う。

 私だってイヤだ、避けてる友だちが家に居座ってお母さんとおしゃべりしてたら。下手したら、もっと仲がこじれてしまう。

 そもそも、ゆーちゃんがお母さんに喧嘩した、とか話しているかどうか微妙だし、悪ければ心配をかけてしまうし、やっぱり出来れば避けたいところだ。


(うーん……私から逃げるとしたら、何処に行くだろう?)


 私は、一旦追いかける足を止めて考える。

 そう言えば、私はいっつも好き勝手に振る舞っていて、ゆーちゃんの好きなところに行ったことがなかったように思う。

 何が好きとか、何が嫌いとか、(ほむら)の分は本人以上に知ってる気がしないでもないけど、それは殆ど家族ぐるみの付き合いだからで、友だちだからという訳じゃない。


「……もしかして、だから怒らせちゃったのかな……」


 (ほむら)辺りと比較して、自分が低く見られていると思ってしまったとか、そういう。

 ふと思いついた理由だったけど、何だか的を射ているような気さえして、ちょっと凹む。

 ……本人に聞いてみないと、こればっかりは分からないし、もしこれが理由だったら、絶対教えてくれないように思うけど。


(コンビニとか? うーん、もっと姿が隠せそうなところかな。公園……図書館……公民館……)


 ダメだ。どれも、ゆーちゃんっぽくない。

 そうは思うけど、ならどういったところがゆーちゃんぽいんだろうと思うと、また凹んだ。

 けど、悩んでいてもゆーちゃんが見つかるはずはない。こうしたら、足で稼ぐのだ。

 考えることを諦めた私は、ひとまず今いる場所から近くをしらみつぶしに探すことを決めた。


 こうして私から逃げてしまうだろうということは想定済みだったから、(おみ)君たちとか、ハットリ君も手伝おうかと提案してくれていた。

 でも、私はそれを断っている。

 ゆーちゃんを見つけるのも、話し合う機会を作るのも、全部自分でやらないといけない。

 そうじゃないと、決定的に何かがダメになる。

 それだけは強く感じていた。


(うう……ゆーちゃーん! 仲直りの機会を! ギブミー!!)


◇◇◇


「わぁ……イベントも何もないはずなのに屋台がある……って、違う違う!!」


 しばらくうろついて、商店街の方までやって来ていた。

 この商店街は、幸いにもシャッター街状態になっておらず、平日の夕方という時間帯も相まってか、結構人通りが多かった。

 木を隠すなら森の中。人を隠すなら人ごみの中か! という考えに基づいてやって来てみたけど、ランドセルを背負った少年の姿は見えない。


(やっぱり違ったかな? でも、ここが違うとなると、あとは何処に……)


 学校を出た時には、まだ空はもっと明るかったのに、だんだんオレンジ色が濃くなってきている。

 このまま漫然と時間が過ぎてしまえば、やがて真っ暗になってしまうだろう。

 次第に、別の不安が増して来る。時間が遅くなればなるほど、ゆーちゃんが犯罪に巻き込まれやしないかと。


(ああっ、ゆーちゃんはあんなに、天使のように可愛い少年だから、最悪何らかの組織にかどわかされたりとか……!!)


 想像するだけで寒気がする。

 何だか、仲直り以上に大変なイベントが発生してしまいそうな予感に近い。

 そこまで考えて、私はこれは危険思想だと頭を振った。


(いやいや、近年そういうこと多いけど、流石にここでイベントなんてある訳ないよ)


 ないない。内心で、言い聞かせるように繰り返していると、私の人よりも優れた耳は、雑然とした様々な音の中から、何かが割れるような甲高い音を聞き取った。


(……いやいや、ないないないない)


 そうは思うのだけれど、どうしても気にかかる。

 もし他人だったら、関係なかったら、確認してからトンズラすれば良いのだ。

 自分にそう言い聞かせながらも、私は焦燥に駆られるように走り出した。

 バクバクと、心臓がイヤな音を立てる。雑踏よりも大きく、私の身体を揺する。


「おい! 何とか言えよ!!」

「このまま指とオサラバしたいか?」


 ……前に見た、ハットリ君が絡まれてる状況に似ていた。

 音が聞こえて来たのは、目立たない路地裏だった。


 飲食店と空き店舗の隙間の、薄暗くて音もこもりがちな、路地裏。

 怒鳴り声が、私にはハッキリ聞こえるけれど、それらは必要最低限に押し留められていて、私以外に聞き咎めるような人はいない。

 帰宅中のサラリーマンも、夕飯の買い物に励む主婦らしき女性も、無邪気に友達と笑い合う高校生も。

 誰一人として、違和感に気付かない。まるで、そんな光景は自分たちの現実とは関わりがないのだと言うように。


(……どうか、違いますように)


 動揺する。でも、条件反射のようなもので、様々な訓練を施された私の身体は、的確に気配を消して、周囲から気付かれないようにしながら彼らに迫った。

 他人からの気配に敏感だろう、そのならず者たちは、やはり私には気付かない。

 もし、一般人が近付きでもすれば、きっとすぐに擬態するだろうに、その様子もない。


 私は、数人の荒くれ者に詰め寄られている小柄な少年の姿を、ややあって見た。

 私は、反射的に元来た道を逆走し始めた。


(っ最悪だ!!!)


 私なのか。(ほむら)が言ってたみたいに、フラグとやらを立てているのは、私なのか。

 そうじゃなければ、どうして普通の男の子であるゆーちゃんが、あんなならず者たちに絡まれなければならない。

 怯えて、顔色を失くして、震えながら小さくなっていなければならない。


 怒りから目の前が真っ赤に染まる。

 私は、それでも冷静に救出の算段を立てる自分が、転生してから初めて、イヤになった。

 正体が明らかになってはならない。

 家に迷惑をかけてはならない。

 そんなことを優先する私は、最低だ。

 そんなことどうでも良いって、一秒でも早く救い出す手段をとれない、私なんて。


「これ、頂きます!!」


 商店街に入って最初に見かけた、お面屋さんに顔を覚えられない程度素早く、私はお金を置いてお面をかぶった。

 ここでシークレットブーツもあればもっと良かっただろうけど、いや。大丈夫。姿を覚えさせない立ち回りをすれば。

 シークレットブーツは一応持ってはいるけれど、身体のバランスで違和感に気付かれる。

 とりあえず、年中無休で持っておくことにしていたマフラーだけは巻いた。

 見た目は、前回よりも最悪になったし、とっても暑いけど、それで良い。


「何してるの! その男の子を離しなさい!!」


 そして私は、堂々とヤの付く自由業の方々の中でも、特に荒くれてそうな集団に喧嘩を売るのだった。


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