表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(六年生)
137/152

129.悠馬の独り言※

※全編、ゆーちゃんこと悠馬視点です。

※割とシリアスめ?

 ……オレが、思わず瑞穂(みずほ)に八つ当たりしてから、しばらく経った。

 あれから、何度も瑞穂(みずほ)はオレと仲直りしたいって言って来る。

 私が悪かったって、何度も言う。


 けど、オレはそれをどうしても受け入れる気になれない。

 オレが悪いのは分かってるけど、どうしようもない感情だった。


 瑞穂(みずほ)は、オレにとって初めての友だちで、恩人で、とても大切な女の子だ。

 自分にとって特別なんだって気付いたのは、いつのことだったかな。良く分かんないけど。

 気付けば、オレはいつも瑞穂(みずほ)のこと探してて、手を握りたくて、一緒にいたくて。一緒にいられれば楽しくて、笑ってくれれば嬉しくて、姿を見つけるだけで幸せだった。


 それが、ずっと続いていれば良かったのにって、オレも思う。

 でも、いつまでも気持ちが変わらないなんてことはなかった。

 オレはいつからか、もっともっと、頼って欲しいって思うようになった。

 (ほむら)に気軽に声をかけるのと同じくらい、オレにも声をかけて欲しいって。

 臣兄(おみにい)とか、雅兄(まさにい)に頼みごとするのと同じくらい、オレにも頼んで欲しいって。

 何度も、何度も思うようになった。


 オレは、何度も瑞穂(みずほ)に言った。力になりたい。頼って、って。

 だけど、瑞穂(みずほ)はいつも笑うんだ。


 「ゆーちゃんは可愛い」「ゆーちゃんは気にしなくても良いんだよ」って。


 子ども扱いだ。おんなじ年なのに。

 子ども扱いは、オレだけじゃないけど。(ほむら)のことだって、可愛いって言ってるの聞いたことあるし。

 (ほむら)はそれを、怒った後は笑って流してるけど、オレは、流せなかった。

 大人扱いして欲しかった。せめて、同じ年扱いして欲しかった。


 堪らない。我慢出来ない。

 悔しい。言葉に上手く出来ない。


 もどかしくて、どうしようもなくて、明佳(さやか)に相談したりもした。

 プールで、大人の男の人に囲まれても、自力で解決してしまう瑞穂(みずほ)ちゃんの力になるには、どうしたら良いんだろうって。

 そんなオレの質問に、明佳(さやか)はただ一緒にいれば良いんじゃないかって言うけど、ただ一緒にいても、瑞穂(みずほ)は相変わらず笑ってるだけだった。


 何度か、何かあったんだろうなって思うことがあった。

 それなのに、何を聞いても笑うだけ。答えてくれない。

 オレって、そんなに頼りにならないのかな? って、何度も思った。


 どうしたら、もっとオレのこと見てくれるんだろう。

 どうしたら、オレのこと大人扱いしてくれるんだろう。


 悩んでる内に、オレはふと思ってしまった。

 女の子は、スカートをめくられると嫌がるって言うのを聞いた。

 まぁ、当たり前の話なんだけど、男の子に見られるのが恥ずかしいらしい。

 オレだって、着替えを女の子に見られたら恥ずかしいし、そういうことだと思う。


 ……けど、オレのこと子ども扱いしてる瑞穂(みずほ)は、何なら着替えをオレに見られても、恥ずかしがらないんじゃないか。


 思っちゃいけないことだと思う。

 だけど、1回考えてしまったことは消せなかった。

 オレは、すれ違った派手そうなお兄さんが言ってた、「計算を越えることをすれば良い」って言うのに納得した。

 まさか、何でも知ってる瑞穂(みずほ)だって、オレがスカートめくってやろうなんて考えるとは思わないんじゃないか。

 そう思ったら、どうしようもなくなったんだ。


 そして、オレは思い余ってスカートをめくった。

 いつもなら、後ろから近づかれようとも気付いて振り向く瑞穂(みずほ)が、その日に限って振り向かなかった。

 オレは、スカートをめくりたい訳じゃなかったんだって、その時に気付いた。

 オレはバカだ。どうしようもないバカだ。


 瑞穂(みずほ)が、驚いてはいたけど、まったく責めてない目でオレを見たのが分かった時、絶望した。

 やっぱり、瑞穂(みずほ)にとってはオレはただの子どもで、意識する必要もないような相手なんだって、分かってしまったから。


 分かってる。悪いのはオレ。勝手に拗ねてるのもオレ。

 オレだ。オレが悪い。ただ、オレが子どもなだけ。

 瑞穂(みずほ)は優しい。オレが謝れば、きっと許してくれる。

 分かってる。分かってる。


 でも、謝ってしまえば、また前と一緒だ。

 このままでいれば、瑞穂(みずほ)はずっとオレを気にしててくれるんじゃないだろうか。

 そんな、卑怯なことまで考える。


 オレ、最悪だ。バカだ。分かってる。知ってる。

 でも、なんて言って良いか分からない。無視するしか出来ない。

 その度に、瑞穂(みずほ)が悲しそうな顔するの見て、罪悪感しかわいてこない。

 オレが、悪い。オレが、悪い……。


 ごめんってひと言が、どうしてこんなに難しいんだろう……?


◇◇◇


「――ねぇ、悠馬(ゆうま)。いつまで意地張ってるの?」

「……は?」


 今日も結局謝れずに、放課後を迎えてしまった。

 オレは駄目なヤツだとか思いながら靴箱のところまで来ていたら、千歳(ちとせ)から声をかけられた。

 顔を上げると、千歳(ちとせ)はキレイな顔をキリッとしかめて、オレを睨んでいた。


「アンタが悪いって、もう分かってるんでしょ? さっさと謝りなさいよ。瑞穂(みずほ)ちゃんがどんな気持ちでいるか、分からないアンタじゃないでしょう?」


 腰に手を当てて、真っ直ぐオレを見つめる千歳(ちとせ)の迫力に、普通なら悲鳴の一つでも上がりそうだけど、オレはとても冷静だった。

 気が強くて、正しいと思ったことは正しいと叫んで、男子相手だろうが、教師相手だろうが食ってかかる千歳(ちとせ)

 寧ろ、今日まで怒鳴り込んで来ないことの方が意外で、オレは静かにその言葉を受け止めた。


「……そうだな。分かってるよ、オレが悪い」

「えっ?」


 千歳(ちとせ)は、オレが思ったよりも早く自分が悪いと認めたからか、驚いたように目を見開いた。

 こうして黙っていれば可愛いのに、と関係のないことを思いながら、オレは自嘲する。


「な、何よ。急にしおらしくしちゃって! わ、わたしだって見守っててあげようって思ってたんだからね? でも、お、思ってたよりずっと長く謝らないから……不安になっちゃって……」


 基本的に、千歳(ちとせ)はお節介だけど良いヤツだ。

 だから、オレがこう言えば、どう言葉を返すかオレは大体分かってた。


「でも、悪いって分かってるなら謝りに行くよね? 何ならわたしもついてったげるから、早く仲直りしましょう!」

「イヤだ」

「え??」


 またしても目が見開かれる。

 オレは、なんて言われるか分かってたけど、千歳(ちとせ)は分かってなかったみたいだ。

 そりゃあ、そうだと思う。オレが、ここまで意地を張るのは、多分初めてのことだから。自分でも、驚くくらいだから。


「な、何で?」

「……瑞穂(みずほ)にオレは必要ないから」

「はぁ?」


 子どもっぽいって笑うかな。それとも、怒る?

 オレがどこか遠い世界の出来事を見てるように千歳(ちとせ)の様子を窺っていると、答えは後者の方だった。


「何バカなこと言ってるのよ! 瑞穂(みずほ)ちゃんが悠馬(ゆうま)のこといらないなんて言う訳ないでしょ!」

「そうかもね」

「だったら!」

「けど、実際オレがいてもいなくても、何も変わらないよ」

「そんなワケない!!」

「そんなワケある」

「ない!」

「ある」

「ないったら!!」


 全身を震わせる勢いでオレに怒鳴る千歳(ちとせ)の声に驚いて、他の生徒たちが様子を窺って来る。

 普段なら、恥ずかしいとか思うところだけど、今のオレは正直、どうでも良かった。

 オレなんて、どうせ。

 どうしようもない、ヤツだから。


「何でそんなこと言うの……? 瑞穂(みずほ)ちゃんのこと、キライになったの?」


 不安そうに目を揺らす千歳(ちとせ)は、初めて見る、と思った。

 オレと話す時はいっつもエラそうで、ケンカ腰で、こんな風に弱々しい雰囲気になることはなかったから。

 少し驚いたけど、それだけだ。言うことは何も変わらない。


「まさか。オレは瑞穂(みずほ)のこと大好きだよ」

「っ……」


 意外に、千歳(ちとせ)はショックを受けたような顔をした。

 何でだろう。でも、どうでも良いことだ。


「オレが、耐えられないんだ。オレなんていなくても、何も変わらない瑞穂(みずほ)を見てるのに」

「か、変わらないワケない……毎日、寂しそうで……わたしだって、辛い」

「すぐに元に戻るよ。オレがいなくったって」

「そんなこと!」


 ……何で千歳(ちとせ)が泣きそうな顔をするんだろう。

 ああ、きっと優しいヤツだから。

 オレか、瑞穂(みずほ)の気持ちを考えて、悲しくなってるんだろう。

 悪いなとは思うけど、仲直りしようと、踏ん切ることは出来ない。


「……悪いけど、放っといてくれ。1人でいたいんだ」

悠馬(ゆうま)のバカ!!」


 靴を履いて、そのまま外に歩き出すと、背中から怒鳴り声が飛んで来た。

 ついでに、竹刀の一撃も飛んで来るかなと身構えたけど、何もなかった。

 振り返って、千歳(ちとせ)がどんな顔してるか見たいと、ちょっとだけ思ったけど、オレは振り返らなかった。


 もし、振り返って泣いてるのを見てしまったら、オレはもう、ダメになりそうな気がした。

 もうとっくにダメなヤツだって、知ってるのにな。


「はぁ……ホント、オレ、ダメなヤツだ……」


 もう溜息くらいしか出なかった。

 空を見上げたら、憎らしいくらいの快晴だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ