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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(六年生)
135/152

127.千歳の相談事※

※全編ちーちゃんこと千歳ちゃん視点です。

「……(ほむら)くん、陽介(ようすけ)くん。ちょっと良い?」

「は? え? 千歳(ちとせ)??」

「ああ、構わないぞ」


 ある日の休み時間。(ほむら)くんと陽介(ようすけ)くんが話しているのを見つけたわたしは、近くに瑞穂(みずほ)ちゃんの姿も、悠馬(ゆうま)の姿もないことを確認すると控えめに声をかけた。

 それなりに騒がしい廊下だけど、2人ともちゃんと呼ばれたことを認識して振り向いてくれた。

 (ほむら)くんは驚いて目を瞬いているけど、陽介(ようすけ)くんは普通に頷いて近寄って来てくれる。それを見て、(ほむら)くんも遠慮がちだけど寄って来てくれた。


「どうした、珍しいなー……って、もしかしてあの件か?」


 わたしが、瑞穂(みずほ)ちゃんといない時の2人に声をかけるのはとても珍しいことだ。

 2人とも友だちだと思ってるけど、瑞穂(みずほ)ちゃんと一緒にいない時の2人に声をかけるのは、ちょっと勇気がいる。


「うん、そう。だから……ちょっとこっち来てくれる?」

「分かった」

「了解した」


 2人は、あんまり人に聞かせたくない話……この間の、瑞穂(みずほ)ちゃんと悠馬(ゆうま)の間に起きた出来事についての相談だと思って、人気(ひとけ)のない場所へ行くのに従ってくれた。

 そのことについて話したいというのは本当だけど、人気(ひとけ)のない場所へ行こうとしているのは、違う理由。

 今も、私が2人に声をかけたのを見て、ヒソヒソ話をしている子たちがいる。

 2人とも、あんまり自覚ないみたいだけど、カッコ良くて女子に人気があるから、わたしが1人で声をかけると嫉妬されてウワサされてしまうのだ。

 だから、出来るだけ瑞穂(みずほ)ちゃんが一緒の時に声をかけるのが、本当なら望ましい。瑞穂(みずほ)ちゃんは、見ての通りあんな性格だから、女子から嫌われにくいのだ。流石、わたしの瑞穂(みずほ)ちゃんよね。

 でも、今は瑞穂(みずほ)ちゃんが一緒だと困っちゃうから、仕方ない。我慢だ。


◇◇◇


「……早速だけど、2人はあの時何が起きたのかちゃんと知ってるよね? わたしにも教えてほしいの」

「あれ、千歳(ちとせ)は知らなかったのか?」


 休み時間、殆ど人が来ない資料室に入って扉を閉じると、わたしは早速そう切り出した。そんなわたしの言葉に、(ほむら)くんは驚いたように小さく首を傾げる。

 現場を目撃していた皆、あまり話したがらなかったから、実はわたしは詳しいことは分からない。だから、わたしは深く頷いた。


「うん。悠馬(ゆうま)が……バカなことしたっていうのは知ってるよ。でも、詳しいことは分からないの」

「口留めは特にしていなかったが、皆気を遣っていたからな」

「そういや、特に悪いウワサとかも流れてなかったもんな、あの後」


 陽介(ようすけ)くんが確かにと同意すると、(ほむら)くんも納得したようだった。

 わたしと瑞穂(みずほ)ちゃんは仲が良いけど、瑞穂(みずほ)ちゃんはそういう時、あんまりわたしに教えてくれない。

 それが、頼りにならないって言われてるみたいでとても悔しいけど、わたしはそれが瑞穂(みずほ)ちゃんの優しさだって知ってるから、文句はない。

 わたしが、そういうこと全部打ち明けてもらえるくらい、頼りになる大人になれば良いだけの話だもの。


瑞穂(みずほ)ちゃんに聞いても、平気としか言ってくれなくて……でも、2人なら教えてくれるよね?」


 そう尋ねると、2人は顔を見合わせた。

 それから、少し迷ったような素振りを見せてから、(ほむら)くんが了承してくれる。


瑞穂(みずほ)千歳(ちとせ)に教えない気持ちも分かる気はするけど……ま、良いんじゃないか?」

「本当に? ありがとう!」


 陽介(ようすけ)くんも、(ほむら)くんの意見に賛成みたいで、相当悩んでいたみたいだけど、最終的には同意してくれた。


「じゃあ、俺が説明するぞ。って言っても、俺は現場にいなかったから、ちょっと怪しいところあると思うけど」

「そうなの?」


 何だか意外だ。クラスは別のままだけど、何となく(ほむら)くんなら、瑞穂(みずほ)ちゃんと一緒にいることが多い気がするんだけど。

 そんな風に思ったのが伝わったのか、(ほむら)くんは不満そうに目を細めた。


「別に、俺とアイツ、セットってワケじゃないからさ」

「そうよね。瑞穂(みずほ)ちゃんは皆の瑞穂(みずほ)ちゃんだもの!」

「……あー、うん。そうだな……」


 (ほむら)くんは、ちょっと複雑そうな顔をしたけど、軽く溜息をついてから本題に戻った。


「……現場にいた、瑞穂(みずほ)本人と、一緒だった(ひいらぎ)から聞いた話によると――」


◇◇◇


「――と、いう流れだったらしい」

「……あのバカ……」


 話を一通り聞き終えると、自然と眉間に皺が寄った。

 もう、ホント何してるの、アイツ! 最悪じゃない!

 重い溜息と一緒に項垂れると、(ほむら)くんが優しく頭を撫でてくれた。


千歳(ちとせ)がそこまで気にしなくても大丈夫だって。悠馬(ゆうま)も、まぁ何だ。多分アレだよ。一過性の思春期的な奴だろうしさ」

「……昔の(ほむら)くんみたいな?」

「おう。マジ、千歳(ちとせ)的確に人の古傷抉って来るよな」


 怒ったような言葉だけど、声は温かくて、思わず笑ってしまった。

 (ほむら)くんって、本当に不思議な人だよね、とふと思う。

 同じ年のはずで、実際瑞穂(みずほ)ちゃんと一緒に騒いでいるのを見れば、同じ年にしか見えないのに、こうして瑞穂(みずほ)ちゃんのいないところで話していると、何だかもう少し大人の人と話しているような感じがする時があるの。

 思わずジッと見上げると、見惚れるくらい綺麗な笑顔が返って来る。


悠馬(ゆうま)も、(ほむら)くんぐらいは余裕があれば良いのにね」

「何か言葉尻に若干のトゲを感じるんだけど……まぁ、良いか。確かに、余裕がありゃ良いだろうなぁとは思う」


 ちょっと複雑そうに苦笑しつつ、(ほむら)くんの手が頭から離れる。

 やっぱり、人気(ひとけ)のない資料室に来て良かった、とわたしはひっそりさっきの自分の判断に間違いはなかったなと思った。

 (ほむら)くん、そうした空気は察しないけど読んだような行動を取ってくれるから、大丈夫だとは思うけど。


「因みに直接見てて、(ひいらぎ)はどう思った?」

「……あの時、風間(かざま)は追い詰められたような表情をしていた。困惑していたと言うか……」

「困惑?」


 何をどう思い余れば、瑞穂(みずほ)ちゃんのスカートをめくるなんて行動になるのかな。

 思わず首を傾げたわたしに、陽介(ようすけ)くんは言葉を探すように視線をウロウロさせてから、静かに目を閉じて答えた。


「……青島(あおしま)のことが分からない、と言えば分かるか?」


 どうして? 分からない、という感覚が分からない。

 陽介(ようすけ)くんの言いたいことは分かるけど、わたし程じゃないにしても悠馬(ゆうま)だってずっと一緒にいるのに。

 どうして、瑞穂(みずほ)ちゃんのことが分からない、なんて思うのかな。


「まぁアイツ、1人だけ別次元で生きてそうに見えるもんな」


 (ほむら)くんも納得したように同意してるけど、わたしには分からない。

 ムッと唇を尖らせると、(ほむら)くんが仕方ないな、みたいに笑った。


「多分、千歳(ちとせ)は同性だから、分かることも多いんじゃないか?」

「……でも、(ほむら)くんも分かってそうだよ」

「ああ、俺はあいつの相棒、みたいなもんだからな」


 今度は、くすぐったそうな顔で笑う。

 ……わたしはどっちかって言えば、(ほむら)くんとか……悠馬(ゆうま)の方が分からないけど。


「じゃあ、陽介(ようすけ)くんも瑞穂(みずほ)ちゃんのこと分からないって不安になるの? 何でも知ってそうに見えるけど」

「俺もまだまだ子どもだからな。青島(あおしま)は、俺より子どもに見えることもあるが、時折誰よりも大人の顔をしている時もある。不思議な人だ」

「ふぅん?」


 まぁちょっと納得いかない。

 しきりに首を捻るわたしに、2人は続けて言う。


瑞穂(みずほ)が心配なのも、悠馬(ゆうま)に腹立つのも分かるけど、今はそっとしておいてやろう。今の状態じゃ、ケンカにもならないだろうし」

「俺も、そう思う。多分、2人には時間が必要だ」

「時間……」


 瑞穂(みずほ)ちゃんが、あんなに哀しそうなのに?

 悠馬(ゆうま)が勝手に怒ってるだけなのに?

 更にむくれるわたしに、(ほむら)くんは肩を竦めてみせた。


「大丈夫だよ。アイツら、あれでも友だちだからさ」

「むぅ……」

「今の状態で千歳(ちとせ)が怒ったら、多分もっとこじれるぞ。まぁ、勘だけどさ」


 (ほむら)くんの勘は、馬鹿に出来ない。

 わたしは渋々頷こうとした。

 その前に、ポツリと畳みかけるように陽介(ようすけ)くんの言葉が続いた。


「……特に風間(かざま)は、小田原(おだわら)には喧嘩腰だしな」

「っ!!」


 ヒュッと、息を飲み込む。

 一気に体温が冷え込んだような感覚になる。

 氷水に落ちたみたい。バクバク、心臓がうるさい。


「あっ、バカ(ひいらぎ)!」

「?」


 焦ったように(ほむら)くんが何か言うけど、あんまりうまく聞こえない。

 わたしは、何だか急にこの場に居づらい気持ちになって、まくし立てるように叫んだ。


「っごめん! 分かった。2人が言うなら、わたししばらくだまって見守ってる!」

「え、あ、それで良いと思うけど……だ、大丈夫か?」

「何が? 大丈夫に決まってるじゃない!!」

「お……おお……」

「相談に乗ってくれてありがとう! じゃあ!!」

「あっ、おい!」


 それだけ言って、わたしは資料室を飛び出した。

 廊下を走ってる途中、先生に怒られたから歩調を緩める。


(……わたし、何に動揺してるんだろ……)


 あんなに悠馬(ゆうま)に呆れて、怒ってたのに、急にしぼんでしまった。

 わたしはシュンと肩を落として、トボトボ教室に戻る。

 途中で遭遇した瑞穂(みずほ)ちゃんが、満面の笑みで呼びかけてくれたけど、いつもみたいに元気になれなかった。


(……全部、悠馬(ゆうま)のせいだ……)


 八つ当たりだって分かってても、そう思うのがやめられなくて。

 わたしは、情けなくてまた、溜息をついた。


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