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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(六年生)
134/152

126.ゆーちゃん不足なのです

「ゆ、悠馬(ゆうま)くーん……?」

「…………」


 ――プイッ。


 ……あ、あああああああっ。

 私は、今日何度目かの迎撃に遭い、力なく机に突っ伏した。

 いや、正確に言えば今日どころの話じゃない。ゆーちゃんが、突飛もない謎行動(スカートめくり)に出てから、数日が経過した。

 未だにゆーちゃんの機嫌は直っておらず、まったく口をきいてくれない状態が続いている。


「ゆ、ゆーちゃんが……ゆーちゃん成分が足りぬ……」

「あー、まぁ、起こるべくしてって感じだけどね」


 項垂れる私の頭を、さっちゃんが揶揄うようにつつく。ちょっとやめて頂きたい。


「それ、どーいう意味?」


 思わずムッと拗ねたような声が出た。嫌だなぁ。最近は随分と大人の余裕があったと思うんだけど。

 (ほむら)が拗ねて、私も荒れてた時に比べれば幾分かマシって気はするけど、これでも落ち込んでいるのだ。

 前世から今まで、友だちから嫌われた経験が殆どないから、どうしようもなく動揺してしまうのも仕方ない。これは、大人だ子どもだ関係ない、とちょっと主張してみる。自分しか聞く人いないけど。


「何? 気付いてなかったワケ? 風間(かざま)、随分前からちょっとおかしかったんだよ」

「え、本当に!?」


 さっちゃんの何気ない言葉に、私は思わず言葉を荒らげかけ、ギリギリ抑えた。

 思わずゆーちゃんの席を見るけど、そうだ。今教室出て行ったばっかりだった。いる訳がない。とは言え、他の誰かに聞かれでもしたら、更にゆーちゃんを怒らせてしまうかもしれないから、注意しないと。

 私はキリッと内心で決意を固めながら、さっちゃんを見つめる。さっちゃんはそんな私を見て、軽い調子で肩を竦めた。


「みずほって、視野広い割りにそういうトコあるよね」

「そ、そういうところ?」

「鈍感」

「そんなつもりはないんだけど……」


 寧ろお父さんから、常に周囲の波の変化には気付くようにと言われているから、敏感な方だと思う。

 そう言うと、さっちゃんは馬鹿を見る目で見て来た。あれっ。


「確かに、鈍感って言うにゃアレかもしんないけどさ。どっちかって言うと、敢えてそーしてるよーに見える」

「そんなことないよ」

「あるある。じゃなきゃ、もうとっくにどうにかしてたって」

「……そんなことないよ」


 今までは、皆よりちょっと精神年齢が大人だったから、それなりに上手く対応出来ていただけだ。

 どんどん成長して行って、大人になって行けば、皆はもっと分かりにくくなる。私には予想出来ない行動を取ることも増えて来るだろう。

 そういう意味で言えば、私は鈍感かもしれないけど、そんなこと皆も同じじゃないだろうか。


「そうかね。何か、怯えてるよーに見えるけど」

「何に?」

「知らないよ。アタシに聞かないでくれるー? エスパーじゃないんだから、他人の気持ちなんて分かんないって。甘えられても迷惑なんだけど」

「ず、ズバズバ言うなー……」


 思わず変な笑いが漏れた。


「ま、別にいーけど、出来ればサッサと解決しなよ? クラス中が重っ苦しい空気になったらウザいし」

「まぁまぁ頑張る」


 さっちゃんの、励ましとも言えないような励ましを受けて、私は力なく頷いた。


◇◇◇


青島(あおしま)瑞穂(みずほ)。君、何があった?」

「え?」


 落ち込み状態継続のまま、ちょっとぶりにピアノ教室へ来た。

 いつも通り、特に何事もない授業が終わって、さぁ帰ろうかと(ほむら)と一緒に連れ立って教室を出たところで、突然声をかけられた。

 声をかけて来たのは、ここしばらく私のピアノの授業の時間に欠かさず教室を訪れ、無言でジッと直立不動の時間を過ごし、私の授業が終わればやっぱり無言でサッサと出て行く、あの原田(はらだ)奏也(そうや)君であった。


「は、原田(はらだ)さん? 急にどうしました??」


 思わず質問に答えずに、質問で返してしまった私、悪くないと思う。

 だって今日まで、交わした言葉なんて、挨拶くらいのものだ。ここにこうして訪れる理由さえ、語ってくれたことはない。

 (ほむら)は、私の演奏の何かに魅力を感じたせいじゃないか、って言うけど、それも予想でしかない。

 まぁ、ただ無言でプレッシャーかけて来るだけで実害はないから今まで放置してた訳で、実際滞在理由なんてどうでも良いんだけども。


「僕のことはどうでも良い。君、音色が普段より硬くなっているぞ。気付いていたか?」

「はぁ……」


 思わず気の抜けるような声が漏れてしまって、慌てて口元を引き締める。

 とは言え、殆ど他人のような人からこんな風に声をかけられて、困惑しない人なんているだろうか。いや、いない。

 心中で反語である、なんて呟きつつ、私はいかにもピアノをやっている良家の子息感のある奏也(そうや)君を見つめる。

 心配……してくれているんだろうか。まさか。

 つい怪訝そうな目でもしてしまったか、奏也(そうや)君はただでさえ不愉快そうに寄せていた眉間の皺を深くする。


「何だ、その気のない返事は。背筋を伸ばせ。胸を張れ」

「え? え??」


 そう言いながら、彼は素早く私の方へ手を伸ばすと、背中に手を当てた。

 色気のあるような撫で方じゃなくて、こう……ドカッと力強い感じだ。ちょっと変な息が漏れた。ちょ、意外と力強いなピアニスト!!

 ついでに、反対の手が私のお腹に当たる。姿勢を正そうとしているようだ。

 いや、私そこまで姿勢悪くなくないですか?? というか、何事??


「……セクハラ……?」


 ポツリと、私に聞こえる程度の小声で(ほむら)が呟く。

 いや、これ全然違うと思う。そう考えつつ、そっと奏也(そうや)君の顔色を窺うと、普段通り怒っているような顔だけど、(ほむら)の発言に怒った様子はない。どうやら聞こえなかったようである。幸いなことだ。


「うん、これで良い」


 ややあって、奏也(そうや)君は満足げに頷いた。

 確かに、姿勢は直される前より更にビシッとなったけど、元の立ち方で既に普通に言えば及第点なんだけど、何で直されたんだろう。

 訳が分からず、行動の理由を尋ねる。


「あの、これはどういう……?」

「…………」


 私の質問を耳にした直後、また不機嫌そうな顔になった。

 でも、この間のゆーちゃんの反応と違って、彼のは別に親しい態度とかまったく期待してないので、特に傷ついたりもしない。

 だから私は、ただ答えを待った。


「……僕は、君の演奏に期待をしているんだ」

「え? それはどうも……」


 ありがとうと言うべきことなんだろうか。

 絞り出すように告げられた言葉に、私は目を瞬く。

 話に脈絡が無さ過ぎて困る。これが芸術家というものだろうか。


「音楽家として君は突出した才能を秘めている。変なことに躓いて転がり落ちることのないように努めろ。僕の期待を裏切るな」

「はぁ。頑張ります」


 妙に偉そうなんだけど、そもそも私は音楽家じゃないです。

 私は酷くテキトーな感じで返事をした訳だけど、それだけで奏也(そうや)君は満足したようで、私から離れた。


「次の授業までに以前の演奏に戻しておくように。以上だ」

「あーっと……お疲れ様ですー」


 言いたいことだけ言って、奏也(そうや)君は私の返事は待たずにどこかへと消えてしまった。

 何が何やら分からないけれど、とりあえず私は、彼に心配をかける程、落ち込んでいたということだけ理解していれば良いだろうか。

 私はそっと空気を読んで無言を貫いていた(ほむら)の方を振り向いた。


「……あれ、心配してくれてたのかな?」

「心配っつっても、お前自身のってか、お前の演奏の心配って感じみたいだけどな」

「そっかー」


 あんまり嬉しくないけど、期待してくれてるらしいので、テキトーに頑張ろう。

 ま、奏也(そうや)君については元々関わりも薄いし、分からないことも多いから捨て置こう。最悪、期待を裏切っても構いやしないだろう。

 冷たい? いやいや。仲良くしようね! とかもなしに急にピアノ教室ストーキングされて、流石に優しく出来ないよ、私。そこまで寛容じゃない。


「でも、確かに今日の瑞穂(みずほ)の演奏、ちょっと硬かったな。大丈夫か? 結構気にしてるんだろ?」

(ほむら)……」


 セリフ自体は、実際そこまで奏也(そうや)君の最初のセリフと違いないんだけど、この違いたるや!!

 分かるかな? この、私を心配してるって分かるような、温かみのある言葉!

 ありがたやありがたや。思わず拝んでしまうレベルだ。


「って、何急に手ぇ合わせてんだ! 俺は神か!!」

「貴方が神か!」

「ワケ分かんねーこと言ってないで帰るぞ!!」

「痛いっ!!」


 いつものやり取りだけど、(ほむら)の手刀がほんのちょっと優しかった。

 うーん。やっぱりみんなに心配かけてるみたいだな。

 何とか早く仲直りしたいんだけどー……難しいなぁ。


「……俺も、難しいことは良く分かんないけどさ、遠慮なく相談とかして来いよ。力になってやるからさ」

「良いの?」

「ああ。俺たち……まぁ、何だ。相棒みたいなもんだろ?」

「! えへへっ」


 思わず笑みがこぼれる。無理してじゃない笑顔は、ちょっと久しぶりな気がした。

 私は、隣を歩く(ほむら)に抱きつきながら、早くゆーちゃんと仲直り出来るようにと祈った。


(ほむら)だーいすき!!」

「あー、……ハイハイ」


「みずほ、そーゆートコだよ」byさっちゃん

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