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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(五年生)
124/152

117.そして六年生へ

 ヤの付く自由業の人たちに囲まれて、大ピンチなハットリ君を救うべく、私は一大決心をした。ヨシ、変身しよう……と。


「回想が何かおかしい」

「え、何のことかな?」


 (ほむら)から、じっとりと重苦しい視線を向けられたので自重する。

 そんな私の手の中には、サッと購入して来たロングコートと無駄に長くて太いマフラーと黒いグラサン。

 手早くマフラーで頭と口元を覆って首に巻き、グラサンを装着し、ロングコートに袖を通し、ハットリ君からもらったシークレットブーツを履く。

 化粧とかまで出来れば完璧だろうけど、今はとりあえずこれで良いだろう。


「どう?」

「思った以上に良いな。とりあえず、小学生には見えない」

「本当に? 良かったー!」


 オーケーが出たので、ホッと胸を撫で下ろす。

 最悪、小学生だと分かりさえしなければ良いだろう。

 でも、(ほむら)は若干微妙な顔をしている。


「あれ、まだ気になる? 完璧じゃない?」

「あー……変装としては良いんだけどさ、何なんだよそのマフラーの巻き方」

「真知子巻き亜種だよ」

「は? 何それ??」

「えっ」


 おふざけじゃなく、普通に説明したつもりだったのに、(ほむら)は首を傾げている。

 そ、そんな! 真知子巻きを知らないだって!?

 これがジェネレーションギャップというものだろうか。断じて私はオバサンではないけど。


「本来はねー、マフラーじゃなくてショールとかストールをね、こう……頭を覆う形で巻いたのが、真知子巻きだよ」

「口まで隠してるから亜種か。へー」


 何か興味なさそうだ。失敬な。

 ……とか思ってる内に、ハットリ君のピンチ度が上がる気配があった。


「いつまで意地張ってるつもりだ。あぁ?」

「っかくなる上は……」


 「かくなる上は」どうする気だい、ハットリ君!?

 コイツはマズイ。放置してたら、最悪ハラキリとかしでかしそうだ。

 私は、(ほむら)にアイコンタクトで隠れているように促し、(ほむら)は何も言わずに頷いた。

 そして私はそのまま、ハットリ君を取り囲む集団の後ろから、わざとらしく靴音を立てつつ声をかける。

 ひとまず、ハットリ君から意識を逸らさないと始まらないだろう。


「ちょっとちょっと。こんな大人数で少年1人囲むなんて、格好悪いと思わない?」

「なっ、何者だ!」


 集団の中の誰かが、理想的な言葉をかけてくれた。

 最悪、無視してハットリ君に危害を加えられる可能性もあると思ってたんだけど、物の見事に視線は私に集中している。

 良かった良かった。とりあえず、状況を把握する為に奴らをかき乱そうか。

 そう決めた私は、頓珍漢な返答をすることに決めて、ビシッとポーズを決めた。


「何者か? そうだねぇ。――正義の味方……ロングコートのマチコさん、とでも呼んでもらおうかしら?」


 背後から、「とんでもなくダサいぞ」というコメントが飛んで来た気がするけど、きっと気のせいだろう。

 寧ろ、このハイセンスな名乗りに、(ほむら)だって震え上がってるはずだ。


「……どうして、此処に」


 (ほむら)が震え上がってるかは生憎と分からないけれど、ハットリ君の声が震えているのは分かった。きっと、相当怖い思いをしていたのだろう。

 何しろハットリ君は、忍者とは名ばかりのへっぽこだから。

 暗殺対象者に、あんな分かりやすい攻撃を繰り出す上に、私程度に防がれるとか、マジへっぽこ。

 愛すべきへっぽこ忍者を助けるべく、私はこの身をこうして躍らせるのだ。ヤダ、私カッコ良い!!


「おい、女。何のつもりかは知らねェが、コイツを助けようってんなら容赦しねェぞ」


 ドスの効いた声が、真っ直ぐ私へと向かって響く。リーダーっぽいムショ帰り風のお兄さんに合わせて、他のチンピラたちも、そうだそうだと口を合わせる。

 けど、正直な話、正体を隠した今、全っ然怖くない。ハッキリ言って、ガチで手合わせをする際の双子の方が怖い。そんな双子を簡単に捻るらしいお父さんは、もっと怖い。


「あらヤダ、怖い。そう睨まなくっても良いじゃない」

「おちょくってんのか? あァ?」


 とりあえず睨めば良いと思っているのだろうか、と思わなくもないけど口には出さない。事実としておちょくってる訳だけど、下手に煽ってハットリ君が傷付けられでもしたら本末転倒だ。

 なので、私はせせら笑いながら交渉を続ける。


「おちょくってないわ。ただ私は、そこの少年の知人なの。彼がイジメられるのを、黙って見過ごすつもりはないのよね」

「だったらどうする? サツにでも連絡するか?」


 女1人、その程度しか出来ないだろうと言わんばかりの嘲笑だ。

 私は、そんなの全然怖くないもんね、とアピールすべく、ファサと髪の毛を後ろへ払うような動きをする。

 払うような髪の毛出てないけどね。代わりにマフラーがふわりと動いた。あんまカッコ良くないや、どうしよう。


「この女! 兄貴のことバカにしやがって! 兄貴! オレにやらしてくだせぇ!」


 髪の毛がツンツクツンに立った、大型犬風のお兄さんが怒った様子で私を指さす。


「あら、坊や。人のことを指さすものじゃないわ。失礼よ」

「あ、スンマセン……じゃねぇ!! 兄貴! アイツやっぱオレらのことバカにしてますよ!!」

「してないわよ。可愛いなって思ってるだけで」

「兄貴ー!!」


 私の、あまりに堂々とした物言いのせいか、大型犬風のお兄さんは涙目になった。割と厳つめの顔が台無しだ。非常に可愛いので、私は大歓迎だけどね。


「オイ、落ち着けよヤス」

「何だよ、(れん)。止めんな」


 今度は、物理的にチャラ付いたお兄さんが口を挟んで来た。

 さっきまで、自分の髪の毛にしか興味なさそうな様子だったんだけど、流石に看過しかねたのだろうか。

 とりあえず様子を見ようと、チャラ付いたお兄さんを見つめていると、お兄さんはジロジロと品定めするように私を上から下まで眺めると、ニヤリと笑った。


「兄貴。どうせヤんのなら、俺に任せてくんない?」

「あ? (れん)がやる気になんのは珍しいな」


 ムショ帰り(偏見)お兄さんが、少し驚いたように吊り上がった細めの目を見開く。チャラ付いたお兄さんは、どうやらレンさんと言うらしい。どういう字を書くのか、非常に興味深いところである。


「ああいう女、珍しくてね。最近欲求不満だし、丁度良いと思ってさ」


 !!?? おっ、おおい!

 レンお兄さんはアレだぞ。R18的な意味で私を見ていたようだぞ!!

 どうしよう! 変態だ!!

 私は慌てて自分の姿を思い返す。どう考えても、怪しい。そんな女に、ちょっとでも興味持てるとか、あの人ヤバイ。

 別の意味で不安を駆り立てられた。一瞬、正体を明かしてしまおうと思う程度にはグラついた。


「……そういう意味ではやれねェ。絶対ェ後腐れするかんな」

「えぇ? 何だよ、ケチだな。ちょっとくらい良いじゃないか」


 ……一応、ムショ帰りお兄さん……いや、兄貴って呼ばれてるから兄貴で良いか。兄貴は、私をR18的にどうこうするつもりはないらしい。

 良かった良かった。まぁ、普通にタコ殴りにはする気かもしれないけど。


「えー! じゃあオレっちが相手してもらいたいっス! オレっちこう見えても女性経験超希薄だから! 後腐れするどころか、一生大事にするからオネーサンみたいな人に相手してもらいたいっス! 何ならオレっちのドーテー美味しく頂戴してもらいたいっス! ハイハイハーイ! 立候補立候補!」


 レンお兄さんの態度に、話はここまでだと打ち切ろうとしていた兄貴に向かって、マシンガントークのお兄さんがぴょんぴょん跳ねながら猛アピールを始めた。

 雰囲気的に、中学生か高校生くらいっぽい彼からすると、今の私の変装は「お姉さん」に当たるらしいということ以外、知れても得しない情報だ。

 流石の私も頭を抱えたくなるような感じだけど、私以上に兄貴は頭を抱えたい様子だ。というか、今普通に頭抱えたよ。


「……(あらた)。テメェはもう少し大人しくすることを覚えろ」

「えっ、オレっち今日めっちゃ無口じゃないっスか? こんなん生まれてから今日が初めてってレベルっスよー、これマジ情報ね! うひひっ」

「うるせェ!!」

「兄貴が()ったー!!」


 ヒドイっスー、という悲鳴が聞こえるけど、アレは自業自得だろう。

 私は、無かったものとして扱うことにした。

 そして、どうやら兄貴もそのつもりらしく、アラタと呼んだおしゃべりなお兄さんを視界から外して、真っ直ぐ私を睨みつけて言葉を続けた。


「……オイ、女。引かねェんなら、俺らは女相手でも容赦しねェぞ。覚悟は良いンだろうな?」

「忠告痛み入るわ。貴方、見かけによらず優しいのね」


 うふふ、と口元に手をやって笑ってみせると、兄貴の眉間に刻まれた皺が、更に深くなった。

 何か、あの皺と服装のせいで大人に見えるけど、もしかすると兄貴って、実は結構子どもなのかな? ちょっと場にそぐわないことを考える自分を内心で叱りつつ、私は退路を確認する。


「茶化してンじゃねェ」


 恐ろしげな兄貴の声が響くけど、やっぱり別に怖くはない。

 確かに人数差はあるけど、ジリジリと距離を詰めようとする下っ端チンピラたちの足運びを見る限り、問題なさそうだ。

 多分、一番強いのが兄貴で、続くのがさっき目立ってた3人。それ以外は、彼らより年上っぽいけど弱いっぽい。

 それなら、ハットリ君1人連れて逃げるくらい造作もないかな。

 隠れてる(ほむら)には、1人で頑張って逃げてもらって大丈夫だろう。ああ見えて、(ほむら)もチートキャラだからね。


「マチコさんは至って真剣よ。それじゃあ、そろそろその子、返してもらおうかしら?」

「っし……いや、マチコさん! 拙者のことは気にせず、お逃げくだされ!!」


 意外とその辺の気は回るらしく、ハットリ君は私を「主君」と呼ばなかった。

 エライエライ。下手したら、呼び名から足が付く可能性もあるからね。

 私は、良く出来たとばかりに笑みを向けたけど、ハットリ君の顔は強張った。

 ……あれ、笑顔怖かった? いや、グラサンで表情が分かんないのかな。そうだよね。そうだと言って!!


「仲良しごっこは余所でやれ。悪いが、コイツは親父のトコに連れてかなきャなんねェかンな。オネンネしててもらうぜェ」

「さて、それはどうかしら」


 余裕綽々の私に対して、兄貴を筆頭に男たちは怒り心頭、といった様子で一斉に殴りかかって来た。鉄パイプを持ったヤツも居たけど、それは流石にひしめき合ってるせいか、動けずにいる。

 よしよし、これなら問題ないぞ。

 私は、的確に距離感をチェックしながら、素早く動いた。


「うえっ」

「ぐわっ」

「ぬあっ」


「ごめんあそばせ!」


 最低限の人数だけ弾くように攻撃を加える。

 これはアレだよ。正当防衛ってヤツですよ。

 そう後々の言い訳を展開させつつ、私は最短距離でハットリ君の元へ辿り着く。


「なっ……お前、今、何を……」


 兄貴が、呆然と後ろを……私の方を振り返る。

 ふふふのふ。どうやら、この場で一番の凄腕らしい兄貴にも、私の動きは見えなかったらしい。

 私の見立ては間違っていなかったようだ。これなら逃げ切れる。


「マチコさん……」

「キミは黙ってなさい。さ、行くわよ」

「行かせるかよォ!!」


 弱り切った様子のハットリ君の腕を掴んで、体勢を整えさせる。

 そんな私たちの元に、兄貴が勢い良く突っ込んで来る。

 その勢いたるや、クリーンヒットしたら天国の景色を見ることが出来そうだと、一目見て分かる感じだった。

 まぁ、当たらなければ以下略ってヤツだけどね。


「おほほ! ロングコートのマチコさんは、そんなに甘くなくってよ!」

「ぐっ!? 畜生ォ!!」


 ハットリ君を引っ張りつつも、一撃も受けることはない。

 俺Tueeeeって感じで非常に楽しいけど、一方でちょっと虚しくもある。

 私、やっぱ人間捨て始めてるなって。

 ……いやいやいや! 全然チートなんかじゃないけどね! 私は普通のモブですからね!


「何でっ、当たらねェ!?」

「遅いからに決まってるわ。……でも、いつまでも付き合ってあげられないの。こちらこそ悪いけど、これでオネンネしててもらうわ!」


 私は大きく足を振り上げると、兄貴や他の有象無象の攻撃の隙間をすり抜けるように振りかぶり、その勢いままに兄貴のお腹に叩きつけた。


「ごふっ……!!」


 予想以上のクリーンヒットだ。

 ぐしゃりとその場に倒れ伏した兄貴は、焦点の合わない目で、必死に私を睨み上げる。


「て、めェ……」


 恨みのこもった声は低く、あコレマズイヤツ、と本能的に悟った私は、誤魔化すように笑う。

 やっちまったもんは仕方がない。今はとんずら一択である。


「おほほほほ。マチコさんの足が長くってごめんなさい? もう二度と会わないと思うから、忘れてくださいね。それじゃ!」

「待ちやがれ!!」

「貴様ー!!」


 色んな怒号を背中に受けながら、私は全力で逃げた。

 普通に建物の上とかを走って、途中、公衆トイレを発見して変装を解除。

 代わりにハットリ君に、良い感じに変装を施し、追手をまくことに成功した。

 買ってて良かった、リバーシブルのロングコート。


「しゅ、主君……。その、この度は……」

「あー、そういうの良いから。とりあえず、家帰ろ」

「…………」


 ロングコートのマチコさんとハットリ君を探すチンピラたちの声は、まだ聞こえている。

 でも、まさかこの小学生女子とオシャレコート男子が探している人間だとは思わないようで、彼らの視界には何度か入っているけれど、一度も声をかけられていない。素晴らしいですね。


「あ、いたいた。平気だったか、お前等ー?」

(ほむら)ー! オールオッケーよ」


 途中、(ほむら)とも合流して、家路を急ぐ。

 因みに、お使いは(ほむら)が済ませてくれたようだ。流石出来る男。


「……主君。拙者、主君が来てくださって、本当に嬉しかったでござるよ」

「あ、本当に? なら良かった!」


 何を言うか、しばらく迷っていた様子のハットリ君は、まだ握ったままの手に力を入れると、ようやくそれだけ言った。

 きっと、色々と言いたいことはあるんだろうけど、時間はたくさんあるから、いつでも良いと思う。

 私はそんな気持ちを込めて、キュッと手を握り返した。

 ハットリ君は、驚いたように目を瞬いて、手と私を交互に見つけて、やがてホッとしたように微笑んだ。


「拙者、これから主君の為に身を粉にして働くことをお誓いするでござる!」

「ハイハイ。その辺はテキトーで良いからね」

「な、何か主君の態度がテキトーにござらぬか!?」


 テキトーで良いの、テキトーで良いの。

 毎日を楽しく生きるコツってヤツですよ。

 そんなことを言いながら、私たちは家へと帰りつく。


 そして、これからもいつもと変わらぬ日常が続くことを信じて……今日あったことは忘れることにした。

 ……まぁ、そう簡単にはいかないんだろうけどねぇ。あはははは……はぁぁ。


◇◇◇


「……まさか、この俺をあそこまで虚仮に出来る女がいるたァな……」


「兄貴! 探し出してブッ飛ばしましょうや!」

「あれだけ肝の据わった女をブッ飛ばすなんて有り得ねぇよ。俺のものにしよう」

(れん)はそればっかだな!」

「いやいやいやいや! そこはやっぱオレっちに譲ってもらいたいっスよ! 痺れるっスよ、あの冷たい目! オレっち、あの目で見下されたらもーっ堪りませんっス!! サイコーっス!!」

(あらた)はアタマおかしーんじゃねーか!? ねぇ、兄貴!」


「……惚れた」


 …………。


「……え?」

「だから、惚れた。悪ィが、(れん)。譲ってやれねェ」

「兄貴が惚れた腫れたなんて珍しい。どういう風の吹き回しだ?」

「ホントホント! 明日は槍でも降るんじゃないっスか?」

「うるせェ!!」

「兄貴ひでぇっス!!」


「とにかく探せ! あの忍者小僧と一緒に、丁重にだ! 絶対ェ俺のモンにしてやンぜ!!」


 ……何やら寒気が……??


やったね、瑞穂ちゃん! 恋愛フラグが増えるよ!(おいバカやめろ)

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