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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(五年生)
123/152

116.一触即発?(※)

※後半、ハットリ君視点です。

※いつもより長いです。

 この世界で2度目の人生を迎えてから今日まで、色々と現実にしてはオカシイなーと思うようなことも多々あれど、一応は現実という枠組みで捉えて良いという日々を過ごして来た。

 チートだとかチートじゃないとか言い合いながらも、まぁ普通に過ごしてると思っていた。


 ……でもね。「普通」の枠組みの中で生きているのだとしたら、こんな場面にはね、遭遇しないよね。

 私は、何処か遠いところを見つめるように、ふっと目を細めた。隣に視線を走らせると、同じような目をしている相棒こと(ほむら)の姿が。ちょっと心強い。


「おい、やっと見つけたぞこのガキィ!」

「くっ……拙者は、捕まる訳には……っ」


 一体何が起きたのかと聞かれれば、ひと言でまとめればこうだ。

 我が家に入り浸っている忍者ことハットリ君が、ヤの付く自由業の人たちに囲まれて、因縁(?)を付けられているのを目撃してしまった、と。

 あれ、全然ひと言じゃなくない? いや、気にしたら負けだ。


「……ねぇ、(ほむら)。アレ、何だと思う?」

「何って……ヤクザに絡まれるニンジャ」


 確かにそれ以外答えはないだろう。

 身を隠しつつ、改めてその様子を眺めようとも、他に情報は得られそうにない。

 ただ、良く見てみると、ハットリ君に絡んでいるヤの付く自由業の人たちは、この1年でちょくちょくニアミスしていた人たちに違いないと分かった。


「一緒に来いっつってるだけなのに、何で逃げるんだよ。あぁ?」


 他にも何人かいるけれど、主に目立っているのは真ん中の方の4人だ。

 1人は、今ガンつけてるヤクザというよりはチンピラっぽい雰囲気の男の人だ。

 鈍い金色に染めた髪を、これでもかとツンツンに立てているけれど、顔立ちが幼くて何だか背伸びしているようにしか見えない、ちょっと犬っぽい人。


「本当だよ。この1年、君にどれだけ手間を取らされたか……。お陰で思うようにデートの一つにも行けやしない。いい加減、観念してくれない?」


 1人は、つまらなそうに自分の長い金髪を弄るチャラチャラした男の人。

 チャラチャラは、態度というよりもその身体を彩るアクセサリーを表す言葉だ。アクセサリーが多い。


「いやー、でもココで見つけられたんスから、まだオッケーっしょ! 親父もきっと喜んでくれますよー、コレはマジ話っス! 良かったねー、忍者クン。親父ってば、本当は滅茶苦茶怖いんスけど、1年以内に捕獲出来りゃー御の字ってこの間言ってたし、多分半殺しくらいで済むんじゃないスかね? サイコーじゃないっスか? オレっちなんて買い出し中にちょっと野暮用が出来て遅れたくらいで4分の3殺しになりましたからねー! ちょ、ウケるトコっスよ、今のー! やだなー!!」


 1人は、誰も聞いてないのにマシンガントークを繰り広げる明るそうな男の人。

 服装だけで見れば一番落ち着いてるけど、態度が全然落ち着いてない。あと、何その色眼鏡ダサッ。


「話も聞かずに、良くも逃げてくれたなァ、テメェ。もう逃がさねェから、覚悟しとけよォ」


 最後の1人は、この中だと1番エラそうな男の人だ。

 短い黒髪に、ギラついた肉食獣みたいな瞳。人の1人や2人やっちゃってそうな雰囲気だ。ムショ帰りかな?


「覚悟などせぬっ! 拙者は家に戻らねばならぬからな」

「家ェ? 馬鹿なこと言ってンじゃねェ。お前がこれから行くのは俺らの家だ」


 良くも、年上っぽい人たちに囲まれて、あそこまで睨みつけられるものだ。流石、ハットリ君。空気読まないよね。

 ……なんて冗談はさておき、遭遇してしまったものは仕方がない。これからどうするか考えなくては。


「……(ほむら)、どうしたら良いと思う?」

「え、ええー? それ、俺に聞くのか? ハットリはお前の部下みたいなものだろ?」

「そんなこと言わないで、知恵を貸しておくれよぉー」

「猫なで声ウザッ」


 ボソボソと会話を繰り広げる私たちだけど、ヤの付く自由業の人たちに気付く様子はない。

 何しろ、そこそこ距離が離れている上に、彼ら自身が威嚇の為なのか、妙に無駄口を叩いているから、まず私たちの小声なんて聞こえないだろう。良き哉。


「個人的には助けたいんだけど、家に迷惑かかるよね?」

「そりゃな。明らかに揉めてるし……どう見ても関わり合いになりたくない人種だろ、アレ」


 許してやってくだせぇ、と呑気に割り込んで行けば、敵対行動とみなされるに決まっている。

 しかも、相手はヤの付く自由業だ。顔を曝して行けば、速攻で個人情報を入手されてしまうことだろう。


「ってことは、助ける為には正体を隠す必要があるってことだね!」

「ちょっと待て。お前、何で目ぇ輝かせてるんだ」

「いや、私昔から変身ヒーロー願望あったんだよね」

「そう言いながら懐から訳の分かんねぇ仮面出すんじゃねぇ! 何処の少数民族だ!」

「えー、ダメかな?」

「当たり前だ! そんな仮面したヤツが出てきたら通報案件に決まってんだろ」


 こういうことがあろうかと、常日頃から準備していた呪術に使いそうな木彫りの仮面は敢え無く却下されてしまった。

 非常に残念だけど、代替案というと、他に何かあったかな。


「じゃあこっちは?」

「縁日のお面か! つーか、そんなもん付けてあそこに割り込む小学生女子なんて普通に考えて怪しいし、絶対身バレするぞ」

「あ、そっか……」


 顔を隠すものばかり考えていたけど、そう言えば私、どう見ても小学生の体格だった。顔だけ隠したところで、恐らく意味はないだろう。

 (ほむら)のツッコミに納得しながら、私は自分のスカートをつまむ。何故今日、せめてズボンをはいていなかったのだろう。


「じゃあ、何で誤魔化そうか? マントとか?」

「そもそも身長が誤魔化せないぞ。お前、小さいし」

「小さい言うな! うーん……この間、ハットリ君からもらったシークレットブーツをはけば何とか……」

「……異様に腰から下が長い小学生にしか見えない」

「何てこった」


 シークレットブーツをはいたところ、何とか身長だけは出すことが出来たけど、やっぱり誤魔化すには難しい。

 うーん、と首を捻る私の視界に、ふとショーウインドーに並んだオシャレなコートとマフラーが飛び込んで来た。

 キタコレ! ピンと来た私は、ビシッとそれらを指さして(ほむら)を見る。

 (ほむら)は微妙に渋っていたけど、最終的に同意してくれた。よっしゃ!


 待っててね、ハットリ君! 今助けてあげるからね!


◇◇◇


(――失敗した)


 俺は、じりじりと俺を囲い追い込む男たちを睨みつけながら歯噛みした。

 このままでは、主君らにも迷惑をかけることになる。

 何とか顔は見られていないが、それもこの人数で囲まれれば少々厳しい。

 どうしたものかと全力で思考を回転させながら、俺はつい今までの経緯について思いを巡らせた。


 ……数年前から、俺の里はある極道の家と対立していた。

 年若くはあるが、里の忍びの一人として認められた俺は、他の大人たちに交じって様々な作戦行動を取っていた。


 ある時は敵方の拠点の一つに潜入し、またある時は敵方の人間を脅し情報を収集した。

 俺は、活動出来る忍者の中で一番子どもだったから、疑われることも少なく、戦果も出していた。

 だから俺は、戦いは順調に進んでいるものだと思っていたのだが、1年ほど前、俺たちの里の大切なものを、おめおめと奪われるに至ってしまった。


 このままでは一気に戦況が不利に傾いてしまうと判断した里は、打って出ることにした。

 その際、俺が唯一奴らの懐への潜入に成功し、奴らの大切なものを奪い取った。

 結果、戦線は停滞。互いに手出しすることが出来なくなり、冷戦ともいうべき状況に陥った。


 そんな折、俺は里から奇妙な任務を言い渡された。

 その時点での戦況にまったく関わるところのない大きな家の家長の暗殺。

 しかも、きっとその仕事は長らくかかるだろうから、その間他の仕事は何もせずとも良い、と付け加えられた。


 まったく訳が分からなかったが、忍者とはそういうものだと思い、俺は一も二もなく引き受けた。里の忍者に、それ以外の選択肢などない。


 そうしてまず情報収集を始めたが、公表されている情報以上は、何も明らかにならないことが分かった。

 通常であれば、俺が情報を集めれば、瞬く間に経済状況から過去の黒い思い出などまで詳らかになるのだが、その時だけは勝手が違った。

 普通、行動パターンから何から把握してから行動に移すのだが、分からない以上は仕方がないと、俺はそのまま動き出した。


 結果として、俺は玉砕した。

 潜入しようとしても、門前払いされるだけでなく、外部の者には明かされていないはずの里に直接名指しでお祈りメールが届いたり。

 いざ暗殺しようと罠を張れば、数倍のえげつなさを伴った罠を、俺の通学路に仕掛けられたり。しかもご丁寧に俺以外の者がかからないように配慮されていた。

 昼夜を徹して張り込みを敢行すれば、子どもが体を冷やすものじゃないと言って、温かい食事と毛布が贈られたりした。

 まったくもって、意味が分からない。


 恐怖した俺は、任務を果たすことが出来ないと里長に訴えたのだが、それでも実行し続けるように言われた。

 正直なところ、俺は、人生で初めてイジメを受けているのではないかと思った。

 それでも、任務はまっとうしなくてはならない。俺は、死さえ覚悟しながら、あの桜祭りの日、何度目かの暗殺を実行した。


 ……そして、俺はそこで、運命的な出会いをした。


 俺が投げたクナイをすべて撃ち落しただけでなく、正確に俺のいる位置を把握して、木に縫い付けるという神業を披露したのは、明らかに俺より年下の、特徴のないごく普通の女の子だった。

 暗殺を防がれるだけでなく、行動さえも封じられるなんて、屈辱以外の何ものでもない。

 だけど俺は、そこに至るまでに、あまりにも自信を奪われていたせいか、感銘しか感じなかった。


 俺よりもずっと強くて、凄い女の子。

 忍者は、雇われさえすれば、その腕を揮う。けれど、俺の里ではずっと伝わっている話がある。

 俺の里の忍者は、それぞれにたった一人、生涯を尽くすべき主君が居るんだという話だ。一目見ればそうだと分かる、運命の相手。


 俺は、彼女こそがそうなんだと思った。

 だから、恥も外聞もなく、彼女に向かって部下にして欲しいと宣ったのだ。


 お仕えしてから、彼女は見た目通り、本当に特徴のない人だと分かった。

 けれど、そんな印象に反する程の能力を持っていて、戦闘能力のみならず、彼女は様々なことに長けていた。

 やっぱり、彼女が自分の主君だと思った俺の感覚は正しかったのだと、毎日誇らしかった。


 とは言え、俺は里の忍者。里を裏切れるはずもない。

 そう思って里に連絡を取れば、里からは主君に良く仕えなさい、とだけ返って来た。不思議だった。


 だからと言って俺に出来ることはない。だから俺は、決まり通り素顔を隠し、主君の忍者として過ごしながら、世を忍ぶ仮の姿で中学校に通い続けた。

 そんなある日、俺は、極道の者たちが「俺」を探していることに気が付いた。

 同時に、里の者たちの何処か素っ気ない態度の理由に思い至った。


 里に居るよりも、寧ろ俺は主君の世話になっている方が安全だろう。

 恐らくは、そもそも不可能な暗殺の任務も、その為に与えられたものだったのだ。かの家であれば、俺が何故そのような暴挙に出たのかもすぐに調べが付き、その上で助けてくれるのではないかという考えに基づいた。


 そのようなこと、黙って受け入れられる俺ではない。

 だが、俺だけでどうにか出来るようなことではない。

 俺の存在が、現在の冷戦状態を瓦解させ、戦端を開くキッカケになるなど、許されるはずがない。

 俺はそう考え、可能な限り身を潜め、気付かれないように行動していた。


(……だが、失敗してしまった。ここまで来て)


 凡そ1年だ。まだ、早すぎる。

 里がどうなっているのか、確認も取れていないので分からないが、奴らはまだ俺を探していた。

 町中を不用意にウロついてしまった結果だ。油断があったのだろう。

 いや、油断ではない。きっと、気が抜けていたのだ。


 里での、厳しい修行の毎日。

 町に下りて来る目的は、学校に通う以外になく、その学校でも特定の友人などは作らぬようにして来た。

 楽しい思い出など、一つもなかった。


 それが、今やどうだ。

 俺が何か言えば、呆れたように、けれど楽しそうに主君が笑い、周囲の誰かがまた笑う。


 何の変哲もない、穏やかな毎日が楽しくて。

 俺はついつい、忘れていたのだ。

 自分が、どのような状況にあるのか。


(しかし、ただではやられない。ましてや、里や……主君に迷惑はかけられない)


 だが、自ら毒を飲むことなど、選べない。

 そうしてしまえば、主君が悲しむだろうと、俺はもう分かっている。

 そうするくらいなら迷惑をかけろと、そう言う人だ。


「いつまで意地張ってるつもりだ。あぁ?」

「っかくなる上は……」


 俺を取り囲む人数全てを相手に出来るとは思えない。

 それでも、隙間を開いて逃げることくらいならば、決死の覚悟で行えば出来ると思った。

 俺は、グッと拳を握って奴らを睨みつける。

 捕まる訳にはいかない。俺は、帰らなければならないのだ。


(主君の家へ……主君の元へ、俺は、帰るんだ!)


 壮絶な覚悟の元、背筋を伸ばした。

 ――その時だった。


「ちょっとちょっと。こんな大人数で少年1人囲むなんて、格好悪いと思わない?」

「なっ、何者だ!」


 透き通った女性の声が響いた。

 いや、良く聞けば、それはまだ幼い高さを持つと分かる。

 けれど、あまりにも自信に満ち溢れたような張りに、まさか幼い少女のものであるとは思えない。


「何者か? そうだねぇ。――正義の味方……ロングコートのマチコさん、とでも呼んでもらおうかしら?」


 茶目っ気たっぷりに、人を小馬鹿にするような語調で、訳の分からない名前を名乗る。

 その人は、足元まで覆うロングコートをまとい、頭と口元を隠すような形でマフラーを巻き、顔半分はあるかという黒いサングラスをかけた怪しげな女性だった。

 スラッとした背丈は、まさしく大人の女性。見覚えなど、あるはずがない。


 けれど、俺にはすぐに分かった。


(……俺のあげた、ブーツ……)


 背が低いことを悩んでいた彼女に、俺がクリスマスに贈った黒いブーツ。

 傍目に見れば、底上げされていることは分からないが、相当高く上げられており、普通の人間なら履いただけでよろめいてしまいそうな一品。


 ……ああ、主君。どうして貴女は、こんな時に俺の元へ現れてくれるのでしょうか。俺は貴女に、隠し事ばかりしていて、貴女の為に成れたことなんて、一度もなかったのに。


「……どうして、此処に」


 情けなくも震えた声が漏れた。

 それを、あれだけマフラーをぐるぐる巻きにしていても耳聡く聞き取ったのか、主君は一瞬だけチラリと口元を露出させ、ニヤリと笑った。

 当たり前だと言わんばかりのその笑みに、俺は、本当に泣きたい気持ちになった。

 そして同時に、ここを切り抜けることが出来たら、全部話そうと思った。


 ――この人が、俺の、ただ一人の主なのだから。


先日、『二軍恋愛』が何と100万PVに到達いたしました!

世間様の素晴らしい作品に比べれば遅々とした歩みかもしれませんが、私の作品の中では群を抜いた記録です。本当に嬉しいことです!

これも、いつも読んでくださっている皆々様のお陰です。いつもありがとうございます!

そして、出来ればこれからも『二軍恋愛』をよろしくお願いいたしますね!

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