111.身長のこと
「……おかしい」
とある休日。特に習い事もない自由時間。
私は非常に神妙な感じで、重苦しく感情を吐露していた。
「い、如何なさったのでござるか、主君?」
「うん……とっても重大な問題が発生して……」
焔から、「うわまたどうでも良いこと考えてるぞ」みたいな失敬な視線を感じていたからスルーされると思っていたけど、乗って来てくれる人がいたので、それっぽく頭を抱えてみる。
更に焔からの視線が冷たくなった気がするけど、気のせいだよね!!
「何と! 一大事でござるな!!」
「そう、一大事……って、何でハットリ君がいるのさ!?」
「先ほど戻ったでござるよ!」
何で驚いているのかと言えば、今の今までハットリ君がそこに居なかったからだ。
ハットリ君さー、命を狙おう! みたいにしてる時は気配もろバレなのに、普通にしてると察知しにくいよね。何故だろう。
「そうだったんだ。で、どこに行ってたの?」
「それは幾ら主君でも言えないでござるよ」
半ばお決まりになりつつある会話をこなして、本題に戻る。
ハットリ君の正体って、気になるようでいて、正直別に全然気にならないもんね。
出会いの日以来、忠誠心が本物かどうかはいざ知らず、問題行動を起こしてはいると言っても、他校への侵入とかその程度の可愛いものだし、別に敵対行動とかはないしね。
最悪、急に裏切られたところで、どうでも良いよね。あはは。……笑いごとじゃないけど。
「それよりも主君。重大な問題とは一体、どのような?」
「おお、聞いてくれるかいハットリ君……」
「はっ! お伺い致します!」
演劇ぶった口調と動きで、仰々しく告げると焔からの視線が更に更に冷たくなった。焔の私の扱い何か雑になってない? こんなもん?
「実は……背丈についてなんだけど」
「背丈……身長でござるか。……身長??」
ハットリ君も、同じように神妙な感じで頷いて聞いててくれたんだけど、私の言っていることを理解するや、不思議そうに首を傾げた。
何を隠そう、私が悩んでいるのは身長について。読んで字のごとく、身長についてなのだ。
「私……なんか背、低くない?」
「それは……如何でござろう? 人によって身長はまちまちだと思いますが……」
「いや、低い!! というか、皆が高すぎないか!? 理不尽だ!!」
ダン! とテーブルを思い切り叩く。訂正しよう。思い切り叩いたノリで叩く。
今の私が思い切り叩いたら、テーブル破壊されちゃうからね。物は大事に使わないとね。
「だって私、ちーちゃんよりもゆーちゃんよりも委員長よりもさっちゃんよりも……極めつけは、焔よりも小さいんだよ! 解せぬ!!」
「いやお前、解せぬって……」
ここでようやく、焔から呆れかえったようなコメントを頂戴した。ありがたくない。私は、ジロリと恨みがましく焔を睨みつけてやった。
全然堪えてないらしく、のんびりとティーカップを傾ける焔。うっわ、腹立つー。何あのイケメン。
「半分くらい分けてよー!!」
「無理に決まってんだろ。黒魔術にでも手ぇ出す気か?」
「ぐぬぬぅっ!!」
鼻で笑われても、今の私に出来ることは睨みつけることくらいだ。
く、くそうっ。昔は……昔は私の方が高かったんだよ!
具体的には、「このモブがっ!」とか言ってた頃とか!!
「うわーん、ハットリ君! 身長が欲しい! 切実に!!」
「し、しかし……拙者に提案出来るのは、牛乳を摂取すること程度しか……っ」
「そして何処からともなく差し出される牛乳プリン!!」
ハットリ君に泣きついたら、口惜しやといった表情で懐から牛乳プリンを取り出して差し出してくれた。
なんて優しいハットリ君。その懐、四次元になってるのかな?
とりあえず、ありがたく食べる。
「この牛乳プリンうまっ!!」
「! ま、誠にござるか!?」
私がパッと思わず表情を明るくして叫ぶと、ハットリ君が嬉しそうに顔を綻ばせた。あれ、何この反応。
私は目を数回瞬いて、牛乳プリンとハットリ君を交互に見つめる。
「もしかしてコレ、ハットリ君が作ったの?」
「はい! ……あっ、いや、違います。せ、拙者は男子故、菓子作りなど致しませぬ!!」
一瞬で、カーッと真っ赤になるハットリ君。
顔の殆どを布で隠しているというのに、丸分かりだ。
私は改めて牛乳プリンを見つめる。確かに、売ってるものと違って、小ぶりのガラス瓶にラベルなんかはついていない。
なめらかでトゥルトゥルの舌触りに、ほんのり香る牛乳の甘み……。
控えめに言って、最高の牛乳プリンだ。誰が作ったかなんて、些細些細。
私はへらりと笑って頷く。
「うんうん。誰が作ったか分かんないけど、コレ最っ高に美味しいよ! ハットリ君、作った人に伝えておいてね。最高だって!」
「畏まりました!!」
ハットリ君、にっこにこである。隠す気はあるのだろうか。
忍者として、顔に出やすいって致命的だと思うんだけど、大丈夫なのかな。
まぁ、漫画の世界とは言ってもここは一応、現代設定だし、別に良いのかもな。
「へー、どれどれ? ホントだ。コレ、美味しいねぇハットリ君」
私の反応が気になったのか、焔と一緒に紅茶を飲んでいた臣君が近付いて来て、テーブルの上に置かれた他の牛乳プリンを口にした。
因みにハットリ君は、この場にいる人数分の牛乳プリンを並べている。
「光栄にござる、晴臣殿! ……と、製作者も言うはずでござる!!」
本当に隠す気あるのか謎なハットリ君は、更に嬉しそうにしてる。
もうでろでろだよ、顔。
「コレ食べてたら、きっとお嬢も将来的にはボンキュッボンですね!」
「良い笑顔で言うこっちゃねーだろ!! 下ネタか!!」
牛乳プリン片手に、満面の笑みで私に向かってある意味希望の持てることを言う臣君に、焔から鋭いツッコミが飛んで来る。
焔、ボケへの反応物凄いけど、下ネタには特に厳しいよね。何でだろうね。純情ボーイかな。
あ、私が以前口にしたお下劣下ネタ(通称チェリーボーイ事件)の影響で、今の焔は、結構下ネタ分かっちゃうらしい。勉強したのかもしれない。まだ18歳じゃないのに。
「言わなくても分かるぞ。瑞穂、お前今最高に失礼なこと考えてるだろ。殴らせろ」
「な、何だってー!? 思想の自由! 私の思想の自由は何処に!」
「お前にそんなものはない!!」
「酷くない!?」
2人で、テーブルの周りをぐるぐると走り回る。
いやいや、宣言したら良いってもんじゃないよね。殴られるのはちょっとご勘弁願うよね!!
「お2人とも、その辺りにして先に食べてしまいましょう」
「はーい」
「分かったよ」
雅君から、真っ当なツッコミをもらった私たちは、大人しく席に戻る。
そうそう、おやつタイムだったよね。
「にしても、お嬢急にどうしたんです?」
「え、何が?」
うふふ、プリンプリンとか思っていたら、不意に臣君が不思議そうに尋ねて来た。何を聞かれたのか分からなくて首を傾げてると、苦笑が返って来た。
「いやいや、自分で言ってたじゃないですか。身長が気になってるって」
「あー、その件ね」
「お嬢、今までそんな素振り見せたことなかったじゃないですか。だから、何かあったのかなって」
「うーん……」
確かに、私はあんまり身長なんて気にしたことはなかった。
強いて言うなら、ちょっと不満に思うことはあっても、「ま、いっか」で済ませて来たのだ。
それが、今になって急に口に出した理由。それは……。
「……夏休みでさ、皆更に背が伸びてたでしょ。私、ショックだったんだよね……」
将来的に伸びる保証も特にない。
前世は結構スレンダーな感じだったけど、今じゃ身体は別人なワケだし、どうなるか分からない。
同じくなりたいってワケでもないけど……まぁ、何だ。シンプルに悔しいのだ。
「今まで同じくらいだった人から見下ろされる、この屈辱よ……っ!!」
「そんなに気になるか?」
「焔は既に中学生くらいあるから分かんないんだよーっ」
ぷぅぅと頬を膨らませると、今度は普通に笑われた。
くっ、微笑ましいものを見るような目を向けられるとは!!
「恐れながら、お嬢様はきちんと成長なさっております。それに、ご両親も揃って背は高い方ですし、期待出来るのではないでしょうか?」
雅君の言葉に、力なく頷く。
確かに、我が家の両親は2人とも、背は高い方だと思う。
でもなー。焔はハーレム漫画の主人公だからなー。勝てないよなー。
「何だよ?」
ジロッと見たら、ぶっきらぼうだけど気遣うような声が返って来た。
これ以上はちょっと、大人げないか。
私は長く溜息をついて、気持ちを切り替えることにした。
「んーん。ごめんね、気長に待つよ。大人の女性になるのをね」
「そりゃ一生無理じゃないか?」
「何をー!」
冗談交じりに言ったら、焔も乗ってくれた。
本気で無理って思ってるというよりも、私の気分転換に付き合ってふざけてくれた感じだ。
これだから焔が大好きなのである。
「大丈夫ですよ、お嬢。ちゃあんとお嬢は大人の女になれますよ」
「お、臣君……」
「現に、お嬢の魅力で結構な男がメロメロですからね。自信持ってください」
「……あれ、励ましに見せかけたイジリ……??」
ニヤニヤ笑いを浮かべる臣君は、実は励ましてないのかもしれない。
本当、素直に褒めてはくれないよね、臣君って人は! そこが魅力だけどね!!
「……そもそも、お嬢様の魅力は外見だけにある訳ではありませんので、そう気にする必要はないと思いますがね」
ポツリと呟かれた雅君のひと言には、ドキッというよりも、ギクッとした。
言葉の上では、イケメンの呟く最高評価に、恋心キュンキュンってな感想が相応しそうな感じだけど、語調がね。ちょっとね。地を這うようなっていうか……うん。聞かなかったことにしておこう。雅君は、断じてヤンデレではないのである。
「主君! いざという時には、忍者秘密道具がありますので、頼ってくだされ」
「ハットリ君……そうだね。希望が絶たれた時にはお願いしようかな」
ハットリ君は、そう言ってそっと懐から、あからさまなシークレットブーツを差し出してくれた。
うん、出来ればそれには頼りたくないけどね!!
というか、だからハットリ君の懐はどうなってるのさ!?
「ま、お前がチビだろうが何だろうが、ずっと一緒にいてやるし、そう気にすんなよ」
「ありがとう、焔。是非、爆発してくださいイケメンこの野郎」
「何でだよ!?」
……あと、最後を普通にかっさらう焔さぁ!
私じゃない美少女にアピールしなよ! まったくもう!!
いつも感想、評価、ブクマ等々ありがとうございます。
こちらの作品は、ご覧の通り日常のグダグダ話が主ですので、それぞれのキャラ掘り下げエピソードや時間経過に関わる話以外は割とどこにどのような話を入れても平気なタイプです。
その為、逆に作者が結構迷うことも多いので、「協力してやるよ!」という方は、是非ともどのキャラが好きとか、そういったご感想等を頂ければ助かります。
一応、メインヒーローに当たる焔君などはどうしても贔屓っぽくなってしまっていますが、作者は登場キャラクター全員気に入っておりますので、どうぞお気軽にコメント頂ければ幸いです。
是非、よろしくお願い致します!




