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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(五年生)
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99.ちーちゃんのお誕生日会

「はーい、ちーちゃん。おたおめー!! 今年は可愛いポシェットだよ」

「わぁ、ありがとう瑞穂(みずほ)ちゃん!」


 今年度も、早いものでもう5月5日。

 すなわち、可愛い大天使ちーちゃんの誕生日ですよ!

 あれ、初出情報? そうだっけ?


「可愛い花柄……。これ、何ていうお花?」

「これはねー、グラジオラス。ちーちゃん、剣道頑張ってるから『勝利』って花言葉のある花が良いかなーと思って」

「そうなんだ! 嬉しいな」


 花の形がフェンシングの剣に似てるところから花言葉が決まった諸説ありって感じだから、丁度良いと思ったんだけど、喜んでくれたみたいで良かった。

 ニコニコと満面の笑みを浮かべるちーちゃんに、私はほっこりする。

 そんな私の横で、(ほむら)は若干呆れたような顔をしていた。


「勝利って、色気ねぇなぁ……。単純に可愛いからとかじゃないのかよ」

「女の世界はね。常に戦いだから」

「何だそりゃ」


 偶に思うんだけど、(ほむら)の中の女の子像、おかしくない?

 女の子なら必ずピンクが好きとか思ってない? 大丈夫?

 遠い目を浮かべていると、ちーちゃんがムッと眉を吊り上げて(ほむら)に食って掛かった。


「女の子はね、可愛いだけじゃやっていけないのよ。その辺、(ほむら)くんは全然分かってないよね」

「えぇー? そんなこと言われてもなぁ。じゃあ、今年のプレゼントもダメだったのか?」


 (ほむら)が用意してたのは、愛らしいリボンの髪飾りだ。

 ハーレム漫画のメインヒロインなちーちゃんは、正直なところ何を付けても似合うけど、この髪飾りを付けた時の愛らしさは天元突破。マジやばたにえんな感じなので、(ほむら)のセンスの良さが窺えたけど、確かに分類は可愛い系だ。レース付きな上にピンク色だし。

 受け取った時、ちーちゃんは喜んでたっぽかったけど、実は大人の対応だったのだろうか。そう思ってちーちゃんの反応を見ていると、ほんのりとほっぺが赤く染まっていた。あらヤダ、可愛い。


「そ、そういうことじゃないよ。あれは……か、可愛くて好きだし……」

「何か、女子の世界って難しいな。まぁ、喜んでくれたんなら良いけどさ」


 照れたように視線を逸らすちーちゃん、マジツンデレ。

 (ほむら)が、困ったように私の方を見てくるけど、問題なしだよこれは。ただのツンデレだから。

 ニヤニヤしていると、呆れたような視線を頂戴した。でも今日は許すよ。ちーちゃん可愛いから。


「可愛さだけじゃダメって言うんなら、もしかして悠馬(ゆうま)のが一番良かったのか?」


 ふと、といった感じで(ほむら)が首を傾げた。

 確かに、ゆーちゃんのプレゼントはなんていうか……とても実用的だった。

 一応プレゼント用に包みに包まれた、学習ノート10点セット。

 小学生の身空でもらえば、一番ありがたいプレゼントと言えよう。嬉しいかは別として。


 ちーちゃんは、(ほむら)の質問を受けて、非常に嫌そうに眉間に皺を寄せた。

 ……一番良い訳じゃなかったんだろうな。


「あんなの、女の子の誕生日にあげるプレゼントじゃないよ」

「あんなの!?」


 やや離れたところで、委員長とおしゃべりしていたゆーちゃんが耳聡く聞きつけて駆け寄って来た。

 良く聞こえたな、ゆーちゃん。今のちーちゃんの感想、呟きって言っても良いくらい小声だったんだけど。

 竹馬の友の声はどれだけ遠くにいても聞こえるということだろうか。


千歳(ちとせ)。人からもらったプレゼントに文句言うなんて、サイテーだぞ」

「う、うるさいなぁ。わたしのこと考えて選んだものじゃないの丸分かりなもの、どうやって喜べば良いのよ!?」

「何だと!?」

「何よ!?」


 な、何と言うことだ。

 私が竹馬の友とか言ってる間に、ちーちゃん&ゆーちゃんの天使コンビの睨み合いが始まってしまった!

 今までも、ちょいちょい口喧嘩するような仲ではあったけど、これはなかなかに険悪だ。どうしよう。


「うわぁ。珍しいですねぇ、2人がここまで熱くなるの」

「喧嘩する程、と言いますが……如何致しましょうか?」

「俺らが口出す問題じゃなくないか?」


 (おみ)君は、ちょっと驚いているようで、思わずといった様子で呟いた。

 (まさ)君もそれを受けて、どう振る舞うべきか私に問いかけて来た。

 (おみ)君は、口出し反対派みたいだけど、さて、どうしたものか。


「折角の誕生会なんだから落ち着けよ、な?」

(ほむら)君は黙ってて!」

「これはオレたちの問題だから!」

「……お、おう……」


 (ほむら)弱い!!

 勇気を出して止めに入った(ほむら)だけど、敢え無く散ってしまった。

 すごすごと逃げ帰って来る姿は、何とも情けない。

 生暖かい視線を送ったら、悔しそうに睨まれてしまった。


「……2人はどうしたんだ?」

「仲良きことは美しきかなって言うでしょ。あれはそーいうんだよ」


 委員長も不安そうに視線をさ迷わせている。

 さっちゃんは……呑気にもぐもぐとお料理を頬張ってるけど。


「主君。拙者がお2人を引き離しましょうか?」

「いや、ゴメン待って。ハットリくん何持ってるの?」

「縄でござる!」

「それで引き離すの?」

「然り! ぐるぐる巻きにするでござるよ!」

「却下ぁ!!」


 子どものケンカに、強制的に介入するのもどういうことだって話だけど、それ以前の問題だ。

 縄でぐるぐる巻きにして引き離すって、それどんな拷問!?

 ……はっ、またツッコミを入れてしまった。ハットリくん、恐ろしい子……。


「マジでどうするんだ? 元はと言えば、俺らのくだらないやり取りがキッカケだろ?」

「そりゃまぁ確かに」


 可愛いのがどうとかいう話から発展したような気がする。

 割といつも適当に会話してるから、ちょっとあんまり覚えてないけど。


「とりあえず止めるよ。……ハイハイ、どーどー! 2人とも、落ち着いてぇー」


 敢えてのんびりした口調で間に割って入る。

 私も双子も、それこそ本気出せば力づくで引き離すことは出来るけど、そこまでする問題ではない。ささやかなじゃれ合いみたいなものだからね。

 とは言っても、もっと軽い喧嘩ならスルーで良いんだけど、今日は何だか熱量がおかしいから割って入ることにした。


「……別に、オレは落ち着いてるよ」

悠馬(ゆうま)からケンカ売って来たんじゃない!」

「お前がオレのプレゼントに文句付けたのが先だろ!」

「それはっ……」

「はいはいはいはい!! 落ち着いてぇー!!」


 隙あらば喧嘩に発展してしまう。

 楽しい誕生日会なんだから、楽しく過ごそうぜベイビー。

 内心でちょっとボケつつ、双方の主張を整理する。


「えーっと、2人ともケンカの原因は分かってる?」

「……千歳(ちとせ)がオレのプレゼントバカにしたこと」

悠馬(ゆうま)がわたしのことサイテーとか言ったこと」

「ふむ」


 実際、今回に関してはちーちゃんが悪い子ちゃんだと思う。

 何にせよ、人からもらったものを「あんなの」扱いはよろしくないだろう。

 でも、根本はそこにはないと考える。

 私はそっとゆーちゃんに疑問を投げかける。


「ゆーちゃんは、そのプレゼント、本当に「これで良いや」ってテキトーに選んだの?」

「えっ?」

「ちーちゃんへのプレゼント、何も考えずに決めた?」

「…………」


 ムッと口元を引き結んで、視線を泳がせるゆーちゃん。

 その様子を見て、ちーちゃんの表情が更に険しくなる。

 藪蛇だったか? と、一瞬不安がよぎったけど、素直なゆーちゃんは答えてくれた。


「そんなことない。最近、千歳(ちとせ)が勉強頑張ってたらノートすぐなくなるって言ってたから。今一番必要なんじゃないかって考えたんだ」

「わ、わたし、そんなこと言ってたっけ……?」


 今度は、ちーちゃんが呆然とした顔になった。

 本当にその場のノリみたいに言った発言だったんだろう。

 ゆーちゃんは、不機嫌な感じで頷く。


「……わ、わたし……のこと、考えて選んでくれたの?」

「……当たり前だろ。友だちだし……」


 今、私は非常に尊いものを目撃しているような気がする。

 感極まってる場合じゃない。私は、そっとちーちゃんの背中を撫でた。


「ちーちゃん。今、何を言えば良いか分かるよね?」

「……瑞穂(みずほ)ちゃん」

「うん」

「……分かる」


 迷子みたいに、泣きそうな顔をするちーちゃんペロペロとか言ったら今は絶対にダメなシーンだ。

 私、何を言っちゃいけないか分かってるよ。だから、(ほむら)。その顔、やめて欲しいな。絶対今空気読めないこと考えてるだろみたいな顔、本気でやめて欲しいな!


「……あのね、悠馬(ゆうま)。ごめんなさい。わたしが悪かった」

「! 千歳(ちとせ)……」

悠馬(ゆうま)、わたしのことなんてどうでも良いって思ってると思ったの。ノートなんて、プレゼントじゃないって。……でも、悠馬(ゆうま)はわたしのこと考えて、ノートをくれたんだね。わたし、勘違いしてヒドイこと言っちゃった……」


 もう一度「ごめんなさい」と言って、頭を下げるちーちゃん。

 ツンツンしてるちーちゃんの、素直な謝罪に、ゆーちゃんはバツが悪そうに眉を下げながら首を横に振った。


「オレも……あんまプレゼントっぽくないの分かっててあげたし……あんなのとか言われたくらいで怒ることじゃなかったよな。オレこそ、ごめん」

悠馬(ゆうま)……」


 感動の一シーンである。

 私は、そっと2人の手を取って握手を促す。


「はい、これで仲直り! ね?」

「……うん」

「ああ」


 キュッと繋がれる、小さな2人の手。

 心のファインダーに写しておかなければ。パシャパシャ。


「いやー、万事解決ですな!」

「流石は主君でござる!!」

「えへへ! もっと褒めて!!」

「よっ、お嬢! 大統領!」

「素晴らしき手腕でございました」

「いや、台無しにすんなよ、そこ!!」


 ハットリくんと、(おみ)(まさ)君が褒めてくれる中、思い切り胸を張っていると、(ほむら)から大いにツッコミが飛んで来た。

 いや、だってしんみりするのは苦手なんだもの。


「よーし、じゃあ気を取り直して楽しみましょー! ……って、委員長どうしたの?」

「感動して泣いてる」

「……ほんとうによかった……ぐすっ……」

「ええ!?」


 と、そこからは、友だち同士の仲直りという感動イベントに涙してしまった委員長の慰め会へ発展してしまった。

 でも、今日もとっても楽しい日でした。まるっ!


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