95.学級委員にゃなりたくない
「青島、学級委員に入ってくれないか?」
「よーし、瑞穂。お前、学級委員やるよな? な?」
「は? いや、2人ともどうしたの? 何かちょっと怖いよ」
どうもこんにちは。皆のアイドル青島瑞穂です!
……なんて冗談はさておき。
今、私は廊下で2人のイケメンから左右壁ドンで迫られています。いやんっ、私、どーなっちゃうのー?
「おい、お前今ふざけたこと考えてるだろ」
「なな、何のことじゃろうのう。最近、とんと耳が遠くなって」
「何処のジジイだ!!」
「ヒドイ! せめてババアって言って!!」
「……どちらも酷いと思うが」
焔に、頭をぐわしと握られて叱られつつ、ひとまず反省する。
真面目に回想をすれば、他クラスの焔と委員長が、学級委員になることになりそうなので、私もなれ、と言いに来ていたのだ。
「って、何で私まで学級委員やんなきゃいけないのー!? ヤダよ。今年こそは別の委員会やるんだから」
「俺らだけそんな面倒くさいもんやらされて堪るか! お前も道連れにしてやる!!」
「ひでぇ!!」
焔と正面切って手を握り合って、グググと力を込め合う。
負けたら倒れる。真剣勝負である。ファイッ!!
「青島が、本当に嫌だと言うのならば仕方がないが、俺は青島ほど学級委員に相応しい人間はいないと思っている」
「え。突然の委員長の高評価。どうしよう、私明日死ぬのかもしれない」
真剣な表情で委員長に真っすぐ見つめられた私は、とりあえずふざける以外の選択肢が思い浮かばない。
だって、どうしたら良いの? こんなに真っ直ぐな良い子に、学級委員に向いてると思うよ! なんて言われたら、諸手を挙げて感謝する以外にある?
でも、そうしてしまえば、私の今度2年間は学級委員で固定になってしまう。
そ、そそ、それだけは! 深い理由はないけど!
「アホみたいな顔で何言ってんだ、お前」
「焔の毒舌が心地良く思える日が来るとはね……もっと罵って!!」
「どういうことだよ!?」
いや、焔に冷たい視線を向けられれば、アイデンティティー保てる気がして。
あれ、私、調教されている!? そ、そんなバカな!
「てか、そんだけふざけてても微動だにしないとか……お前、マジで化け物に片足ツッコんでないか? てか、既に化け物?」
「突然のディス! そっち方面での罵りはご辞退申し上げるー!!」
「力、強っ!!」
とおっと気合を入れて押し返したところで、組み合っていた手が解かれる。
いや、焔も刀柳館通ってない割りには力あると思うよ。
「それで、難しいのだろうか?」
「委員長のスルースキルが高すぎて辛い」
「? するーすきる……」
私と焔の、仁義なき下らないやり取りを一切気にせずに、真面目な雰囲気を崩さずに尋ねて来る委員長が強い。
若干その辛さに震えつつ、思わず呟いた言葉に反応した委員長は、こてりと首を傾げた。
何故か舌足らずになる委員長が可愛くて、思わず真顔になる。ここが桃源郷か。別の意味で辛いわ。
「む、難しいって言うか、私も色んな委員会を試してみたいなーって」
「そうか……。俺は、クラスが分かれてしまっても、青島と同じ委員会に所属出来たら良いと思ったんだが……仕方ないな」
表情は特に変わらないんだけど、委員長のバックに段ボールが見える。
捨てられた子猫たちが入った段ボールには「ひろってください」の文字。
……何故だ! どうして、学級委員になりたくないと言うだけで、こんなに罪悪感が襲い掛かって来るんだ!! ここが修羅の国か!!
「ねー、焔」
「また何か馬鹿なこと言うなら、いい加減無視するぞ」
「ええっ、そんな!! 見捨てないでよ、焔! いや、ほむほむ!!」
「マジでそのふざけたあだ名で呼ぶんじゃねーよ!」
「あてっ!!」
スパーン、とはたかれる。
よし、いつもの流れでちょっと落ち着いたぞ。ついでに深呼吸だ。ひっひっふーひっひっふー。
「呼吸法が間違ってる!」
「なんて的確なツッコミ!!」
考えていることにまでツッコミを入れるとは、流石のひと言である。
「それはともかく……悪いけど、やっぱり私今年は……」
「あ、みずほ。さっき担任が、あたしたちに学級委員やって欲しいって言ってたから、良いよーって答えといたからヨロシク」
「え?」
「じゃ」
「……え??」
あれ、今颯爽とさっちゃんが通り過ぎて行ったような気がするんだけど。
あれ、おかしいな。今、休み時間だよね。
どうして委員会について担任が言及することがあるの??
「あっ、瑞穂ちゃん。今さっき、明佳ちゃんが先生と、瑞穂ちゃんが学級委員長になるって話してたけど、本当に? 今年はオレと体育委員やるって言ったなかった?」
「えっ、あれ、ゆーちゃん? あれ、これ、現実かな??」
……何と、知らない間にマジで委員会が決定されていたようだ。
これ、モラハラとかパワハラとかいうものじゃない? 平気なの?
「ふーん、何だ。俺らが頑張んなくても良かったんだな」
「ちょっと待って焔、何そのニヤニヤ笑いは」
完全に表情が、「日頃の行いのせいだ」と言っている。
何と言うことだ! 私ほどの優等生を捕まえて、まるで問題児を見るかのように見るなんて!
むすーっと半眼で睨みつけたら、また叩かれた。くそうっ。頭部のニューロンが死滅したらどうしてくれるんだ。
「……すまない、青島」
「え、さっちゃんのこと? 全然気にしないでよ。さっちゃんて、ほら、マイペースなところあるし」
「いや、違う」
ニヤニヤと楽しそうな焔とは真逆に、委員長は酷く申し訳なさそうな顔をしていた。
幼馴染の蛮行に、胸を痛めているのだろうかと思ったら、どうやら違うらしい。なんぞ?
「青島は、学級委員になりたくないと言っていたのに、明佳のせいで無理やり所属することになったと聞いて……俺は、喜んでしまった」
「あ、うん」
面と向かって言われると、だから照れるんだってば。
というかそれ以上に、委員長。何でそんなアンニュイ顔怖いの。照れを上回っちゃうよ、恐怖だよ。
最近折角、表情が穏やかになってファンも増えて来たって言うのに。
「……俺は、友だちの意志を尊重することも出来ないらしい」
「いや、それそんな気にすることじゃなくね?」
焔が見かねて口を出すと、委員長は少しだけホッとしたようだ。
「そうだろうか?」
「ああ。しかも相手は瑞穂だから、別に何の問題もないって」
「それは私に失礼じゃないかね!?」
私が思わず言い返すと、委員長の表情が暗くなる。
ああっ、しまった! これは孔明の罠だ!
私が言い返せば言い返す程、善意の委員長が落ち込んでしまうという悪循環の罠。
焔……なんて恐ろしい子。
「陽介くんは悪くないとオレも思うよ。でも、残念だなぁ……今年は折角同じクラスになれたのに」
「ゆーちゃんは、ほら。しばらく隣の席だから良いじゃん?」
「んー……そうなんだけどさぁ」
不満顔のゆーちゃんも、とっても平凡で可愛い。胸がキュンキュンする。
ほっこりしていると、少しだけ気を取り直したらしい委員長は、薄く微笑んだ。
「ありがとう、皆。皆といると、こうした感情の波も普通のことなんだと分かるよ」
「相変わらず重苦しいなぁ、柊は。そんな何でもかんでも真面目に考えなくても良いんだよ」
「そうなのか……赤河は賢いな」
「……マジで頭の良いヤツに言われたくないわ」
「というか、そんなに色々考えてたら疲れない?」
まぁ、類は友を呼ぶって言うか、私の周辺結構考え過ぎる系の人が多いけどね。
とりあえず、小首を傾げるゆーちゃんは可愛い。
「ま、なっちゃったらしいものは仕方がない。委員長、今年もよろしくね!」
「ああ」
「焔もね」
「おう」
こうして、私は今年も学級委員に所属することになったのでした。
「あ。因みにあたしが副委員長だから」
「ナンダッテー!?」
「ほ、焔死ぬなー!!」
不定期更新中ですー。