94.クラス替え(5年生編)
さてさて。忍者ことハットリくん(仮名)を仲間に加えた私たちは、早速魔王の居城へ……なんて、突然の方針転換は特になく。気付けば、とうとう5年生としての初登校日を迎えた。至って平凡、良き哉である。
「いやー、お嬢たちももう小5かー。月日が経つのは早いですねぇ」
学校までお見送りに来てくれた臣君が、何だかおじいちゃんみたいなことを言い出した。
「プハッ! 何、臣君その言い方。おじいちゃんみたいだよー?」
「えっ、そんなジジくさかった!?」
私が噴き出すと、臣君は照れたように目を逸らした。
臣君のこの手の反応は珍しい。私はつい調子に乗って、つんつんと脇腹をつついてやった。
「苦しゅうない、苦しゅうないぞ、臣君!」
「あーれー、お代官様ー! そのようなイジリはおやめになってぇー」
「何処の悪代官だよ!!」
私のボケに臣君は笑いながら乗ってくれて、いつもの如く焔からは激しいツッコミを頂戴した。苦しゅうないけど、愛が痛いよ。
「ところで、臣君たちはこうしてのんびりしてて良いの? 私たちは全然間に合うけどさ」
いつも以上にのんびり歩く私たちに合わせてたら遅刻しないだろうか。
大学は、カリキュラムによっては結構厳しいのに。
首を傾げていると、雅君が答えてくれる。
「僕らの受ける講義は少し遅いので、問題ありませんよ」
所謂1時限目じゃなくて、2時限目から受けるらしい。
それなら、比較すれば小学校の開始時間の方が早いかと納得する。
「なら良いんだ。……因みに、ハットリくんは? 中学生だよね?」
「はいっ! 拙者はこれより学校へ向かいたいでござる。主君、許可を頂けますか!?」
「許可願い出すの遅ぇな!!」
ハットリくんの直前過ぎるお願いに、思わずと言った様子で焔がツッコミを入れる。流石はキレの良いツッコミの定評のある焔である。
良かった。ボケ担当らしいハットリくんと一緒にいると、何故か私までツッコミ属性に転化させられちゃうから、困ってたんだよね。これからは、ハットリくんへのツッコミはすべて焔に任せよう。私、ボケだからね。
「……お前、また何か面倒くせぇこと企んでねぇ?」
「き、キノセイジャマイカ!?」
「隠す気あんのか!?」
さーせん。あります。
「それで、主君。如何でござろうか?」
首を傾げたハットリくん。相変わらずの忍者衣装なんだけど、そのまま学校行くんだろうか。
因みにこのハットリくん、身柄を預かってからの1週間と少し、特に怪しい行動はしていない。寝ている間に、首を取りに来たりするかと思ってたんだけど、私以上に安眠だった。いや、忍者なのに夜活動しないんかいと、思わず内心でツッコんでしまった。悔しい。
昼間も、従順に私の後ろにをついて来て、指示はないかとか逐一聞いて来て、たくさんパシッてもらったりして、その度に焔から私が怒られるという平和な日々だった。
……という訳で、隠し事はたくさんあるハットリくんだけど、私の目の届かないところに行くこと自体は問題ないと判断してる。
何かが起きた時は、とりあえず全力で責任を本人に押し付けようと思う。私ワルクナイ。
「いーよー。あ、一応聞くけど、ハットリくんの学校ってドコ?」
「答えられないでござる!」
「本当にお前そればっかだな!!」
またしても焔からの激しいツッコミが。
ありがたや。あと一拍遅かったら、私がツッコミを入れてしまっていた。
アイデンティティーが崩壊するから、是非ともやめて頂きたい。
「然らば主君。御前を失礼させて頂くでござる。御免!!」
――ドロンっ!!
「うおお! 本当に煙出た!!」
印を結ぶと言えば良いのか、ハットリくんがニンニン的に手を組むと、直後ハットリくんのいた場所を煙が立ち込めて、かき消えると同時にハットリくんの姿も消えた。
ヤバイ。マトモな忍術初めて見た。ハットリくん、ただ忍者を自称するイタイ子じゃなかったんだ。
変な感動を覚えたことを本人に言ったら傷付けそうなので、墓場まで持っていくことにしつつ、私は皆の方を見た。
「よーし、じゃ学校行こうか!」
「おー」
焔が、ゲンナリした感じで頷いた。
どうやら、ハットリくんのツッコミは疲れるらしい。
全力で同意したら、お前が言うなって言われた。な、何故に……!?
◇◇◇
「……おはよう、青島、赤河……」
「おはよー、委員長! って、めっちゃ暗いけど大丈夫??」
クラス振り分け発表が張り出されたところで、いつも以上にどんよりとした顔をしている委員長と遭遇した。
表情自体は、あんまり分からないけど、もの凄く重苦しいオーラを背負っているのだ。ど、どうしたんだ、委員長!
「……青島と別れてしまった……」
睨みつけるような勢いで表を見つめる委員長。
ああ、そっか。私と別れて悲しいのか。……って、そこまで!?
「い、委員長……そんなに私のことを……!!」
「……寂しい」
「委員長ぉー!!!」
ガシッと抱き締めたら、おずおずと手を回された。
背中に感じる委員長の手は、小さく震えている。
そ、そんな! こんな捨てられた子犬のような委員長を置いて別のクラスに行くなんて私出来ない!!
「先生! 先生ぇー!! 私っ、今からでも委員長と同じクラスにっ」
「馬鹿なこと言ってんなよ……」
「いてっ」
スパーン! と思い切り後頭部をはたかれる。
ほ、焔……ちょっとくらい遠慮をだね。
「瑞穂ちゃん! 今年は、オレとおんなじクラスだよ! やったね!!」
「ゆーちゃん!」
タタターッと天使が駆け寄って来た。
満面の笑みで、私の手を握った天使ことゆーちゃんは、嬉しそうにしている。
そっか。委員長とは別れちゃったけど、ゆーちゃんとは一緒なのか。
「……私、また瑞穂ちゃんと違うクラスだったの……」
「ち、ちーちゃん!!」
反対に、この世の終わりみたいな顔で現れたのはちーちゃんだ。
流石のメインヒロインは、そんな暗い顔をしていても可愛いんだけど、可哀想だ。
「みずほはもう見て来た? 赤河がボッチでウケるよー」
「おはよー、さっちゃん。……え、焔ボッチなの?」
「そう。女子多めのクラスだし、見てる分には面白そーだけど」
ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべるさっちゃんは、とにかく楽しそうだ。
さっちゃんの場合、何処のクラスに振り分けられようが楽しめそうで羨ましい。……いや、私もどのクラスだろうが楽しむ所存ですけどね?
「お嬢様は、5年3組のようですね」
「確認も取れたし、俺らは行くか。これ以上大学生がうろついてたら迷惑だろうし」
「2人とも、ありがとう」
勿論、私からもクラス分けについては帰ったら報告することになってるけど、別枠として双子も確認するように言われていたぽい。
信用の有無の関係じゃなくて、本当に一応、ということなんだろう。
2人は、笑顔で手を振って出て行った。
「……ヤバイ。俺、あんま仲良いヤツがいなかった……」
「大丈夫、焔?」
「頑張る」
自分でもクラス分けを見たらしい焔が、やっぱりズーンとした顔をしていた。
まぁ、確率的にも全員一緒になるってのは難しいしね。
「どれどれ……?」
今もしょんぼりしている委員長をよしよししつつ、ゆーちゃんに手を握られつつ、私は遠目にクラス分けを確認する。
こう見えても目は良いので、ちょっと離れてても大丈夫なのだ。えへん。
見てみると、5年1組に焔。5年2組に委員長とちーちゃん。5年3組にゆーちゃん、さっちゃん、そして私という感じだった。
やだ、私ったらゆーちゃん&さっちゃんコンビと一緒? なかなか新しいな。
「よーすけ、いつまで落ち込んでんの? 決まったもんは仕方ないでしょ。情けないよ」
「……うるさいな」
「別に二度と会えなくなるワケでもないんだし、いー加減はなれてやんなよ。みずほ、暑そーだよ」
「……すまない、青島」
さっちゃんから、厳しすぎるコメントをもらった委員長は、しょんぼりしたまま私から離れた。
全然暑くないどころか、珍しく傷心中の委員長が激しく可愛かったので、私はモーマンタイだったんだけど、言ったら委員長が更に落ち込みそうなので黙っておく。
「いーえ。ちょっとは元気出た?」
「……ああ。青島は温かいな」
ふわりと微笑む委員長。
よしよし、とりあえずは大丈夫そうだと胸を撫で下ろす。
ここしばらくで、委員長の冷血ブリザードな笑顔も、随分と柔らかくなった。
これなら、ちーちゃんも一緒だし、もっと友だちが増えることだろう。
「へへっ。オレ、瑞穂ちゃんといっしょ! いっしょだー」
「テンション高っ。ホント、みずほモテモテだよねー」
ニコニコと手を繋ぐゆーちゃんが悶絶級の可愛さでどうしよう。
悶える私に、さっちゃんから冷たい視線を頂戴したけど、気にならないレベルだ。
そもそも、さっちゃんもアレだからね。ツンデレだからね。
「えへへー。さっちゃんも手、握っても良いんだよ?」
「誰が。暑苦しいのキライだし」
「もーっ、さっちゃんのツンデレさん!」
「ウザー……」
と、そんな感じで5年生の年は幕を開けた。
いやはや。今年も楽しくなりそうで、余は満足である! なんちゃって!




