09.お兄ちゃんが出来た!?
「焔ー、瑞穂ー!」
「父さん?どうかしたんですか?」
「お早いお帰りですね」
「この前言ってた事だけど」
「「?」」
「二人は凄く良い子にしてたから、お兄ちゃんを作って来たぞー!」
「……どうも」
「はじめましてー!」
「「!!??」」
◇◇◇◇◇
伯父さんのとんでも行動。
一体どんな行動か?
今の会話でお気づき頂けたと思う。
本気でお兄ちゃん?作っちゃったよ!
詳細は今の所不明だ。
と言うか、あまりの出来事にショートしてしまった頭が、状況を理解しようとしていない。
おう、落ち着け私。
まずは深呼吸だ。
ヒッヒッフー…それはラマーズ法!!何を産む気だ、私!
いや、真面目に落ち着かないと。
隣を見ろ、私。
良い子にしてたからワンちゃん買って来てあげたよ!みたいなノリで父親から、お兄ちゃん作って来たよ!と言われた焔を見ろ。
完全に白目剥いてるよ!
私が落ち着かないと、この場が更に混沌とする事請け合いだ。
メーデーメーデー!
常識からかけ離れたこのセリフが、決して冗談で言っている訳ではないと、まだ数年の付き合いとは言え分かる。
分かるからこそのこの衝撃度。
よし、大分落ち着いて来た。
今のセリフの詳細について、先に幾つかのパターンを想定しておこう。
これ以上、想定外の事態に見舞われたら、心が壊れる自信がある。
常識?何それ美味しいの?って、流石に素で言いたくはない。
パターン一。
捨て子、拾いました。
……駄目だよ!そう言う施設に連れて行かないと!
あの話をしてから、まだたった数日。
仮にそんな大変な子を拾ったのなら、手続きやら何やらで、紹介はもっと遅れるはず…パターン一は無いな。よし。
ただ、このパターンだった場合、伯父さんは結構良い人だ。多分。
パターン二。
ヤバい組織から買いました。
……もっと駄目だよ!!犯罪だよ!!
日数的にはあり得そうなのがまた何とも怖い。
いや、そんな裏事情を知っている訳ではないので、何とも言えないけど。
奴隷的なものを買うのに、それ程日数は必要じゃないような気がする。
……さ、流石に伯父さんにも良識はあるよね。
よし、パターン二は無いな。
と言うか、違いますように!!
パターン三。
実は親戚の子。
これは良い。
要するに、私とは違う方向の従兄弟とかはとこを連れて来たパターンだ。
細かい法律上の手続きとかをしたのではなくて、単に一時的に、お兄ちゃんだよと言って、数日を過ごさせる。
日数的には、伯父さんの交渉力があれば問題なく進められるはず。
これは一番現実的だな。うん。
寧ろ、何だパターン一と二は。
流石オタクだな、私。
……いやいや、ライトなオタクでしたけどね、私は。
パターン四。
実は交換留学生的なのを受け入れた。
これもアリだな。
人道的にも良い。
だけど、あの話が出てから進めたにしては、やっぱり早すぎる。
それに加え、そもそも連れられて来たお兄さん達は、どう見ても日本人だ。
ナシか。
パターン五。
マジで作って来た。
ないな。落ち着こう、私。
幾ら伯父さんが金持ちで実行力がある人とは言え、人工的にお兄ちゃんを作るなんて不可能だ。
転生なんてファンタジックな体験してるからと言って、流石にその考えは無い。
私、実は結構テンパッてるな。ウケる。いや、全然ウケない。
パターン六。
作った、と言うのは言い回しで、本当は元からいた。
……伯父さんの良識を更に疑う事になるこの考えは、進めないでおこう。
別の女の人に産ませてたんだ、なんて言われた日には頑張って縁を切る。
是非とも修羅場を見る前に家を出たいと思う。
本当に実の兄とは思わないかって?
いや、だって私にも焔にも似てないし、このお兄さん達…。
オーケーオーケー。
最も落ち着いて受け入れられるのは、パターン三だな。
パターン三であってくれ。
「瑞穂。親父が余所で作って来た子供だったらどうしよう」
「落ち着いて、焔!その考えは危ない!!」
顔面蒼白に呟く内容がえげつない。
私は、流石に焔を励ました。
十四歳くらいの子供が思いついて良い選択肢じゃないよ。
それにしても、暗い事思いつくね、焔。
え?私は、焔より大人でしたから。
「ん?どうした、二人共。嬉しさのあまり声も出ないか?」
伯父さんの頭はお花畑で出来てるの!?
ニコニコ言う事じゃない。
伯父さんは、仕事で発揮する能力の一割で良いから、私達との会話に能力を発揮するべきだと思う。
勘が悪い、なんて言葉で済ませられない内容だ。
斜め上の解釈が悪いとは言わないけど、ちょっとドン引きだよ!!
「緊張するのは分かるけど、まずは挨拶だ。ほら、二人共」
「…ほら、焔」
「……赤河、焔です。よろしくお願いします」
「青島瑞穂と申します。よろしくお願い致します、お兄様!」
とりあえず笑っとけ!
促されて、名乗りを上げる私達を、お兄さん達はジッと見ている。
どんな状況で連れて来られたか知らないけど、急に弟と妹だよーって説明されて困惑しないはずがない。
ここは大人の余裕を持って、緊張を解いて差し上げねば。
「まだ小さいのに、偉いですねー二人共」
「…クソガキ。…いっ!!」
「旦那のお子さん達に何て言い草だ、マサ!」
「!?」
最初に、地毛なのだろう、ふわふわの薄茶色の髪をしたお兄さんが、柔らかな笑みを浮かべながらしゃがみ込み、私の頭を撫でた。
間延びした声は、朗らかな印象で、細かい事はさておき、仲良くなれそうな気がした。
次いで突如悪態をついて来たのは、顔立ちは良く似ているけれど、髪の毛に癖が無くて、目元を隠すくらい前髪を伸ばした、ツンケンしたお兄さん。
兄弟なのかなー、なんて思っていたら、ふわふわしたお兄さんがキレた。
止める間もなく、ツンケンお兄さんの頭にゲンコツ。
口調も、私達に対するものとは全く違っていた。
「…み、瑞穂。コイツらマジで大丈夫なのか…?」
「さ、さぁ…?」
流石に怖くなったのか、焔が私に寄り添って来る。
私は、怖いと言うよりは訳が分からん、と言う疑問の方が大きかったから、別に盾にされる事に文句はない。
安心出来るのなら、幾らでもお姉さんに寄りかかりたまえ。うん。
「申し遅れました。俺は双子の兄の晴臣と言います。よろしくお願い致します」
「…どーも。弟の晴雅」
「晴れる大臣と優雅さ。漢字も綺麗だろ?」
「旦那様、流石にそれでは分かりません」
「それもそうか。……っと、こう書くぞ」
「わぁ、綺麗!」
「だろう?」
双子か。道理で似ていると思った。
改めて観察してみると、何とまぁ整った顔立ちの双子だ。
兄の晴臣君。
中学生くらいだろうに、既に感じられる謎の色気。
背は高く、既に百七十はあるような印象を受ける。
学ランを着ていて、口調とは裏腹に、ざっくり着崩している。
前は開いていて、中には赤いパーカ。
流石に腰パンはしていないけど、ちょっと不良っぽく見える。
でも、そんな印象を打ち消してやまない、爽やかな笑顔。
身長に反して、まだあどけないクリクリとした目が愛らしい。
ふわふわの薄茶色の髪と合わせて、まるで王子様みたいだ。
うん、イケメン。
弟の晴雅君。
身長などの体型は、双子らしく殆ど同じだ。
だけど、受ける印象は全く異なっている。
憮然とした表情は、刺々しく、普通なら何あの人、愛想ないわね、となる所が、
晴雅君は、その切れ長で涼やかな目元のお陰で、格好良くしか見えない。
晴臣君に比べて細い目を気にしているのか、見られたくないのか、単に面倒なのか、長い前髪で覆っているけれど、それに負けない目力の強さと言ったら。
その表情に対応したツンケンな態度はクールな一匹狼のソレだ。
だと言うのに、服装は真逆を行く。
学ランは、誰も閉めない一番上のボタンまで閉めていて、ちょっと苦しそう。
皺ひとつないし、ビシッとした印象は、まるで軍人みたいだ。
うん、イケメン。
「あの、父さん。お兄さんって、どう言う事ですか…?」
「ん?」
意を決して、焔が尋ねた。
偉い、よくぞ聞いてくれました!
内心で褒め称えつつ、私も伯父さんの答えを待つ。
「あぁ、昨日外出先で、家庭の事情で困り果ててる二人を見つけてな。助ける代わりに、家で働いてもらう事にしたんだ」
「家庭の、事情?」
「本当なら、助ける所で終わっても良かったんだが、二人がどうしても恩返しをしたいと言うものだからな。瑞穂が兄を欲しがっているのを思い出して、二人が一人立ちするまでの間、瑞穂の兄代わりとして、身辺警護を頼む事にした」
「はい?」
身辺警護って、何処のお嬢様だ。
確かに私は、赤河の血を引いてはいるけれど、青島の娘だ。
別に、そんなの要らないはず。
そもそも、長男である焔につけないで、私だけ?
そんな疑問を抱いたのに気付いたのだろうか。
伯父さんは茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべた。
「大丈夫。二人の身辺警護には、既に優秀なSPを数人付けている」
「えっ?」
「はっ?」
「コイツ等も、まだ素人だが、西に付けて訓練を受けさせる」
「ええっ?」
「はいっ?」
「心配は一切要らないぞ!あっはっは」
笑い事じゃない。
寧ろ、今の何処に笑う要素があったのか、伯父さんや。
私達…一回もそのSPさんとやらに会った事ないんですが。
今この瞬間も見張られているのかと思うと、冷や汗が流れる。
私達、危ない会話してなかったよね?
いや、でも前世とか何とかって、もしかして筒抜け……。
怖くなるから止めよう。
考えても仕方のない話だ。
伯父さんがその話を切り出さないのは、知らないからか、敢えてなのか。
結果は、恐らく変わらない。
「そう硬くなるな。お前達は、俺の可愛い息子と姪だからな」
「……はいっ」
「?」
焔は気付かなかったみたいだ。
けど、多分伯父さんは分かっている。
やだ伯父さんたらやっぱり実は優秀。
「これからしばらくは訓練にかかりきりになるが、それが終わったら、お兄ちゃんと一緒に過ごせるから、楽しみにしてるんだぞ!」
「あ、ありがとうございます」
「分かりました…」
「よし、それじゃあ行くぞお前等」
「かしこまりました。それじゃあ、また今度会いましょーね」
「……ふん」
伯父さんは、二人を連れて出て行って、部屋には私達だけが残される。
その直後、思わず盗聴器とか他の人の気配を探った私、悪くないと思う。
「おい、お前が馬鹿な事言うから変な事になったじゃねーか」
「失敬な。流石に私でも想定出来なかったよ」
どのパターンでもなかったし。
「でも、まさかマジで代わりとは言え、お兄ちゃんを作って来るとは…」
「なー。漫画ではそこまで書いてなかったから知らなかったけど、やっぱあり得ないだろ、あの人の行動力」
「息子に何人も許嫁作るだけでもう十分あり得ないと思うけどね」
「それを言うな」
伯父さんに対する感想を、それから思い切り言い続けた私達。
やがて、一つの結論に至るのだった。
「やっぱり、これだけは肝に銘じておこう」
「そうだな。親父には、」
「伯父さんには、」
「「絶対、余計な事は言わない!」」
そんな、重要な事を学んだ、ある日の出来事でした。
ホント伯父さんとんでもねーな!!
西さんの名前が挙がった事に、瑞穂さんは気付いていない為、運転手が訓練ってなんだよ!とツッコミを入れていません。
何故か。転生者って気付かれた?と言う不安で頭いっぱいだったからです。




