7.押さえて、剣さして、尻尾チョン
「下水道? ネズミ駆除?」
ソアラさんからの申し出に俺たち二人してクビをかしげる。蓄音機の前にいる犬の首の角度だ。しかもダブルで。いぢめる?とか言えばまた違うキャラになるポーズである。
「下水道って、ドブのことじゃ無いんですか?」
瞬がホエッ?て顔で聞く。
あのですね、と瞬の疑問と合わせてソアラさんがこの件の事を話してくれた。
ソアラさん言うところの『下水道』は俺たちのイメージする『地下下水道』のことだった。
この街の一般住民エリアは俺たち二人になじんでいる『ドブ』で下水(生活排水)を処理しているが、城及び貴族館エリアは下水道で下水(生活排水+糞尿)を処理しているらしい。
何でも城及び貴族館エリアの下には地下下水道が張り巡らされており、その中央には魔術的な道具による浄化プラントがあるとの事。
一応、一般住民エリアのドブも、貴族エリアに近い一部は地下下水道に流れ込むようになっているとか。
この下水道の魔術具浄化プラントは魔力で稼働しており、図書室の明かりを付ける時に壁の魔石に魔力を注ぐのと同じ要領で、定期的な魔力の補充を行っているらしい。
余談だが、この浄化プラントに魔力を補充するクエストもあるらしいが、魔力量がかなり多くないといけないので、俺たちには無縁だそうだ。
で、件の浄化プラントの構造的な問題なのか、ネズミが大量発生しやすいらしい。
更にこのネズミ、実は魔獣だったりする。
一般の場所にいるネズミはただの獣なので、件の浄化プラントのが原因で魔獣化しているのと考えられているそうだ。
時折この魔獣ネズミが外部に出る事があるらしく、しかもその場所が城・貴族エリアと来れば色々不味いって訳で、定期的な駆除を依頼しているとのこと。
この依頼、環境が劣悪なので受け手が『ドブ掃除』以上にいないらしく、今までの多くも依頼受領者が出ず、最終的にはスラムの者たちに半強制で実行させてきたモノらしい。
半強制ってのは、『やらないなら追い出すよ』と言う事らしい…
ソアラさん的にも積極的に勧める気は無かったらしいが、かなり探したあげく他に金銭的に見合う依頼が見当たらず仕方なく提案したようだ。
「一応、身体全体を包む耐水・防臭・防刃耐性の服と、防臭マスクや目を守る閉鎖型の透明な防具とかも有るんですよ。一応…」
…………×2
「あ、あと、さっき言った防具で身体に臭いは付かないはずなんですが、念のために一日各自一本の消臭剤も付くんですよ…」
…………×2
「一応、ネズミ一匹に付き5ダグリにな」
「5ダグリ!!、一匹5ダグリ?」
つい被せるように聞いてしまった。1匹5ダグリなら2匹で1ダリ、6匹で3ダリ、屋台飯2食分。
「このネズミってドンぐらいの数いるんでしょうか?過去の討伐記録に討伐総数とデータないでしょうか」
俺の質問に先ほどまでと違う表情になり、手元の資料らしきモノをぺらぺらとめくりだした。
「ちよっと待ってください、…あ、有りました。前回のスラムの者の記録では、一番多い者で一日52匹ですね。その方一週間で324匹となってます」
52匹なら26ダリ…『ドブ掃除』の倍…でも…
「でも、おたか…いえ、危険なんでしょ?」
臭いとか汚いとかは我慢は出来ても、死んでは意味がない。安全第一で今まで来た意味がなくなってしまう。
「え?、いえ、危険は絶対ないとは言いませんが、防具を完全に着用しとけば、ネズミの爪や歯は通りませんから大丈夫なはずですよ」
え、ネズミって魔獣化してもアノネズミと大差ないって事?マジ?
「あのぉ~、ネズミってどのくらいの大きさなんですか?」
お、瞬グッジョブ。やっぱそう思うよな。
「個体差はありますが、最大で家猫位と聞いてます。私が見たのは討伐証明部位の尻尾だけですので、聞いた話で申し訳ありませんが」
俺は瞬と顔を合わす。そして、他にお客がいない事を良い事に、受付前でそのまま話し合う。
どうする?→宇宙服みたいなのがあって臭いや汚れが付かないのなら→でもウンコが流れてんだぞ→うぅぅぅ、身体に直接当たらなければなんと言う事はない、です→
ネズミ平気か→映画みたいに一面ビッシリじゃなきゃ…→そん時ゃダリの塊・金庫だと思おうか→金庫…ですね、投網で一攫百金→千じゃなくて百なんだ、まあ、やってみるか→ですね。ダメだったら止めましょうね
結局、一度やってみてダメだったらペナルティー喰らって良いから止める、って事でやってみる事となった。
ソアラさんから2回ほどだめ押しの確認を受けて、その場で明日からと言う形で依頼を受領した。
明日はここには寄らず、直接現場の『下水道管理事務所』なる所へ向かえば良いとの事、楽で良い。
その晩、二人で寝る寸前まで、やっぱ止めときゃ良かったかな~、とか100匹で50ダリ…、とかポジ・ネガ両方に揺れ動きつつ話し、少し夜更かしした。
翌朝向かった『下水道管理事務所』は街の北ブロック中央辺りにあって、貴族街と城の中間に位置していた。
貴族街なんぞ初めてなので、各門ごとにいる門番の目を気にしつつ二人でキョロキョロして落ち着きなく歩いた。
日本なら間違いなく職務質問されて、警察○○時とか、なんちゃら警察なんちゃらかんちゃらでモザイク入りで放送されるぐらい挙動不審だった。
『下水道管理事務所』は噴水のあるロータリーになっている公園のような所に隣接して一件だけ有ったので直ぐに見つけられた。
建物自体はさして大きくなく、日本の一般的な建て売り住宅程度の大きさだ。
ノックし、了解を受けて入ると6畳ほどの広さの部屋に50歳程のおじさんが一人だけでいる。おじさんはアリオンと言う名で、基本一人でここを管理しているらしい。
アリオンさんは、管理と言っても大したことはしてない、これでも出来るくらいだからな、と肘から無い左腕を示して笑ってた。
過去にそれなりの歴史を持つんだろう。あんま、詳しくは聞けんけど。
自分たちが来る事は、昨日の内に冒険者協会から連絡があったそうで、準備はしていたらしい。
「ホントにやるのか?」
アリオンさんもやはりだめ押しで聞いてきた。ここのところスラムの者による半強制以外誰もしてなかったんで、何でまた、という感じだったらしい。
一応、符術士の件と直接制御ゴーレムの事を話すと、「あぁぁぁ、それはぁ…まあ、なあ」と納得してくれたようだ。
ここで納得されるぐらいの不遇職無って事ですね、はい、知ってましたよ。
今回の依頼は、このアリオンさんが依頼主と言う形を取る。で、討伐証明の数もアリオンさんに確認してもらい、それを記入した証明書を冒険者協会に提出して代価をもらう。
今回使用する器具・防具等全てここで借り、帰りに返却し、メンテナンス(洗浄も)は全てアリオンさんがしてくれるとの事。
そして、今回の依頼による目的は、『下水道内にいる魔獣化したネズミ1000匹を討伐する事』もしくは『7日間一定以上の時間、下水道内で魔獣化したネズミを討伐する事』となっている。
どちらかの条件をクリアすれば良い事になる。まあ、1000匹討伐はさすがに過去にもいないらしく、7日間頑張れ、と言われた。
規定にある『一定以上の時間』は普通に朝から夕方ぐらいの冒険者がクエストに使用する時間で良いとの事だ。
そして、いくつかの下水道内の特徴、確認するべき点、注意するべき点、立ち入り禁止場所等を教えられた。
一通り『教育』が終わると、隣の部屋に移動し、基本セットを受け取る。
このセットは、ウエットスーツっぽい防具(防刃・防臭・防水・耐衝撃)、水中めがねを薄くしたようなゴーグル(防水・耐衝撃・防臭・曇止め)、防臭マスク(防臭・耐衝撃・防水)の三点セットだった。
前もって協会から体格のデータが回ってきていたようで、俺たちに会うサイズを準備してくれていた。結構、至れり尽くせり感が有る。
チョット心配だった『ウエットスーツもどき』は最初結構ぶかぶかだったのが、クビの留め具を止めると全身にピッタリとフィットした。
思わず瞬と向かい合って、「あの靴だな」「ですよ、これでホバーボードが有れば完璧ですよ」とアリオンさんを、ほっぽって盛り上がってしまった。ごめんなさい。
「もうチョット薄めで、黒ければ星人狩りに行けるんですけどね、ネギとか田中とか」
まだ何か言ってる瞬の頭をはたいてから、他の装備も付けた。三点セット全てを付けた感じは、以外に息苦しくなくて驚いた。
喋る声もくぐもってではあるが聞こえたし、耳に関しては頭部の覆いがほぼ気にならないレベルで音が通るので、全く問題なかった。
ゴーグルのガラス部分は透明度も高く、下手なサングラスより違和感は無い、しかし縁の部分が視界をそこそこ妨げるのが少し気になった。
マスク、ゴーグル共に肌に密着する部分はしっかり密着しているのに、水中めがねなどのような痛くなるような感じも全くなかった。
なんだか、すんごい技術の塊っぽいよこれ。魔術的付加がこれでもかって位掛かってるんだろう。買えば四桁でも済まないだろう。
三点セットを装着すると、肌が外気に触れる部分が完全にゼロになった。
そして、希望で持ち出せる装備を紹介され、10分ほどあーでも無いこーでも無い、重い、まだ持てる、などと検証しながら選んだ。
一通り俺たちの装備を見回してうなずいたアリオンさんに、更に隣の部屋へと移される。
その部屋への扉は10センチ以上有る厚さの扉で、壁と合わさる部分に何かの皮が張られており、完全に密閉するようになっていると思えた。
船なんかの防水扉とかと同じかな。まあ、目的は防水じゃ無くて防臭っぽいけど。
この部屋の床は中央に向かって傾斜しており、中央には排水溝らしきモノがある。
「ここが帰ってきた時、身体を洗浄する部屋だ。おまえ達はここで装備全部を脱いで出れば良い。で、あっちの扉が下水道へ続く階段になっている。滑らんようにな、それと帰ってきたらあのボタンを押せ、俺が来るまで絶対隣の部屋には出るなよ」
扉とボタンを指し示し、説明をする。
「最後だが、焦らずゆっくり、左腕の甲に有る地図を見ながら迷わないようにな、分からなくなったらさっき教えた壁の番号を探せばいい。後、定期的に付近にある照明用魔石に魔力を入れるのを忘れるなよ。真っ暗になるから、まあ、両肩に発光器は有るけど大した明かりじゃ無いからな」
アリオンさんは、結構心配性らしく、先ほどした注意事項を再度してくれた。その顔の方向はほぼ瞬に向いていたのはしょうがない。この世界でも成人前に見えるらしいからね。
そして、俺たちはアリオンさんに見送られながら地下への階段を降りた。
俺たちがこの下水道に入って1時間が経過した。
当初気になった汚水も瞬言うところの『肌に触れなけりばどおと言う事は無い』で、直ぐに我慢出来るようになった。
そして、何より魔獣ネズミだが、チョロチョロとかなり早く、何度となく飛びかかられたが、装備には全く傷も付かず、衝撃も気にならないレベルで楽勝だった。
身の安全が確保されれば、後はじっくり捕獲・殺傷・尻尾チョンである。
直径40センチサイズで持ち手が1メートルの網を使って捕獲しまくる。と言ってもさっき言ったように動きが速いので簡単では無いんだが、出来なくは無いので、ひたすら二人で網を振り回した。
初日は色々やってみて、少しずつ効率的な方法を探っていく予定だ。
器械体操のお陰なのかなのかは不明だが、俺は比較的動体視力は良いので、そこそこ捕獲に成功している。瞬の約倍ぐらいかな。
まあ、瞬の場合は色々な道具に浮気しまくっているので、安定していないのも理由だ。
追い込み網、投網、たも網、更にゴーレムでの誘い込み等々。色々やらかしている。
ゴーレムは汚水下部に溜まったへドロをまとめたモノで、当然内部にはあんなモノやそんなモノも含む。『ドブ掃除』時のマッドゴーレムより酷い…
ちなみに、これまでの1時間で、一番キツく大変だったのは、瞬も俺も『捕獲したネズミの殺傷』だった。
虫も殺した事無い、とまでは言わないが、動物など殺した事もなく、二人で5分近く躊躇した。だってしょうがないじゃ無い、初めてなんだからさ。
でも最終的には郊外に出て、魔獣を相手にする事を考え…やった…あまり良い感じでは無かったよ。ってか良い感じがするようだったら危ない人だけどさ。
瞬も俺より遅れる事1分ほどで「か、覚悟完了」とかなんか言いつつ実行した。しばらくその手は震えていた。……
その後は無理に慣れさせた、もしくは『なれたと思い込ませた』と言うべきかな。
だから、リズムで実行するようにした。捕獲したら、押さえて、網の隙間から剣さして、尻尾チョン、『押さえて、剣さして、尻尾チョン』これをつぶやきつつリズムでやる。
押さえて、剣さして、尻尾チョン
押さえて、剣さして、尻尾チョン
押さえて、剣さして、尻尾チョン
押さえて、剣さして、尻尾チョン
全てはリズだ。
時折俺は、照明用の魔石に魔力を注入しつつ作業を繰り返す。俺が照明係になったのはゴーレムを使う瞬の魔力を残す為だ。
ただ、現状はゴーレムは役には立ってないけどね。先々良い利用方法が確立されたときのためにね。
それに、魔石に魔力注入すれば、俺の魔力もそれなりに消費され、結果魔力の上限が多少は上がる可能性がある。
現状、符が無くて魔力を全く使用できない俺としては、結構良いトレーニング方法だと思う。お金次第だが、空の魔石でも買って、魔力を入れる事で訓練につか…
「ああああああああああああ!!!!!!」
「え、え?どーしたんですか、はじめさん、なに?なに?」
「しまった!!! 魔石採るの忘れてたああああああ」
「あーーーー、え、え、全部捨てましてよねぇ、しかも全部汚水の中…」
大失敗だった、クズ魔石とは言え集めれば多少は金になる。それに俺の場合符の材料にもなる。
魔石の利用方法を考えてたら思い出したよ、何が『押さえて、剣さして、尻尾チョン』だよ。『押さえて、剣さして、魔石採って、尻尾チョン』じゃんか。バカヤロー。
その後は、しっかり魔石も回収しつつゆっくり回った。
下水道内はトラップ満載である。数十メートル置きに存在しているのだ。
歩いていると突然に上部逆止弁付き開口部より爆弾が投下されるのだ。この爆弾だが、液体の爆弾と固体の爆弾が有る。
新鮮出来たての爆弾である。ガコンと言う音と共に逆止弁より現れ、ボッチャンと言う音と共に多量の飛沫を飛ばし腐海へと消える。
俺たちの装備は実質完全な密閉型で、全ての個体・液体・気体から我々を遮断してくれている。故にこの爆弾が頭や身体に着弾したとしても肉体にダメージは無い。全くない。
しかし、言うまでも無いが、精神的ダメージは絶大である。クリティカルでSAN値やらなにやらを持って行かれる。
瞬のヤツも近くに爆弾が投下されるたびに、「うわぁ」「ギャッ」「うみゃ」とか変な声を上げ、のけぞっている。
「楯装備を借りてくれば良かった…明日は楯絶対借りましょう、ね、ね、絶対」
大きく跳ねた飛沫や、開口部から周辺を伝って落下した液状爆弾が身体に付くたびに、左手手首に有る水噴出魔術具を使ってボディを洗っていた瞬は、楯の必須性に思い至ったようだ。
実際、周囲一帯が爆弾混じりの大河だというのに何を今更、と思うかもしれない。
しかし違うのだよ、新鮮なそれは!
新鮮な方が良いのは野菜や果物などだけだ。『ナニ』は古い方が良いので有る。漬け物やワインと同じである。古い方が価値が…あれ?…もとい、古い方がまだマシなのである。
このトラップは、上部逆止弁付き開口部を見れば簡単に位置は分かるのである。しかし、その下を避けるだけでは、跳ねる飛沫、天上を伝った液状落下物は回避が非常に非常に難しいのである。
幅・高さ2メートルほどの蒲鉾状と言う、さして広くないスペースが回避行動を阻害してくれるのである。
色々精神的に来ているので、語調も変わってしまっているのである。落ち着くのである。落ち着くので……。深呼吸はしたくない。マスクのお陰で臭いはしなくても…
……ふう、ちょっとSAN値やらなにやらは回復したかもしれない。ホントにこのクエストの敵は『環境』だ。どこぞの映画のように白い巨大ワニでもいない限り、魔物は問題ない。
そんなふうに、トラップ回避技能を学び、精神耐性を鍛えつつ俺たちは狩っていく。
基本は片側にある50センチ程の通路を歩くが、その上方にもトラップが多数仕掛けられており、その場合は汚水の中を歩いて回避せざるをえない。
そして、ネズミは通路はもちろん、壁面、横穴、更には普通に汚水上を泳いで襲ってきたり逃げたりする。
結果、通路を歩く率はわずかなモノで、大半は汚水の中を膝下まで浸けつつ歩く事になる。通路の一番の利用方法は捕獲した獲物の処理用だった。
『押さえて、剣さして、魔石採って、尻尾チョン』の時だ。この作業場所があるだけで全く違う。
実際、枝道には幅1メートルほどの所もあり、通路が無い為、壁に押し当てて件の作業を行わなければならず、かなり面倒となる。
環境や精神的な面はさておき、実質的な捕獲についてだが、瞬同様、俺も試行錯誤している。
追い込み・囲い込み・投網などだ。それぞれの状況に合わせ複数の方法で効率の良いモノを探すのだが、結構うまく行かない。
理由が、ネズミの知能がかなり高と言う事だ。誘い込めば途中で回避する、追い込めば寸前で潜って逃げる、投網を準備すれば射程範囲外に待避する…統率個体に『ジェリー』という名持ちがいたりしないよな?
更に、俺たちを見て、逃げる個体、襲ってくる個体、様子をうかがう個体と行動に種族的統一性が見られない為、こちらも画一的な手段を構築できずにいる。
本日俺が一番多く捕獲した方法は、襲ってきたところを手もしくはたも網でたたき落とし、それをたも網ですくうと言うモノだった。
一網打尽的な方法より、個々を対象とした方法の方が結果を出したのは意外だった。なんだかな~。
そんな事もあり、俺も明日は楯を装備するつもりでいる。例の爆弾や飛沫対策も有るが、突っ込んでくるネズミを楯で弾けるのではないかと考えている。弾いたところを捕獲だ。
瞬にその話をすると、「シールドバッシュですね。タイミング命のスキルです」とか言ってた。そんな技があるらしい。俺がやったRPGでは見た覚えが無いんだが。
そして、その日の俺の討伐数は56匹。ただし、1匹尻尾が無いヤツ(かじられて?)がいた為カウント上は55匹。瞬は38匹。
合計46ダリと5ダグリとなる。更にクズ魔石が77個。討伐数と会わないのは気にしないでくれ。ぐすん。
階段を上がり、ボタンでアリオンさんを呼んで、水の魔術具らしい40センチほどの杖から吹き出した高圧の水で汚れを取ってから、全装備をそこに脱ぎ捨て入り口の部屋まで移動した。
そこで、別の袋に入れ替えた証明部位とクズ魔石を確認してもらう。
「多いな、さすがは冒険者って事か、スラムで一番多かったヤツより多いんじゃ無いか、しかも初日だろ」
アリオンさんも驚いたようだったが、俺的にはまだ少ないと思う。今日見た感じでは、なれれば軽く今日の3倍はいけると思う。
何か効率的な方法でも見つければ、あの1000匹の条件も無理ではない気がする。
そこら辺の事を話すと、色々話を聞かれた上で、アリオンさんが考え込んだ。
「君らが見たのが、たまたまそこに集まっていたので無ければ、思った以上の数に繁殖している可能性があるな。一応、明日もそこら辺を注意して見てきてくれないか」
うーん、異常繁殖…俺たち的には金になるから良いか。
その後、冒険者協会へ行き、窓口のソアラさんから労を労う言葉をもらった直後、俺が聞いたのは「臭いませんか?」だったのは、しようがないよね。
その後手続きと共に、『異常繁殖』の可能性の件も話し、46ダリと5ダグリをもらって外へと出た。
本日はクズ魔石は売らない。クズ魔石は1個1ダグリらしく、本日分を換金すると7ダリと7ダグリになる。いや、にしか成らない。
これで、あの長蛇の列になっている買い取り受付へと列ぶのは非効率以外の何物でも無い。
まあ、収入が少なければ7ダリと7ダグリでも列んで換金するんだが、幸い今回は46ダリと5ダグリが別途有る、だから良いのである。
その日は、初めて屋台飯ではなく、『魔獣のいななき亭』の定食を食べた。幸せだった。娘ちゃんも機嫌が良かったよ。うん。貧乏脱出一歩前と思って良いかな?