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4.今日も今日とてドブ掃除

 朝の目覚めはさわやかな馬糞の香りと、隣から聞こえる「体中がぁぁぁぁぁぁ」と言う心地よい声で始まった。腕時計時間は午前6時21分。

 ど~やら10時間近くは眠ったようだ。体を見るが蚊に刺された後がなかった。宿の娘(推定8歳)が置いて行ってくれたポプリっぽいやつが効いたようだ。

 起き上がって思いっきり伸びをすると、一年半ぶりの心地よい筋肉痛が上半身に軽く走る。

 立ち上がり軽くストレッチ。凝り固まった筋肉がゆっくり伸びて、筋肉痛も多少ほぐれる。良い感じ。

 で、瞬を見る…油の切れたロボだ。無事クラスチェンジを終えたようだ。早く人間になれよ。

「はじめさんなんで平気なんですか!、ひょっとしてチートですか!肉体活性ですか!リジェネですか!痛覚無効ですか!僕にもくださいよぉぉぉぉ」

 油ぎれロボ(シュン)がなんか意味不明なことを喚いて切れてる。カルシウム不足だろう、今度牛乳やろう。ってか乳牛いるんか?こっち。

「ほら立て、で顔洗ってとっとと冒険者協会行くぞ、んで稼がんと今晩の宿どころか飯すらないぞ。朝飯ですっからかんだからな」

 そう言ってムリヤリ油ぎれロボ(シュン)を立たせる。

「無理ぃぃぃぃぃ」とか「うぎゃゃゃゃゃゃ」とか騒ぐけど無視して立たせ、強制的にホントに軽くストレッチする。

 ホント~に軽~くなんだけどね…涙目でピクピクしてるよ。筋肉痛はある程度ほぐした方が楽だからね。

 多少油の回ったロボ(シュン)を井戸まで連れて行き、頭から水をかけてやる。

 色々何か言ってたけど無視して俺も頭だけ水をかぶる。井戸水の冷たさが心地良い。

 ほほ袋を膨らまして威嚇する齧歯類ぽいロボ(シュン)の手を引いて冒険者協会へと向かう。

 10分も歩けばロボ(シュン)もだいぶ人間に近づき、C-3P○ぐらいにはなった。 冒険者協会に着く頃には人間になっているだろう。

 途中の朝市っぽいところに出ている屋台で、フランスパン状のパンに切れ目を入れ、それに酢豚のような炒め物を挟んだやつを買って朝食にした。

「汁物がほしいです。安西先生」

 バグってるロボ(シュン)の頭を軽くはたくが、たぶん治りそうにはない。不治の病だ。

「明日は汁物付きで食えるようにしような」

 でも今日もドブ掃除かぁぁぁとか、うめき出すが無視して食べる。

 協会に着くと、建物内はもちろんその周辺までもが冒険者で埋め尽くされていた。

 建物外にいる推定冒険者達は、たぶんパーティーの代表が受付に並んでいる間の待機者達だろう。

 ロボから無事人間に戻れた瞬は、「待ってる間、どんな依頼があるか見てくる~」と言ってチョロチョロと人混みの中を縫って依頼伝票の壁へと走って行った。

 俺は、昨日同様ソアラさんの受付へと並ぶ。

 並びながら他の受付を見ると、真ん中の受付の受付嬢が思いっきり美人だったので一瞬驚いた。そして、その列に並んでいる人数が妙~に多い理由に合点がいった。 

 一番奥の受付の受付嬢は、位置的に並んでいる冒険者の体で見えないのだが、並んでいる人数的にこちらの列と同程度だからそう言うことなんだろう。たぶん。

 で、並んでいる間は昨日同様暇なので耳を澄ましていたわけだが、ほぼ似たような誰それが死んだだの、誰それがあぎゃんこぎゃんしたとか、俺は俺はぁぁとかばかりで得るものはなかった。

 この時間に図書室とやらにあるという『符術師に関する本』なるモノを読めれば無駄がないんだけど、図書室から持ち出し禁止っぽいんだよな、何か。

 でも、一度は時間を作って一通りは見てみるつもりでは有る。某40代のリーダーに出来て、俺に紙すきが出来ないはずはない。うん。…たぶん。

 それと、瞬のゴーレムマスター関連の本もあるとのことなのでどのみち行かなくてはならないしね。瞬だけでもこの時間に図書室へ行かす手もあるか。

 今は日銭稼ぎでカッツカツだから…早く余裕を作らねば。そこら辺はそれからかな。

 半日で12ダリなら、現場が近ければ2カ所はいけるはず。そうすれば24ダリ。厩生活をするなら、一日三食にしても9ダリは貯蓄できる。三食分だ。

 雨等で仕事が出来ない可能性もあるので、最低限24ダリ程度は溜めておきたい。うまく行っても三日はかかる計算。

 とにかく、しばらくは雨は降りませんように。頼むよ。

 そんなことを考えていると、やっと俺の順番になった。

「おはようございます。昨日はありがとうございました。おかげで泊まることが出来ました」

 まずは、お礼だ。ホントに助かったのだから。受付嬢ソアラさんは静かな微笑みと共に迎えてくれた。

 とりあえず、ドブ掃除の件を確認すると「大量にありますからご安心を」と言われた。

 何でもこの街の、三分の二はドブがあり、半数ほどの依頼が来ているがほとんど手つかず状態なのだとのこと。

 逆に「どうか、よろしくお願いします」と頼まれるしまつ。そんなにかよ。

 そんなたまった依頼の中から、ゴミ捨て穴へ出る南東門に近くて隣り合うブロック二ヶ所を選んでもらった。

 地図や道具カードなどをもらい瞬を探すと、推定20代後半から30代中盤のおば…お姉さん二人に囲まれていた。

 一瞬、絡まれているのかと思って慌てたが、どうやら可愛がりされているようで、何か食い物をもらったのか、ほほ袋を膨らませ口をモグモグさせている。

 おば…お姉さんキラースキルを発揮しているようだ。

 一応、二人に黙礼した上で、げっ歯目の血が入ってそうな瞬を連れ出す。ちなみに食ってたモノは「何かの串焼き肉ぅ」だそうだ。魔獣系の肉だろう。

 餌付けされてお持ち帰りされないように注意しとくべきか?まあ、こちらでは15歳で成人らしいので良いって事にしておこう。

 その後は昨日と同じように、道具を受け取り二ヶ所の依頼主に先に顔を出した上で作業を開始した。

 先に二ヶ所の依頼主の元に向かったのは、時間帯によっては依頼主が自宅にいない可能性がある為、それによる時間のロスを防ぐ為だったりする。

 幸いどちらも人がおり、一人は感謝の言葉と共に、もう一人は長く依頼が遂行されなかった事への文句と共に確認をしてくれた。

 作業は比較的順調に進んだ。昨日の作業である程度こつをつかんでおり、流れも効率よく行えるようになっていた為だ。

 絶賛ゾンビ向かって一直線の瞬も、ふぅぐぅぐぅ、あぐっっ、などと時折ゾンビ語らいし言葉をうめきつつ頑張っている。

 たぶん一週間もすればレベル(2)にはなりそうな気がする。筋力のパラメーターだけが上がった状態で。

 昨日同様、午前中の前半はあれやこれあやと妄想に近いこの先の予定を二人で立てたり、とりとめのない厨二話をしていたが、瞬がゾンビ化して以降は黙々と作業を続けることになった。

 昨日の筋肉痛と疲労もあってか、ゾンビ化はだいぶ早かったようだ。ま、それでも手を休めずゾンビなりにはやるんだからたいしたもんだと思う。

 腕時計時間で午前11時12分には最初の区画が終わり、昼休憩に入れた。予定より1時間近く早かったことになる。よっしゃー。

 ゾンビな瞬に近くの井戸から汲んできた水をやり、俺も座り込む。ふぅー。木陰の風が涼しくて心地良い。

「はじめさん、思ったんだけど、ゴーレムが使えると思うんですよ」

 はぁ?いきなりなんか言い出したゾンビ(シュン)をいぶかしげに見ると、ゾンビ(シュン)は語り出した。

「あのですね、ゴーレムにマッドゴーレムって有るじゃないですか、マッドですよマッド、泥です泥。マッドゴーレム作れれば、ドブの中の泥をマッドゴーレムにして自分でリヤカーに入らせれるんです」

 …確かに。

「スコップいらないんですよ。筋肉痛よさよならです。腰痛なんてナッシングです。台車に入れて運ばなくても自分で歩かせて穴にダイブとかも出来ますよ。ゴーレム革命ですよぉ」

 色々穴はありそうだが、ある程度は出来そうな気はする。ゴーレム革命とか筋肉痛反対とか意味不明な事をうめき出す、絶賛壊れ中のゾンビ(シュン)の頭をぺちっとはたく。

「出来れば凄いけどな。でもまずはゴーレム魔法(?)を覚えなきゃいけないだろ? とりあえずゴーレム自体がどんなもんかを調べて、んで作成法ってか魔法?を身につけて、それからの話だよな」

 昨日からこち瞬も色々試してはいるが、全くゴーレムが出来る様子はない。

 俺たちの『ギフト:ゴーレルマスター』に関する知識はソアラさんから聞いたアレだけで、根本的なところの知識が足りない。

 『魔法』自体に対しても同様で、全く知らない。案外、呆れるような思い違い・思い込みなんてのも有っておかしくない。

 まずは知識。さすがにソアラさんにばかり聞くわけにも行かない、たぶん専門外だろうし。

 結局現状では『図書館』で調べてから、と言うことになるわけだ。

 ただ、金銭的に余裕の全くない現状だから、仕事をほっぽって図書館にこもるのはよろしくない。

 図書館の本を読んだだけでゴーレムを作れるようになるならともかく、そうでなければ時間とお金をロスすることになる。

 さすがに、一日二日雨でも降れば飯も食えなくなるの現状はマズい。更に、着のみ着たまま一張羅状態もなんとかしなくてはならない。早急に。

 だから現時点でのロスは避けるべきだと考える。

 そこら辺を説明すると、壊れかけのゾンビ(シュン)も「ですよねぇ…」と納得してくれた。

「つう事で、出来るだけ早くこの仕事終わらしてさ、会館閉館までの時間を使って図書室使うしか無いっつ~こと。つまり、ドブ掃除頑張れってことで」

 壊れかけのゾンビ(シュン)も再度「ですよね…」と力なくつぶやきながら立ち上がり、作業に取りかかる。うん、頑張れ。

 壊れかけのゾンビ(シュン)をこき使い、作業が終わったのは腕時計時間で午後4時ぼぼジャストだった。

 午前に比べ午後は疲労で作業効率がやはり落ちてしまったようで、思ったほど時間的余裕は出来なかった。しょうが無い。こればっかりは。

 その後依頼の完了確認と道具返納などを終えた頃には、腕時計時間4時半を過ぎていた。

 冒険者がたむろっている協会内に入ると俺はソアラさんの窓口へと並び、壊れたゾンビ(シュン)には二階の図書室へと向かわせた。

 協会閉館は前日は確か腕時計時間で午後6時前ぐらいだったので、いつも一定ならあいつは1時間半は調べる時間があることになる。

 俺も今の並びなら20分ほどで終わりそうなので、1時間は時間を取れる可能性がある。

 足を引きずり階段を上がっていく壊れたゾンビ(シュン)を見ながら余裕のなさにため息をつく。

 生活するってホントに大変なんだな…両親の苦労がやっと分かった気がする。

 そんなことをつらつらと考えている内に列は進み、思ったより少し遅いぐらいで窓口にたどり着く。

 ソアラさんから(ねぎら)いと笑顔という元気をもらい、手続きの上依頼料をもらった。24ダリ。倍でっせ。倍。

 色々尋ねたいことはあったが、数人前の冒険者が多少もめた関係で遅れていたので、これ以上遅らすと後ろに並ぶおっさん達の目の色が変わりそうなのであきらめた。

 なんせ、全員マッチョで強面だよ。元の世界で通学中の小学生に道を尋ねたら、間違いなく防犯ベルを鳴らされたあげく通報されること間違いなしの人々勢揃いだよ。

 バーバリアンと無法者で検索すれば全員ヒットしそうな方々ですよ。無理。俺の野生の勘(ヘタレ心)が『やめとけ』と言ってる。

 俺は自分の野生の勘(ヘタレ心)を信じた。自分を信じることは大事だ。うん。

 普通の冒険者からすればお小遣い程度にも成らないようなお金を手に、俺は二階の図書室へと向かう。

 図書室は二階の階段を上がって一つ目の部屋だった。プレートがドアに貼られており直ぐに分かった。

 ドアを開けると照明がここもあり、十分な明るさがある10畳ほどの空間に三列の本棚が半分を、残りの半は長テーブルとイスで占められていた。

 一人で本を読んでいた瞬に冒険者標章を返しながら近づく。

「どうだ、有ったか?」

 読んでいる本をのぞき見ながら尋ねると「一応」とだけ帰ってきた。微妙な返事に微妙な内容で役に立たなそうなのかと心配になった。だがそうでは無かったようだ。

 単に先ほどやっと見つけて読み出したばかりだったかららしい。

「タイトル部分のフォントが変なのが多くて分かりにくかったんですよ」

 言われて後ろの本棚を見ると確かに分かりずらそうだ。アルファベットでも装飾しまくってぱっと見分からないヤツが有るけどアレの漢字版と思ってくれれば良い。見づれー。

 結局俺が『符術士読本(上巻)』を見つけ出したのは30分は経っていた。上巻……下巻は周囲には無かった。中巻ってのもある可能性が有るか。

 時間が無いので、ざっと飛ばしながら斜め読みしていく。

 どうやらこの本は実用本らしく、紙の原料の採集方法、紙の作成方法とその器具の図解、紋章を描く具材の作成方法と成分表、各種類ごとの符の紋章図解、符を使用する方法という形でこれ一冊にて一通り符作成から使用までを可能とするモノだった。

 一通り内容を確認した後は、時間いっぱい最初の紙の原料の採集方法を読んだ。

 結局追い出されたのは腕時計時間午後6時10分だった。ある程度時間は一定らしい。機械的時計とか魔法的な時計とか有るのかもしれない。

 元の世界でも時計って結構前に作られていたはずだし。

「明日はノート持ってくる!」

 ゾンビ(シュン)は、追い出されて協会の外に出たとたんそう言いだした。やる気らしい。昭和アニメなら目から炎が上がるシーンか。

 ただ、残念なことに体はゾンビ状態で、歩く足もすり足に近く顔の表情と動きが全くマッチしていない。

「そういえば、鞄持ってたよな、ってことはノート何冊か有る?有れば俺も一冊頼む」

 俺も器具や作成方法・木の種類などは覚えられなくも無いが、アノ紋章は200パー無理だと思っていたので、書き写す必要性を感じていた。

 『符術士』が使い物になるかどうかはともかく、一度は試さなければあきらめきれない。だから一通りはやるつもりだ。

 顔だけ生き生きとしたゾンビ(シュン)いわく、ノートは4冊有るとのことなので、シャーペン一つと赤青黒ボールペンと共に借りることになった。

 そして屋台で野菜たっぷり系のスープをかっ喰らい、宿へと向かう。

 昨日の『魔獣のいななき亭』に厩泊まりを頼み、ついでにタオル二枚も借り、全部の服を脱ぎ借りたタオルだけ巻いた状態で井戸水にて行水。

 脱いだ服は全て借りた桶で水洗いし、手絞り。洗濯機ほしい…。

 遅れているゾンビ(シュン)の分も洗うのを手伝い、厩の裏に干した。

 推定8歳の娘ちゃんに何度か石を投げられつつ、タオルいっちょで全てを完了した。真っ赤な顔で「変態!」と罵られたが、色々余裕無いんで勘弁してください。

 その晩は娘ちゃんが、あの虫除けポプリっぽいヤツを置いて行ってくれなかったので全身を蚊に刺されまくったまま寝落ちた。

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