38.日本人
捜索拠点の西アガ村を飛び立った俺は、一旦南下してから東へ向かうというコースを取る。出来るだけジョー・ジオーマの居た地点に近づきたくなかったんだよ。
初めてのコースで、土地勘がない所が多かったが、方位磁石で確認しながら飛ぶ。時間的にギリギリの可能性が高い為、時折『浮遊符』を併用して速度を稼ぐ。
それでもオズワード王国王都に着いたのは、夕方日が完全に落ちて、薄暗くなった時間帯だった。ただ、薄暗くて人通りも減っていたことも有り、街中の大通りの交差点へ直接降下できたので多少の利点も有る。
さすがに『突風符』の効果が残ったままでは面倒なので、切れるタイミングを見計らって『浮遊符』を起動して着地した。
後は、そのまま城へと向かい、衛兵に槍を突きつけられながら預かっていた手紙を手渡し、とっとと立ち去る。口頭での報告なんてする気は無い。面倒の元だからね。
その後は、以前泊まっていた宿屋街へと移動し、何とか宿を確保して一泊。翌日早朝には、内郭門から出た当たりで空へと上がりレオパードへと帰った。
街中を『フライヤー』を担いで歩くのはかなり目立ってしまったけどね。
一週間ぶりのレオパードは、特に大きな変化は無かったが、微妙な暗さもそのまま変わらず続いていた。
何はともあれ、家に帰り『フライヤー』を置く。瞬と歩は予定通り、ヴォルツさん達とパーティーを組んで出かけている様で家にはいなかった。
俺は、洗濯に来ていた隣のおばちゃんに挨拶してから、井戸水を風呂へと入れて風呂を焚いて入浴する。この一週間洗体しかしておらず、気持ち悪かったので、先ずこれが優先だ。
風呂に浸かると、やっと帰ってきたと思えた。それと共に、生きて帰れた事が実感でき、死を今までに無い程眼前に感じたことから来る緊張感が、やっと抜けた気がした。
昨日の、あの時以降、ずっと心の中の線がピンと張った感じが続いていたんだ。一晩明けた朝もそれは変わらなかったのだが、それがやっと解消された。ふぅ~。
30分近くの長風呂の後、新しい服に着替えて登城する。途中、冒険者協会の前を通るが、さすがに報告の順番は守らなきゃならないだろうから、スルーして進んだ。
そして、領主城の門番に用件を話し、騎士サクシードに連絡を取ってもらう。騎士レジアスで無いのは、当然のことだ。あいつだと話にならなすぎるからね。
10分以上門前で待たされてから、案内の兵士が来て蒼海騎士団詰め所へと連れて行かれる。蒼海騎士団詰め所は、この間の訓練場の側にある2階建ての建物で、騎士達の執務室に成っている様だ。
そして、案内されたのは騎士サクシードの部屋ではなく、騎士レジアスですら無い騎士団団長ガゼールの部屋だった。
その部屋には、騎士団団長ガゼールはもちろん、騎士サクシードや他の顔は見たことはあるが名は知らない騎士が4名居た。騎士レジアスは居ない。
「ジョー・ジオーマの探索の件の報告と聞いたが、報告したまえ」
横幅1.5メートル程の豪奢な作りの机に、両肘を付いた騎士団団長ガゼールが低音の声で言ってくる。某アニメの『SOUND ONLY』と表示されたモノリス型モニターを前にする司令長官のポーズだ。手袋とサングラスが足りないが。
団長様の指示に従って、経過を全て報告し、慌てて引き出された地図上にその場所を示す。
「嘘ではあるまいな! 」
そんな風に怒鳴ってくる騎士が居たが、騎士サクシードが自らの首元に掛けられた真偽判定の魔術具を示してそれを否定する。
そのとたん、全ての騎士達の表情に絶望感が生まれる。そして、しばしの間その部屋は沈黙で満たされた。そして、長い沈黙を破って騎士サクシードが口を開く。
「だ、だが、聖属性魔術が『黒い光』に効果が有ると言うのは朗報なのでは?」
「たしかに朗報では有るが、聖属性魔術士の数は…」
「この領内でも多分3名程かと…」
「王都でも10名と居らんはずだぞ、しかも聖障壁を張れる者となれば更に少ないはずだ」
「なら、符術師はどうです、こやつが使えると言うことなら他の符術師にも使えると言うことでしょう」
「符術師の数はもっと少ないはずだ。いや、ギフト持ちは多かろうが使い物になるのはわずかだろう」
騎士達が色々言っていたが、符術師に話が波及してきたので、念のため忠告しとくか。
「横から申し訳ありませんが、符術師は直ぐには役立たないと思います」
「どう言う事だ!」
騎士の一番若いやつが眉間にシワを寄せて怒鳴る様に言ってくる。いや、一々威圧しないと話が出来ないのか、こいつら。
「『聖壁符』は私が改造したオリジナルの『符』です。他の符術師は持っていません。ですから彼らが『聖壁符』を使う為にはそれを作るところから始めなくてはなりません」
「何を言ってるんだ、貴様は! 作れば良いでは無いか。紙切れ一つ作るのにさして時間が掛かるわけもあるまい。手分けして大量に作るだけのことだ」
……言った若い騎士に同調する様にうなずいている騎士が2名程いたが、他の騎士は符術師の事を知っている様で眉をしかめたり、首を横に振っている。
「アトレオン、符術師の『符』は本人が作ったモノで無いと使えんのだ。それにな、見れば分かるだろうが、簡単に書ける様なモノでは無いのだ」
騎士団団長がますます低音になって、つぶやく様に若い騎士に向かって説明する。だめ押しに俺は『聖壁符』を取り出して全員に見せる。
「これは…… た、確かに書けと言って直ぐに書ける品では…」
更に追加でだめ押ししておこう。
「一応、その線ですが、わずかでも間違ったり、形が崩れても全く効果が出ません」
追加のだめ押しは効果が有った様で、「そこまでか」「使えんな」「噂には聞いては居たが…」なんて言ってる。
後、変なことにならない様にもう一つだ。
「先ほど言いました様に、『聖壁符』は確かに効果が有りましたが、一瞬しか持ちませんでした。『符』は魔術程強く無いのかもしれません。聖属性魔術士の方が適任だと思います」
他に居ないならお前が、なんて事にならない様に予防線を張るんだよ。
予防線が効いたかはともかく、彼らは、あーでもないこーでも無いと言い合いに近い話し合いを始める。そして、俺もう帰って良いかな?なんて考えていると困ったことを言い出すヤツが居た。
「では、お前は引き続き空からジョー・ジオーマの動向を監視しろ」
騎士サクシードだ。
「申し訳ありませんが、前回の依頼はジョー・ジオーマの発見までだったはずです。その代金すらもらっていませんが。
まあ、それはそれとして、あまり良い考えとは思えません。ヤツは付近を通りかかった私に攻撃を仕掛けてきました。
しかも、最終的には都市殲滅級の魔術まで使ってです。私がヤツの周りをうろうろする事で、ヤツを逆にこの国に引き寄せる可能性があります」
過去の報告でも、広域魔術は使用されている。だが、それは最大でも20メートル級だ。しかも10人程の複数の襲撃時にだ。
それが、今回の俺の場合は、一人に対して、向こうから仕掛けて来て、更に最大規模と思われる3キロ級を使ってきている。以前に無い反応だと言える。
そこら辺を噛んで含める様に追加説明する。最初はつり上がった目でにらんでいた騎士達も、ある程度納得してくる。実際嘘は言ってないしね。
「たしかに、反応が今までに無いものだな。それだけ警戒されていると言うことか」
「そう思います。後、あの『黒い光のドーム』圏外から監視するのは距離的に無理です。遠すぎて見えません。平野部ならともかく、山間では全く見えません」
だめ押し、だめ押し。実際、あの地点からこの国に向かうとしたら、そのほとんどが山間になり、視界はほぼ無い。
一部俺の言に『ぐぬぬぬぬ顔』の騎士も居たが、他はこの時点で納得した様だ。
そんな感じで、やっとお役目ごめんとなり解放された。最後に「代金は?」と聞いたのだが、「そんなのは後だ!!」と怒鳴られた。払って貰えない確率が高そうだ。
元々、金云々はど~でも良いのだが、騎士達に良い様に扱われるのがいやなので、今後の為の予防線の意味で言ったものだ。面倒なヤツと思われればこっちのモノ。
その後は、城をとっとと出て、冒険者協会に今回の件とジョー・ジオーマの装備の件も含めて報告する。
協会側は装備のことは知らなかった様で、あの時の俺と同様文句を言っていた。
ちなみに、報告は支部長の部屋で行ったのだが、以前のことが有ってか、副支部長だけが顔を出していなかった。
その後、騎士団詰め所と同様な会話が繰り返され、同様の言葉で回避した。面倒はこれ以上は嫌だよ。
色んな意味で疲れた。そして家に帰って瞬達が帰るまでは紙作りの準備をした。帰ってきた時に気付いたのだが、10本の白蕩木が庭に並べてあった。多分暇を見て取ってきてくれたんだろう。
その白蕩木を彼らが帰ってくるまでの間、ひたすら細かく裂いていった。
「あ、お帰りなさい。終わったんですか? ケガとか有りませんか?」
玄関を入って来たとたん、俺に気がついた歩が駆け寄って来た。その後に、『十式』を従えた瞬も1階の作業場に入ってくる。
「おっ帰りなさ~い。無事で良かったですよぉ」
「ただいま、ま、ケガは無かったけど、色々有ったよ」
そして、彼らに起こったことを全て語った。二人とも呆然としながら聞いていた。
「無事で良かったです」
「デスデス。でもぉ、ホントギリだったんですねぇ」
二人の顔を見るとホッとする。特に瞬のげっ歯類顔は癒やされるよ。ひまわりの種をやりたくなる。
彼らの方の話を聞くと、ヴォルツさん達と北東の森に、『黒茅木』と言う稲科の様な実を付ける木から、その実(種子?)を取りに行っていたらしい。
季節的に実が成る時期で、麦とは違うが穀物と同じように使える実らしく、ここの所の食糧事情で注目されているモノらしい。
ただ、場所が北東の林を抜けた更に先の森という遠距離で、熊系の魔獣が多く出没する関係で、低レベルの冒険者は行けない場所だ。瞬達もヴォルツさん達がいないとキツい所と言うことになる。
明日も行くことに成っているらしいが、俺は行かないことにして紙の生産に当てることにした。今回の探索で大量の『符』を消費して、予備の紙も30枚程度しか無い状態なので、早急な補充が必要だ。
だから、彼らの誘いは断って、家に残ることにする。
その晩、『魔獣のいななき亭』で一週間ぶりの旨い飯を食ったのだが、他の冒険者に請われて探索の時の話をすると、とたんに場の雰囲気が暗くなってしまった。
この件は、まだ冒険者協会の掲示板には出ていないモノだったらしい。昼には伝えたはずなんだが…
そして、翌日、瞬達を見送った後は、ひたすら紙すきをして過ごす。そして、暗くなったら以前の残と午前最初に作った紙を使って、『聖壁符』を量産していく。
この作業は3日間にわたって続けた。その間、2回程城へと行って代金を請求したのだが、今日に成ってやっと支払われた。
ジョー・ジオーマの位置は、俺が帰ってきた翌日には公開され、街の雰囲気を更に暗くした。そして、ポツリポツリと南の国へと逃げ出す者も増え始めた。
聖属性魔術の効果についても公開されたが、何分使い手が少なくそれに希望を見いだせる者はほとんど居ない様だった。
「ヤツが来たら、お前に任せるぞ」
ヴォルツさんがアホなことを言ってくる。ま、半分はジョークだろうけど。
「無茶を言わないでください。『聖壁符』を使って仮に身が守れても、相手を攻撃出来なきゃ意味が無いじゃないですか。スケルトンや幽鬼じゃ有るまいし、『聖光符』で塵に成ってくれるとも思えないですよ」
「実際、『聖壁符』で確実に守れるともまだ分かってませんからね…」
ま、それでも、もしそんな場面に成ったとしたら、可能性が有るのは間違いなく俺だけなんだよな… そんな場面になんて絶対成りたくないけど。
そして、帰ってきてから7日が経過した。その間2回程狩りに出かけたが、それ以外は全て『符』の作製に当てた。そのおかげで『突風符』も以前の数以上になり、『聖壁符』も200枚を超える数が出来た。
その上で、予備の紙もかなり貯まり、やっとまともに狩りが出来ると考えていたその日に、また騎士サクシードが『魔獣のいななき亭』の食堂に現れ、今度は城に連行されることになった。
夜の城内は、あちこちに明かりの魔術具が設置されていて明るかった。そんな中を騎士サクシードと2名の兵士に連れられて、奥へ奥へと連れて行かれる。
連れて行かれた先は、20畳程の大きな部屋で、中央に大型のテーブルが有り、その周囲にイスが並べられてあった。
入って正面の壁には、大きな地図が貼られており、左上辺りに幾つもの書き込みが成されていた。
ここは、いわゆる会議室とか軍議室とかって言われる部屋なのだろう。その地図の直ぐ前にはこちらを向いた50代前半の男性が居り、どうやら領主様らしい。
「お前が符術師か」
そう言ってから、領主様直々に話し出した内容は、俺がヤツを発見してからの経緯で、それによると、あの2日後に一番近い所にいた者達があの自然が消滅した場所を確認したそうだ。
そして、一緒に連れていた牙犬(ティム魔獣)の鼻を使ってヤツを追跡した所、西方にしばらく進んだ所で突如その痕跡が消えたという。
その後、その地点を起点に、合流した者達も合わせて扇状に探索を行ったが、現時点まで発見はおろか、痕跡すらつかめない状況だという。
「と言う事で、貴様には再度空からの探索を命じる」
その言葉を聞いて、大慌てで、『俺の存在がヤツを導く可能性』を伝えたが、一切取り合わなかった。
「行く時と、帰る時に北方から行けば良かろう」
はい、論破…
ヤツの攻撃圏外からでは姿が発見出来ない、と言って見る。
「ならば低空を飛んでヤツに攻撃をさせれば良いでは無いか、それで場所が分かる」
はい、また論破…
命の危険云々が通用する相手ではない、こっちの命なんざ一顧だにしていないからね。この人達ゃー。
正直、この時点で逃げようかと思った。俺一人なら無条件で逃げていただろう。でも、瞬と歩が居る。彼らは飛べない。リヤカーで爆走する手は有るが、鳥便で手配を掛けられれば逃げられそうに無い。
東の神聖ハルキソス神国方面へ移動するなら可能ではあると思うけど、後がね…あの1000メートル級を秋も更けてきているこの時期に超えるのはキツいし、超えても廃墟の国では暮らしていけない。
ある程度の高度を飛んで、お茶を濁す以外に無さそうだ。完全にやらないのは真偽確認の魔法具があるから不可能だ。その手で行くしか無い。
結局『符』製造用としてある程度の金を請求するのが関の山だった。ま、それでも騎士団とは違い、アッサリと承諾した当たりは腐っても領主って事なんだろう。ゾンビ並みに腐ってるけどね。
その日のうちに、事情を話し瞬に『フライヤー』の再整備を頼む。帰ってきた時点でノズル部のダメージは治してもらっていたが、今回は全体的に歪みなどまで含めて、徹底整備してもらう。
瞬達からは「逃げませんか?」と言われたが、現状では難しそうだと言って断った。
そして、トルバロス帝国南端の街を起点として、そこから雨の日を除いて7日間探索を続けたが、全く手がかりはつかめなかった。
基本、何かがあった時に対処できる様に最低でも300メートルの高度を取る様にしていたのだが、前回の様な攻撃を受けることも無く、ただひたすら飛行・滑空・旋回を繰り返すのみとなっていた。
捜索範囲も、オズワード王国国境付近だけで無く、セネラル王国内やトルバロス帝国北東部も確認したのだが、全く反応が無かった。
そして、『符』の残量が少ないことを言い訳に(実際はまだ200枚ほど有る)一旦帰ることにする。
地上部隊は、各国200~300人体勢で探索を行っている。おかげでその人影を何度ヤツと勘違いしたことか… ま、基本ヤツ以外は集団で行動しているので、直ぐに違うと分かるんだが、心臓に良くなかった。
翌日、念のために南から回り込むコースで一気にレオパードまで帰り、家に『フライヤー』を置いてから城へ出向く。城へ直接降りられれば楽なんだけどね…
そして、前回同様騎士サクシードを呼び出し、状況を報告する。その報告の間彼は首元に掛かった、真偽確認の魔術具を手でもてあそぶ様にしていた。
その上で俺の報告に嘘が無いことを確認して、落胆する。当然嘘なんか一言も言っていない。『符』についても、『残りが少なくなったので』と言っているので嘘では無い。
「それで、『符』の補充はどれ位で終わるのか」
…まだやらす気ですか。
「コレですよ。コレを一日最低60枚は使います。紙のストックもある程度は有りますが、それも作らないといけません。しかも全て自分一人で。今日明日で終わると思いますか?」
騎士サクシードはそんな俺の、嫌みっぽい言い回しに眉をしかめるが、「分かった」とだけ言って犬でも追い払う様に手を振って、出て行く様に促した。
ちなみに、俺の言い回しが嫌みっぽくなったのは、別に嫌みを込めたわけではない。
判子を使用すれば丸々2日もあれば十二分な数が確保できるのだが、具体的な数値を出さない形でかつ嘘を言わない様にした結果、あの言い回しになっただけだ。最後も相手に尋ねる形で、俺は言い切ってないし。
なまじ真偽確認の魔法具なんてモノに慣れているせいで、言い回しのマジックに引っかかってくれた様だ。
そして、城を出た俺は一応冒険者協会に報告しようと考え、協会へと向かった。
今回はわざわざ、お偉いさんに報告する必要は無いので、ソアラさんに発見できなかったことを伝え、上に伝えてもらう様に言っただけで済ます。
そして、冒険者協会から出た所にちょうど瞬やヴォルフさん達が帰ってきた。どうやら、大型物受け渡しの外部受付を通った後らしく、荷物は無く、リヤカーは空になっていた。
無事を喜び合う挨拶の後、ヴォルツさん達は代金の受取手続きのため協会内へと入っていった。
その手続きが終わる間、俺達は外の縁石に座って情報の交換をしていたのだが、いきなり久々に聞くフレーズが通りの方から聞こえてきた。
「おい、前ら日本人だな」
そのフレーズに良い思い出が無いので、俺達三人は微妙な表情で振り返る。
そして、そこには、黒髪、黒目の20代前半と思える男がいた。彫りの浅さと言い、髪、瞳の色からして、高確率で日本人だと思われる。
そう、日本人なんだ。ただ、こいつは…、漆黒のフルプレートメイルを装備し、ロン毛の頭には頭頂部に被いが無い漆黒の王冠型頭部防具を被り、背中にはクレイモアと言える様なサイズの大剣をかついでいる。
それに直ぐに気づいたのは俺で、次いで歩、最後が瞬だった。
「日本人だったのか…」
「おーよ、日本人と会うのは2年ぶりか、いやもっと立ってるか?」
ヤツは笑いながら懐かしげに言ってる。
「おめーら、他の日本人とは会ったのか?」
「王都で4人組と、後、何人かはバカやって処刑された」
「処刑だぁ(笑)何やってんだ(笑)」
ヤツはケラケラと大笑いしている。通りがかる市民も少し変な目で見ていく。
「一応、他にも王都周辺には10人以上はいるらしい。この街には多分俺達3人」
自分を落ち着かす意味でも会話を続ける。会話を止めれば恐怖に飲まれる気がする。
頭の中では手持ちの『符』の位置を確認して、いつでも実行できる様に備える。
「お前ら、元の世界に帰る方法知ってるか?」
「いや、全然それらしい情報が無くって、9割方あきらめてる」
俺がそう言った瞬間、ヤツがニヤッと笑う。そして、意外なことを口にする。
「俺なら返してやれるぜ、返してやろうか(ニャッ)」




