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34.天竺まで行くんだ

 ジョー・ジオーマの件が知れ渡ってから、冒険者協会には専用の掲示板が設置された。何でも、あまりに聞きに来る者が多すぎて日常業務に支障を来してきた為、張り出す事になった様だ。

 以前、神聖ハルキソス神国にいた当時は、ろくに調査すらしていなかったのだが、今回は50人近くを派遣して状況を確認ているらしい。

 言わせてもらえば、神聖ハルキソス神国で問題になった時に、何でどこの国も調査しなかったんだよ、と小一時間……

 あれから間もなく『穴』問題が発生して、オズワード王国以外は結構終結するのに時間が掛かっていたから、仕方ないっちゃー仕方ないんだろうけど。

 オズワード王国は直接の交易ルートが存在していなかったし、それ故の安心感から無視していたんだろうと思う。ま、それ以前にヤツら(王族貴族)がおバカだからって事だろうけどね。

 調査隊と言うか、斥候部隊って言う方が正しいのかもしれない部隊は、オズワード王国以外の国も出している様で、いつになく周辺国が協力体制になっているとか。

 セネラル王国も国内冒険者を纏めて何とかしようとしているらしいが、大半の冒険者は徴兵を拒否して逃亡してしまったらしい。ま、当然だろう。

 周辺各国にも何度も軍の派遣を要請しているが、オズワード王国も他国も全て二の足を踏んでいる状態だ。多分、俺達同様に、こっち来んな、と願っているだけだろう。

 ここ、レオパードの冒険者協会に報告が来るのは、4日から6日遅れの情報だと思われる。王都経由で、領主に、その領主から伝えられてやっと、と言う流れだから。

 街中の様子もどことなく落ち着きがない。意味は無いのだろうが、時折立ち止まって北東方向の空を見る者がそこここに見られる。

 そんな状況でも、事態に直面しない限りはいつも通りの仕事をしないと生活が出来ない。だから皆、不安を抱えつつ日常の生活を繰り返す。

 それは俺達も同じで、いつもの様にクエストを受けて街の周囲を走り回っている。

 ただ、腕時計が壊れて正確な時間が分からなくなった事もあり、今までよりも早い帰宅が多くなった。その余った時間を利用して、『符』の増産と新しい『符』の研究をしている。

 瞬もゴーレムの改造を色々試していて、ゴーレムのステンレス化が出来ないか試している。それは、なぜかステンレスの成分が、鉄とクロムだと言う事を歩が知っていた事に端を発する。

 ステンレスの方が鉄より固いし、サビ無い、じゃあステンレスでゴーレム作ろうよ、ってな流れでやろうとしたのだが、肝心なクロムが見つからない。

 いや、見つからないと言うより、この世界で何と呼ばれているかが分からない。無論発見されていない可能性もあるけど。

 クロム、原子番号24、多分金属。俺の知識はこれだけだ。この世界にはぐーぐる先生は居ない、調べようがない。

 一応、歩の知識で、銀色の金属なのは確定した。何でも彼女の父親が造船所に勤めていて、そこでケミカルタンカーという薬剤を運ぶタンカーを作っていた際、家でステンレスの話が出て話の流れで質問した時聞いた知識らしい。

 ついでに無駄知識で、ステンレスは、ステン=汚れ、レス=ない、の造語で、略して『ステン』と呼ぶ者が多いがそれは『汚れ』と言ってる事になるとかも教えられたとか。

 と、まあ、それだけの知識でクロムに当たる物質をこの世界の金属から探そうとしたわけだ。しかもない可能性すらある…

 正直無理だと諦めていたのだが、以外にも2週間程で見つけてしまった。その金属はこの世界では『銀白鉱』と呼ばれている金属だった。

 価格的には、さほど極端に高くはなかったが、鉄の3倍程はした為、瞬の貯金は一気に減った様だ。

 そして、色々な割合で混ぜて確認して、15%程の割合で混ぜたモノを使用する事にした。その上で結晶構造などもいじくりまくり、幾つかの性質を確認して、それに合った部分に使用する様にしたらしい。

 そこら辺まで行くと、俺にはちんぷんかんぷんで訳分からん。堅さと弾性の兼ね合いとか有るらしい…

 そんなこんなで、『RX-01 十式』が完成した。全長4メートルの銀白色の巨人だ。むっちゃ輝いている。

「十式なんだ」

「決まってるじゃないですかぁ、金色じゃないから『百』でなく『十』デス」

 …で、MSじゃなくてRXな訳ね。

「100とか10とか良く分からないんですけど、何だか派手派手じゃないですか?、『鉄ちゃん』はもっとシックだったのに…」

 『鉄ちゃん』の場合は意図的に、表面を非鏡面加工した。その為、外観の派手さはなかった。でも『十式』は…鏡だ。キランキランに輝いている。

「良いんです、(くろがね)の城が有れば白銀(しろがね)の城も必要なんですよぉ」

 意味が分からん。どこがどう必要なんだ? 歩も首をかしげたが、直ぐに諦めた様だ。

 この『十式』は『鉄ちゃん』とは別に作製されていて、この『十式』の完成でパワードスーツの『着れるんですα』と合わせて3つのゴーレムが有る事になる。

 ただ、瞬の直接制御じゃ、一度に1つしか使えないんだけどね…

 しばらく『十式』を使って、細かな手直しをした上で、問題が無いのが分かってから『鉄ちゃん』の引退は決定された。

 と言っても念のために、地下倉庫に保管する様にしている。念には念だ、沼にはまって回収できなくなる可能性もあるからね。

 そんな感じで、俺達が色々やっている間に、セネラル王国から良くない報告ばかりが舞い込んできていた。

 まず、ジョー・ジオーマの進路上に物理的、魔術的双方の罠を大量に仕掛けたが、全て起動したもののジョー・ジオーマにはかすり傷一つ付ける事が出来なかった。

 次に、決死隊として、進路上に潜ませた兵士による弓、魔術、剣、投げ槍等による近距離からの攻撃(暗殺)も全て失敗に終わった。全員が、黒く光る玉を当てられ灰すら残さず消滅した。

 この決死隊の中には、地面に穴を掘り、その中から頭上を通るのを待ち、真下から攻撃する事に成功した者もいたが、こちらも傷一つ付けられなかった。

 次に、深夜、寝ている所を襲うが、襲撃部隊は全滅。翌日無傷のジョー・ジオーマが見られた事から、こちらも傷一つ付けられなかったものと推測された。

 その翌晩も、同様の夜襲を掛けるが、やはり全滅。野営地の周囲500メートルが木も虫も居ない廃墟と化していた。夜間で確認できなかったが、アノ『黒い光』が使用されたものと思われる。

 そして、現在、セネラル王国王都まで10日の位置を、進路上の無人となった村や町を瓦礫に換えながら移動している。

 と、言う感じの報告だ。

「何か、無敵状態じゃないですか…」

「無敵★でも取ったんじゃ無いですかぁ」

「あほ、あれは10秒だろ」

「無敵★? …あっ、ゲームの話ですね。もぉー、まじめに考えてください」

 ほら、瞬のせいで怒られたじゃないか。

「でも、魔法も物理も寝込みでも駄目って…一体何なんですか、ジョー・ジオーマって」

「さーな、最初は魔王なんじゃ、なんて言ってたけど、魔王の比じゃないだろ」

「デスデス。破壊神とか、暗黒神レベルですよぉ。一応はリッチとかでも、腐敗魔法で街を壊滅させまくる漫画とか有りましたけどねぇ」

 エデ・イーとかならまあ、何とかならなくは無いだろうけど、ホントに破壊神や暗黒神なんてヤツだったら絶対無理だな。

 漫画や小説ならともかく、神様なんて存在を人間風情がどうこう出来る訳がないだろう。神様なんて存在があるとしたら、多分次元レベルで2つ3つは違うはず。3次元の存在が、5次元の存在に手出しできるとは思えない。

「絶望しかないんですけど……」

「絶ぼぅ…痛ぁっ」

 嬉々として、某ネガティブ系教師の戯言を吐こうとした瞬をヘッドバットで黙らせる。

 ぐおーとか言って、頭を抱えでしゃがみ込んでのたうつ瞬と俺を交互に見た歩は、今回も意味は分からずとも納得はした様だ。いつもの事だからな~。

「何か手はないんですか、逃げるにしても何時かは逃げる所すら無くなりかねませんよ」

「最悪駄目な時には、試してみたい手はある。でも、駄目だったら死ぬからな…試しに、なんて出来ないよ」

「手が有るんですか?」

 出来ない可能性も高いけど、ひょっとしたらってレベルのものだよ。そこらも含めて説明した。

「確かに、可能性は有りそうですけど…駄目だった時には逃げられないですから…」

「100パー殺されるな。消滅させられる、ってのが正しいのかな」

「それってぇ、最後の最後追い詰められてぇ、どーせそのままでも死ぬって時じゃないと無理ですよぉ」

「ああ、ヒーローや英雄になんか成る気はないからな、自己犠牲精神なんて全くないよ。自分が生きていてなんぼだ」

「それで良いと思います。ここが自分の国で、家族が居るとかなら別でしょうけど…違いますから」

「ま、死んで欲しくない人はそれなりには居るけどな。それでも自分の命をかけてまでってのは無理だ」

「デスデス。宿の人達とかは死んで欲しくないですねぇ。いざと言う時は一緒に逃げましょう。破壊神相手は無理でもぉ、そこらの魔獣からなら守れますよぉ」

 そんな未来がこない事が一番なんだが…厳しそうだ。ヤツの目的じたいが分かってないからな。

 俺達の日常サイクルに、『朝夕、情報掲示板を確認する』と言う項目が増えた。これば、俺達だけで無く他の冒険者はおろか、商人達も同じだ。

 通常は、旅の商人位しか訪れない冒険者協会に、地元の商人も顔を出す様に成っている。時にはそれ以外の市民すら掲示板を見に来ている。

 映画や小説とかだと、このての危機は、民衆に混乱を与えない為と称して、公開が成されないってのがパターンだが、ここは違う様だ。

 理由が有っての事か、何も考えずになのかは不明だけど、俺たち的には知らされていた方が有りがたいと思う。多少なりと準備は出来るからな。

 役に立つ準備になるのかは不明だが、出来る事は着実にやっていく。

 売買する分以外にも、自分たち用にある程度の肉や薬草類を確保して、保存食や薬を作っている。

 この地域は他国に食糧や必須調味料を依存してはいないので、他国にヤツが居る間は食糧などが高騰する事はないと思うが、難民が流入しだせば話は変わってくる。

 多分、現時点でも多少では有ると思うが、セネラル王国からこの国への難民は入って来ているはず。

 そして、この手の事は、ある時点に達した所で一気に動き出す。多分セネラル王国王都が壊滅したら、それが切っ掛けに成るんじゃないかと思う。

 掲示板の内容が全て事実であるなら、その未来は覆りそうにない。だから、準備をする訳だ。干し肉、燻製、漬け物、ドライ野菜、缶詰作製。

 干し肉、燻製、漬け物は俺と歩が担当し、俺は『符』の件も有るので大半は歩がやっている。

 そして、瞬はゴーレム能力を使用して、ドライ野菜と缶詰を作る。

 ドライ野菜は、木を乾燥させたのと同じ要領で、ウッドゴーレム能力によって、水分から野菜を分離する事で乾燥させている。

 野菜が、木と同じ扱いが可能だった事で出来た事だ。木の乾燥と同じで、水分を指定して分離が出来ない為、水分以外を指定して分離させる形で水分を抜いている。変則的だけどね。

 缶詰は缶を瞬が作り、中身は『魔獣のいななき亭』に依頼して作ってもらっている。小型の缶ではなくて、業務用サイズの缶だ。

 中身は煮込み料理を中心に、沸騰させて良い種類を選択している。なんせ、詰めてから再度大鍋の中で缶ごと加熱して、内部の菌を殺さなくちゃならないからね。

 そんな作業を続けてある程度の量を確保出来た頃、セネラル王国王都壊滅の報が入って来た…一応、住民は全て前もって避難していたらしい。

 そして、全ての周辺各国が一番注目したヤツのその後の進行方向は、『西へ』だった。西にあるのはトルバロス帝国。オズワード王国の2倍近い国土を持つ国らしい。

 西とは言っても、途中から南下すればオズワード王国に入る事になる。オズワード王国としては予断を許さない状況のままだ。

 そして、想像通りセネラル王国から大量の難民が流れ込んできた。特に、ヤツの進行方向の関係で、南北にあるオズワード王国とスイツハルト公国に多く流れ込み、西部の住人はそのままトルバロス帝国側へと押されて行くと思われる。

 しばらくして分かったのだが、オズワード王国は国境を閉ざして、難民を拒否したらしい。

 しかし、万里の長城の様な塀が有る訳でも無く、魔獣の危険さえ無視すればいくらでも越境できる場所はある。つまり、ダダ漏れで大量流入だった訳だ。

 幸いと言って良いか、その国境とこのレオパードは直接繋がってはいない。王都を経由して繋がる形なので、今すぐ問題が発生する事はない。

 それでも、向こうで食糧不足が発生すれば、当然最終的にはこちらも影響が出るのは避けられない。

 肉類に関しては問題は少ない。魔獣を狩ればそれなりに手に入る。特に味にこだわらなければ、泥臭い系はいくらでも手に入る。だが、野菜や穀物は別だ。

 元々、穀物類はある程度の余裕以外は、地域で消費する分しか作らない。それ以上作っても売れないから、自然その地域に合った量に定まる。

 だから、今回の様にイレギュラーな人間が大量に来ると、てきめん足りなくなるわけだ。そして、こんな状況では他国も絶対に輸出なんてしない。つまり、食糧不足が起こるのは確実って事だ。

 ま、ヤツがこっちに来て、街や人が消滅するよりはマシかもしれないけど…

「食べられる野草を調べておきましょう」

 ある日、『魔獣のいななき亭』で食事中、歩がいきなりそんな事を言い出した。

「この騒ぎがいつまで続くか分かりませんし、最悪この街を離れて野宿とか成る可能性も有りますから、食べられる野草は知ってる必要があります」

 俺は、他の3人、瞬、ヴォルツさん、シルビアさんの方を見ると、瞬とヴォルツさんはピンとこない顔だったが、シルビアさんは納得したのかうなずいている。

「缶詰とドライ野菜がありますよぉ」

「あれはそんにな長くは持ちません。場合によっては数ヶ月とか野宿する可能性があるんです」

「…場合によっては一日二日しか持たない可能性も有るしな」

「ええぇ!いくら何でもそれは無いですよぉ」

「あのな、俺達だけで避難って言うか逃げる場合なら問題ないけど、街ごととか数十人の集団でって成ったとき、手持ちの食糧を隠したままで居られるか?」

「……ううぅぅぅ、それって絶対暴動フラグですよぉ。確かに数が多けれは1日で無くなっちゃいますねぇ…」

 瞬も納得した様だが、歩もそこまでは考えていなかった様で、その表情が更に険しくなった。

「なあ、そのどらい野菜とかってのは大量に作れねーのか」

「作れますけど、作れば作るだけ現状の市場からそれだけの数が減る事になります。ただでさえ、買い占めに気を使い出している状態では…」

「そうね、確かに今大量の野菜を買ったりしたら、買い占めを誘発してろくな事には成らないわ」

 現在は、この街は安定してはいる。ただ、俺達ですら考えるわけだから、商人達が食糧問題に気付かないわけがない。一般市民でも気づいている者も多いはず。

 そんな最中、本来は買い占めには向かない『野菜』だとは言え、騒動の切っ掛けとなる可能性は有る。危険だ。

「あと、元々の大きさよりはある程度小さくは成るんですが、重量はともかく量はかさばるんですよ。大量に持ち運ぶのは無理かがあります」

「デスねぇ。葉物とかは形を崩さない様にすればぁ、ますますかさばりますし」

「やっぱり、野草知識は必要です!」

 歩の断言を誰も否定できなくなった。ま、俺は最初から否定する気は無かったしね。

「で、それってどこで調べるんだ? 協会の図書室にそんな本があるのか?」

 ヴォルツさんはその手の植物知識はない様だ。ベテラン冒険者は知っていそうなイメージなんだが、しょせんは勝手なイメージって事か。

「どーだ、瞬、見た覚えはあるか」

 瞬は図書館の本は、一通り全てタイトルは確認している。とは言ってももう2年以上前の話だけど。

「食べられる限定の本はなかったと思いますけどぉ、植物図鑑系のモノに『食可・不可』って書いてあった気がしますよぉ」

「じゃあ、明日にでも調べてみましょうか。早いに越した事は無いでしょ。今のうちに見極められる様にしておく方が良いわ」

「そうですね、ついでに実際料理してみて、合う合わないとかも確認した方が良いと思います。食は命です。大事です」

 …何だか、いつになく歩が熱い。食にこんなにこだわるタイプだったっけ?

「あぁー、歩さんは王都で苦労してましたからねぇ」

 …思い出した。歩は王都に居た時は、独りぼっちで稼ぎもギリギリで、1日二食が普通で、雨などが降ると2日程食えない事もあったとかって言ってたな。

 もう、俺の中の歩のイメージは、この街に来てからのイメージにすっかり換わってしまってたので忘れていた。

 そんな訳で、翌日早朝から、依頼は後回しにして全員で二階の図書室へと行った。

 最後にここに来たのは1年程前に、少し遠目の場所に居る魔獣の情報を調べるのに寄って以来となる。

 そして、本探しは慣れている瞬とシルビアさんがメインとなり、俺達は少ないブロックを目を細めながら探す。で、結局見つけたのは瞬だった。

 その後、その本を調べ、『食:可』と書かれているモノをすべてノートに書き写す。その間他の者もその記述と絵を覚える。

 一部は知っている植物も有り、「コレは知ってる」「コレ食べられたんだ」などと一部は情報の交換などしながら2時間近くを図書室で費やす事になった。

 普段で有ればもったいない時間の使い方ではあるが、何時どうなるか分からない現状ではこちらの方が優先する。

 何より、俺達はもとよりヴォルツさん達も当座の(ダリ)に困っているわけではないので、クエストに固着する必要はない。

 そして、その日は5人でパーティーを組み、クエストは受けずに東部の草原と湿地帯に『食べられる野草』を探しに行った。

 無論、ついでに居た魔獣は狩るが、主目的は『食べられる野草』だ。

 各植生に合わせて纏めたノートを見ながら、周囲を警戒する担当以外は全員地面を注視しながら移動していく。

 そして、誰かがそれらしいモノを見つけたら、それが間違いないのか検討をする。「コレ違いますよ」「いや、コレだろ」「葉の形が…」などと言い合いながら、確実に違うモノ以外は全て回収していく。

 さらに、一部は途中で『十式』によって捕まえた魔獣にムリヤリ食わせる事で、毒の有無も確認した。ま、魔獣には効かないで人間には効く毒なんてのも有るだろうし、逆も有る。だから参考程度にしか成らないけど。

 それでも、一つは、食わせて1分もせずに泡を吹いて痙攣(けいれん)した後死亡した草もあった。その草の記述に、良く似た毒草が有る旨が記載されていたので、その毒草だったと判断できた。

 その後、似ているが微妙に違う草を発見し、そちらを再度捕まえた魔獣に食わせると、5分経っても変が見られなかったため、その実際に見比べた違いをノートに書き込んだ。

 そんな感じで、その日一日は植物採取とその確認で終わった。

 そして、街に帰ってきてからは、全員で俺達の家に集まり、その日採取して来た植物の人体実験と料理実験が行われた。

 人体実験は、確実にそれだ、と分かっていない植物を、その条件で有る『生食可・加熱必須・○○部分』などに従って、少量を食べてみる。各自担当を決めて。

 そして、料理実験は今まで薬草や染料などの材料として採取して来て、間違いなくソレだと分かっているモノを使って料理を作ってみると言う試みだ。

 結果から言えば、誰一人として腹を壊したり、具合が悪くなる者はいなかった。

 料理に関しては、大半がかなり癖があり、そのままではキツいモノが多かった。ま、普通に食えるなら、みんな食ってるはずだよ。食ってないって事は…って事だ。

 ただ、食えないって事は無く、料理のしかたと前処理しだいだと思う。そんな事が前もって分かった事が大事だ。これだけでも、いざと言う時に全く違ってくるはず。

 それから3日間、俺達は5人で色々な場所を巡り、『食べられる野草』探しと実験を続けた。

 そのおかげで12種類は確実に見分けが付く様になり、5つは普通に食べられる料理方法も見つけている。更に、2つは普通の野菜より美味いモノだったりした。高級食材ってヤツか?

 それ以降は、何時もの3人と2人パーティーに戻り、普通のクエストを実行しながらその付近の『食べられる野草』も採取すると言う形になった。

 そして、『魔獣のいななき亭』で食事をする際、互いに持ち寄った野草の確認をし有ったり、成功した料理方法の情報を交換したりする。

 最初は、持ち込まれる『草』にブーブー行っていた娘ちゃんも、最近は何も言わなくなり、逆に熱心に見に来る様になった。彼女も色々心配して居るのだろう。

 そして、ジョー・ジオーマがついにトルバロス帝国に入ったと言う、オズワード王国に取っては吉報が舞い込んできた。

 よその国には申し訳ないが、そのままトルバロス帝国を西に抜けて、ずっと西に行ってくれる事を祈りたい。

 Go Westだ。天竺でも天国でも良いからそのまま行け。

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