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33.トマホークなら一発です!

 久々に日本人に会った訳だが、その日の夕方受付でソアラさんから意外な話を聞いた。それは、あの4人組は初めてだが、それ以外にもちょくちょく護衛任務でこの街を訪れる日本人(異世界人)は居るのだと言う。

 たまたま会わなかっただけらしい。まあ、基本街にいる時間は少ないからね。雨の日は街にいても、外に出る事はほとんど無い。

 普通なら、宿などで会うケースも有るんだが、『魔獣のいななき亭』は人気があって、一見の客(よそ者)が泊まれる事はほぼ無い。そんなせいで、俺達は日本人と会わずにすんでいたらしい。

 基本、日本人と会いたいとは思っていない。この前の4人が例外とは思うが、歩があれだけの間一人でいた事から考えても、大差はない気がする。

 別に知り合いがいるわけでもなし、話すべき事も多分無いだろう。瞬辺りは、同じ系統の趣味を持つものが居れば、また違うのだろうけどね。

 そして、そんな全く望まない再開から10日後、俺は新たな出会いと、衝撃的な事実を知る事になる。その切っ掛けは、ソアラさんからの情報だった。

 いつものように、クエスト終了の手続きをしていると、いつになく言いよどんでから彼女が話し出した。

「いま、この街に符術師の方が来ています。いわゆる家系継続型の符術師です」

 彼女が最初言いよどんでいたのは、個人情報的な事を話す事に躊躇(ちゅうちょ)したのかもしれない。

 彼女の言う家系継続型ってのは、符術師を代々家系で継いでいる者たちで、実質俺のような者を除けばほとんどの符術師がこれに当たる。

 なんせ、準備や施設がないと全く始められない職業だからね… 身内で施設などを共用出来ればスタートも簡単になる。それが無い俺がどれだけ苦労したか…

 そんな符術師がこの街に、今来ているって事だ。

「そうなんですか、えっと、どこに泊まっているかとか分かりますか、分かれば教えて頂きたいんですが」

「宿泊場所は、ハッキリは分かりませんが、『風の吹きだまり』と言うパーティーと一緒にいましたので、紅3番通りに有る『森のお宿』にいるかもしれません。ホーマーと言う方です」

 俺は、ソアラさんに礼を言って協会を出る。そして、表で瞬達と合流してから事情を話し、彼らと別れて『森のお宿』へと向かう事にした。

 この街の通りは、ブロック毎に色で分けられ、その上で番号が付けられる形になっている。紅3番通りは、『魔獣のいななき亭』とは違う方向に有り、瞬達とは完全に反対に進む事になる。

 ただ、距離的にはさして離れてはおらず、10分と掛からず着く。ただ、時間の関係でまだ宿に帰っていない可能性はあるんだけど、ま、行かなきゃ話にならないんで、行くしかない訳よ。

 で、受付で「ホーマーさんいますか」と聞くと、客商売らしく直ぐには教えてくれなかったが、教えないという事はこの宿を利用しているって事に成るわけだ。いなけりゃ居ないって言えばすむしね。

「俺、ホーマーさんと同じ符術師なんですよ、符術の事でホーマーさんに聞きたい事があって伺ったんですが…」

 俺がそう言うと、受付のおっさん(推定50代前半)の表情が変わる。顔から険しさが消えた。冒険者をメインに長く商売をしている為か、符術師についてもある程度知識があったようだ。不遇関連も…

「そう言うことなら良いが、向こうが拒否したら諦めろよ。騒ぎは困るからな」

 そう言って部屋番号を教えてくれる。俺は礼を言ってから、2階に有るその部屋へと行った。そして、ノックして用件を言うと、有りがたい事に部屋へ入れてくれた。

 ホーマーさんは、30歳位で身長180程のひょろっとした感じの男性だった。冒険者という感じでは無く、商人や学者と言った方が似合う感じの人だ。

「すみません急に伺ったりして」

 ドア越しでも言ったのだが、やはり対面してもう一度言っておくべきだと思って謝罪しておく。その上で時間を無駄にしないように質問していく。

「俺は独学で符術師をやってるんですが、『符術師読本』の上巻と中巻はここと王都の冒険者協会の図書室で閲覧して作れるようになったんですが、下巻が手に入らなくって困ってるんです。

 もし、閲覧出来る場所とかご存じでしたら教えて頂けないでしょうか。それか、お持ちでしたら譲って頂くか、書き写させて頂けないでしょうか」

 俺の目的は、コレだった。以前から下巻の事は探していたんだけど、全く見つからなかった。ソアラさんも知らず、本屋も全く知らなかった。

 そんな状況だったんで、符の改造の方向に手を出さざるを得なかったんだよね。

 俺の話を聞いていたホーマーさんは、軽く眉を寄せて難しい顔をする。

「独学か…苦労したんだろうな。大抵の符術師のギフト持ちは別の職に就くからな。家みたいに家ぐるみを除けば。下巻か…」

 彼は、そう言うと、ゆっくりした口調で予想外の事を語り始めた。

 ホーマーさんいわく、下巻は発行すらされていないのだと。

 250年程前に書かれた本らしいのだが、当時その作者が数少ない符術師の元を巡って、各家々に受け継がれた『符』を集大成として纏めようとしたのが『符術師読本』なのだという。

 作者本人もギフトの符術師を持っていて、その不遇さに嘆いた者の一人だったらしい。しかも当時は『符術師読本』のようなモノも無く、伝えている家を探し弟子入りなりするしか『符』の紋章はおろか作り方すら分からない状況だったそうだ。

 そして、ただでさえ不遇なギフトを少しでも何とかしようと、一生を掛けたのがこの作者だったのだと言う。

 結果、上・中巻と言う2冊のマニュアル本を発行し、それはそれ以降の符術師の不遇度を大きく改善するに至ったが、結局志し半ばで他界する事になった訳だ。

 つまり、下巻を発行する前に死んでしまったという事だ。おお勇者(作者)よ、死んでしまうとはなにごとだ…

「……下巻は無いと?」

「ああ、無いよ」

「…では、上・中巻16種以外は無いって事ですか」

「16種だけだね。もちろん、どこかの家がひっそりとそれ以外の『符』を伝えている可能性はゼロでは無いよ。残念ながら家には伝わってないよ」

「……分かりました。お忙しい所時間を頂いてありがとうございました」

「いや良いよ。役に立てなくてすまなかったね」

 俺は再度礼を言ってから、部屋を出て帰途についた。

 ショックだった。かなりショック。教えてくれない、高い金をふっかけられるといったパターンは想定していたが、まさか存在していないとは…なんてこったい。

 トボトボと家に帰ると、瞬達に聞いてきた話を伝える。

「マジですかぁ、無いなら無いでなんで新しく作る時上下巻にしてないんですかねぇ」

「多分、写本を作った人も事情を知らないから、そのまま写したんじゃ無いでしょうか」

「…多分そんな感じっぽいですねぇ。でもぉ、250年前ってその本も無かった訳でしょ、それって不遇なんてレベルじゃ無いですよぉー」

「だよな、先ず他の符術師を探す事から始めなきゃ成らなかった訳だ…限りなく無理に近いだろ」

「ですです。今以上になり手が居なかったはずですよぉ。だから余計符術師が見つからない…負のスパイラル一直線ですねぇ」

「偉大なる無名の先人に感謝だな」

「名前無いんですか?」

「ああ、書いてないよ。なんでかな?」

 他の本、図鑑にすら作者名が書かれているのだが、この『符術師読本』には全く書かれていなかった。表紙や背表紙はおろか、文中にも書かれていない。何故?

「でも、良いじゃないですかぁ、今は自分で新しい『符』を作れるように成ったんですからぁ」

「いや、俺が作れるのは、既存の紋章パターンを組み合わせたモノだけだよ。そのパターンは多ければ多い程良いんだ。パターン自体は作れないからな」

「あ──、そう言うことですか」

「なるほどぉー」

 符術はある意味プログラムに近い所があると思う、と言っても俺は高校の授業で簡単に勉強した程度の知識しかないんだけど…

 紋章のパターンは、プログラムで言う所の関数とかに似ている。アセンブラで言えばIOコールやシステムコールなんかに近いか。

 だから、十分な数の『符』がないと、その紋章パターンが少ないわけで、コンソール出力系はあっても入力系がないなんて状況でプログラムを組むのと同じ様な事になる訳だ。

 正直、時空系の『符』と治癒系の『符』が別途欲しかった。そうすれば現状改造が上手く出来ずにいるこの系統の『符』で色々作れたはずだったのに…残念。

 そんな衝撃の事実を知ってからは、今まで以上に新しい『符』の作製に没頭した。色々な『符』が出来たのだが、実用に足モノは全く出来なかったが、ある意味新しい『符』よりも役立つ紋章パターンが偶然から生まれた。

 単純に書き間違った事で、変な反応をした『符』が有り、書き間違いに気づいたもののその反応じたいが気になって、あれこれやっている間にそれがある種のバッテリーやコンデンサの様な機能を発揮する事が分かった。

 その紋章パターンを組み込む事で、『符』の効果時間が格段に延びる。この紋章パターンは最大3つまで組み込めるようで、30秒の『符』が2分間保つようになった。

 そして、『加重符』『浮遊符』『障壁符』『付与(速)』『付与(力)』『付与(硬)』の6種は以前の紋章印は破棄して全て、効果時間を延ばした紋章を刻んだ判子に作り直した。

 この6種以外にも組み込めるのだが、『火炎符』などが2分とか火を吹き続けても邪魔だし、『火壁符』とかになるとこっちも移動が出来なくなるなどの問題が起こる為、全てには組み込まない事にした。

 『反重力符』とかもそのパーターンだね。長時間相手を浮かしても意味が無く、逆に短時間で切れて地面に叩き付けてくれた方が後がやり易かったりする。

 過ぎたるは及ばざるがごとし、ってやつだね。

 そして、この効果時間延長された『符』が完成してから、俺には新しい戦術が生まれた。それは『浮遊符』と『反重力符』を使用した飛行だ。

 『浮遊符』で浮かび、剣に貼り付けた『反重力符』を使って自分に反重力を掛けそれを移動力に換えて空を飛ぶ。方向は剣の向きや位置で変える。

 当然各『符』は予備を付けた状態であるのは言うまでもない。墜落死なんてごめんだよ。

 そして、この飛行によって、高速で相手の上を越えて反対側に移動が出来るようになった。無論俺一人ではあるけどね。

 そのおかげで、『大足羽無し』の狩りが格段に楽になった。一回目の狩りで成功して、昼頃には帰れる事も多くなった。さすがに距離的に俺達でも2往復は無理だけどね。

 ちなみに『浮遊符』の効果時間が延びたおかげで、瞬達に非戦闘時になら使わせられるようになったんだが、空中の姿勢制御がなかなか上手く出来ず、空中でクルクル回っていた。

 運動神経の悪い瞬はともかく、歩も大差なかった事に驚いていたのだが、瞬から「はじめさんがおかしいんですよぉ」と言われ、よくよく考えると機械体操の経験で空中での姿勢制御に慣れていた事に気づいた。

 漫画や昭和のカンフー映画、ハリウッドアクション映画のように、戦闘でバック転などのようなアクロバットな動きなど出来るわけもないのだが、細かな所ではその効果がかなり発揮されていた事に改めて気づいた。

 今でも鉄棒があればツカハラ位なら多分出来る。…家に鉄棒作ろうかな。うん、良いかもしれない。

 『浮遊符』は楽しい。暇があれば多めに作って、飛び回って遊んだりしている。川を越えるのもコレで済ませたいんだが、瞬のやつがクールクル回るからな…いまだに氷らせて渡ってる。

 後は、『付与』3種の効果は絶大だ。大抵の戦闘は『付与』すれば2分有れば十分なので、時間をさして気にせず余裕を持って出来る。以前の30秒とは比べものにならない。

 それ以外にも、『雷槍符』を手に貼り付けて前方に雷を放ちつつ突っ込んむ、なんて言う戦法も出来た。発生方向を『符』の上面に指定出来た事による運用方法だ。『火炎符』だと、無条件で地面方向から上に向かって発生するからね。

 そんな風に、新しい『符』と改造によって変わった特性を生かした運用方法を少しずつ構築していく。

 そして、瞬のゴーレムについて意外な思い込みが分かったのもこの頃だった。それはゴーレムのカンストサイズの3.2メートルと言うモノだ。

 実際、コレは瞬だけでなく他のゴーレムマスターも同様で、解説本にも書かれている純然たる事実なのだが、実はコレが瞬の場合は少し違った。いや、思い違いをしていた。

 それを気付かせたのは、『鉄ちゃん』の分解整備をしている瞬を眺めていた歩の一言だった。

「パーツを3メートルで作って、組み合わせて動かせるなら、ホントに巨大ロボに成ったのに残念だね」

 その時は、俺も休憩がてら裏庭に居たので、歩のその言葉は聞いていた。そして、確かにそうだな、なんて考えてた。

「……そーですよ、そーなんですよぉ、それで良いんですよぉ、ああぁ、何やってるんだろう僕はぁ」

 突然もだえるように頭を抱えてクネクネし始める瞬。とうとう心の病が…と心配したのだが、どうやらまだギリで踏みとどまっていたようだ。

「大きさの3.2メートルってぇ、一度に形成出来る大きさの上限であって動かせる上限じゃないんですよぉ」

 ……なるほど、そう言うことか、じゃあ歩の言った巨大ロボも可能かもと言う事か?

「僕のゴーレムは身体のパーツは個別に作ってますからぁ、この制限は全然関係ないんですよぉ、ああ、なんで勘違いしてたんだろうぅぅぅ。早く教えてくださいよぉ」

 思いっきり理不尽な事を言い出す瞬に、歩はあきれ顔だ。ま、しょうがないよ。

「自分で気づかないお前が悪い。って言うか、お前じゃないと気づけないだろ。で、巨大ロボいけるのか?」

「うぅぅぅ、巨大は無理ですぅ。制御自体出来ないですしぃ、自重に金属が保ちませーん。何ちゃらリューム合金とか何ちゃら合金Zとか無いと無理ですよぉ」

「だったら、3.2メートルサイズは問題ないって事ですか?」

「それは全然問題ないはずですぅ。MPとの兼ね合いもありますからぁ、試してみないと分かりませんけどぉ、4メートル位はいけそうな気がします」

 そんな訳で、金属の購入の後実際に試した所、5メートル程度までならMP消費も含めて問題ない事が分かったのだが、街中を移動する際や門をくぐる際の問題で、4メートルサイズに落ち着く事になった。

 この大型化に伴い、全体のフォルムが以前の通りスマートな形になり、見栄えは格段に良くなった。また、内部を空洞化+ラチス構造化する事で自重の軽減も実行し、以前の3メートルに満たないサイズより軽くなっていた。

 念のために、『MS-02 鉄ちゃん』には『付与(硬)』も5枚程前もって貼り付けてあり、ヤバゲな際はそれを起動して表面強度を上げられるようにしている。

 その上で、瞬もゴーレムの強度を上げる事を意識してやるようにしている。続ければ多少は変わるような気がする、と本人は言っているが実際の所は不明だ。

 本人は、更に『浮遊符』などを使って空を飛べれば、とか考えているらしいが、俺も乗るならともかく瞬だけでは無理だな。

 あと、5メートルサイズを作った際に使った鉄がかなり余ったので、それでもう一体アイアンゴーレムを作製した。

 それは、全長1.7メートル程のズングリムックリしたモノで、ゴーレムでもロボでも無く、パワードスーツと呼んだ方が良い物だ。

 実際、ゴーレムビルドによって作られた全身鎧で、通常の鎧の倍以上の厚みが有り、重量も中に入る人間と大差ない重さに成ってい居る。

 背中側の装甲を開き、そこから着込む事になる。更にこのゴーレムにも風魔術系の魔術具が使用されていて、換気と送風を行っている。無駄に金が掛かっていたりする。

 しかもデザインが、ズングリムックリながらアニメロボチックに仕上げてあり、終いには色まで塗ったりして、『鉄ちゃん』より凝っている。

 このパワードスーツは、実戦用では無く瞬のお遊び用だ。それでも何度かはリヤカーに積んで持って行って、実際に試してみたが、悪くは無いが『鉄ちゃん』の方がトータルとして上、という結論となった。

 実際、動きは人間並みの早さが出て、人に近い小回りも効き、魔術以外の攻撃の大半は効果が無い為、かなりの無双が出来るんだが、いかんせん熱対策が不完全なので長時間運用が出来ない。

 水系の魔術具でクーラーの様なモノを、と考えた様だが、残念ながら小型サイズで快適な温度帯に設定出来るモノは無く、あきらめた様だ。

 大抵のこのてのモノは、極端に温度が低下して凍らせるタイプのモノで、とてもでは無いがこのゴーレムに組み込める様なものでは無かった訳だ。

 それでも瞬はあきらめられないらしく、色々と試行錯誤している。

「鎧モノは定期的に需要が有るんですよぉ。特に女の子に人気が出るんですぅ」

 …そんな意味不明な事を呻いていたが、当然無視してやる。

 そんな事をしながら、普段通りのクエストを続けたのだが、西南西の草原でまた『白雷虎』と2回も遭遇してしまった。ま、サクッとやったよ。

 『反重力符』で上空7メートル程に持ち上げ、落ちてくる所に『尖凸符』で作った杭が腹部にグッサリ、もがいている所にブースとした歩が走り寄り首筋にグッサグッサ。

 2回目は、先制で『鉄ちゃん』に襲いかかられたので、そのまま袈裟固っぽく押さえ込んだ所で、俺と歩がグッサグッサ。傷も少なく毛皮も高く買い取って貰えたし、魔石も手に入ってうっはうは。

 ただ、この西南西の草原だけじゃ無く、他の地域でも元々はその地域に居ない魔獣が出没し出しているらしい。そして、その頻度が増していると言う。

 更に、まだ確認中ではある、との前置きの元ソアラさんから言われたのだが、普段より魔獣じたいが強くなって来ているんじゃないか、と言う報告が複数から上がってきているらしい。

 全てが強くなっているって訳では無いけど、今までの経験と比較して、個体差の範囲を完全に超えたレベルの個体がまれに存在しているというのだ。

 俺達にも、そんな風に感じた事は無いかと聞かれたが、今ひとつピンと来るモノがなかったので、首を横に振った。

 実際、後から瞬と歩にも確認したが、2人とも首をかしげて俺と同じ反応だった。

 『白雷虎』のイレギュラーは有ったが、もう一つのイレギュラーには出会わずにすんでいる様だ。ま、今後は分からないんで、気を付けとかないとな。

 そんな多少不安を感じる報告が成されてから、しばらくが経ち、とうとう、俺達がこの世界に来て2年となる日が来た。

 年も俺は19歳、歩が18歳、瞬は17歳と全員2歳ずつ年をとっている。ちなみに全員誕生日は6月だったりする。

 それを知った際、ひょっとしてこの世界飛ばされた者の誕生日が全員6月なのでは?なんて考えてしまった。でも日付が全く違うから、単なる偶然だと思うけどね。

 その日は前回同様、ささやかなパーティーを開いた。『鬼面ガニ』で作った料理と、『大足羽無し』の卵で作ったプリンを追加した程度のパーティーだけどね。

 お祝い、とは当然違うけど、区切りとしての記念でパーティーを開いた。

 だが残念な事に、それを期としたように、2つの禍事(まがごと)が発生した。一つは俺の腕時計の電池が切れて使えなくなった事だ。

 俺達3人の中で腕時計をしていたのは俺だけで、瞬と歩は携帯電話で兼用していたタイプらしく、元々付けていなかったそうだ。

 これからは正確な時間と、日付が分からなくなってしまうと言う事だ。コレは地味に痛い。太陽でだいたいの時間は分かるが、曇っていると全く分からない事も多い。

 だから、今までの様にギリギリまで探索を続けると言った事が出来なくなる。気持ち早めに帰る事になるだろう。効率は悪化するけどしかたが無い。

 結局、腕時計は捨ててしまった。ただし、ベルト部分に着いていた方位磁石は取り外す。コレって今までもかなり役に立ってたからね。

 なんせ、広くて見通しの悪い所に毎日の様に出かける仕事だから、方位が分からないとてきめん迷ってしまう。山や太陽からだいたいの方位が分かる場所なら良いが、そうで無い場所も多い。

 方位磁石は無くては成らないアイテムになっている。一応、市販品もあるけど、質は似た様なレベルだからコレで十分なんだよ。

 そして、腕時計どころで無いもう一つの禍事(まがごと)は、神聖ハルキソス神国の神都を滅ぼしたと言うジョー・ジオーマなる者が、オズワード王国の北東にあるセネラル王国に現れて、町や村を滅ぼしながらセネラル王国王都の方へ向かって進んでいるという。

 セネラル王国は直ちに騎士や兵士を送り込んだが、一瞬で消滅してしまった。

 それは神都消滅時に見られたという『黒い光のドーム』に覆われ、それが消えた時にはその中にはジョー・ジオーマ以外誰もいなかったと言う事らしい。

 この事は周辺各国に直ちに伝えられ、この街にも冒険者協会経由の鳥便で伝えられた。

 ジョー・ジオーマの件は、神聖ハルキソス神国内での事で有れば不気味ではあれ他人(他国)事だったのだが、それが別の国に出て、そこの町や村すら消滅させたとなっては話が変わってくる。

 無論この国も同様で、セネラル王国とは北東で国境を接していて、普通に道路も整備されて行き来もある状態だ。

 ジョー・ジオーマがその道を通って、こちらに来る可能性は否定出来ない。当然他のセネラル王国に国境を接する国々も同様だろう。

 しばらく前に『穴』の未知魔獣(モンスター)で大きな被害を受けて、戦力的にもダメージを受けているさなかに、訳の分からない能力を持った破壊神の様な存在が来ると言う状況だ…

 そして、その対処方法も全く不明で、対処出来るかどうかすら分からない。更に言えば、何の目的でそんな事をするのかすら分からない。全てが不明の不気味さもある。

 今各国は、どのように対処しようか方策を練っているはずだと、冒険者協会職員は言う。だけど、王都レベルの街一つを一瞬で消滅出来る核兵器みたいなヤツにどんな対処が出来るんだよ、と言いたい。

「もし、こっち来たらどうしますか…」

「逃げますよぉ、絶対ダッシュで逃げましょう!」

「良くは分からんけど、超広範囲殲滅魔術使いだろう、俺達の様な接近戦型が通用するはずは無いな」

「無理です、ブーストとか関係ないですよ。街丸ごととかですよ、少なく見積もっても半径3キロ位は範囲があります。絶対」

「コレってぇ、勇者召喚物件ですよぉ。みんなで呼びましょう、ベントラベントラスペースピープルベントラベントラスペースピープル!」

「UFO呼んでどーすんだよ、後、物件じゃ無くて案件だ」

 変な方向にぶっ飛んでいく瞬を正常に戻すべく、頭頂部に空手チョップを食らわせる。倍達式の正式なヤツだ。

「ぎゃう、痛いですよぉ、何すんですかぁ」

 正常に戻った様だ。

「そうですよ、呼ぶなら自衛隊かアメリカ海兵隊を呼ぶべきです。トマホークを打ち込みましょう。トマホークなら一発です!」

 歩にも軽めのチョップ加えておく。

「アホか、勇者にしろ自衛隊にしろ呼べるんなら、俺達が帰った方が早いだろうが」

 頭を押さえてうずくまっている二人をよそに、俺は最悪の状況になったら迷わず2人を連れて逃げようと心に誓った。

 何だかきな臭い雰囲気が漂って来だした。そんなのは要らないっつーの。平穏無事が一番なんだよ。

 取りあえずこっちに来ない様に、その上で他国にて処理できます様にと、良く分からないこの世界の神々に祈っておいた。

 お願いします。

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