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31.MS-01 鉄ちゃん

 冒険者協会からのレベル確認要請は、朝は希望人数が多すぎたので、当日の夕方に俺達は実施した。結果は、俺と歩が26で、瞬が25と言う下克上ならずと成った。ふっふふ。

 地団駄を絵に描いたような地団駄だったよ。あおりすぎると涙目になって来たので、慌ててフォローに回った。イジメはいけない。適度にイジル程度にしよう。

 ちなみに、このレベル帯で、1年経たずに5レベルが上がる事は、今まででは無かった事だと言われた。かなり早い者で1年チョットは掛かっていたらしい。

 そして、午前中に測定した者も、そのほとんどが上がりが早いと思われる結果が出ていたらしい。ソアラさんは「まだデータ不足ですから」と確定的な事は言わなかったが、多分間違いなさそうだ。

 まあ、現状俺達にマイナス要因は無い訳で、逆に強くなり易いのは有りがたいぐらいだし、何ら問題は無い。

 と言う事で、楽しい日常生活を続ける訳さ。

 『鎧猪』はさすがに狩りすぎて数が減りすぎたので、現在は『貝喰大鼠』と『鬼面ガニ』をメインターゲットにしながら、薬草類、染料用植物も採取する形でやっている。

 その上で、緊急依頼で『沼山椒魚』や『串刺し黒サギ』などの季節限定魔獣も狩ったりした。『串刺し黒サギ』は歩の弓任せなので、俺と瞬は実質何もしなかったけどね。

 そう言えばゲームだと、鉱物の採掘も冒険者の仕事だったりするが、現実のこの世界ではバンピーの冒険者に鉱石の知識はおろか、掘削技術も有る訳も無く、プロの鉱山技師+犯罪受刑者の仕事に成っている。

 鉱山なんて、ただ掘りゃ良いってもんじゃないからね。出水すればそれを止めなくてはいけない。昔はそれが出来なくて、出水した坑は放棄したぐらいだし、素人の出来る仕事じゃないんだよな。

 てな訳で、この世界の冒険者の仕事は、魔獣狩り、護衛、雑用、植物採取の4つだけな訳だ。で、俺達は対人(盗賊)戦の可能性の有る護衛と、ランク外と成った雑用を除く、魔獣狩りと植物採取だけをやっている事に成る。

 魔獣狩りも、自分たちのレベルに合わせて、やり易いモノを選択してやっている。ゲームじゃ有るまいし、無理に強いヤツに突っかかる必要なんてない。

 まあ、この世界に『経験値式レベルアップ』と言うシステムが有ったなら多少は無理はしただろうけど、そうでないのならそんな必要などまるで無い。生活出来る(ダリ)が稼げれば十分。

 だから、地味なルーチンワークが続く。劇的な事などほぼ起こらない。と言うか、そんな事起こって欲しくない。ヒーローにも勇者にも成りたいとは思わない、バンピーで十分。

 でもま、俺達の意志に添わないが、受けざるを得ない依頼と言うヤツが有る。そこには恩や付き合いってヤツが関わって来る訳だ。

 ヴォルツさん達から頼まれれば、悲しいかな断れない。もちろん命に関わるケースは別だけど、今回の件は残念ながらそうでは無かった。

「つう訳で、『屍喰い』を狩って狩って狩りまくるぞ。一人最低50な」

 …北西の白蕩木の林ですよ。ターゲットはG、羽無しG、黒光りはしていないが薄い焦げ茶が光る憎いヤツですよ…

 この『屍喰い』はこの世界の冒険者からも嫌われている、存在そのもが嫌われているのも有るが、クズ魔石しか取れない為(ダリ)にならないからと言うのも大きい。

 その為、白蕩木の森に来る冒険者の数はかなり少ない。『白銀熊』狙いがわずかに来る程度で、ほとんどの冒険者はここを訪れない。

 と成れば、当然増えるわけだ…『屍喰い』が。増えれば通常のエリアから出て来る訳で、あちこちに出没して被害を出し始める訳だ。

 で、討伐依頼が出るわけだが、受ける者がほぼいない。下水道のネズミ駆除と同じパターンだ。そして、それを俺達が受けたように、この件も受けた人がいるわけだ。ヴォルツさんがね…

 ヤツらを全く苦にしていないヴォルツさんだけど、数が数なので応援を要請する事になり、白羽の矢がグッサリ心臓を打ち抜いたわけだ、俺達3人の。

 で、前記のごとく断れなかった俺達と、嫌々ながら付いて来ているシルビアさんがここに居ると言う訳だ。

「おらあ、グズグズすんな、とっとと行くぞ」

 一人元気にいつも通りなヴォルツさんに、引きずられるように俺達も林の奥に向かって移動を開始する。

 …ウヨウヨウヨウヨウヨウヨウヨウヨ居たよ。林に足を踏み入れて5分でエンカウント。1時間で個人ノルマ(50匹)を全員がクリア……多すぎだって。夢見んぞ。絶対。

 『小鉄ちゃん』もあまりの数を踏みつぶしたので、足回りがヤツらの体液でベトベトになり、変な臭いまでする始末だ。

 俺も、当初は剣でちまちま刺し殺していたのだが、途中からは『炸裂符』の大盤振る舞いに成っていった。更に周囲に木などが無い所では、『火炎符』も使いまくり、費用対効果なんざ関係ーねーぜ状態だった。

 シルビアさんも、風魔術を乱発し、制御がイマイチなので何本もの白蕩木を切り倒しまくっていた。

 歩は途中から、完全に能面顔に成って殺戮者と化していた。背後に立ったら絶対やられる気がしたよ。

 で、一番の問題点は、数が多すぎて討伐証明の魔石を回収するのが一人(ヴォルツさん)だけでは足りないので、俺と瞬もやらなくては成らなくなった事だ。

 つぶれたヤツらの腹を開いて、手を突っ込んで魔石を取り出す……さすがに1時間もすれば慣れたよ。瞬は3回程胃の中のモノをリバースしていたけどね…

 そして、その高エンカウントは午後の半ばの引き返す直前まで続いた。

 最後の辺りは、『炸裂符』を使って飛び散らせるのが嫌だったので、『加重符』を2枚同時起動させ、10Gを掛けて自重でつぶれさせた。中巻の『符』まで容赦なく使ったよ。1枚の5Gでは死んでくれなかったのが残念。

 帰りは、一旦『海』の湖岸まで行って、身体に付着したヤツらの体液を拭き取ってから町へと帰った。『小鉄ちゃん』もしっかり洗ったよ。関節の隙間までしっかりね。夏なら間違いなく全員水に飛び込んでいたはず。

 そして、冒険者協会に帰って来て、その場で数を当たって、その日の駆除数が千匹を超えていた事が分かった。1432匹。クズ魔石代と合わせて1匹当たり1ダリが代金に成る。つまり、1432ダリだ。

 結局、一人当たり286ダリで分けた。

 そして、非常に非常に遺憾ながら、このクエストはその後3日間続いた。翌日1562匹、翌々日1355匹、最終日680匹がその間の成果だ。魂をすり減らした成果だよ。

 この4日間は、シルビアさんも家の風呂に入りに来た。「お金(ダリ)払うからお願い」と言ってきたが、受け取るはずも無い。無料で入ってもらったよ。気持ちはみんな一緒だったからね。約一名(ヴォルツさん)除く。

「次は絶対受けさせない様にするから、それと、今日やっとくからね」

 シルビアさんは、最後の日家から帰る時に、力強く宣言してから帰って行った。俺達も「絶対お願いします」と心から頼んだのは言うまでもない。

 今回の依頼は、ヴォルツさんがシルビアさんに無断で受けており、もの凄い良い笑顔で「良い依頼見つけたぞ」と言って来たらしい。依頼を聞いて愕然としたそうだが、キャンセルするわけにも行かず…と言う事だったそうだ。

 普通の依頼なら、キャンセルしても多少の信用度的なペナルティーだけですむが、今回の件はかなり長い間放置されたモノで、それをヴォルツさんが受けだ時点で、断れないようにその情報を関係者全てに流布された為、逃げ道をガッチリ塞がれた状態になっていたそうだ。

 で、依頼も終了したので、これでやっと今回の件の『お仕置き』が遠慮無く実行出来るようになった訳だ。今晩やってくれるらしい。死なない程度に頑張ってもらいたい。大丈夫、1/3回復薬は3本渡してある。

 俺達は笑顔でシルビアさんを見送った。


 翌日、『魔獣のいななき亭』の食堂にはヴォルツさんはおらず、シルビアさんが一人で卓に付いていた。そして、俺達を見ると右手の親指をビシッっと立てて無言で任務を果たした事を報告してくれた。

 『屍喰い』の件以降はイレギュラーは無く、平穏な日々が続いた。そして、俺の『符術師』としての能力がカンストした事がほぼ確定した。

 ここで言う能力とは、リンク距離と同時リンク可能数の事だ。どちらもしばらく前からいくら訓練を重ねても、全く伸びなくなってしまった。

 だから、多分カンストしたのだろうと判断した訳だ。ちなみにその値は、リンク距離約60メートル、同時リンク数6枚と成っている。リンク距離はじっくり時間を掛ければ+5~8メートルは伸びるが、実戦で使えないのて、実戦で使える値が60メートルと成っている。

 また、それ以外の、リンク実行速度なども更に前から変わらなくなっており、『符』の存在を感じる『感知力』とでも言う感覚も変化しなくなった。

 今後の俺は、『符』の運用方法や改造などで、力を伸ばしていくしか無い訳だ。出来れば新しい種類の『符』を知る事が出来ると良いんだが…

 新しい『符』に関してはともかく、現状の『符』の紋章解析は地道に続けている。全てが手探りなので、時間が掛かってしまう。しかも、元々出来ないモノである可能性も高いわけで、徒労で終わる覚悟でやってたりする。

 だから、『凸符』の”裏面に”と思われる紋章を、『障壁符』の”表面に”と思われる紋章に置き換えて、それが成功した時には「やったー」とデカい声を上げ、ビックリした近所のおばちゃんが駆けつける事態になった。

 この入れ換えた『符』が目的通り起動したと言う事は、紋章の部分部分に単独で機能があり、それを組み立てる形で一つの機能となる紋章になっている事が確定した事になる。

 そして、それを規則正しく配置しさえすれば、その改造『符』もキチンと機能するという事だ。後は、どの部分が何の意味を持つのかをトライアンドエラーで確認していくしか無い。

 俺は、『符』の補充以外の時間を使って、その研究を続けていった。しかし、まさか自分がこんな研究者ぽい事をするとは思ってもみなかったよ…

 そして、紋章は、一つが分かれば他の予測が付きやすくなり、更にもう一つが分かれば更に…と後半は加速度的に解明されていく。

 それでも、一通り出来るレベルで解析出来たのは春になってからだった。日本の日付で4月半ばだ。

 そして、紋章はかなり細かく機能が別れたパターンの集合体となっている事が分かった。

 火・水・風と言った属性決定、上・下・裏・表の位置、放射・伝導・膨張・加・減・加速・次元などの様々な作用が100以上有り、それらが組み合わさって一つの紋章になっていた。

 そして、『一通り出来るレベル』としたのは、一部の紋章で細かく分けられない部分が存在した事による。

 たとえば『付与(速)』は単純に筋肉の速度だけを上げているのでは無く、脳の処理速度も上げているし、関節部や筋肉そのものの強度も上がっている。

 この『符』の場合は、脳の処理速度の部分と、肉体の部分には分ける事が出来たのだが、この肉体の部部はそれ以上分ける事が出来なかった。

 つまり、速度に関する部分と、それによる負荷から肉体を守る為の強化部分が分離出来なかったんだよ。どー見ても分けられる程のパターンと言うか線が無い。

 そんな訳で、『一通り出来るレベル』となった訳だ。

 そして、その分析結果を基に色々試行錯誤して、新しい『符』を現在模索中だ。使用絵の具の条件などもあり、ミックスするのも一筋縄には行かない。

 でも、後は、ゆっくりトライアンドエラーを繰り返して、使えるモノを作り出すだけだから、焦らずやるつもりだ。

 俺が、『符』をいじくり回している間、歩は装備を色々といじっていた。先ず、靴底の改造からだ。

 歩は、吸血ブーストや俺の『符』によるブーストを、ちょくちょく使う関係で足の踏ん張りに問題を感じていたらしい。

 F1マシーンにノーマルタイヤを履かせているようなモノだったのだろう。俺も通学用のスカブ50のタイヤに、安いからと言って某半島製のタイヤを付けたら、雨の日のグリップが極端に落ちて死にかけた事があった。足回りは大事だ

 結局、靴底に手動で出し入れ出来るスパイクを仕込み、それを使って摩擦力を強くした。収納式にしたのは、街中が石畳な関係でカチャカチャうるさい上に、歩きにくくなる為だ。

 この作製は、当初は靴職人に依頼して作ってもらい、その後何度も何度も瞬に調整をさせる事で完成に至った。結構難産だったよ。物作りって簡単じゃ無いよな、ホントに。

 また、武器の弓も、連射式のクロスボウにしようと色々やっていた。この世界にも連射式のクロスボウは有って、弦が複数のモノと、一つのモノが有る。

 弦が複数のモノは、縦にクロスボウを積み重ねたような形で、その弦の数だけ連射が出来るが、再装填は時間が掛かり、重量も増す。その上実用上3連が限界。

 弦が一つのモノは、上部に銃で言う弾倉のような箱を取り付け、発射する度にレバーを操作して弦を張る必要がある。ただ、箱に入る矢の数は10本以上で連射性はそれなりにあるが、弦の張りが弱い為、威力が少なく、矢羽根が無い関係で命中精度も悪い。

 結局熟考の上、市販の単弦型を購入して、それを改造していく形で進めていた。こちらも試行錯誤と破壊を繰り返して、一月以上掛けて一応形にはなった。

 先ず、外見上は単弦型で、矢羽根付きの矢を使用して、それがキチンと射出部の窪みに入るように弾倉を作って有る。

 更に、魔石と風を出す魔術具を使用して作り出した圧縮空気による弦を張る機能を作り、1秒に1本放てる様になった。エアーガンのタンクを付けて、魔術具でエアーを供給するイメージだ。

 この魔術具は市販の風を出すモノでは無理だったので、専門の職人に条件を説明してオリジナルを作ってもらったらしい。「高かったですよ…」とのこと。

 ボンベや逆止弁なども全て瞬が作り、何度か炸裂させながら強度と重量と容量の許容点を探したそうだ。

 そのおかげで、連続で12連射が可能な連射式クロスボウが出来上がった。これは、弓と違って1発目を撃つのが早い。その上、連射時の命中精度もこちらが上だった。

 欠点は、12連射するとエアーが枯渇して、予備のエアータンクに付け替える必要がある事だ。そして、その空になったタンクにエアーを入れる魔術具も持ち歩かなければならない事だ。

 タンクにエアーを充填するのに掛かる時間は約10分で、とても戦闘中には可能とは思えないが、2つのタンクで24本が放てれば、一回の戦闘に置いては十分な数だろうと考えている。

 実際、弓を使用している時も20本程度しか持ち歩いていなかったからね。

 歩的には、連射速度をもう少し上げたかった様だか、これが限界だった様だ。歩いわく「弓と大差ないです」との事。弓の際もかなりの速度で連射出来るようになっていたから、不満なのだろう。

 全体として、かなり重量も上がったが、運用上は特に問題は無いようで、更に何度か使用しながら全体の強度なども随時修正していた。

 そのおかげか、かなり使えるようになって来ていて、本人も「やっと弓より使えるようになって来ました」と納得してきた。

 今後も、材質や構造も含めて出来る範囲でいじりながらやっていくようだ。

 瞬の方は、前記の通り歩の武具改造に精を出し、細々とした家周りもやっていた。縁の下の力持ちってやつだ。

 特に、井戸のポンプ側に洗濯場をゴーレムビルドで作り出したのは、両隣のおばちゃんから感謝されていた。おかげでご近所づきあいは全く問題ない。時折漬け物とかのもらい物もする。良い感じだ。

 家も細かな所までいじり倒し、良く有るベッド下の引き出しも作ったり、階段に滑り止め加工までやっていた。

 特に、雨の日にする事が無いと、「何かする事無いですかぁ」と催促して回っ来るぐらいだ。

 そんな瞬も、ついにアイアンゴーレムもカンストした。そして、それに伴って1日休みにして『小鉄ちゃん』を最大サイズで作り直す事になった。

 その日、俺は、『符』の方にずっと掛かっていて、瞬の作業は全く見ていなかった。だから単純に大型化して、名前が『鉄ちゃん』と小が抜けるだけだろうと思っていた。

 なんせ、『ウッちゃんMkⅡ』の時がそうだったから、自然にそんな風に思い込んでいた。

 で、夕方、瞬に呼ばれて見に行って当惑した。ソレは想像したモノと全く違ったからだ。

「ど~ですぅ、ビックラこきましたかぁ? ふぅふふふふふっ。ついに今日から僕のゴーレム無双が始まりますよぉーー」

 いつも以上のハイテンションで、どや顔からVサインを出してくる。無双はある意味、すでに無双していた気がするけど…ビルド方面で。

「何か、ズングリムックリですね。幅が大きくなった割に大して高さは大きくなってませんけど…」

 歩の言うとおり、全長は2.8メートル程だろうか? 3.2メートルには至っていない。その分胴体部分が太くて、全体も横に広い。つまり、スマートでは無い。

 後何故か、胸の上辺りに20センチ×10センチ程のガラスがはめ込まれている。何じゃこりゃあ。

「なんで、こうなった?」

「分かりませんかぁ? ふっふふぅ、分かりませんよねぇ、ならば教えてあげましょう!」

 そんなご託と共にゴーレムの後ろに回り込むと、背中から中に入った…

「ええぇっ」

 歩も予想外だった様で、驚きの声を上げつつ閉じる扉を目で追う。そして、背中の50センチ×50センチ程の小さな扉が完全に閉まってしばらくすると、そのゴーレムが動き出す。

 屈伸から初めて、へたくそなシャドーボクシングもし始める。そして、ゴーレム内からくぐもった声が聞こえてきた。

「ど~ですかぁ、ついにモビルなスーツの完成ですよ。ライドオンで、いっきまーすですよぉ」

 胴体部分が変に大きかったのは、瞬が中に入るスペースを確保する為だったようだ。多分だが、中では膝を抱え込んだ状態なんじゃないかと思う。あまり居住性は良く無さそうだ。

「倒れた時とか大丈夫か?」

「一応、中にはクッション素材を入れてますしぃ、巨大ロボじゃなくって3メートル無い程度ですからぁ、そこまでは無いと思いますよぉ」

 そう言って腕立て伏せや、腹筋ぽい動作もして見せてから、背中のハッチを開けで出て来た。

 出て来た後に中を覗くと、確かに魔獣素材ベースのクッション材が前面の覗き穴部分以外に貼られていた。

 良く見ると、前部の右側にレバーのような物が飛び出しており、その上には魔石が埋め込まれていた。更に良く見ると同様の物が左にも有り、まるでコントロールレバーのようにも見える。

「あの魔石はなんだよ」

「あれはですねぇ、右は空気の循環魔術具です。空気の取り入れとエアコン代わりですねぇ。左はライトです。目に照明用の魔術具が2つ埋めてありますよぉ」

「夜も使える様にですか?」

「いえいえ違いますよぉ、この間の『穴』とかにまた行く事があった場合の用心ですよぉ。『こんな事もあろうかと』って言う為には前もって準備がいるんですよぉ」

 こらこら、どっかの科学者や技術者じゃないんだから、そんな事を言う前提でするなよ。

 歩は意味不明だったようで、首を一瞬かしげたが、いつものヤツだろうと納得してスルーする事にしたようだ。

「ま、何にせよ実戦で使えるか試さん事にはな。……一応言っておいてやるよ『見せて貰おうか。シュンのモビルなスーツの性能とやらを!』」

「あざあぁーす」

「……」

 歩の冷たい目がチョット痛かった。

 そして、翌日、『MS-01 鉄ちゃん』の性能試験を『海』湖畔周辺の『鬼面ガニ』で試した。その結果は悪くなく、後方からのコントロール時よりかなり俊敏な反応で、細かな対処も出来ていた。

 それは、目前で見ているからと言うだけで無く、自分の身体の安全を考慮する必要がない為に操作に専念出来るからと言うのも有るだろう。

 地形にさえ気を付ければ、ある程度の魔獣なら無双が出来そうだ。使えるな。よっしゃ。

「後は、足下に注意だな。木の根や石で転べは結構キツいぞ。それと、沼や川にはまれば最悪溺死だしな」

「軟弱地は怖そうですねぇ、『ウッちゃんMkⅡ』の時までは良かったですけどぉ、アイアンは重いですからぁ」

「背中から沼に倒れたら…脱出不可能になりませんか? 重量が重量ですから、私たちじゃ持ち上げられませんよ」

「大丈夫ですよぉ、その時は、ゴーレムビルドで前面に穴を開けで出ますからぁ」

 なるほど、その手は有るな。と言うか、場合によっては戦闘中に身体の一部を変化させるってのも有りかもしれない。出来るかどうかは分からないけどさ。

 瞬も色々考えてはいるようだ。後は実戦で少しずつ問題点をクリアしていけば良い。

 ちなみに、早急に判明した問題点は、長時間の搭乗は『酔う』という事だ。乗り物酔いだ。一応、上体を上下させない歩きや走りを練習するが、簡単には身につかない。時間が掛かりそうだ。

 当座は、後方でコントロールして、危険エリアになってから搭乗する形を取るしか無さそうだ。

 4月後半は、歩の装備と、瞬のゴーレムの実戦テストの意味が強くなった。そのおかげで、少しずつでは有るが問題点が見つかり、それを解消して自信を持って使えるレベルの物に成ってきている。

 俺の方も『火炎符』をいじった『火壁符』を完成させた。それは、元々上方にガスバーナーのように吹き出る炎の柱を、薄くサイドに壁のように延ばしたモノだ。

 ゲームで言う所の『ファイヤーウォール』ってヤツだ。高さは1メートル程度で、幅が左右1メートルずつの計2メートル程に成る。平野部などで広範囲を一時的にカバーするのに使える。

 これが俺が初めて作った、使い物に成るオリジナル『符』の第一号に成った。

 3人全員が確実に成長しているのが、最近は実感出来る。それぞれの成長は全く違うが、トータルとしての戦闘能力は間違いなく上がっている。

 全員の戦闘能力が向上すれば、イレギュラーにも対応出来るように成り、確実に死から遠ざかる事が出来るわけだ。

 死なない為の努力と(ダリ)はおしむ気は無い。死なない為に、もっと強くなろう。

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