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30.兆し

「星空…夜?」

「…タイムスリップ系? それとも経度のズレ? 単に異世界だから?」

「なんか予想外ですよぉ、取りあえず地底都市説と先史文明遺跡説は無さそうですねぇ」

 正直状況がつかみ切れていない。見えている星空は間違いなくホンモノで、時折わずかに有る雲で隠れるし、大気密度の変化でまたたいて見えたりもする。巨大な天上に書かれたモノ、なんてことは無さそうだ。

 そして、『穴』から出ると急に風を感じた。『穴』の中だと外の直前ですら全く風を感じなかったのに、出たとたんだ。試しに『穴』に戻ってみると、風がピタリと止まる。

「何してるんですか?」

 俺が急にバックしたので、歩が疑問に思った様だ。瞬は外をキョロキョロしていたようで、俺の行動には気づいていない。

「この『穴』な、何らかのフィールドが有る。出口の前後で風か有ったり無かったりする」

「フィールド?」

「なんですかぁ、フィールドってバリアーみたいなのですかぁ?」

 瞬と歩も何回か出入りを繰り返して、俺が言った事が事実である事を確認した。

「どー言う事でしょうか?」

「分からないな、普通の穴じゃ無いのは間違いないって事しか分からない」

 俺達は、ただのバンピー冒険者であって、賢者でも無いしマッドサイエンティストでも無い。つまり、全く分からないって事だ。って言うか、現状のデータだけで何かを類推出来るヤツなんて居ないだろ。絶対。

 結局俺達は、夜に未知の場所を彷徨うのはマズいと考え、しばらく待機する事に決めた。そして、多少時間がオーバーしても明るくなるのを待ち、周囲の状況を確認する事にする。

 現在時刻は、腕時計時間で午前10時40分なので、ギリギリ無理をすれば4時間以内なら、明るい内にレオパードに帰れる事になる。じゃなければ、+12時間をこちらかあちらの出口で待機と成る訳だ。

 俺達は、『穴』の出口から30メートル程戻った所で待機する事になった。その間は何もする事は無く、出口の監視以外は喋る位しかする事は無い。

 話す事は、出口の先の世界の事、『穴』じたいの事、家の事、他国の事、神聖ハルキソス神国がらみの事。そんな会話を2時間程した辺りで、外がうっすらと白んで来た。

 更に1時間もすれば、太陽こそ出てはいないものの、完全に明るくなっている。

 その土地はレオパード南部と似ていた。くるぶし程度の下草が生え、所々枯れたススキのようなブッシュが点在している。

 俺達は装備を確認した上で、その未知の土地を進み出す。南に向かって。

 フォーメーションはいつもと同じだ。リヤカーが無いだけだな。ただ、移動速度は遅めにしている。全く未知の土地なので、警戒はMAXにする必要があるからだ。

 各自が受け持つエリアに目を凝らす。わずかな変化も見逃すわけにはいかない。3人の背中には『付与(速)』『付与(力)』の『符』が既に貼り付けてあり、いつでも発動可能にしてある。

 そして、俺の左の手甲には『障壁符』が貼られており、緊急時直ぐに魔術障壁を展開出来るようにしている。

 歩は弓を手にし、矢を軽くつがえた状態を維持している。瞬も短剣を抜いたままだ。

 この緊張と警戒は、多分初めて郊外のクエストに出た時以来だと思う。ただ、あの時と違うのは2人では無く3人である事と、無駄な緊張による筋肉の硬直が無い事だ。

 そんな良い緊張と警戒のまま、ゆっくりと進む。

 500メートル近く進んだが、見える範囲に人工物や大型の生物は見当たらない。

「草や虫は、レオパード周辺と変わらないですよ」

 地面を見ていた歩が言うように、確かに違和感が全く無い。正確な植物相なんて知らないが、見覚えの無いモノが無い事は確かだ。

 ここまで来て見える景色も『穴』を出た当初と同じで、草原がただただ広がり、その遙か彼方に山脈が南西東を囲んでいるのがうっすらと見える。

 俺達が出て来た『穴』のある北側は、標高100メートル無い程度の小高い山で、『穴』はその裾野にある。

 その小高い山は、山並みの一部では無く単独で平地に存在する山で、その裏側はここからは見えない。

「後500位行って、何も無いようなら戻って、あの山を回り込んでみよう」

「分かりました」

「ですねぇ、なんかこっちの方な~んにも無さそうですしぃ」

 何も無いどころか、ゴブリンはおろか小型の魔獣すら出てこない。蛇は見たが、魔獣の様に襲いかかってくる様子が無く、多分普通の蛇だろうと判断した。

 そして、実際500メートル程、『穴』から1キロほど行ったものの、全く何も変わったモノは見当たらず引き返す事になった。

 引き返す際、そこから山の右側へ真っ直ぐ行こうとの意見も合ったが、時間的なロスは覚悟の上で安全を取り、元来たコースをそのままたどって一旦『穴』まだ戻った。

 そして、そこから山を左手に見ながら、その山を回り込んで行く。その際、俺が山側を担当し、もし山側の斜面から何かに襲われたら即座に『障壁符』を起動出来るように心が舞える。

 山の裾野は、場所によって岩だったり木々が生えていたり、急だったり緩やかだったりと全く一律では無い。

 岩や土の崖ならば見通しも良いのだが、緩やかで木々や背の高い草に覆われていると、視界が悪く何か居ても気付きにくくなる。より一層の注意が必要だった。

 だが、その注意や警戒は結局無駄となり、何も起きないままにソレが見える所に達した。

 ソレは村だった。塀も壁も無い平野部に、100軒程の木と石で作られている様に見える家が密集してて存在していた。

 その周囲には畑が有り、見える半分程が青々とした60センチ程の稲や麦に似た植物が植えられている。そして、ゴブリンが居た。

 そのゴブリンは、クワのようなモノを使って畑を耕している。側には後2匹のゴブリンも居て、その2匹はしゃがみ込んで地面で何かをしている。

「遠いですけどぉ、あれって間違いなくゴブリンですよねぇ」

「あの色は間違いないだろ」

「…畑仕事してますよ」

 装備や衣類から、高い知能と社会性がある可能性は考えたが、ここまで人間と同レベルとは思わなかった。遠くてハッキリは見えないが、ソコに見える家はレオパードの庶民の家と大差ない作りに見える。

 そして、陸稲だか麦だか分からないが、穀物を育て野菜を育てている…どうなっている?こいつらは何だ?

 俺達は、大きめの岩に隠れながらしばらく無言でその様子を見続けた。

 15分程した辺りで、別の場所にも4匹のゴブリンが現れ、同じような農作業を始める。

「どーしますかぁ」

「……ホントは街の様子を見た方が良いんだろうけど、さすがにやばいだろうな」

「そうですね。多分あの家の数から言って少なくとも300は居ると思います」

「帰りますかぁ」

「…だな、時間もあれだし、帰るか」

 二人も「そーしましょう、そーしましょう」と即座に了解して、『小鉄ちゃん』の足音を立てさせないように動かして、『穴』まで帰った。

 その後も、急ぎ足で『穴』を抜け、全てのロックゴーレムで抜け穴を塞いでからレオパードへと帰った。

 帰りに、行き同様に鮮血ムカデに襲われたが、今回は魔石は回収しておいた。行きに引き殺した鮮血ムカデは、他の魔獣に喰われたのか、帰りには残骸すら残っていなかった。

 俺達の帰り道における言葉数は極端に少なかった。理由はショックを受けていたからだ。

 以前襲ってきたゴブリンを殺した時には、ショックが少ない事に逆にショックを受けた程だったが、今回はヤツらが普通に生活している様を見てしまった。

 しかも、人間と変わらない生活をして、中には子供と思われるモノを背負って畑仕事をしているモノもいた。

 服装などから知性や社会性を想像はしていたが、それは『想像』に過ぎなかったわけで、そして今日は『事実』をこの目で見た訳だ。

 しかも、限りなく人間と変わらないレベルで有るというおまけ付きで…

 あの時俺達が、ヤツらを殺したのは過ちでは無い。実際、あの後のカルマ値チェックでも問題は出ていない。神聖領域で『問題なし』と実証されている事になる。

 ただ、それと気持ちの問題は全く別なわけだ。ベトナム戦争や湾岸戦争から帰ってきた、兵士のドキュメンタリーなどは幾つか見たが、彼らの気持ちがわずかながら分かった気がした。

「はじめさん、もし、またゴブリンが街を襲ってきたらどうしますか」

「…殺すよ。殺さないと自分たちや知り合いが殺されるから、殺す。絶対」

「あいつら、なんで襲ってきたりしたんですかねぇ」

「なんでだろうな、向こうにいたのは2時間程度だったけど、魔獣がいたようでもないし、塀が無い町が有るって事はこっちより安全って事だろ」

「でも、武器や防具を着けてました。こっちに攻めてきた時は。武器とか持っているって事はそれが必要って事ですよね」

「訳分かんないですねぇ」

「とにかく、もう来ないで欲しいです…」

「ですねぇ」

 暗くなる寸前に家にたどり着いた俺達は、『魔獣のいななき亭』に飯を食いに行くでも無く、リビングでイスに腰掛けながら話している。

 帰りの道中、それぞれが色々考えた事を吐露していく。全体的に暗く、低調な話し声になったのはしかたが無いと思う。

「他の穴の先も、同じ所に繋がってるんでしょうか」

「どーでしょう? 同じ所って言うか同じ世界の可能性はあるとは思いますけどぉ、別の世界や別の星の可能性もありますよぉ」

「オークとリザードマン辺りはゴブリンみたいに町を作って生活しているかもな」

「…そうですね。さすがにトードやトレントはそれは無いと思いますけど」

「小説だとぉ、スケルトンに転生した主人公設定とか有りますけどねぇ。スケルトン村とかゲームでも有ってもおかしくは無いですよねぇ」

「スケルトンに生まれ変わりって…」

「トード村やトロール村も有るのか? トードはともかくトロールが村を作るイメージは無いんだが」

「寄り集まるイメージは無いですよね。確かに」

「何か共食いしそうなイメージ有りませんかぁ」

「有る有る」

 何だか微妙に話題がそれ、気持ち会話が明るくなってきた気がする。どこまで行っても気持ちの問題だから、気持ちが上向けばそれで解決する話だったりする。

 だから、その後は意図的に話題をそらし、意識もそらして、気持ちを上向かせるようにする。その努力は多少は効果はあったと思う。ただ、今日は飯を喰う気にはならなかったけどね。

 翌日起きると、俺達の気持ちの切り替えは半分程は出来ていた。このモヤモヤ感もその日のクエストを実行している間に気付かなくなり、そしてその晩の夕食は普通に食えた。

 この気持ちの切り替えが出来ないと、この世界では生きていけない。引きずった者は死んでいく。リセットもSAVEも無い世界では死んだら死ぬ。

 死にたくなかったら、ムリヤリにでも気持ちを切り替えるか、自己暗示でも掛けて自分を偽るしか無い。それが出来る者だけが生き残れる厳しい世界ってやつだ。

 俺達の心のよりどころは、『自分たちは悪くない』という事だ。そして『カルマ値』の存在がそれを裏付けるのを手伝ってくれている。

 それがあるから、無理に自分を偽る事も無く、自分の行動を後悔しなくてすんでいる。故に、自分の気持ちを納得させる事が出来る。

 そして、後は時間が更に味方してくれる。

 結局今回の『穴』探索で、『穴』の先にヤツらの町が有る事は分かったけど、それ以外は何も分からなかった。

 あそこはどこなのか、何故『穴』が出来たのか、何故ヤツらは俺達に襲いかかってきたのか、何故あの時ヤツらは異常とも言える非知性的(おバカ)な行動を取ったのか、全て不明だ。

 出来れば、町の中がよく見える所まで行って、別の種族なりに奴隷的な形で支配されていないかは確認しておきたかった。

 見える範囲で町は畑に囲まれ、その畑には野良仕事をしているゴブリンが居るとなれば、町をうかがえる所まで移動するのは夜間で無ければ無理だろう。

 そして、未知の場所を夜間移動するなど絶対にやってはいけない事なので、つまり、確認は無理だと言う事だ。しかたが無い。

 今回の情報を、冒険者協会に知らせるかどうかも話し合ったが、元々向こうが求めている情報では無いし、実質何も分かっていない事もあって知らせない事になった。

 これが、元の世界だったら、やれ領土だ資源だと大喜びする人間が大量に居そうだが、この世界は余った土地は大量にある。ただ魔獣がいて自由に出来ていないだけだ。

 世界が違えば状況が違い、それに伴って価値観も全く別になっている。


 そして、また、日常が戻ってくる。

 西の森林地帯で『鎧猪』を中心に狩っていく。

 『小鉄ちゃん』で誘導して『冷凍符』で地面を氷らせ、滑ってきた所に『凸符』で柱を作り、それに突っ込んでしばらく動けなくなっている所で、後頭部にグサリ。

 『小鉄ちゃん』で巴投げさせて転がってきた所でグサリ。

 吸血ブーストした歩に『付与(速)』『付与(力)』も使用して、ハイパー化して『鎧猪』の群れに突撃、グサグサ無双。

 やり方はその場その場で違うのだが、『鎧猪』で有れば油断しない限り奇襲でも対処出来るまでになっている。先に発見出来れば楽勝モードだ。

 そして、今年の冬も昨年と同じように、七日ぜきが流行し、琵軸草を大量に採取したりもした。ここらは金銭度外視でクエストは受けている。

 金銭的にはほとんど困らない状況になってきているからね。日に300ダリは稼ぐ為、一人頭に分けても100ダリだ。食費換算で日給2万円。十分だろう。

 俺は3等級魔石を買う必要があって、多少出費はかさむのだが、瞬や歩はかなり余裕のある蓄えが出来ている。

 そんな、日常を送りながら実験と検討を繰り返していたモノの一つが結実した。それは『符』の大型化とそれに伴う効果の増大化だ。

 俺は、『符』そのものに色々疑問を持ち、調べていた。紋章って何だ? デッカくしたら? ちっちゃくしたら? 重ね書きしたら? など一つ一つ調べていった。

 その結果が、『一定の法則で紋章を書く太さを大きくすれば、符を大型化出来、その大きさに応じて威力も増大する』と分かった。

 この『太さの法則』に気づくまでかなり時間が掛かり、無駄な紙と絵の具を消費してしまった。ただ、パスが通るまでは行かないが、反応が感じられたので完全に無駄ではないと思い続けたおかげで成功した。

 また、この『太さの法則』に従うと、従来の『符』もまだ細い線で良い事が分かり、今後時間を見て判子から作り直す予定だ。線が細ければそれだけ絵の具の消費が少なくなるからね。今の判子の線を細くするだけだし。

 大型化が成功した流れで、小型化も試し、こちらも成功して低威力の『符』に成ったが、こちらはあまり使い道は無いので、作る予定はない。

 今後は、紋章のパターンの意味を解析する作業に入る。判子を作って気付いていたのだが、各紋章に共通する部分と独特な部分がある。全ての紋章で共通する部分なんてのもある。

 で有れば、『火炎符』の『火炎符』たる効果を発揮する紋章のパターンが有るはずで、独自の部分がそれに当たるのでは無いか、と考えられるわけだ。

 更に、『凹符』『凸符』の様に裏面を指定するパターン、『障壁符』の様に表面を指定するパターンも有るわけで、それらを分離して、全てのパターンの意味が分かれば『符』の改造が可能になると考えている。

 現状、『符術師読本(下巻)』が全く見当たらないので、出来る事をしていくしかない。

 出来れば、効果時間を長く出来れば、と考えている。30秒程しか効果のない『付与』系や『障壁符』『浮遊符』の効果時間が延びれば、使い勝手が飛躍的に良くなる。是非とも実現させたい。

 更に時間があれば、蒸留装置を作って、回復薬を作ってみたいとも思っている。瞬のサンド・ロックゴーレムでガラスが簡単に作れるので、フラスコや冷却装置も作れる。ま、こっちは半分趣味なので急がないけどね。

 環境が整い、生活に余裕が出て来ると、やれる事やりたい事が次々に出て来る。ただ生きる為に金を稼ぐ生活より、遙かに生きがいってヤツを感じられるって訳だ。

 帰れるなら帰りたいが、帰れないならしかたが無い、と言うレベルにまではこちらで暮らす事に忌避感はなくなっている。無論、帰る方法を探すのはやめる気はない。

 帰る方法どころか、それを探す手段すら見当たらない現状だけどね… 『穴』の先も微妙だったし。

 人って、なれる生き物なんだろうね。環境に適応する生き物って言い換えても良いかもしれない。肉体的にも精神的にも、この世界に適応して来ているのかもしれない。


 当初、冒険者協会よりのアナウンスが、何を意味するのかほとんどの者には理解出来なかった。それを聞かされた俺達も???と疑問符と共に首をかしげて、「そーなんだ」としか答えられなかった。

 俺達以外の冒険者も同様で、「ただなら良いか」と言うのが大多数で、一部「どうせならもう少し早くしてくれれば(ダリ)使わずにすんだのに」と言う者が有っただけだった。

 それは、年が明けて20日程が経った日だった。いつものように冒険者協会に依頼を受けに行くと、ホール内で協会の職員がなにやら声を上げていた。

「冒険者の方は、レベル確認を無料で実施していますので、4日以内に受けてください。これは任意ですが、出来るだけご協力をお願いします」

 無料なのに協力を願う? サービスって訳じゃ無さそうだけど…結構世知辛い協会がそんなサービスなんかするわけがない。何か理由が有るんだろう。

「なんか、犯罪者でも出たんですかねぇ」

 …なるほど、レベルアップの確認と同時にカルマ値をチェックして、ってのは有りか。と成ると、誰かは分からないが冒険者と見られる者が犯人とされているってパターンか。

「ま、俺らはどっちでも良いだろう。困る事はないしな。ただなら丁度良い。前回チェックしてから半年以上経ってるしな」

「ですね。多少は上がってる実感も有りますし」

「ですです。多分今は二人より絶対上のはずですよぉ」

「さぁ~て、どーかな」

「どうでしょうね」

「あーー、何かぁ余裕顔ですよぉ、むかつきます──、絶対下克上ですからねぇ、本能寺ですよ本能寺ぃ」

「……シュンさん、本能寺って光秀はその後直ぐ死にますよ、13日後にお百姓さんに殺されて」

「…ほ、本能寺無しで、無しで下克上だけでお願いしますぅ」

 お願いしますっておまー…

 そんなバカな会話をした後、いつも通りに依頼伝票を取ってソアラさんの所に行く。

「レベル確認の件聞いていますか?」

 伝票を出した状態で先ず彼女が発した言葉はソレだった。挨拶すら無しは初めてだった。彼女らしくない。

「ええ、聞きましたよ。前の書き換えからそれなりな経っているので丁度良いので受けますが、何かあったんですか?事件とか」

「ご安心ください、別に犯罪者を捜すとかではありません。冒険者協会として調べたい事有りまして、お願いしている事態です」

「調べたい事って? あ、言えない事なら良いですけど」

「いえ、実は、最近世界的に、レベルの上がる早さが早くなっているのじゃ無いかと言う話が出ていまして、それの確認です」

「それって、例の『穴』関係で未知魔獣(モンスター)が大量に出て、それに対処したために普段より多く鍛えられたって事じゃないんですか?」

「確かに、当初はそれが理由だと考えていました、実際それの対処に当たった方々が一番上がっていましたから。勿論あなた方3人もです。

 ですが、後になって、そうで無い者の中にも以前より上がりが早くなって者が多くいる事が分かって来ました。ですから正確なデータを取る事になったのです」

 冒険者協会は、世界レベルで存在している。今回の件はどうやら総本部からの命が下ったモノらしい。

 レベルが上がりやすくなっているって事は、各パラメーターの値が上がりやすく成っているって事だ。つまり強くなりやすいって事か。悪い事じゃないな。

 ソアラさんに聞くと、その上がり方は、劇的な程ではないが、通常1年掛かるのが半年程度で上がるというレベルらしい。十分だと思うよ。半分の努力(?)で上がるわけだから。

 俺は、瞬と歩にもその話をしたが、二人の反応は微妙で、「そーなですか」と言うモノだった。俺も疑問はあるが似たような気持ちだ。

 実は、これが『変化』を示すキーワードで有った事を理解したのはだいぶ後になってからだった。

 俺達はその事実に気づかず生活を続ける。

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