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3.同病相憐れんでドブ掃除

 符術士の現実をこれでもかこれでもかと突きつけてくれた受付嬢はいくつかのアドバイスと、さらなる問題点を突きつけてくれた。

 だめ押しの受付嬢いわく

 通常符術士のギフトの出た者は、他のギフトがあればそちらを育て、他のギフトを所有していない場合は、ギフトに関係なく努力で習得可能な剣・槍・斧等の武術や、鍛冶・細工・料理等の生産系の職を目指す。

 一部、一族で符術師を行っている者はいるが、他者を弟子に取ることはまず無く、家族のみで受け継いでいる。

 符術士の不遇さは知れ渡っており、他者のパーティーに加入できる可能性は限りなくゼロに等しい。

 つまり、符術士目指しても無駄だから、冒険者やるなら剣術とかを学んでやるしかないよ、頑張んな。ってことですわ。

 一応、ギルドの二階にある図書館に符術の解説書とかはあるけどね。だってさ。

 一応、一縷の望みを抱いて、無属性魔法の適正の件を言い、無属性魔法を使用できないか?と聞くと、ゆっくり大きくクビを振った、横に。

 何でも、無属性魔法というのは他の炎・水・風とかと違い、単独での魔法体系が確立していないらしい。

 その為、無属性魔法は特定のギフトと結びついて初めて意味を成すモノらしい。他で言えば、錬金術も同じで、ギフト錬金+無属性魔法で発動可と。付与術士・ゴーレムマスター・魔獣使い・召喚術士も同じで、なんと勇者もそうらしい。ってかいるんかい、勇者。

 ホント余談以外の何物でもないんだが、『ギフト:勇者』持ちは無属性魔法を使用し、全ての属性魔法を発動するらしい…って事は無属性魔法って全ての属性の根本もしくは他の属性にも使用できる万能性があるのか?血液型で言うところのABO式のO型みたいに。

 まあ、落ち込んでいてもしょうがないので、当初の目的通り仕事を紹介してもらうことにした。おぜぜが無いとおまんまが食えません。ってかもう腹減ってます。

 無一文状態であることを話し、手っ取り早く些少(さしょう)でもお金が即日入る仕事(クエスト)を尋ねたのだが、芳しい返事か帰ってこなかった。

「今日ですよね。早朝だったら無いことは無かったんですが、今の時間からは今日中には完了できそうに無いですから…外回りは無理ですね死ぬのは目に見えてますし、ええ、間違いありません、断言します。死にます」

 断言されました。思いっきり。

「今日は我慢されて、明日はどうですか、仕事はドブ掃除で所定の区画のドブを(さら)って、街の外…あ、外って言っても木塀の外じゃありませんよ。畑地の中に捨てるところがありますので、そこまで荷車で捨てに行く仕事です」

 区画の広さ的に一人では1日仕事になるらしい。ドブ(さら)いだけならともかくヘドロを捨てに行くのが結構な時間が掛かり、しかも複数回に分けなければならないので時間が掛かるらしい。

 ちなみに依頼料は12ダリ。お金の価値的には、屋台の軽食の平均が1ダリと5ダグリ。1ダリは10ダグリ。宿の宿泊費は大広間での雑魚寝が5から8ダリとのこと。食事換算で行けば1ダリが200円ぐらい?宿換算は雑魚寝の日本の価格を知らんので不明。

 もし、12ダリ手に入れば、3食屋台食で4ダリ5ダグリ、雑魚寝の5~7ダリの所で止まれないことも無い、か。ホント余裕無いギリだ。

 雨等で1日仕事が出来なくなったら、飯も食えなくなる。

「あの、街中の仕事って金額的にはこんなモンなんでしょうか?」

 一応聞いて見とこう。ひょっとしたら今日は無くても早い者勝ち的に明日はあるかもしれないし。

「数ダリ前後するだけでこんなモノですね。どちらかと言えばこの仕事はやりたがらない仕事なので高めになってます」

 …受付嬢は久々のアノ微笑みをひっさげてトドメを刺してくれた。

 とりあえずこれは4食抜きか…その上野宿…治安的に大丈夫だろうか…朝起きたら死んでるって無いよね。などと考えていると、受付嬢が入り口の方にクビを振った。

 反射的に俺もつられるように入り口を見ると、そこには背の低い男の子が立っていた。若干の逆光の関係で顔は見えにくかったが、衣装は黒のズボンに白の半袖シャツで背中に革製の薄型リュックを背負っているようだ。

 総合案内係の男性が、俺の時と同様用件を誰何(すいか)しかかった時、その男の子は走り出した。こちらに向かって。ダッシュで。しかも泣きながら。そして抱きついてきた。

「いだぁ、いだぁよぉ、よがぁっだぁ、にっぼんっじんだぁ、ひどりぼっじがぁどおもっだぁぁぁ、よがぁっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 唐突で驚いたが、鼻声で聞き取りづらい声の中に『日本人』の響きを聞き、この子の正体が分かった。何よりよく見れば、学生服(詰め襟タイプ)の夏服(開襟シャツ)で、思いっきりなじみのある服だった。

 俺は高校はブレザータイプだが、中学までは詰め襟型の旧態依然とした学生服だったので見慣れたモノだった。

「おい、あの白い部屋にいた108人の一人か」

「ふぁい、ぞうでふ、びびがはいっで、おじで、きぃがづげばはだげのまんながでぇぇぇぇ、ひどりぼっじで、だぅじだらいいがわがんなぁぐで、ヒック、ヒック、ズルズルズル、のうがのひどにぎいで、それでぞれでぇ」

 泣くは鼻水はすするはで悲惨な状態ではあるがとりあえず了解した。で、とりあえず落ち着かせる。とにかく落ち着かせる。なんせ周囲の目がハズい。今まで無人だった受付にまで職員らしき者が顔を出してこちらをのぞいていたし…

 目前の受付嬢などアルカイックスマイルでこちらを見ている。仏がかってる。『依頼者用』窓口に来ていた40代のおばちゃんも唖然と見てるよ。

 結局落ち着くまで2分近くを要した。全くハズいった有りゃしない。でもまあ、しょうが無いか、見た感じ中学生とは言え1年生だろうし、4ヶ月前まではランドセル背負ってたたと考えればさもありなんってヤツだ。

 身長160無いくらいか?背中の学生鞄をリュックタイプにしたようなヤツがランドセルにしか見えない。

 とりあえずある程度落ち着いたその子を連れて受付窓口から離れ依頼ボードの方へと行く。

「落ち着いたか?そうか、ん、じゃあ現状は分かるよな。ん、そうだと思う、一応モンスターも見たし、ああ、1メートー以上有るムカデ、ギリ死にかけた。え、なわけないよ、逃げたよ。壁乗り越えて、ん、ホントギリ、誇張とかなしにギリ、50センチで死亡案件」

 ある程度小声で現状認識をすりあわせる。彼も異世界だろうとは認識しているようだったが、木塀の中に出た関係で俺のようにモンスターに出会うことは無かったらしく、あわあわ、あわあわ言いながら聞いていた。

「で、現状帰る当てはない訳で、生活費っつうか食費なんかを稼がにゃなんない訳よ。分かるだろ。うん、そう、ここね。で、結構微妙でさ、街中クエストだと生活カッツカツっぽいんだよ。でも郊外クエストは100パー死ぬって太鼓判押されたよ、アノお姉さんに」

 彼も冒険者ギルド(彼はギルドという名称だと思っている)に来れば、たの日本人に会えるかもと考えたし、会えなくても仕事と収入を得られると考えてここに来たようだ。異世界転生系の小説を結構読んでいるらしく、その知識で考えてのことだったそうだ。

「あのぉ、あの時、隣にいた人ですよね」

 いきなりそう言って来たのだが、あの時とは当然白いドームだろう、と思い返すと必死の顔で手をこちらに伸ばす男の子の映像が浮かんできた。

「あっあの時の。落ちる寸前」

 彼は、はいはいそうですと思いっきりクビを何度も縦に振って、なんだかブンブンと音がしそうな位の勢いでチョット引いた。

 とりあえず、軽く現状を互いに話した後、先ほどドブ掃除のクエストの件を話し、一緒に受けないかとさそうと、満面の笑みで、受けますと答えてくれた。

 この子は、背が低くてお子ちゃまフェイスなんで微妙にお人形さん感がある。多分、半ズボン姿をこよなく愛する女子達から諸手を挙げて歓迎されるタイプの男の子だろう。いぢめる?とか言って小首をかしげれば鼻血を吹くかもしれない。

 俺は彼を連れて、先ほどの受付まで行き先ほどの依頼を2人で受けたい旨と、この子の登録及びギフト確認も合わせて頼んだ。

「はい、2人ならこの時間でも頑張れば問題ないはずです。ですが冒険者登録は成人してからとなっていますので、15歳未満は登録できませんので…もうしけ訳…えっ!15歳?本当ですか、いえ、念のためですが嘘は無駄ですよ、分かる魔術具がありますから、そうですか、ならかまいませんが…」

 …15だと?マジか、おもいっきり受付嬢と一緒に突っ込んでしまったが、リスのように頬を膨らましチョットブーたれる。どうやら中3らしい、で6月生まれ…中1どころか小5でも通りそう。いや言わないよ、かなり気にしてそうだから。うん。

「えっとこちらの子もギフト未確認ですか…同じ国ですか、日本でしたか、ホントに僻地なんですね」

 色々と顔を七変化させつつ手続きしてくれた。

「名前は時野瞬(ときのしゅん)くん、出身地日本、年齢15歳…本当でしたね、技能未記入、賞罰なし、で、冒険者協会ランク(Z)、レベル(1)ですね、こちらは大事に所持していてください。無くしちゃダメですよ。そのままギフトの確認行きましょう」

 ここで初めて名前を知ったので、俺も遅ればせながら名前を教えた。しかし、ホントに15歳だったようだ。マジで…

 そして、ギフト確認をしたのだが、俺は、ど~か良いギフトが出ますように、間違っても符術士は出ませんようにと願っていると、水晶球は白く輝き、無属性魔法適正を示し、光度も俺と同じぐらいだった…

 おいおいおいっ、まさか異世界から来たものは全員符術士ってことかよ、ま、まさか、無いよね、頼む。南無三。

 そして、瞬が体をビクッとさせた後、水晶球の中央部に浮かんだ文字を見た受付嬢の顔が微妙に引きつっていた…マジか、マジなんかい!勘弁してよ。

「えぇっと、ギフト出ました。…ギフト名は『ゴーレムマスター(限定:直接制御)』です」

 おっ、符術士じゃなかった、…でもアノ表情は…

「ゴーレム。ゴーレムマスターってゴーレムを作り出せるスキルですよね、おぉぉぉぉぉ、ゴーレム軍団ゴーだぁぁぁぁぁぁぁ、サンド、ストーン、ウッド、ミスリル、アマダンタイトぉぉぉぉぉ」

 瞬がどうやら厨二病を罹患(りかん)したらしい。いや、ひょっとすると既に罹患(りかん)していたのが悪化しただけなのかもしれない。

 それはともかくとして、受付嬢さんのアノ表情からある程度の諦めを持った上で聞かざるを得なかった。

「えっと、このギフトも何か問題ありですか?」

 受付嬢さんはなんともいえない、泣きそうなような笑いそうなようなそんな表情を浮かべた。当の瞬は、え?なに?問題って?と俺と受付嬢さんを交互に見る。

 軽い深呼吸の後、意を決して能面フェイスの受付嬢さんはかたる。

 『ギフト:ゴーレムマスター』はゴーレムを作成しそれを操作する魔法職の一種である。

 ゴーレムは、術者の能力の成長に合わせてベースとなる素材・大きさ・操作可能数当がかわる。

 ゴーレム操作系には二種類が存在し、一つは自律制御、もう一つは直接制御となる。

 自律制御は作成したゴーレムに、前もって行動原理を記憶させることで、術者が操作せずとも行動が可能となのが、細かな動作や記憶させた動作以外の行動は一切出来ない。

 直接制御はゴーレムに魔術的パスをつなぎ、術者の意思通りに操作が可能であり細かな作業やイレギュラーな事態にも対処できる。しかし、術者がその操作にかかり切りになる為その他のことが出来ない、または術者がその間無防備となる。

 基本的に、自律制御は魔力の量によって複数のゴーレムを一度に使役出来るが、直接制御は一体しか制御できない。

 『ギフト:ゴーレムマスター』には、限定なしと限定ありの二つがあり、限定ありには直接制御限定と自律制御限定の二つがある。つまり、『ギフト:ゴーレムマスター』には三種類があることになる。

 また、自律制御型ゴーレムは作成時に魔力を溜める媒体として一定サイズ以上の魔石をゴーレムの数だけ必要とする。ゴーレムの稼働時間はこの魔石に内蔵もしくはこめられた魔力の量で決まる。

 直接制御型ゴーレムは、術者との魔術的パスを通して常時接続しており、魔力もそのパスより供給を受けるので、作成時に魔石等は必要ない。しかし、魔力のパスが一瞬でも切れれば素材によってはその型を維持できず崩壊する。

 以上がゴーレムの概要だそうだ。で、瞬のヤツの『ギフト:ゴーレムマスター』は『限定:直接制御』なわけで、それの現実的な問題点を続けて語ってもらった。

 いわく、『ギフト:ゴーレムマスター』は人気のあるギフトである、しかし、『限定:直接制御』は逆に不人気ギフトとなっている。

 理由は、一体しか動かせず、その間術者が動けないのであればパーティーの人数的に(えき)が無い、それどころか無防備な術者を守る者が必要になるので実質マイナスになってしまう。

 制御距離も限定され、汎用性が無い。自律制御は、夜間の野宿等でも警備として使えるが、直接制御では出来ない、と言うか無意味。等々…

 符術士よりは遙かにましらしいが、自律・直接両方使える限定なしと自律制御と比較される形で不人気となっているらしい。

 パーティーに入れてもらえない率も符術士ほどでは無いが、かなり高いらしい…

 能面フェイスの受付嬢の語りを聞くに付け、瞬の表情はどよ~んと沈んでいった。

「たしかに、AIなしのゴーレムって意味ないですよね…頭がマルチタスクで同時に何台もコントロールとか僕には無理…ゴーレム軍団の野望が……ゴーレムチートがぁ……」

 沈み込みブツブツ言い始める瞬が怖かったんで、俺の符術士のことを話して聞かせると、口をポカーンとしばらく開けてから、そ、それはいくら何でも無いですよ、と俺を慰める形で、俺よりはマシであると考えてある程度立ち直ったようだ。まあ、良いけどね。ぐすん。

 と、そんなこんなで長時間窓口を占領してたのだが、時間も無いことなので(くだん)のドブ掃除のクエストを受けることとなった。お客(冒険者)がいない時間帯で良かった。

 取り急ぎ仕事の概要と、道具の場所、依頼者の家までの地図等を教えてもらい、表へと出た。

 俺たちは連れだって冒険者協会の建物を裏手へと回り込んで、裏側にいる50代後半に見えるおじさんに受付嬢からもらった札を渡す。

「お、前らドブ掃除してくれるんか。ず~っと誰も受けずに残ってたからな。良かった良かった」

 おじさんはにこにこ顔で、スコップ2個とリヤカーのような台車と革製の長靴を引っ張り出して渡してくれた。

「長靴履いてみな、多分サイズはそうは違わんはずだ、どうだ」

 長靴のサイズは問題なく、履き替えた靴は預かってもらえた。ちなみにこの靴は水性魔獣の皮から作った防水性と耐久性が強いモノに、防臭防菌を付与したモノらしい。多分、ゴム長より良いモノっぽい。 瞬はファンタージーすげーを繰り返していた。

 その後、地図を確認しつつ依頼者の家に行くと、40代で細面の女性が応対してくれた。まあ、仕事の内容より長い間誰も受けてくれなかったことに対する愚痴と俺たちが受けたことに対する礼の方が多かったんだが。

 作業は依頼者の家の前からワンブロックのドブ掃除で、思った以上に範囲があったので二人で気合いを入れ直した。

 まず、一定範囲のドブ板を外して回り、次いで2メートル×3メートの程の皮シートを各自のそばに敷き、ひたすら泥を(さら)って行く。

 そしてシートの範囲外になったらシートからリヤカーもどきへ泥を移す。これをひたすら繰り返す。

 筋肉が直ぐに悲鳴を上げ始めるが我慢してやり続ける以外無い。体力的にも体格的にも瞬はきついようで、作業速度は俺の半分ほどだった。まあ、仕方ない。

 区画の三分の一の泥をリヤカーもどきに入れた時点で、今度はその泥を捨てに行く。

 俺が入って来た西門では無く、南東の門から出る。瞬も北西門から入った関係でこちらは初めてなので、ひーこらリヤカーもどきを押しながらキョロキョロしているようだった。

 目的地は門まで20分、門から10分かかる場所で、直径20メートル深さ10メートル以上有る穴だった。その穴は畑地の真ん中にあり、周囲が腰高の木の柵で囲われていた。

 その囲いの中で開いているカ所から泥をスコップで掻き落とす。

 この工程をその後2回行ってなんとか夕方までには終えられた。

 前半は二人で現状や今後のこととかを話しつつ作業をしていたが、中盤からは瞬から喋る余裕は消え、後半はほぼゾンビと化していた。ここで言うゾンビは昨今の走るゾンビではなく、昭和のゾンビだ。

 多分、明日は筋肉痛でゾンビから油の切れたロボットにクラスチェンジするに違いない。俺は大丈夫、油の切れてないロボットにはなれるはず。

 最後の泥捨ての帰りに、用水路の水でリヤカーもどきとスコップや皮シートなどの借りた道具を全て洗ってから依頼主の元へと行った。

 その時間には旦那さんも帰宅していたようで、旦那さんより依頼完遂の証明もらい、夫婦に感謝されつつ見送られた。

「感謝されると、やっぱりうれしいですね」と一時的にゾンビからフレッシュゴーレムに進化した瞬がニコニコ顔だ。

 さあ、冒険者協会まで行くぞと言うと、ゾンビに退化し、あ~ぅ~、あ~ぅ~言うようなうつろな表情で足を引きずりつつ歩いて付いてきた。

 さすがに哀れだったので、リヤカーもどきの荷台に載せてやり、運んでやった。まあ、時差のせいで体感時間的には深夜と同じようなもんだかに、余計きついんだろう。

 その後、道具を冒険者教会裏の道具管理係のおじさんに返却し、靴を履き替え協会内へと入った。その時になって初めて、協会の内部に照明設備があった事に気づいた。

 多分日中も明かりは付いていたんだろうが、屋外との差があまりなかったことと、室内=照明があって当たり前と言う固定観念で意識しなかっただけだと思われる。

 協会内の照明はクリスタル状のモノで、半分が天上に埋没される形で設置されていた。その数10個。

 蛍光灯のような目に痛くない光で広い室内を十分に照らしていた。俺の目線でそれに気付いた瞬も、ファンタジー照明だ~と口を半開きにして見ていたので、周囲の冒険者達から生暖かい目を向けられていた。

 協会内は俺達が依頼を受けた時と全く違い、50人近い推定冒険者とおぼしき者であふれかえっていた。

 瞬には入り口近くの邪魔にならないところに待機させ、俺は受付窓口の中であの受付嬢の場所へと並ぶ。同じ人の方が色々良さそうだからね。

 後は、周囲の冒険者達の会話を聞きつつ、ひたすら順番を待つだけだった。

 周囲の会話は、討伐の自慢話や特定の人物の悪口、噂話、そして誰それが死んだ、あいつも死んだ、あああいつらも見ないと思ったら死んでた等々…半分は『死んだ』と言う話題だった…なんだかな~。

 そんな耳に心地よくない会話に耐えること15分、やっと順番が回ってきた。

「お疲れ様です。依頼は終わりましたか?」

 受付嬢は最初の気持ちの良い微笑みに戻っており、直ぐに手続きをしてくれた。

 俺は処理の終わった俺と瞬の冒険者標章と依頼料を受け取り礼を言って帰ろうとすると、彼女から止められた。

「宿はおきまりですか?お二人だとこの金額では食事に使えば泊まれないと思いますが。確証は出来ませんが一応当てがあるのですがどうですか」

 正直今日は宿はあきらめており、この後どこで野宿しようか悩んでいたところだったのでこの進めに大喜びで飛びついた。

 それは、彼女の知り合いの宿の馬小屋だという。屋根があり干し草もあるので寝るだけなら野宿より遙かに良いとのこと。更に、敷地内なので安全面も野宿より遙かにましだと。

 代金は一人3ダリ、二人で6ダリ。夕食と明日の朝食を屋台で済ませば計6ダリ、合計ぴったり12ダリでまかなえることになる。

 あくまでも泊めてくれるかもしれないであって、ダメかもしれないとのことだが、行って見ることにした。

 彼女に礼を言い、場所を簡単に書いた地図を受け取って協会を二人で後にする。

 瞬に厩の件を話すと飛び上がって喜んだ。ただ、ゾンビ状態だったので2~3センチほどしかジャンプできてはいなかったけど…

 その宿に向かいつつ、途中の屋台で丼に入った肉野菜スープを二人で3ダリ支払って食った。初めて食う肉で、濃い味わいで結構うまかったし量的にもそこそこ有り、満足感もあった。

 そして、その宿『魔獣のいななき亭』で受付のおばちゃんに、冒険者協会受付嬢のソアラさんから紹介された旨と現状を伝え、厩の件をお願いすると、ソアラの紹介じゃしょうがないねと笑いながらOKしてくれた。

 おばちゃんとソアラさんに感謝。

 おばちゃんの娘らしい8歳ほどの女の子が、厩と井戸とトイレを案内してくれた。その後トイレで用を足し、井戸で頭だけ水で洗ったら限界で、ワラの肌触り感も気付くことなくそのまま眠ってしまった。

 瞬に至っては井戸にすら行く元気もなく、とっとと先に眠っていた。

 そして長い一日がやっと終わった。

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