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27.王都決戦 スケルトン+リザードマン

 ついに総力戦が今日から始まる。当然今日一日で終わるわけでは無い。

 前日の予定通り、王都軍とレオパード領主軍は、外郭内の王都軍・冒険者と連携してスケルトン・リザードマンに一気に仕掛けて数を減らす作戦を実行する。

 個人的には、なんで一個一個やっていかないんだよ、と思うのだが、王都内の食糧問題等があって出来るだけ早くこの騒動を収めたいと言うことらしい。

 この辺りは、周囲の兵士がしていた噂話からの情報なので、本当かどうかは不明ではある。

 ただ、王都の規模なら外部から食糧が入ってこないと厳しいことは想像出来るので、それが理由かはさておき、理由の一端を担っているのは間違いないと思う。

 そんなら、なんでもっと早く行動して無いんだ? と思うんだよ。色々な思惑が絡み合って、って事かね。単純に言うと『無能』って事だろう。

 俺の中の『貴族株』はストップ安だよ。全面緑色一色。

 愚痴はともかく、本日は野営地の撤収も同時に行われ、俺達は王都に入ることになる。そして翌日からは王都内から出撃する予定だ。

 昨日のうちに王都へ入っておけば良さそうなモノだが、受け入れ準備の関係があるらしく、その日直ぐって事は出来ないそうだ。食料品の問題とかもあるのかも知れない。カエル喰えよ、カエル。

 そんなわけで、撤収要員を50名残してその他は全て出る事になる。俺達は領主軍の後に付き、外郭塀にそって北へ向かう。

 前方では回り込んでいた、少数のスケルトンとの戦いがある様だが、俺達はしばしの間ただ付き従う形で移動していく。

 そして、ほぼ街の真北に来た所で、俺達冒険者組が更に北へスケルトンの後ろを回り込む形で移動していく。

 北部及び北西部には森林地帯が広がっているが、それを少し南西へ下ると後は草原地帯となる。その草原地帯はかなり広く、20キロ以上続いて山岳地帯へといたる。

 話によるとその草原地帯には、大小5つの町や村があり、王都への食糧を供給する場と成っているとか。現在はその一番の供給源への道をスケルトンに押さえられていることになる。

 俺達は外郭塀から、かなりの距離を空けた所で森を出て、その草原地帯へと入る。草原地帯は膝下ほどの草が生い茂り、良い牧草地帯でもあるが、今はアンデッド地帯と化ている。

 緩やかな高低がある為、遠方までは見通すことは出来ないが、それでもチラホラとスケルトンとおぼしきモノが王都方面に歩いているのが見える。

 今回も、前回のオーク『穴』探索時と同様に、東西に大きく班ごとに広がり、そのまま南進することでローラー作戦を実施する。

 今回の俺達の担当地域は、一番街に近い側で、『穴』のある確率が最も低い所となった。前回『穴』に当たったんだから、今回は良いんじゃね、って事みたいだ。

 実際は、前回も一番確率の低い所だったんだけどね……

 この草原は下草が地面がほとんど見えない程茂っている為、蛇系と毒虫系がやっかいとなる。

 だから、いつもの『ウッちゃんMkⅡ』先行なのはもちろん、蛇行させてある程度の範囲の安全を確保する様にしている。

 まあ、全員が皮や木の防具を足に付けているので、そうそう簡単に噛まれたり刺されたりはしないが、用心に越したことは無い。防具にも隙間は必ずあるからね。

 見通しが良く歩きやすい為、オークの時の3倍以上のスピードで進む。時折見える他の班も同様で、俺達よりもかなり早い班も存在していた。

 そして、見通しの良さ故に、スケルトンの移動方向もよく見えるので、中間地点にすら達すること無く『穴』の方向が分かった。

 この件も前もって予測されていたので、それ用の合図が決めてあり、その合図に従って全班が再集結する。

 俺達の班は、たまたまタイミングの問題で、この時点まで一度もスケルトンと遭遇していない。となりの班が10匹程のスケルトンとやり合っているのは見えたが、応援の必要な感じては無かった為、スルーしていた。

 スケルトンが徘徊している為、他の魔獣もおらず、全く一度も戦闘せずの再集結となった。

 再集結後は、街のほぼ真西地点を中心に南北に班を並べ、西へと向かってローラー開始だ。俺達は最南部だ。一昨日前から端っこばかりだよ。

「『あんた、端っこ歩きなさいよ』ですねぇ、ハブられてるんでしょうかぁ」

「わり、それも分かん無いよ。俺はあんまアニメは詳しくないんだよ」

「はじめさん、あれ、アニメじゃ無くってCMです」

「うっそーおん、はじめさん知らないんですかぁ。昔は昔ですけどぉ、懐かしの系番組で結構見ますよぉ」

 いきなり瞬はともかく歩からも突っ込まれてしまった。…何か悔しい。

「俺はほら、小学生時代からスポーツ少年やってたからさ、TV自体見てる時間少なかったんだよ」

 そんな言い訳をしていると、聞き耳ずきん状態のシルビアさんから、「てれびって何」とお子ちゃまに良く有る『○○ってな~に』攻撃が始まる。

 しまったと思った時には既に遅く、5分くらい掛けて誤魔化しまくりながら説明して難を逃れる。まあ、瞬のエロゲの時よりは説明に窮しては居なかった。

 そんな話が出来る程に見通しが良く、移動が楽だったんだよ。痛し痒しだけどね。俺にとっては…


 そんな俺達が初めてスケルトンに相対したのは、再集結後1時間近く経ってからだった。100メートル程手前から見えており、その後幾つかの高低差で視界から隠れたが、最終的に真っ正面からぶつかる事になった。

 当初は魔術で先制を考えていたが、今後の戦闘のことを考え、実際にぶつかって見た方が良いと言う意見が出て、しばし直接攻撃を試すことに決定した。

 俺達16人の内、6人だけが非接近戦メンバーで、それ以外の10人はそれがメインか苦にしない者たちなので、相手の数が同じ10体となれば特に問題は無い様だった。

 ただ、やはり他の生物系モンスターと違い、骨じたいを砕かねば死なないと言うことにはかなり戸惑った様で、戦い自体は圧倒しているが、とどめはなかなか刺せずにいる者が多かった。

 だから俺は、自分のテストの意味もあって、戦闘集団の元に移動して、苦戦している槍使いのマッチョに話しかける。

「すみません、チョット試したいことがあるんで、ソレもらって良いですか」

 いきなり横から言われて驚いたマッチョだったが、面倒に思っていたらしく、「おお良いぜ」と簡単に譲ってくれた。

 てな訳で、取りだしたのは『聖光符』。今まで戦闘では目くらましにしか使ってこなかったこの『符』、聖属性ならアンデッドに効くんじゃねぇ?って事だ。

 『聖光符』を左の手の平に貼り付け、回り込んで他の人に光が当たらない方向を確認して、スケルトンへ向けて起動。直接の光は俺には届かないが、周囲の反射と手の平が透けた事で発光を確認した。

 そして次の瞬間、目前に足を砕かれて倒れた状態で蠢いていたスケルトンが白い灰になって崩れた。

「おいおいおいお、すげーじゃねーか」

 譲ってくれたマッチョからも驚きの声が上がったが、俺もここまで効果があるとは思っていなかったので、かなり驚いている。

 俺はそのまま、更に検証する為、他の戦っている人たちに頼んで残り4体を全てもらう事にした。

 まず、全員に後ろに下がってもらい俺が前面に出る。そして、バラバラの位置にいるスケルトンを動けるモノを誘導し、ある程度の距離に集めた。

 そして、左手に貼り付けた『聖光符』をそれらに向けて起動・発光させる。すると、扇型に半径10メートルの範囲で散らばっていた、全てのスケルトンが白い灰になって崩れ落ちた。

 俺は一人、小さく「よしっ!」と拳を握る。

「マジか、一撃じゃねーか。街の周りのヤツもお前一人で殲滅出来るんじゃねーか」

「『符』の数さえありゃー、出来るだろーな。聖属性魔術ってヤツか、幽鬼系位しか使えねーと思ったけど、こいつらにも激効きだな」

「で、はじめよ、その『符』は数はあるのか」

「一応、スケルトンがいるって事だったんで、使えるかと思って60枚ぐらいは作ってあります」

 レオパードでモンスターの種類を聞いた時、この符の効果を考えて多少多めに作っておいた。ただ、作りすぎても効果が無かった時に後の使い道が少ない『符』なので手加減せざるを得なかったのは、今からすれば残念だ。結果論だからね。しょうが無い。

「聖属性魔術は所有者が少ないから、今回に限ってはかなり効果があるわね」

 聖属性は、聖光、治癒、解毒などを使える魔術で、レアとまでは言わないがかなり少ない属性らしい。

 シルビアさんの言葉に他の魔術師達もうなずいている。

「符術師って、『符』の準備さえ出来ればかなり使えるギフトね。まあ、その『符』の準備が異常に難しいんだけど…」

 俺は力なく笑うしか無かったよ。そーだよ、面倒くさいんだよ。金も掛かるし…はぁ、ため息。

 その後は、2回だけ2体と4体のスケルトンと遭遇しただけで移動を続け、昼過ぎに携帯食食って間もなく『穴』発見の笛を聞くことなった。

 他の班が集まる場所に行くと、『穴』がトードの時と同じように地面に空いており、誰か穴の上に乗った者が居た様で一部天上が崩れていた。

 『穴』の大きさは、ここも3メートル程で、傾斜角度も他と変わりが無かった。穴の方向はほぼ真西で、トードとは真逆、オークとも違う。方位は違っても、傾斜角は同じ…何かあるのだろうか?

 そこに集まっている間にもスケルトンが中から現れてくるので、その度に魔術で殲滅する。こう言った閉鎖空間では魔術はかなりの威力を発揮する。

 逆に言えば洞窟の様な閉鎖空間では、自滅の可能性があって使えない魔術が多いって事でもある。

 取りあえず、トードの『穴』を塞いだ経験を生かし、出来る所まで土属性魔法の落とし穴の魔術で天上を崩していく。

 その後はゴーレムマスターによるサンドゴーレムを穴に突っ込ませ、次々に奥から埋めていく。実際はロックゴーレムで岩を入れたいんだけど、周囲に岩がほとんど無い。

 小さなモノや埋まっているヤツはそれなりに有る様だが、目に付く大きなモノがないので『サンド』で我慢することになった。その代わり、奥まで詰め込む。

 そんな8割以上ゴーレムマスター頼りの方法だが、個々のサンドゴーレムが全てカンスト状態で、3メートル以上有る為結構な早さで埋めることが出来た。

 そして、部分部分を瞬がゴーレムビルドで融解・接着を行い、隙間を埋めて、最後は全員で周囲の小石なども放り込み、完全に埋めた。

 オーク『穴』までならこれで撤収出来たのだが、『穴』が複数有る可能性が分かった為、念のために周囲の探索を時間一杯行うことになってしまう。

 結局その後時間ギリギリまで探索したが、はぐれとおぼしき単体がチラホラいる程度で、纏まったモノは見当たらず、『穴』は一つだけだろうとの結論に至った。

 そして、俺達は真っ直ぐ西門へと向かい、途中で遭遇したスケルトンを排除しながら西門より中に入った。

 西門に入って、門周辺にいた兵士の第一声は、「あの光はなんだ」だった。

 どーやら領主軍達の戦闘は、思いの外進んではおらず、西門周辺にもかなりの数のスケルトンが(たか)っていた。だから最初は、回り込んで北門へ向かおうかとしたのだが、「面倒くさい」と言う意見で、突っ込むことになった。

 で、その際、俺が先頭になり、随時『聖光符』を使用して(たか)って来るスケルトンを灰に還しながら進んだ光景をみていた様で、それから来る「なんだあの光は」だった。

 実際、集団で纏まって居ると、一度に半径15メートル程が灰燼(かいじん)と化し、そこから5メートル範囲は半壊状態で身動き不能に成っていた。

 『聖光符』大活躍の巻きだ。多分今後アンデッドが出てこない限り、こう言うことは無いだろうね。きっと。

 外郭西門から入った俺達は、内郭西門でしばらく待たされ、やって来た騎士サクシードに案内されて、王都側の訓練場に設置されたテントへと着いた。…またテントかよ。

「おい、宿で休ませてくれるんじゃねーのかよ」

「王都に入ってまで、なんでテントなんだ?」

「ベッドで寝れると思ったのに…」

 ほとんどの者が同じように思った様で、口にこそ出さないが歩もガッカリを全身で表現していた。瞬に至っては「真っ白な灰です」と生死不明のボクサーみたいな事を良いながらグテーっとしている。

 そんな俺達の不敬な態度や言葉に、多少顔を引きつらせながら騎士サクシードが言うには、現在王都には外部に出ることが出来ずに閉じ込められた状態の、商人や旅行者が詰めており、宿などに空きはほとんど無い状態だという。

 それを聞いた冒険者の中から「じゃあ、兵士はどーしてんだよ」との声が聞こえると、更にピクリと騎士サクシードの顔が引きつり、一拍を置いて「兵士は兵舎に居る」と答えた。

 そのとたん、周り中から「なんだよ、兵士はベッドで俺らは地面かよ」との非難の声が一斉に上がる。期待していただけに失望が大きく、更に不公平感も有ってかなりの騒ぎとなった。

 しかし、

「貴様ら下賤どもが、何という口をきくか!、我らが決めた事だ、貴様らはただ従えば良いのだ、従わぬと言うなら処刑するまで!」

 と言う、お貴族様の宣言で黙るしか無かった。はいはい、やっぱりお貴族様はお貴族様でしたよ。俺の中の『お貴族様株』は、ワロス曲線も無く、急転直下右肩下がりの株取引停止状態ですよ。

 お貴族様が、お貴族様理論で言い出せば、我々庶民は従うより他に無いわけで、三々五々と散らばってテントへと消えていく。

 俺達も一旦3人集まってから、しばしぶーたれた後食事や洗体を終え、洗濯物を出した後はとっとと眠った。この日の寝床も冷たくて堅い寝床でした。とっても。

 そして翌日、普段なら前日の内に翌日の予定を告示されるのだが、昨日のアレのせいか昨日はそれが無く、今日になってそれが示された。

 いわく、王都軍・領主軍・王都冒険者でリザードマンに当たるので、俺達レオパードの冒険者でスケルトンを殲滅せよ、だと。

 昨日の戦闘で、リザードマンに当たった王都軍に多大な犠牲が出た様で、昨日も途中で領主軍も応援に呼ばれる有様だったらしい。だ、か、ら、一個一個やれって言っただろ。心の中で…

 そんな訳で、さして強くは無いが殲滅の面倒なスケルトンを、俺達に相手をさせている間に他の軍勢全てを使ってリザードマンを処理する気の様だ。何故一個一個出来ないんだよ。全く。

 西方の村々との通商路を確保する為なら、スケルトンを全部隊で殲滅して西部方面を確保すれば良いと思うなだけどね。

 その上で南西方面を警戒させつつ通商を再開して、それからリザードマンに当たれば良いだろうに…貴族ってバカなの?バカだね。うん、バカ確定。まあ、俺らの知らない事情や思惑があるのかも知らんけどね。

 と言う事で、俺達は西門から、王国軍達は南門から時を同じくして打って出て、俺達は外郭塀に沿って先ず南方面のスケルトンを叩く事になる。

 お騎士様が言われるには、スケルトンとリザードマンの混合地点までの南西部を先ず全滅し、リザードマンと戦闘に当たる我々の負担を減らせ、との事である。

 モンスターの性質なのか、(人間)の数が多い方へ集まる習性があるため、リザードマンと彼らが戦っていると、南西部に居たスケルトンも南下してリザードマンと共に戦わなくてはならなくなる。

 それが嫌なので、南西部から何とかしろ、とのお達しだ。なら、東門から出て、南東側から殲滅していけば良いだけなんじゃね、とそれを聞いた俺が言うと何故か騎士サクシードから思いっきりにらまれた。漫画ならぶっとい『ギロッ』と言う書き文字がバックに浮かぶ様なにらみだった。

 その後、お騎士様が居なくなると、瞬や歩は元より、他の周囲の冒険者全てから賛同をもらったよ。やっぱ、誰だって思うよな。

 で、出撃の準備をしていると、冒険者部隊の実質的リーダー、ランク(J)のスペイドさんとヴォルツさんが俺の所に来た。

「よお、符術師、昨日の『符』はまだあるのか」

 近くに来たスペイドさんの第一声はそれだった。なるほど、俺の『符』を作戦に組み込むつもりみたいだ。

「残りは56枚です。多分ここでしか使い道は無いので全部使い切っても問題ありません」

 俺の答えを聞いた山賊顔がにんまりと笑う。泣く子が更に泣く様な良い笑顔だ。この人子供居るんだろうか?他人事ながら心配になってしまう。

 ヴォルツさんも同様に笑ったが、こちらは大丈夫な笑いだった。

「よっしゃーぁ、じゃあ、昨日の帰りと同じでお前を先頭に、その直ぐ後ろにお前を守る陣形で取りあえず突っ込んで、削れるだけ削るぞ」

 その作戦は結構無茶な作戦だったが、スケルトンの強さと冒険者の強さを考えれば、『聖光符』である程度削れれば問題ないと思う。

 そして、南東から響く銅鑼の音と同時に、俺達は外郭西門から出てそのまま塀ぞいに南を目指す。

 先ず、門が開いた瞬間門前に集まった200を優に超えるスケルトンに向かって『聖光符』を使う。その一瞬で30体近くが灰燼と化す。そして立て続けに移動しながら5枚の『聖光符』を使用する。

 それだけで眼前のスケルトンの7割は消滅し、2割は半壊して動けなくなっている。その残りを無視し、南へ向かって立て続けに『聖光符』を使いながら移動していく。

 その移動は後方より「全部出たぞ」の声が聞こえるまで続けられ、その時点で足を止めての周囲のスケルトン殲滅へと入る。

 つまり、俺の『聖光符』で一番密集している所に突っ込み、長い隊列のまま左右の牽制をしながら移動し、一定距離で足を止め左右に分断し数が少なくなったヤツらを一気に殲滅する、と言う事だ。

 これは、自分たちで挟撃状態を作る様なものだが、元々昨日の戦いでスケルトンの数が減っている事と、密集状態を効率よくそして高速に殲滅出来る『聖光符』が有ることで実現可能となっている。

 そして、個々の強さが格段に冒険者の方が上だと言うことも大きく作用している。

 先にも言ったが、モンスターは敵の多い所に集まる習性がある、つまり、門の近くが一番密度が高いことになる。そして、一定以上門から離れ、門が見えない辺りになると一定の数で散らばっている。

 まあ、外郭塀上で兵士達が変な誘導をしなければ、と言う条件が付くことではあるけどね。

 周囲の殲滅がある程度終わった所で、ヴォルツさんの合図でまた前進に入る。あまり留まると後列が反対側のスケルトンに(たか)られるので、序盤は殲滅より移動を優先する。

 そして、計20枚程を使った段階でスケルトンの切れ間へと抜け出た。そこで前部の部隊は反転し、後方の殲滅を手伝い、終了ししだい再度南下を行う。

 少数のスケルトンは届く範囲だけ剣などで攻撃し、届かない所は後方のものに任す形で移動を優先していく。

 そんな無茶な作戦で西門を出て、わずか1時間と掛からず南西部の混合地点まで到達した。その塀上には中間地点(目的場所)で有ることを示す旗が上がっており、ポイントを間違わずにすんだのは有りがたかった。

 混合地点での『聖光符』の残は5枚でここまでに51枚を消費したことになる。たが、その51枚で4桁のスケルトンが灰燼と化したのだから全く問題ない。

 混合地点まで達した俺達先頭集団は、一旦反転して残った周囲のスケルトンを潰しながら、引き寄せられてくるリザードマンを一気に引き寄せる。

 そして、移動中に撒いた『火炎符』を随時起動しつつ数を削っていく。

 一定以上戻り、引き寄せられてくるリザードマンの数が増えなくなった所で、全員で反転、大きく包囲網を作っての包囲殲滅戦だ。

 MPに余裕の有る魔術師による魔術攻撃から始め、武器を持つ者による隊列を組んだ波状攻撃で確実に数を削っていく。武器による波状攻撃で一定以上団子状態に集まると、すかさず魔術による範囲攻撃で殺する。

 そんな流れで100匹程のリザードマンを15分程度で全て殲滅し終えた。

「よおっし、これで言われたこたぁ完了だ。後は、反対側だ、一旦休憩すっぞ」

 スペイドさんの宣言で周囲から歓声が上がる。座り込んで休んでいると、瞬と歩がトコトコとこっちに来た。

「お疲れ様で~すぅ。ケガとか無いですかぁ、大丈夫そうですねぇ、良かったぁ」

「お疲れ様です。私たちの方は問題なかったです」

 俺も二人に「お疲れ」と返して、二人の状態を見るが、特にケガをした後すら見当たらないので、本当に問題なかったと分かりホッとした。普段3人で行動しているので、2人が見えないと不安になってしまう。

「後半分な、で『聖光符』は後5枚。って事で頑張れ」

「えぇぇっ、もうそんなに使ったんですかぁ。じゃあ、この後は結構大変じゃ無いですかぁ」

「そーなるな、頑張って『ウッちゃんMkⅡ』突っ込ませるんだな。『ウッちゃんMkⅡ』の補修はすんでるのか?」

「大丈夫です。さっき向こうに居た時やってましたよ。私も回収した弓の選別も済ませました」

「シュン、MP大丈夫だな? 悪いけど石を使ってドミノサイズの板を30個ぐらい作ってくれないか」

「ドミノってドミノ倒しのドミノですかぁ? 良いですけど何するんですかぁ?」

 瞬の問いには、秘密と答えて、使えそうな石を集める。

「あ、私も手伝います」

 歩の手も借りてある程度の数を集めて、後は瞬にロックゴーレムで形成してもらう。出来上がった石版は割れない様にリュックの中に入れる。

 その作業が終わった頃、スペイドさんより出発の合図が掛かり、西門へと移動を開始する。途中行きに打ち漏らした個体が幾つか居たが、行きよりかなり早く西門へとたどり着いた。

 そして、そこに(たか)るスケルトンに残りの5枚の『聖光符』を使用して一気に数を減らす。

「これで『聖光符』終わりです」

 俺の宣言で後方から「マジかよ」とか「もう終わりなの」などという声が聞こえていた。しよーがないじゃん、これでも56枚も使ったんだぞ。全く。

 取りあえず、俺はバックし、瞬達の元に移動する。そして、瞬に指示して『ウッちゃんMkⅡ』で俺を塀の上目がけて投げ上げさせる。

 ゴーレムのパワーと、自分の脚力で5メートルの塀まで届き、逆に行きすぎて反対に落ちそうになった所を塀上で警備をしている兵士に止めてもらった。危ない危ない。

 元々『ウッちゃんMkⅡ』の身長が270センチで、手を伸ばした状態で3メートルは有る、そこに振り上げる力と俺の脚力で+2メートルは余裕過ぎたみたいだ…

 このあと、俺がやるのは塀上で兵士達が定期的にやっている魔術による攻撃を『符』でやるだけの事だ。

 リュックに入れてきた石版に『符』を貼り付けてリンクした状態で眼下のスケルトン集団へ投擲・起動を味方の位置を確認しながら続けるだけの安全安心な美味しいお仕事です。

 と言う事で、投擲・起動、移動、様子見、投擲・起動、移動…………

 30枚の石版が無くなるまで、『火炎符』『風旋符』『炸裂符』を使って数を削り、隊列を乱していく。

 石版が無くなった為、一旦隊列後方へ回り、瞬を探し、『ウッちゃんMkⅡ』ごと後方の壁際まで呼び寄せる。そして、四の五の言う瞬を半強制的に『ウッちゃんMkⅡ』で俺と同じ方法で塀上へ上げる。

 もちろん瞬の運動能力では俺の様に塀の上まで達することが出来なかったので、俺がキャッチして引き上げた。

「し、死ぬる…」

 何か言ってるけど無視して、塀の縁を使って石版を作らせる。ある程度出来た所でそれを持って俺は前線部分へ移動し、後は出来しだい持ってくる様に指示する。

 そして、また爆弾投下を開始する。結局50枚の石版を作らせ、塀の先へ纏めて置いてもらい、瞬には塀上部から『ウッちゃんMkⅡ』をコントロールさせて戦わせた。

 合計60枚の『符』を消費した時点でスケルトンはほぼ殲滅出来た。後は散らばっている残敵の殲滅のみとなった。

 俺達2人は、『ウッちゃんMkⅡ』を足場に地上に降り、歩と合流した。歩は少しぶーたれ顔で「寂しかったです」と一人ぼっちにされたことを非難してきたので、素直に謝っておいた。

「ですよぉ、急に僕まで上がれって言われてパニクったんですからねぇ。僕は体育会系じゃ無いんですぅ」

 瞬もげっ歯類の様にほほを膨らませて抗議してきたので、「大丈夫、問題ない」と謝っておく。

「えぇーなんでですかぁ、僕だけ扱いが違いますよぉ」

 何か言ってるけと後はスルーだ。気にしない気にしない。

 そして、全ての殲滅が終了したのは、ちょうど太陽が真上に有る時間帯だった。

 予定外に早く終わった俺達は休憩を挟み、今後の事を話し合う。つまり、このまま王都に入るのか、南のリザードマン戦に加わるのか、リザードマンの『穴』を探すのか、だ。

 結果、さすがに王都へ入って終了宣言はマズかろう、リザードマンの『穴』は湿地帯に有る可能性が有るので、船やそれに合う装備が必要と言う事で、結局リザードマン戦へ参戦することになった。

「はじめ、『符』はまだ有るのか」

「はい、『聖光符』以外は合計100枚近くは有ります」

 ヴォルツさんが聞いてきたので塀上から投下した3種の残量を報告する。

「分かった、向こうはこっちと違って戦場がばらけちまってるはずだから、塀の上から投下って訳にゃいかんけど、近寄って投げりゃ同じだろーよ」

 オーマイガー、なんてこったい。確かに言われてみれば、王都軍などが戦っているのなら、塀下に固まっているとは限らないんだ…考えがおよばなかったよ。

 これは、美味しいお仕事ではなくなったな…まあ、しょうが無い。取りあえず、瞬に前もってある程度作って置いてもらい、それを一部瞬にも持ってもらって無くなったら補充する形で行くか。

 そんなこんなで、俺的に予定外の戦闘となった。だが、移動だけで1時間半以上掛かり、昼の休憩も入れると腕時計時間で2時を回った時間にやっと参戦となった。

 王都軍達はかなり広範囲に広がって戦闘におよんだのか、中間地点である南西地点には全くリザードマンは居なかった。

 その地点から1キロ近く移動してやっと戦場へとたどり着く。後は、集団で纏まって居るのを見つけては『符』付き石版を投げ込むお仕事ですよ。

 守りはヴォルツさんが受け持ってくれるので、とにかく貼って投げ込むを繰り返し、途中で歩に血を与え、石版が無くなると瞬のリュックを受け取り、また貼って投げ込む。

 2時間程の戦闘で俺達は南門付近まで達していた。その後は南西方面の戦力が南東方面に集中することで、1時間足らずで全ての戦闘が終結した。

 俺の『符』の残数は『火炎符』15枚、『風旋符』22枚、『炸裂符』0枚となっていた。今日の戦闘で150枚近い『符』を消費したことになる…

 そして、大した戦果も上げていない紅翼騎士団団長クリッパー様より、戦闘終結宣言が発せられ、正式に今回の戦闘の終了が決まった。

 その宣言が俺たちに取って、王都における最後の戦闘の終了を宣言するモノとなった。

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