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25.王都トード戦

 王都が未確認魔獣(モンスター)に包囲された件に伴う、兵士(仮)(冒険者)の出兵準備が正式に公示されたのは、その日の昼過ぎだった。

 定宿として登録している宿へ兵が赴き、状況報告と出兵準備を命じて行った。それに伴い、王都の状況が市民に伝わり、街中が大騒ぎと成っている。

 そんな騒ぎの中、俺達3人は一旦『魔獣のいななき亭』へと帰っていた。装備の回収と、部屋の荷物の処理の為だ。

 昨日、2日間の休みを前提として、預けてあった荷物を部屋へと移したばかりだっただけに、疲労感もひとしおだよ。

 俺達の出発は、明朝明るくなり掛けと成っている。さすがに、今日この時間から編制して移動は不可能と判断してくれた様だ。

 だが、兵士達はもうすぐ出兵する。大量の船を徴発し、北の『海』経由で川を下り2日掛からずに王都へ向かうことに成っている。

 出兵する兵士は300名で、残り100名の内50名が俺達冒険者と共に陸路で明日向かうことに成り、残り50名が治安維持に残る。

 そして、冒険者は徴兵された全てが向かうことに成っていて、体調不良等で320名中300程が出兵することに成っている。

 そんな事がバックグラウンドで行われている中、俺達は走り回っていた。宿に戻り装備を回収し、おばちゃんに状況説明すると『ウッちゃんMkⅡ』+リヤカーを爆走させ郊外へと出る。

 東門から出たのだが、門番から、逃亡ではないかと疑われる一幕が有り、時間を無駄にした。リヤカー内に荷物が何も無い事と、符術師で『符』を作る材料を取りに行く、と説明する事で何とか信じて貰えた。

 そう、トレント騒動で消費した『符』を何とかと無いと、王都に行っても何も出来ない事に成ってしまう。だから手近な所をとっとと回って採取するんだよ。

 瞬と歩には申し訳ないが、付き合って貰う事にした。そして、夕方までには十二分な量確保出来て、途中で襲ってきた角ウサギも5匹程回収して有る。

 現在冒険者が事実上機能していない為、魔獣の肉類が枯渇状態に成っている。だから、こんな低グレードな肉でも喜ばれる為、確保してきたんだよ。

 街に帰ると、冒険者協会で角ウサギを売却する。冒険者協会は最下位ランク者しか活動していない為、窓口も1つずつしか空いていない状態だった。

 普段、日中冒険者が訪れない時間帯は、ソアラさんが1人窓口に居るケースが多いのだが、この日は別の男性職員だった為、挨拶は出来なかった。

 そして、後はとっとと『魔獣のいななき亭』へと帰った。帰ってからは、ひたすら『符』作製を続ける。通常眠っている時間まで使い、全ての紙を使い切るまで作った。

 翌朝、娘ちゃんとおばちゃんに見送られ、薄暗い中西門へと向かう。普段はまだ起き出す前なのだが、娘ちゃんも眠い目を擦りなが見送ってくれた。帰ってきたらまたプリンを作ってやろう。

 石塀西門へ着くと、そこは大勢の冒険者と荷馬車に付き従う兵士達がおり、一番手前に騎士サクシードがおり人員の確認をしている様で、俺達に気付き手招きした。

「お前達か、良し、3人とも居るな。あそこの荷駄隊へ行ってそれに物資を積み込んでくれ。後は荷駄隊と一緒に行軍だ」

 書類をチェックして、それだけ簡潔に指示を出してくる。顔見知りだとこういう時無駄が無くて良い。

 指示通り、荷駄隊に行き兵士から食料品を受け取ってリヤカーへと積み込みつつ周囲を見渡すが、騎士レジアスは見当たらなかった。

 その後、出発まで30分程掛かり、実際出発した時には空はもう完全に明るくなっていた。

 そして、以前3日と掛からず移動(爆走)した行程を、丸まる5日掛けて移動した。

 あの王都を一望出来る丘の上から見える光景は、凄いモノだった。かなりの距離があるというのに、外郭塀に群がる存在がハッキリ見て取れた。

 ざっと見て、東外郭塀周辺だけで数千は超えているのは確実だと思う。ただ、ここ数日の斥候からの情報通り、外郭を越えられた様子は無く、街じたいは大丈夫の様だ。

「アレって、東西南北全てあんななんですよね…」

 歩の声は少しかすれた感じに成っていた。気持ちは分かる。

「多分そうじゃないですかねぇ、アレって『トード』って事になると思いますけどぉ。凄い数ですよぉ」

 カエルの未知魔獣、ゲームモンスター的には『トード』と言う事に成るんだろうけど、トードってそのまんまカエルじゃん。中型以上のカエルの英語名…

 だから、今回は瞬のゲーム知識はある意味全く役に立たない。名称のみ採用され、性質はこの世界のカエル型魔獣と大差無いだろうと言う事に成っている。

「ゾンビ系の映画で見た様な光景だよな」

「西側はスケルトンらしいので、本当にそんな感じに成っているかも知れませんよ」

「でも、一番怖いのは北ですよねぇ。他のモンスターと違って知能が高いですからぁ、塀とか攻略出来るとしたらオークでしょ」

 そう、これが目下一番の不安材料なんだよ。レオパードと違い、外郭塀は石造りで高さも5メートルはある。そうそう簡単には越えられはしないが、知能のあるオークであれば可能性はある。

 レオパードのゴブリン達の様に、何も考えず突っ込んでくるだけならば良いんだが、ゲームや小説的にもオークの方が頭が良い設定が多いらしく、不安だったりする。

「あと、リザードマンも知能高い系ですからねぇ、しかも強さ的には多分一番強いしぃ。水辺から離れすぎてどれ位影響があるかですねぇ」

 ゲームモンスター的には、今回の4種の中では確かにリザードマンが一番強い。ただ、水陸両用と言う設定上、完全な陸上部では何らかの機能低下が起こるんじゃ無いかと期待はしている。

 王都南側は中州などが多く、湿地帯が点在しているが王都南門周辺は数キロの草原地帯で水場は無い。それが良い影響を与えてくれている事を願うばかりだ。

 俺達以外の冒険者や兵士も、この光景を見て様々な表情と声を上げている。兵士達から聞こえてくる声には不安や、恐怖を感じさせるモノがチラホラとある。

 この丘の上で、一時的に隊列が崩れたため、少し時間を掛け再編する必要があった。それだけみんなが、この光景に驚いていたんだと思う。

 そして、今回の行軍の指揮官である騎士サクシードより、進軍再開が伝えられ眼下の橋を目指して道を下っていく。

 下り坂を20分も進むと、上からでは死角に成って居て見えなかった、前出のレオパード領主軍野営地が見えてきた。

 野営地は、川から300メートル程離れて施設されており、簡易の柵が西面に作られている。壁や塀では無く、柵だ。高さも1.5メートル程で、30センチ角の隙間がある。

 多分、トードが通らなければ良い、と言う事だけで大急ぎで作ったモノなのだろう。3日ほどで作ったにしては大したモノだと思う。

 そして、俺達は大きな声援と共に迎えられた。その声援の大きさは、それだけ彼らの不安の裏返しなのだろう。

「あー、やっぱし、かなりマズい状況見てーだな」

 ヴォルツさんも同じように思った様で、ぼそりとつぶやいた。

「見たいですね。多分この3日大した成果も上げられていないんじゃないですかね」

 俺の返答に、周囲を見渡してから頷いて同意した。

 そして、俺達は領主軍に迎えられ、指定された場所にテントを設営し、野営の準備を行う事でその日は終えた。一応この日の夜間警備からは本日到着組は免除され、ゆっくり眠る事が出来た。

 翌朝、朝食終了直後に、全軍指揮官である蒼海騎士団団長ガゼールより、8割無駄な訓示と本日の作戦が示された。

 まあも作戦と行っても、相手が知能のある人間などでは無い為、普通の戦争の様に細やかな所はない。

 50名の残留部隊を除く600名を50人ずつの12の分隊に分け、各分隊の遠距離攻撃によってドードを外郭塀から引き寄せ、それを包囲殲滅すると言うザックリした作戦だ。

 俺達は前回トレント戦で組んだ15人と、他のトレント組を合わせて50名の小隊を組んだ。この辺りの分隊編制は冒険者に任されて居るので、俺たち的にはありがたい。

 そして、分隊の編制が終了すると共に、戦闘エリアの割り当てがなされて、追い立てられる様に戦場へと向かう。

 俺達に指定された場所は、南東のエリアで、全ての分隊で最左翼と成る。南東部とは言え、リザードマンと混在するエリアでは無く、トードのみが居るエリアに成っている。

 騎士団団長ガゼールも、複数種を相手にする危険は考慮した様で、その考慮が出来ると言う事実にホッとしていたりする。どーしても、ゲームなどに出てくる無能騎士・無能貴族のイメージがあるからね…

 そんなわけで、40分程掛けて俺達は目的のエリアへとたどり着く。普段であればこの距離を移動すれば、魔獣の襲撃を3~6回は軽く受けるのだが、今回は全くない。

 多分、魔獣すらトードに駆逐されてしまったのだろう。トレントの時も同様にトレントの数が多くなるに従って魔獣が出なくなった。モンスターどうしは争わないらしいが、魔獣は別なのだろう。

 そう、ここに至るまでの斥候からの報告で、モンスター同士が混合するエリアで、協力こそしないがモンスターどうしの争いが全くない事が報告されている。

 この世界の魔獣どうしは、極一部の共生関係にあるモノ以外は普通に殺し合う。だがヤツらはそうではない。

 その話を聞いて、俺達は何者かの指示によって行動している可能性を考えざるを得なかった。でも、じゃあ誰が?となると、全く分からないのだけどね。

 そして、外郭塀に群がるトードの集団へ近づいた所で、『ウッちゃんMkⅡ』を先行させる。先行した『ウッちゃんMkⅡ』はトードの群れに無造作に近づき、20匹以上のヤツらの気を引いた時点でこちらに向かってダッシュで帰る。

 初戦は相手の強さが分からないので、確認の意味も込めて魔術、弓を一つずつ試し、最後は剣や槍、戦斧などの武器で半包囲から攻撃した。

 その結果は角髪(みずら)ガエルと大差ないレベルで、多数に群がられないさえすれば全く問題ないと言う結論に達した。矢も十分に効くし、魔術も水系以外は効果があった。

 俺の『符』は確認は取っていない。現状の混戦必至の中では残念ながら『符』はあまり有効ではないからな。もちろん、中巻の付与系の『符』なら有効なんだが、数が…

 だから俺は、今回はほぼ剣で戦う。角髪(みずら)ガエルならば、3匹程度までなら一度に十分に対処出来る様にはなっているので、油断さえしなければ問題ない。

 そして、俺達のトード戦は昼飯の時間を除き、随時の休憩時間を挟んで一日中続けられた。その成果は俺達だけで400匹は殺した。他の分隊も同数いけたとしたら4800匹と成る。

 実際は領主軍兵士の戦闘能力はさほど高くない為、4000程度の可能性がある。だが、8割方は削ったはずだ。このまま行けば明日にはトードに関しては殲滅できることになる。このまま行けば、ね。

 そして、その期待は予想通り翌朝には裏切られる事になった。確実に昨日の夕方より増えていたんだよ。つまり、『穴』から補充されているって事だ。

 夜間の警備に立っていた者が、川の南東方向からトードが複数泳いでくるのを目撃していた。つまり、南東方向に『穴』が有る可能性があると言う事だ。

 そして、『穴』を塞がない限り堂々巡りを繰り返す事になるのは、火を見るより明らかな訳だ。そして、他のモンスターも同様な訳だから先が見えないな…

 結局、その日から川を挟んで半数ずつ分隊を『穴』探索に出した。俺達は王都側の河岸を探索する。この探索隊は、50人の分隊をトレント戦時の15人編制に、余剰5名を割り振った3班に分けて行われた。

「今晩もカエル肉ですかねぇ、多分3日もすれば飽きそーですよぉ」

「ただで大量に食えて、味も悪くねーんだから諦めろ」

「鶏肉みたいで美味しくはあるんですけど、毎日になったらキツいですね」

「あら、カエル肉は太りにくいから良いのよ」

「高タンパク低脂肪ってやつですねぇ。どこでも女性は気にするんですねぇ」

 周囲も警戒しつつ、そんな無駄話をしている。カエル肉の件は、備蓄食量の消費を削減する意味と、戦場に転がる死体の処理の意味もあって食べ始めた。

 死体の処理としてはとてもではないが追っつかないのだけどね。多分、いくら冬場とは言え、あと2~3日もすれば腐敗し臭いも発生し始めるはず。

 ただ、有りがたい事に、トードが仲間の遺体を喰っている様で、多少は数が減ってはいる。共食いだよ…まあ、自然界では結構普通にある事だけどさ。

 疫病とか発生しなきゃ良いけど。某国盗りシミュレーションゲームの様に『疫病が発生しました』なんて報告は要らないからね。マジで。

 そして、その日の夕方、30匹以上の群れが対岸の森から川に入って行くのを目撃した。

「多分あっちだな、念のため時間ギリギリまでここで後続がこねーか確認するぞ」

 この班のリーダーとも言えるヴォルツさんは、そう判断して待機を指示した。

「対岸組はまだ着いてませんよね」

「しょうが無いわ、向こうはこちらと違って平地じゃないから」

 王都側の河岸は草原地帯になっており、多少の高低差はあるものの歩くのは容易い。しかし、対岸は林や森、そして丘が接している部分もあって行軍はかなり厳しい。

 俺とシルビアさんが会話している間に、ヴォルツさんは他の班に合図を送り、待機を指示していた。

 対岸組と違い、こちらはある程度見通しがきくので、不測の事態を見越して進行速度をそろえて移動している。用心にこした事はないからね。安全第一。

 そして、30分程の間に10匹、40匹の集団が周辺の河岸から現れて川へと入り、王都方面へと泳いでいった。そこまで確認して、他の2班を呼び集め、状況説明の後野営地へと帰還した。

 野営地ではヴォルツさんが、騎士サクシードへ今日の事を報告し、明日の指示を受けた。どーやら明日は船であの地点まで行き、そこから『穴』探索を行う様だ。

「はじめさんの、空飛べる『符』が有るじゃないですかぁ、アレみたいに空が飛べる魔術が有れば楽なんですけどねぇ」

 カエル肉のスープとカエル肉の唐揚げを食っていると瞬がそんな事を言い出した。しかし、残念ながらこの世界に飛行呪文は存在しない。

 俺の『浮遊符』の様に一時的に重力を緩和させて宙に浮く事は出来るが、飛ぶ事は出来ないそうだ。

「重力系と風系を同時に使えばいけると思うんですけどねぇ」

「あのね、重力系魔術って使える人ものすごく少ないのよ。その上で風属性持ちのダブルってなったら、そうそう居ないわよ」

 そっこー瞬の意見はシルビアさんに潰されてしまった。まあ、瞬の言うとおり、二つの属性持ちなら可能なのだろうけど、肝心のそのダブル属性持ちが居なけりゃしょうが無い。

「飛行系の魔獣がほとんど居ないからぁ、飛べれば『穴』探索なんてあっという間だと思ったんですけどぉ」

「そもそも、鳥でもないのに飛ぼうなんて考える事が変なのよ」

 瞬は「えぇーー」とか言ってるが、確かに俺達の様に飛行機などに慣れ親しんでいて、飛べる事を知っているならともかく、そうでない世界では飛ぼうとする考え自体出にくいのかも知れない。

 そんな会話も、ヴォルツさんの「明日は大変なんだからよ、とっとと喰って休んどけよ」という言葉で終わりになった。


 そして翌朝、4隻の小型船に分乗した俺達は昨日の目撃地点から森へと入った。前日対岸を探索していたチームは念のため、そのまま昨日の続きを探索する事に成っている。

 そして、森に入ってわずかに10分で30匹のトードと遭遇した。周囲は雑木が生い茂る森で、広い場所でも3メートルと空いていない。

 その為、長剣を振り回すのには適さず、突きを主体とした攻撃となり、弓や魔術なども使いづらい為平原での戦闘以上に手間が掛かる。

 しかし、基本的な戦闘能力が違うおかげで、負傷者すら無く殲滅出来た。

「戦闘力、たったの5か、ゴミめ」

 瞬がいつものごとくアホな事を言っているが、「なに、それ」とシルビアさんに質問され、答えに窮していた。元ネタを知らない人相手だとホントに変な人扱いになってしまうと言う現実を味わった様だ。

 あまりその手に詳しくない歩も、これは知っていた様で、その上で問い詰められる瞬を見て苦笑いしていた。

 シルビアさんは結構知りたがりで、知らない単語が出てくると直ぐに質問してくる。普通の事なら良いのだが、時折出る瞬の病気(厨二病)にもそれ適応されるので、しばしば似た様な状況になる。瞬の自業自得だ。

 そんなシルビアさんの追求から逃れてこれまた10分もしないうちに次の集団と遭遇する。今回は20匹程の集団で、1匹、他より多少大きめの個体が居た。

 この大型の個体の強さは、多少強いか?と言う程度でさしたる違いも無くサクサクと殲滅していく。

 俺達を中心に、左右に離れて展開する他の2班辺りからも、随時戦闘音が聞こえているので、同様にトードと遭遇しているのだと思う。

 そんな感じで、俺達は昼食休憩をはさみサーチ&デストロイを繰り返す。


 その笛が聞こえたのは、俺の腕時計時間で午後2時30分頃だった。俺達の左手を行く班からの断続的に続く笛の音という『穴』発見を知らせる合図が聞こえてきた。

 笛での合図は前もって幾つか決めてあり、緊急応援要請は長音、『穴』発見は断続的な音、などといった形だ。

 そして、断続的な音が続く場所へ向かうと、地面に直径3メートル程の『穴』がわずかな傾斜をもって東向きに続いていた。

 今までの『穴』は壁面にあった関係で、ほぼ真円を成していたが、今回の『穴』は地面にあり、それでいて穴の角度は水平に近い傾斜なので、かなり縦長な楕円と成って居た。

 『穴』の入り口付近の天上はかなり薄く、上に乗れば崩れそうな程だった。多分、入り口から10メートル以内は崩落の可能性があるかもしれない。

「崖だけじゃ無くってこんな風に地面にも有るんですね」

 歩の言葉は多分みんなの気持ちを代弁していたと思う。なまじ今まで2カ所を見ていただけに、無意識に、壁面に有るものだと固定観念に近い思い込みをしていた様だ。

「この穴なら、塞ぐよりは潰して埋めちまった方が良くねーですか」

 『岩砕き』のマッチョメンの一人の意見に他の者たちもうなずいた。そして、薄い上部を落ちない様に崩す作業が始まった。

 切り倒した木で叩いたり突いたりして崩していく。それだけで5メートル程は崩せたが、それ以上は崩せなくなった。

「後は、穴周辺を埋めりゃ良いんじゃねーですか」

 マッチョメンの意見に大半がうなずいたが、シルビアさんが反対した。

「土の厚みを見なさいよ、薄すぎるわよ。これじゃ破って出てくる可能性が有るわ。カエルって土に潜るでしょ。念のためもう少し崩さないと」

 言われて大半が納得した。一部めんどくせーな、って感じの人もいたが、用心にこした事はないから実行する事になる。

 結局、土魔術使いが上部に落とし穴作る要領で崩して行き、厚みが1.5メートルを越え岩盤地帯に変わった所で、瞬ともう一人のゴーレムマスターにロックゴーレムを作らせて穴に詰め込み、それを瞬のゴーレムビルドで熔解・結合でフタにした。

 その後、更に周囲の土砂や石を投げ込み、穴周囲を更に埋めた。さすがにこれで大丈夫だろうという所まで終わったのは、腕時計時間で午後4時ごろに成っていた。

 全てが完了すると、纏まったまま全員で移動し、係留して有った船に乗って野営地へと帰る。

 俺達が帰ると、野営地の人員が倍近くに増えていた。どうやら、王都内部にいた王国軍が打って出てこちらと合流した様だ。中で守っても結局意味が無い事にやっと気づいたらしい。おせーよ。

 そして、俺達の報告で一気に歓声が上がる。だが、蒼海騎士団団長ガゼールが、「喜ぶのは増加が無くなったのを確認してからだ」とそれをいさめた。

 その晩の夜警から追加のトードが川を渡る様子が見られなかったとの報告を受け、2回目のトード掃討作戦が実行される。

 基本は前回と同じで、分隊ごとに誘い出して包囲殲滅。一定以上数が減ったら王国軍も入れての一斉攻撃で、オークやリザードマンと混じり合う所まで攻め、ほぼ殲滅に成功した。

 俺達は南部方面を担当し、最終的にはリザードマンとやり合う事になった。リザードマンはやはり強く、正直剣だけでは俺は1対1が限界だった。

 そのため、それまでは軽傷程度しかいなかったのに、死者が複数出る事になった。ただ、その死者は全て王国軍と領主軍の者で、冒険者は軽傷者のみだ。

 この辺りは個々の強さも有るが、それ以上に戦闘に慣れていると言う事と、死なない為の方法を身体で知っており、それを実行しているからだと思う。

 死なずに経験を蓄積してきたものだけが、今も冒険者で居られるのだから。

 そして、翌日、東部外郭周辺に新規のトードが見られなかった事で、トードの『穴』封鎖及びドード殲滅が確認された。

 その発表と続いて、次のターゲットがオークに決まった事が発表された。

 リザードマンは強さの問題もあるが、『穴』の位置が湿地帯や中州周辺である可能性が高く、探索に時間と危険が伴う為、森にあると思われるオークの『穴』を先に塞ぐ事に成ったらしい。

 そして、次にスケルトン、最後に全兵力を使って一気にリザードマンに当たるのだという。

 やっと1/4が終わった。先はまだまだまだまだ見えない。取りあえず死なない様に気をつけよう。

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