24.明日はどっち?
徴兵されました。軍人です。強制徴用です。謝罪と賠償を70年後求めなければ成りません…
と、どこかで聞いた様なアホな話はこっちに置いておいて、実際冒険者の王国軍への編入が実施され、俺達も兵士(仮)となった。
ちなみに兵士(仮)の『(仮)』は正式なもので、公式文書上もそのように記載されている。あくまでも一時的なもので、兵士の権利は無いが兵士として働け、って事だとよ。
ただ、幾つか俺達にとって幸いだった事がある。それは、レオパードの領主軍に編入され、基本元のパーティー単位で組み込まれた為、バラバラにならずにすんだと言う所だ。
歩が特に心配していたので、それが分かった時は変なハイテンションになって踊り出し、瞬と二人でチョット引いたよ。
あと、俺達冒険者とレオパードの領主軍は前回・前々回のゴブリン戦で、共に戦った経緯がある為、全く知らない軍へ編入されるよりマシだと言える。多少なりと顔見知りも居るしね。
今回、王国軍への編入された冒険者はランク(W)以上のもので、320名程となり、期間は、『穴』騒動が収束するまで、と言うアバウトなもので、現状先は見えない。
そして、俺達にくだされた命令は『東部街道のトレント討伐と『穴』の発見及び閉鎖』と言うモノだった。
編制された部隊は、領主軍100名、冒険者150名で、蒼海騎士団の騎士レジアスが指揮をとる。騎士はレジアス以外に後3名いて、それ以外の領主軍は全て兵士となっている。つまり貴族4人と96人の兵士って事だ。
騎士レジアスは20代半ばの、細目でツリ目な男で、前回・前々回のゴブリン戦には出ていないらしく、今回の戦いで手柄を上げようと意気込んでいる。
瞬いわく、「たいてい、こー言う人って、無茶な作戦立てて部隊を壊滅に追い込んじゃったりするんですよねぇ」との事だが、俺も同意する。気を付けないとな。
残り3人の騎士は以前の戦いに出ており、うち一人の騎士サクシードは瞬に石垣補強を依頼した人物で、多少なりとも既知がある。
実際、俺達のパーティーが、今回の部隊に編入されたのは彼の指示によるものだそうだ。部隊編制直後の顔合わせで、「『穴』を塞ぐ時は頼むぞ」と言ってきた辺り、間違いないだろう。
そして、強制編入が告知されて4日後に、250名の部隊は街を出立した。
当座の目的地は東街道で一番近い『ティーダの町』となる。徒歩で約1日の距離で、夕方前には到着出来る予定だ。
部隊は前記の通り、領主軍100・冒険者150だが、騎士の4名は騎乗しており、食料関連を積んだ荷駄隊もいて、道幅がさして広くない事も有りかなり長蛇の列になっている。
「こー言う隊列って、横っ腹に突撃受けて分断されちゃって、各個撃破がパターンですよぉ。あと、切り通しのガケで落石とかテンプレですねぇ」
いつも通りの瞬に「そりゃー戦記モノだろう」、と突っ込んだりしつつ俺達は瞬の『ウッちゃんMkⅡ』が引く荷を積んだリヤカーに付いて歩く。
近くにはヴォルツさん達もいて、時折マジメな話もするが基本バカ話をしながらの行軍だ。
他の冒険者たちも同じで、それに影響されてか兵士達からも話し声が聞こえている。騎士レジアスは状況を苦々しく思っている様で、眉間にしわを寄せていた。そんな顔を知っていて、気にせずピーチクパーチク話すんだから、良い面の皮ではある。
そんな俺達の会話は、宿の事に移る。
「宿の経営者はたいへんですよね、当分」
「あぁーー、宿泊客激減ですからねぇー」
今回の王国軍への冒険者強制編入によって、冒険者は兵士(仮)となった。当然その間の衣・食・住ならぬ装備・食・住は王国が面倒を見る事になる。
さすがの『お貴族様』も、飯と宿は自前、などと言う事は無理だった様で、消耗品や武具と共に提供される事になった。
そして割を食ったのが宿屋だったわけだ。たいていの宿が冒険者の宿泊客で経営をまかなっている感がある。その冒険者が一気にゼロに成ったのだからさあ大変って事だ。
更に、この『穴』にまつわる未知の魔獣騒動で、各街間の移動が少なくなっており、旅行者・商人などの一般宿泊者も少なくなっていて、ダブルパンチ状態だったりする。
「この国じゃ、保証制度なんて無いだろうから、丸まる大損だろ。大丈夫かおばちゃん達は」
正直他の宿の事などどーでも良いのだが、お世話になっている『魔獣のいななき亭』の事は心配なんだよ。
「保証? 何のこと?」
この世界には保証制度的なモノがないらしく、その事についてシルビアさんから尋ねられた。で、乏しい知識でなんとか説明して、一応納得はしてくれた。
シルビアさんから「相変わらず、貴方達の国って変なのね」と、変な国認定を頂きましたよ。
「ま、とっとと終わらせて、帰りゃー良いんだよ。レオパードにいる間は宿は俺らが選べるんだからよ」
ヴォルツさんの言うとおり、街にいる間は冒険者は宿へ泊まり、その間の宿泊費は領主軍より支払われることになっている。
しかし、今回の様な遠征となると宿泊客は一気に減る。今回は半分近くが遠征に出ているので、その数だけ収入が無くなっていることになる。大変だよ。
「そーね、それに『魔獣のいななき亭』は人気があるから、私たちが居ない間は他の冒険者が泊まってるわよ」
「普段から満員ですから、大丈夫ですよね。うん」
歩もチョット安心できたようだ。でも、今後他の領地へ派遣される可能性も当然ある訳で、その際冒険者全てが街を離れる可能性もある。しかも長期…言わないでおこう。
そんな話をしている間に、目的地であるティーダへ着いた。この間のトラブルは10回程、普通の魔獣の襲撃があった程度で、ケガすら無くサクッと終わらせていた。
しかし、普段の6人程度のパーティーならともかく、250人近い大集団に向かってくるなんて、魔獣ってバカなのか? ライオンだってバッファローの群れにはよほどのことが無いと手は出さないのに…
まあ、ところ変われば品変わる、ところ変われば常識変わるって事なのか? ま、良いけどね。
で、たどり着いたティーダは小さな町で、当然250名もの数が泊まれる宿など無い。だからテントを設営しての野営となる。冒険者には女性も結構な数が居る為、女性用テントも建てられた。
ちなみに、騎士4名は町長宅にて宿泊。町長・村長宅は、お偉いさんが来た際の宿泊場所となる様に、離れなどを併設するのが義務だそうだ。
そして、夜が明け、このティーダを起点としたトレント討伐作戦が開始された。
騎士レジアスは、冒険者パーティーを15名程になる組み合わせで、10分隊作り、各分隊に監視・連絡要員も兼ねた兵士7名を付け、範囲を定めてのしらみつぶし索敵を実行させた。
本部は当初ティーダに設置し、周辺の索敵が終了するに従い、随時東に移動していく。本部は騎士4名と兵士26名が詰めることになり、兵士の半数は連絡要員となっている。
「連絡は密に、相手は擬態が上手いらしいから、木と言う木全てに石をぶつけて反応を見ろ。もし、前もって聞いてる情報と違う事が分かったら、直ちに連絡を回せ。数が多い時にも無理はしないで応援を要請しろ」
これは、騎士レジアスが言った言葉では無く、冒険者の一人、スペイドと言うランク(J)の30代後半山賊顔が言った事だ。顔はともかく高ランクだけのことはあって、冒険者からの信頼は高い。
「よっしゃあ、じゃあ、俺らはシュンのゴーレムを先行させて、周囲は投石しながら行くか。シュン、頼んだぜ」
ヴォルツさんのかけ声で、俺達も目的の探索場所へと移動を開始する。
俺達の分隊は、俺達とヴォルツさん達の5人と、『岩砕き』と言う男5人のパーティー、そして名無しの男3人女2人のパーティーと成ってい。
魔術師はシルビアさんを含め『岩砕き』に1人、名無しのパーティーの女2人で、風・土・火・風+水の属性魔術を使える。最後の風+火は二つの属性持ちで、それなりに珍しいらしい。
『岩砕き』は全員マッチョだ。土魔術師ですらマッチョで、ポールアックスを持ってたりする。名無しのパーティーは全体的に若く、比較的細身が多い。
今回の、索敵は、連絡を密に取ることを考えて、個々の範囲をあまり広く設定して居ない。その為午前中に2カ所の確認を終え、トレントの発見はどの分隊も無かった。
ただ、これは予定通りで、報告例からこの辺りに居る確率は少ないと見ていたが、確実を期する為と後方の安全を確保する理由で、かなり手前から探索している。
そして、本部を探索終了場所最東端の街道に移し、午後の探索が開始された。
俺達がソレを発見したのは、午後2つ目のエリアで、先行する『ウッちゃんMkⅡ』へ突然枝を使って攻撃して来たことで見破ることに成功した。
ソレは、ゲームのトレントとほぼ同じで、直径30センチ程の幹で高さは8メートル程の広葉樹だった。ただ、ゲームの様に目・鼻・口は存在せず、どちらが前かが分からない。
「先に周辺の木もも確認しろ。やるのはそれからだ」
斧や剣を構え走り出そうとする者を、ヴォルツさんが止める。確かに自分たちの周囲は確認済みだが、あのトレントの周囲は未確認だった。危ない危ない。俺の中のヴォルツさん株が上昇した。
そして、それは正解だった。動き出したトレントの左側にももう一体トレントがいて、石に反応して動き出した。
「いきなり二匹同時はきちーぞ、分断出来ねーのか」
『岩砕き』のマッチョリーダーがだみ声で言う。確かに初見の敵で、事前情報も確実では無い為安全を期したい所ではあるのだが、無理だな。
「だめですよぉ、アレって分断できるほど動いてくれないと思いますからぁ」
瞬の話と、実際のアレの動きを見てマッチョリーダーは舌打ちをした。
「予定通りの手順で、遠距離からの確認から始めましょう。初戦なんで、情報収集がメインです。無理はしない方向で行きましょう」
年齢的にもランク的にも下っ端ではあるが、言うべき所は言っておかないといけない。
そして、俺の言葉を契機に接近戦部隊が下がり、魔術師が前に出て魔術を一人ずつ放つ。
風の刃---幹に深さ10センチ程の傷。細めの枝は切断、太い枝は切断出来ず。
土の槍---幹に深さ6センチ程の穴。根はある程度の大きさまでは切断。
炎の矢---30秒程で全身に火が回る。2分程で活動停止。
水の槍---幹に僅かな傷。ほぼ効果無し。
以上がその結果だ。ちなみに炎の矢を使用したのは、周囲が比較的開けていた為で、その上で水魔術で延焼を防いだ。
こんな実験みたいな事が出来たのは、トレントの移動速度が三輪車レベルだった為で、後方に移動しつつこれだけの確認が出来た。
「よっしゃあ、次は剣や斧が通用するかだ、無理しねー範囲で行くぞ」
ヴォルツさんのかけ声で、もう一匹を接近戦組が囲む。彼らはさすがに専門職だけ有り、振り回される腕を簡単にかいくぐり、ムチの様に繰り出される根を剣で切り捨て、易々と幹に切り込んでいく。
「先に低い枝を全部切っちめーば楽なはずた」
そう言ってマッチョメンの一人が戦斧で下から跳ね上げる様に俺の手首大の枝を切り飛ばす。あとの者もそれに習い切っていく。
ある程度の高さの枝を切り取ると、上部の枝は冒険者達に届かなくなった。
「よし、次ぎは根を切れば倒れさせることが出来るんじゃないですか」
名無しパーティーのイケメン系が根を剣で切りながら言うと、「おおっ」とかけ声を上げたマッチョ+アルファによって根が切り刻まれ、マッチョリーダーの蹴りによってトレントは地面に倒れ伏した。
そして、幹を戦斧で切り裂こうとした所を俺が止めて待ってもらった。俺も確認をしたいことがあったからだ。
倒れたトレントを囲む冒険者達に謝罪しつつ、その幹に『凹符』を貼り付け、そして起動。
幹に直径20センチ深さ40センチの凹みが発生し、それまで陸に上がった魚の様にビタビタと暴れていたトレントがそれと共に動かなくなった。
「死んだのか? 一撃か? じゃあ、真っ先にその札貼り付ければそれで終わりか」
マッチョメンその一が驚き顔で行ってくる。
「貼れれば、ですね。貼れなきゃ意味ないんで、誰か接近戦得意な方が貼ってくれればいけると思います。ただ、『符』の数に限りが有るんで、多めに作ってきましたが50枚程なので…」
「おお、貼るだけで良いんなら任せろや、俺がやってやるよ」
「俺にも寄こせ、俺も貼ってやる」
「うまく行きゃー、50匹は楽に行けるって事か、こりゃー良いな。しかし、符術師ってのは使えりゃー便利だな」
「『符』を作るまでが大変なんですけどね(笑)」
この実験のおかげで、それまで微妙な立場だった俺は、他の冒険者達から認められた。まあ、ヴォルツさん達は最初から認めてくれてたんだけどさ。
そして、その後一気に遭遇率が上がり、そのエリアだけで11匹を駆除する事になった。
途中で、一度実験の為に、『凹符』ではなく『凸符』を使用した所、こちらも同様の効果があり、これによって使える『符』の数が30枚程増えることになった。
ついでに他の『冷凍符』『雷撃符』『炸裂符』も使用してみたが、『炸裂符』が多少効果があったぐらいで、他は炎以外の魔術と同程度のダメージしか無かった。
『符術師読本(中巻)』の『符』は使用していない。もったいなさ過ぎて使えないって。
本日の探索を終えて、町へ帰る際、歩が「私、今日は全く役に立ってませんでした…」と落ち込んでいたので、2人でフォローするのが大変だった。
そして、町に帰った騎士達は、各分隊の報告を纏め、それからトレントの分布状況を予測して明日の索敵範囲を決める様だ。
意外と言っては申し訳ないんだが、この騎士達頭は悪くないし、やることはやるんだよな…少し貴族に対するイメージが変わった。
その晩、俺は持ち込んでいた『符』作成道具で『凹符』を20枚程追加した。その作成風景を見ていた他の冒険者は、血を使う所に唖然としていた。ま、引くよな。
3日目からの索敵も同様の方法で行い、周囲に他の木が無い所は炎の魔法で仕留め、複数同時に居る場合だけ『符』を使用し、それ以外は総合戦力で当たった。
『符』の枚数に制限が無いなら別だが、数が限られているので効率的に行く事になり、この形が決められた。
ちなみに、随伴の兵士達は連絡要員で走り回る者以外は、ただ後ろから付いてくるだけだった。戦闘能力も俺と大差ないレベルなんでしょうが無い。
そして、トレントの数は確実に増加していた。範囲を移動する度に増えていく印象で、午後からは1つのエリアしか対処できないほど出現数が増えた。
2日目から4日目の探索はトレントの分布から、穴のおおよその方向を見つけることに費やされ、それは実を結んだ。卓上の図面の上での事ではあるが。
5日目の朝、『穴』のおおよその方向が分かったと言う報告と、他の未探索エリアは放置して先ず『穴』の方角へ全分隊で向かう事が告げられた。
それは、各分隊が一定距離開け、横一列で進むというローラー作戦のようなものだった。各連絡要員が左右に走り、全体の進行速度を調整しながら進んでいく。
俺達も他の分隊に合わせる為、『符』の使用は少なめにし、魔術と接近戦闘で対処していく。もう、油断さえしなければ十分に対処できるようになっている。
そのローラー作戦は3日間にも及び、町から距離が離れた関係で、途中の開けた所にテントを設営し直し、野営してのローラー作戦となった。
このローラー作戦に騎士達も随伴し、26人の兵士のみがテントに残り、炊事洗濯等の雑事を行った。洗濯だけでも250人分なので大仕事だ。
更に、町から新鮮な野菜等も運び込む必要も有り、かなりキツい様で冒険者随伴組と随時交代している。洗濯機なんて無くって手洗い手しぼりだからな…250人分。お疲れ様です。
そして、ローラー作戦4日目の昼、『穴』発見の報が飛び込んできた。
230人近くが集まるその場所に有ったのは、開けた場所にある15メートル程の崖の壁面に空いた直径8メートル程の真円の『穴』だった。
その周囲や穴の中には消し炭になったトレントが10匹程散らばっており、一気に火炎系魔術で仕留めたことが分かる。
「こりゃーデカいな」
レオパードの南に有る『穴』を見たことのある者から同様の声が上がる。しかし、当然と言えば当然なんだよ。
なんせ、8メートル近いトレントが通れる大きさでないといけない訳だからね。最低8メートルは覚悟してたよ俺達は。
そして、この穴を塞ぐ方法を検討し、実行に移していく。
今回の穴は大きく、前回の様に一枚の壁で仕切るのでは強度が無いと言うことで、2重構造にしてその下部には石を詰めて強度と安定性を出すことになった。
幸い周囲は森林地帯で、木はいくらでもある。そして労働力も十分だ。野営テントに運び込んでいた鋸などの道具を運び込み、騎士を除く全員で作業に当たる。
その日は下準備に終わり、本格的な作業は翌日から開始された。そして、ある程度作業の流れと必要人員が分かった段階で、余剰人員を周辺の残ったトレント討伐に向かわせた。
俺達は瞬が、壁作り最重要要員なので壁作り班となり、ヴォルツさん達とは別組となった。この壁作り班の大半は兵士達で、トレント殲滅班には3名の連絡要員だけを付けそれ以外は全て、この壁作り班へと回されている。
作業を行っている間にも、何度も穴の奥からトレントが現れるが、移動速度が著しく遅い為、待機している火属性魔術師の炎の矢の一撃でサクッと終わっている。
作業後半は、わざと窓を一部残してそこから確認しつつ魔術攻撃を加える様にした。作業中にドッカンドッカン内側から叩かれたら落ち着かないからね。
俺と歩の仕事は、木の伐採と枝を切る作業が主だった。筋肉痛だよ。朝起きると俺と歩は、サビたロボットに成ってたよ。
この作業は初日の半日を除いて、あと2日丸まる掛かった。チェーンソーや重機、クレーンとまでは言わなくてもユニックが有ればな~っと機械文明を懐かしんでしまった。
そして、この壁作り班が解散となり、当初の班へと別れてのトレント殲滅作戦へと俺達も参加する。
3日も経つと『符』の在庫も無くなり、魔術と武器攻撃だけで戦うことに成った。追加を作りたいのだが、材料が無いので作れない。役立たずへと戻っちまったよ。
歩はトレントの数が多い時に、俺の血を使ってブーストし活躍していた。俺は輸血パックですよ。ど~せ。
瞬は戦闘じたいは全く参加していないが、ゴーレムの先行偵察は効果が高く、そっちで活躍している。
そんな役立たずが3日ほど続き、掃討完了宣言が騎士レジアスから出された。レオパードを出て11日が経っていた。
部隊は翌日ティーダに一泊し、その次の日の夕方にレオパードへと帰還した。
「やっと着いたぞ」「長かったな、これでやっとまともな酒が飲める」「早くまともなベッドで寝てー」
冒険者達から様々な声が上がる。兵士達も声には出さないが似た様な気持ちらしく、顔がほころんでいる。
「『魔獣のいななき亭』空いてますかねぇ」
「空いて無い時は予約だけして、よそに行くか?」
「私は厩でも良いですけど…」
「うぅぅぅ、久々にベッドで寝たい気はするんですよねぇ。でも今更よそに泊まるのもぉ」
「あそこが落ち着くんですよね。あの宿に帰ると、帰ってきたって気になりますから」
「ま、空いてることを祈ってダッシュで行くか」
騎士レジアスから、明日今回の件の一時報償金の支払いがあるから、昼までに城に来る様にとの話と共に解散が宣言され、俺達は『魔獣のいななき亭』へとダッシュで向かった。
『ウッちゃんMkⅡ』+リヤカーに全員で乗り込んでの半爆走が功を奏し、無事に部屋を取ることが出来て、その晩はゆっくり眠ることが出来た。ヴォルツさん達は間に合わず他の宿へと行った。残念。
翌日、一時報償金の支払いを受け、ついでに2日ほど休みを貰えると言う話だったので、喜び勇んで城へと行くと昨日帰ってきたばかりの顔見知りの兵がフル装備で慌ただしく走り回っていた。
「なんか変じゃないですかぁ、これ」
明らかに何か問題が起きた様子だ。
「ひょっとして、草原の『穴』を塞いだ壁が壊れたとかじゃ無いですか」
ゴブリンではアレは壊せるとは思えないけど、別のトロールとかが出てくれば話は違ってくるかも知れない。
状況を聞こうにもあまりにも慌ただしくて、とてもではないが止めて聞ける様な感じでは無い。俺は空気は読める子だからね。
でも、空気を読めない人って居るわけだよ。
「おい、どー成ってんだよ。俺らはトレント討伐の一時報償金を…」
「じゃまだ!、じゃまをするな」
「なんだと!、俺らは呼ばれて…」
「うるさい!、こっちは王都が魔獣に囲まれてその応援の準備でそれどころじゃ無い!」
空気の読めない盗賊顔のおっさんのおかげで、現在の状況が分かった。ありがとさん、空気の読めないおっさん。
そして、たまたま通りかかった騎士サクシードから簡単にでは有るがこの事態の説明があった。
それは、昨日の昼過ぎに、王都北部の森林地帯からオークの集団が、西部草原地帯からスケルトンの集団が、南部湿地帯からはリザードマンの集団が、東部川側からは角髪ガエルや同種の既存の魔獣と全く違う未知のカエル系の魔獣が現れ、王都を完全に包囲したのだと言う。
その報告が入ったのは今日の朝で、伝書鳩の様な鳥便で送られて来たそうだ。状況報告と応援要請だ。ここの城の慌ただしさを見ると応援に行く様だ。
と成ると……
「お前達冒険者にも全員来てもらう」
ですよね…
「マジですかぁ、帰ってきたばっかりなのにぃ」
「………」
俺に至っては、消費した『符』の補充すら出来ていないのに…この2日の休みで補充するつもりが…なんてこった。
「これってぇ、明日はどっちだ、状態ですよぉ」
今ひとつ意味は分からないが、雰囲気は分かった。先が見えないよな。どー成るんだ俺達。




