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23.モンスター図鑑では有りません

 昨日の『穴』の大量発生報告から来る騒ぎの余韻が、今朝の食堂にもまだ残っていた。冒険者の多くがその話題をしており、商人の男達も旅の不安を仲間内で語り合っていた。

 俺達も夜遅くまで話し合って、今日は心持ち寝不足気味だったりする。

 話し合いの結果は、特にこれと言ったモノは無く、幾つかの心構えを持てた事だけで、最終的には『臨機応変』という事しか対処方法はないという結論だ。いつもの事だよ。

 何が起こっているのかは分からない。一応この街は対処できたが、あの『穴』が他に無いとは限らないし、今後現れないとも限らない。

 俺達が勇者のように、方々の街や村を助けに行脚するなんて無理だしする気もない。基本は国軍・領主軍が対処し、地元の冒険者が依頼の形で参戦する形式になるだろう。

 問題は、軍の駐留していない村だ。当然冒険者も多くないだろう。そこにあの規模のモンスター(魔獣ではないのであえてこの名で呼ぶ)が現れればひとたまりも無いだろう。

 多分既に幾つかの村は全滅しているかも知れない。昨日の報告にも『村が襲われている』と有ったし…

 今日は、昨日話し合った計画を元に行動する事になっている。まずは冒険者協会だ。

 今日の冒険者協会は、いつも以上に人が多かった。クエストを受けに来ているのではなく、情報を仕入れに来ている者も多く、商人もその情報を求めて訪れていた。

 協会内部に入ると、そこには普段無い『穴』関連情報専用窓口と書かれた窓口が、通常の買い取りカウンターの右端に出来ていて、そこに多くの人が並んでいた。

 俺は取りあえず、いつものようにソアラさんの窓口へと並ぶ。普段と違い通常窓口の3つに並ぶ者は少なく、直ぐに順番が回ってきた。

「おはようございます。昨日はご苦労様でした。依頼を受けられますか?」

 いつものように、いつもの表情で話すソアラさんを見ると、日常を思い出しチョット落ち着く気がする。

「えっと、取りあえず依頼ではなくって、前々回の『符』の代金の件の確認を、と思いまして」

「申し訳ありませんが、その件はもう少し時間が掛かるかと思います。ご存じの通り色々混乱しておりますので」

 まあ、そーだろうとは思っていたけど、確認はしたかったって程度だから良いんだよ。

「分かりました、所で、採取の依頼を出そうと思っているんですけど、現状受けてくれそうな人っていますかね」

 状況が状況なので、それを確認してからで無いと『依頼受け付け』へと行けないからね。

「採取と言いますと、紺葉蘭や白蕩木でしょうか?」

「です。特に紺葉蘭ですね。これが無いと『符』が作れないんで、いざって時困りますから」

 なんせ、今が一番その『いざって時』が発生する確率が高いからね…

「何分、この街の周囲ですら完全に情報が集まっていない状態ですので、今後の予測が付きませんが、今の状態でしたら受ける者はいると思います」

 確かに、南の草原に現れた『穴』は偶然俺達が目撃した事で、早期に知る事が出来たが、そうで無いものがあると考えるべきだろう。

 それが分かった時点で、状況はまったく変わってしまう。明日の予測すら無理だろうな。無いにこした事は無いんだけどな。

 取りあえず、ソアラさんに礼を言って、そのまま依頼受け付けカウンターで、紺葉蘭と白蕩木の採取依頼を出した。

 そして、その間に瞬が取ってきた『貝喰大鼠の肉入手』クエストを実行するべく、東門より出て北の『海』を目指す。

 『貝喰大鼠』は水辺に生息する、貝を主に捕食するげっ歯類、ぶっちゃけカピバラのデッカいヤツだ。全長1メートル近くある。魔獣ではなくただの動物。

 俺達は当座のお金には困っては居ないが、かと言って余裕がある訳でも無い。俺に至っては今回依頼を出した事でかなり寂しい事になっている。

 だから、仕事をして稼ぐ。そして何かあったら、出来る範囲で行動する。それが昨日の夜決めた事だった。

 そして、その日は北の『海』の湖岸と街を『ウッちゃんMkⅡ』にリヤカーを引かせ、狩った貝喰大鼠を3匹ずつ積んで、街まで3往復した。

 空荷の時は3人で乗り込み、街中はそれなりに、街道は早めに、荒れ地は爆走で進んで、途中で襲ってくる角ウサギや葛蛇はひき殺して無視した。

 このクエストは、一匹まるまるだと50から70ダリになる。今回は9匹で540ダリとなり、一人180ダリの収入となった。

 前日の戦闘が300ダリなので、アレよりは少ないが、かなり良い金額だと思う。何より需要はまだまだ有るので、当分これで稼げる。

 そして、精算を終えて帰ろうとしていると、ソアラさんから待ったが掛かった。

「申し訳ありませんが、少しお時間をいただけませんか? うちの上司が話があると言っているのですが」

 俺は『符』の件だろうと思い、了解したのだが、「3人とも」と言われ、疑問に思いつつ2人を呼びに行き、何度か入ったお偉いさんルームへと行った。

 お偉いさんルームには、3人のお偉いさんがおり、案内したソアラさんも残るようだ。お偉いさんズは、支部長・副支部長・情報担当責任者だ。前回と同じメンツだな。

「忙しいところ来てもらってすまんな。じつは、よそからの報告の件で君らに確認したい事があって呼んだんだ」

 小太りのお偉いさん、支部長がそんな風に話を切り出す。よそからの報告? 『符』の件は関係ないようだ。

「この街の南部に現れた、アノ『ゴブリン』の様に各地で初めて見る魔獣…とここでは仮にそう呼ぼう、魔獣が現れているんだが、それに付いて君らに知識が無いかを確認したくてね」

 …どーやら、各地に現れているのはゴブリンではないようだな。言い方からするとバラバラなのか?

「あの、意図は分かりましたけど、それに意味があるんですか? 仮に容姿から俺達の知っている物語のモンスター…魔獣みたいなものですね、に似ていたからと言って、その情報がその魔獣と全て一致するとは思えませんが」

 実際、ゴブリンが装備していた武具は、人間から盗んだモノには思えなかった。ここら辺は日本の設定と違う。

「いや、分かっているよ。あくまでも参考にだ。何分情報がなさ過ぎでね、我々も困っているんだよ」

 冒険者標章による文書データーの受け渡しや、街を移動する冒険者による伝達ではやはり限界があるのだろう。即時通信の魔術具なんてのが有れば良いんだろうが、残念ながら無いらしい。

「そー言う事でしたら、俺達の分かる範囲で答えます」

 俺の了解とともに、ソアラさんが未確認クリチャーの容姿を読み上げる。

 ① 犬のような頭部を持ち、二足歩行する。身長は140~160センチ程で全身は短毛に覆われている。剣や槍、楯を持つ者も見受けられる。

「あっ、それ、多分コボルドですよぉ。強さはゴブリンと大差ないかチョット強いかな位で、基本集団で群れて襲ってきます。ねぇ」

 瞬が俺にも同意を求めてきたので、うなずいて返す。確かにゲームモンスターに当てはめれば『コボルド』になるだろう。

 ソアラさんは、瞬が言った事を用紙に書き込んでいく。他のお偉いさんから、食性・会話が可能か・凶暴性などに付いて質問があったが、これには答えられなかった。

 ② 人の骨と思われるモノが、立った状態で動き回る。剣や盾を持ち、身長は140~180程。

「スケルトンですよねぇ。いくら切っても駄目で、物理攻撃ならハンマーとかで砕かないと駄目ですねぇ。あと魔術は効果があって、アンデッドだから聖属性と火属性が特効ですよぉ」

 そんな調子で次々と瞬が答えていく。大半が俺にも分かるモノだったが、瞬程の細かな知識は無かったので、相づちに終始した。

 そして上げられたのが、オーク、オーガ、リザードマン、トロールだった。全てが二足歩行なのは偶然だろうか?

 お偉いさんズを特に驚かせたのは、オークが雄しかおらず、他の生物の雌を使って繁殖すると言う話だった。おずおずと「その雌には人間も含むのか」との支部長の言葉に、瞬は満面の笑みで「もちろんですぅ」と答えやがった。

 まったく… ソアラさんもどん引きだったし、俺と歩もその話は知らなかったので、話し自体と、それを笑顔で答える瞬にどん引きしてたよ。

 あと、トロールの自己再生力の話も、何度も確認する程驚いていた。それに今回名前が出た中で最も強いと言う点でも気にしているようだった。

 最も強いって言うかね格段に強い気がするが…まあ、ゲームによってその辺りは違うからな…

 呆然としている、お偉いさんズに念のために「あくまでも、俺達の世界の物語とまるっきり同じなら、ですよ」「同じとは限りませんから」と言ってはいたが、反応は微妙だった。

「…容姿が君らの世界の魔獣にそっくりなようだが、今回の件に君らの世界の者が関わっているんじゃ無いのか、君たちも何か知ってるんじゃ無いのかね」

 しばらく沈黙の後、お偉いさんズの副支部長がそんな事を言い出す。

「えっとですね、あなた話を聞いてましたか? 私たちの世界にそんな魔獣は居ませんよ。お話の中に登場しているだけです。想像の産物です。

 想像の産物をどーやって実体化させられると? この世界のように魔術すら無い世界でですよ。そんな事が出来るぐらいなら、俺達はとっくに元の世界に帰ってますよ」

 俺は早口で一気にまくし立てた。ついでに、最後「ところで、木塀南門戦時の『符』の経費支払いの件どーなってます。俺は貧乏なんで早くしてもらわないと困るんですよね」と付け足しておいた。

「い、いや、別に君らが関わったと言っているわけではない。勘違いせんでくれ、おい、アクシオ君」

 慌てて支部長が割って入る。言った副支部長はキョトンとした顔で、何言ってるの?って感じだった。自分が言った言葉の意味を理解していなかったようだ。

「で、『符』の支払いの件は?」

「その件はチョット待ってくれ、検討して…」

「ほーぉ、自分たちは俺達ら情報をただで提供させるだけさせて、あげく犯人の仲間扱いしておいて、経費の支払いは先送りですか、はぁ」

 そーですか、そーですかと言って支部長の目をじっと見る。じーーーーーーーーっ。

「別に君らが犯人の仲間などとは言ってはおらんよ。ただ現れた未知の魔獣を君らが全て知っているという状況に疑問をもってだな…」

「だまりたまえアクシオ君!、もうし…」

「行くぞ、みんな」

 支部長の話を遮って、俺は二人を促して部屋を出る。支部長と、情報担当責任者が声を掛けたが無視する。

 そして、部屋を出る寸前に瞬が振り返って、

「僕たちは、貴方達の為の便利なモンスター図鑑じゃ無いんですからねぇ」

 とだけ言ってホールへと出た。

「何なんですかぁ、何なんですかあの副支部長って人はぁ!、人に協力させといて犯人扱いってぇ、頭おかしいですよぉ」

 瞬もかなりのお怒りモードのようだ。歩も一言も喋らないが、その表情は不自然に感情が消えていて、能面の様になっていた。彼女は怒りがある時点まで来ると表情が消えるタイプの様だ。気をつけよう。

「取りあえず、宿に帰って飯食って頭冷やそう」

 そして、とっとと協会を出て『魔獣のいななき亭』へと帰った。その帰り道、ずっと瞬は文句を言い続けていた。

 そして、瞬のお怒りモードが解除されたのは、飯を食ってお湯で身体を拭き終わった辺りだった。風呂があればもう少し早かったかも知れない。

 俺は、ベッドに入ってからも色々考えた。怒り自体は宿へ向かう途中である程度冷めていたが、今後の対応などは考えなきゃ行けない。

 結局かなり遅い時間まで起きていた。起きていたと言うか、寝られなかったという方が正しいかな。


 翌朝、俺と歩は寝不足気味の顔をしていたが、瞬はしっかり寝てすっきりした顔をしていた。気持ちの切り替えが早いヤツが羨ましいよ、まったく。

 そして、昨日に続き同じ『貝喰大鼠の肉入手』クエストを受ける事にする。貝喰大鼠の数が減って狩りの効率が悪くなるまでは続けるつもりでいる。

 その日のソアラさんは、何度となく何か言いたげな顔をしながら手続きをしてくれた。

 で、やった事は昨日と同じ、ただ今日は、歩が鬱憤(うっぷん)を晴らすかのごとく吸血ブーストで暴れまくった。完全なオーバーキルだったよ。

 狩りの基本は、目標を発見したら、ミニミニサンドゴーレムを作り、その身体に『炸裂符』を貼り付け遠回りに貝喰大鼠の後ろに回り込ませて、爆発に驚いてこっちに逃げてくるヤツらをサクッと狩る。

 魔獣と違い、基本襲ってくる事は無いが、直ぐに水中へ逃げてしまうので、こっちに追い出す必要がある。

 一般の冒険者は弓を使用するらしいが、外皮が意外に硬く弓があまり通りにくく、致命傷にならないらしい。だから俺達は剣を使う方法を選んだわけだ。その為の追い込み猟だ。

 そんな中、比較的湖岸から離れた位置に群れがいた場合、歩が吸血ブーストで突っ込んだ訳よ。

 どうせ一度に3匹しか運べないんだから、3匹だけ仕留めるのだが、本当は手当たり次第にヤリたいみたいだ。無駄だし数を無駄に減らすからやらせないけどね。

 貝喰大鼠には申し訳ないが、そんな大暴れのおかげで夕方頃には、歩もスッキリした顔をしていた。結構尾を引くタイプみたい。

 そして、本日も9匹を納め、520ダリを手に入れた。二日で三人合わせてでは有るが1000ダリとはムチャクチャ良い稼ぎだ。

 これはゴーレム+リヤカーと言う輸送力のおかげで、通常1匹を持ち帰るのが精一杯のところを、一度に3匹、更に街と3往復を可能としている。つまり9倍の収入を得られている事になる。

 『ウッちゃんMkⅡ』を大型化した際、リヤカーも大型化して積載量が増えた事がここに来て生きている。他のゴーレムマスターが、真似しない理由が分からない。不思議だ。

 そして、精算手続きを終えた際、俺の依頼物が納品された事を告げられた。紺葉蘭と白蕩木両方とも納品された様だ。魔石は買って有るので、これでやっと中巻分の『符』が作れる。

 受け取り窓口に行こうとすると、ソアラさんからまた止められる。指名依頼が入っているらしい。相手は『蒼海騎士団』この領地の騎士団だ。

 つまり、あの『穴』を塞いでいた際に言っていた件だろう。確認するとその通りで、岩での補強を依頼してきていた。

 依頼料は、1日辺り一人100ダリで、2日間との事だった。実際働くのは瞬で、俺と歩は護衛という形になる。この間までは受けるつもりだったんだよ。この間まではね。

「あ、その依頼は受けません。基本的に当分、『穴』とそこから出てくる魔獣擬きに関する依頼などは何もしない予定です」

 これは、昨日のうちに3人で決めた事だ。

「そうですか、ですが、依頼者は騎士団です。何らかの不利益を受ける可能性があるかも知れませんよ」

 まー、あっちは、お貴族様だからなー、あり得る話だ。

「大丈夫ですよ。冒険者協会が、俺達がこの依頼を受けない理由・その経緯をキチンと説明してくれれば、絶対にそうはなりませんから。もしそうなったとしたら、それは冒険者協会が正確に説明しなかったと言う事ですから」

 そう言って、俺はニッコリ微笑む。

 彼女はそれに対して答える事は無かった。

 多少嫌みが入っているが、本人(副支部長)及び上司(支部長)の謝罪は無く、更に『符』の件も処理どころか話題にすら出されない状態じゃね。

 正直少しソアラさんにガッカリしているところだよ。昨日の件はソアラさんにはまったく関係ない事だけど、今日『符』の件を一切出さないのは彼女の問題だからね。

 まあ、組織として色々有るんだろうとは思う。それにこの世界で、俺達の考える正義や正しさが通用しない事も分かっている。それを理解しなかったヤツらの末路(処刑)も知っている。

 だから、この冒険者協会から何らかの不利益を受ける様であれば、とっととここを出ていく気でいる。そうならないのが一番良いんだけどさ。

 今後ど~なることやら。それなりの覚悟と準備はするよ。

 そんなこんなで、この日も終わった。


 そして、翌日、前日同様『貝喰大鼠の肉入手』の依頼を受けるつもりで協会内に入ると、総合受付にいた初めて見る年配の女性に呼び止められ、お偉いさん部屋へ連れて行かれた。

 居たのは、支部長と副支部長だけで、情報担当責任者は居なかった。で、一応謝罪を受けた。なんで一応なのかと言うと、副支部長が明らかに納得していないのが分かるからだ。

 だが、支部長は本気で20歳以上年下の俺達に謝ってくれたので、ここで終わりにしておく。あと、『符』の方の経費も支払われた。まあ、金額的には微妙なんだけどね。しょうが無い。

 ただね、騎士団からの指名依頼を受けてくれる様に頼まれたんだよね、結局謝罪したのはこの件が影響したんじゃ無いかって勘ぐってしまうよ。

 そちらの依頼は明日から2日間受ける事にして連絡を頼み、本日はそのまま貝喰大鼠狩りに行く。

 狩りは問題なく行われ、途中で鬼面ガニが現れて、鋏と足を入手出来たので、2回目の納品時に『魔獣のいななき亭』に寄っておばちゃんに渡し、今晩の料理に使ってもらう事にした。

 色々物を置かせてもらっている礼として渡した。お世話になりまくってるからね。礼には礼を、無礼には無礼をもって返すのさ。

 結局この日も9匹で、560ダリの収益になった。良い感じだ。でも目的の土地入手まではまだまだ遠い。

 この日の晩も『符術師読本(中巻)』の『符』を作って過ごした。

 晩飯は鬼面ガニを使った料理が一品追加され、他の泊まり客から感謝される事になった。カニクリームスープ絶品でした。

 しかも俺達はお代わり有りだったんで、食い過ぎて腹がぱんぱんだった。


 翌日から2日間、俺達は『穴』の有ったところへ行き、石壁作りを行った。

 やり方は、瞬が周辺の岩を使ってゴーレムを作り、3体纏めてリヤカーに積み、それを『穴』の前まで運び、それを操作し石垣を登らせて一番上に上げる。そしてそれを再ビルドして石垣にする。

 これをMPの有る限りやり、回復を待つ間、3人で石を集め人力でリヤカーを引いて石垣前に持って行く。この作業を延々やった。

 ここの監視で残っている10名の兵士達も手伝ってくれて、2日間で完全に上まで石を積み上げる事に成功した。

 その上で、部分部分を接着させ、全体の強度も上げてある。

 当初の予定では俺と歩は瞬の護衛役だったが、兵士達が居たおかげで実質護衛の必要が無く、石運びを人力でやる事になり、かなりしんどかった。久々の筋肉痛になったよ。

 そして、依頼の完了報告で冒険者協会を訪れた際、またお偉いさんルームへ呼び出される。今回は情報担当責任者もいる。

「先ずは、先だって君達から聞いた未知の魔獣の情報と、実際に対した者との情報がほぼ一致した。無論現時点で全ての魔獣の比較ができてる訳では無いがね」

 第一声は情報担当責任者で、どーやらコボルト、スケルトン、トロールの3種類の追加情報がここの協会へ回ってきた様だ。

「知っては居るかと思うが、コースターの村が全滅、ダイナの町が半壊して、王都周辺でもかなりの被害が出ている。中でもコースターを壊滅させたトロールが強く、王国軍も手を焼いている」

「そして、あの後、更に数種類の未知の魔獣の出現が報告された。その一つはこの街の東方の街道沿いだ」

 東方街道は、山間を縫って東の山脈手前まで続く街道で、その先には3つの町と村があり、レオパードと同じ領地として管理されている。

「つまり、その魔獣の情報をよこせと?」

「あ、ああ、そうして貰えるとありがたい」

「教えなきゃ駄目ですか?」

「おい! お前は状況が分かっているのか! だいたい何のために必要の無い謝罪を私がしたと思う! とっとと知っている事を言え!」

 ……

「アクシオ君……」

 支部長が眉をしかめて副支部長をみる。情報担当責任者も似た様な表情だ。

「ま、良いでしょう、副支部長の本音も聞けましたし。俺達は貴方達と違って、個々と集団を一緒に見て一纏めに扱うようなことはしませんから。じゃあ、瞬頼むよ」

 支部長には後半の嫌みが理解できたようで、情けなさそうな顔をしていた。

 副支部長はまだ何か喚いていたけど、全員で無視。情報担当責任者がデータを読み上げ、瞬がそれに合うモンスター名とその概要を答えていく。

 今回出て来たのは、ウィスプ、ゾンビー、トレント(エント)と推測した。

 ウィスプの時、ウィル・オ・ウィスプと違うのかと俺が瞬に聞くと、ウィル・オ・ウィスプは人間霊でただのウィスプは動物霊と分けられているらしい。で今回は動物霊なのでウィスプだと。

 あと、トレントに関しては情報が少ないので、上位存在であるエントとの区別が付かないそーだ。エント? 俺的には微妙ーに記憶に無い。トレントは知ってるけど。

 そして、東方街道に現れた未知の魔獣はトレントで、現在付近の町や村が襲われていないのは、その移動速度が著しく遅い事が理由だろうと瞬は言った。

「アレってぇ、動けるけど基本は待ち伏せ型ですからねぇ。一応動けるって感じですよぉ」

「街道沿いの町や、街道を移動する商人達に、不自然な所にある木には近寄らない様指示を出さねばなりませんな」

「うむ、火が効くとは言え、森の中で炎系魔術を使うわけにもいかん、やっかいだな」

 支部長達も、自分たちの担当エリアのトレントの件が一番気に掛かっている様だ。ゲームだと森の中だろうが広域火炎系呪文使いまくり何だが、現実は山火事一直線だから使えないんだよ。

 そー言えば、ゲームによっては地下ダンジョンで、メテオが普通に使えたりもするよな…まあ、ゲームはゲームって事だろうけどさ。

 そんな感じで、極一部を無視したまま一通りの確認作業が終わったところで、支部長が表情を少し曇らせてから話し出した。

「今日か明日公示されるかも知れんのだが、冒険者が一時的に王国軍に編入されるやも知れん。この『穴』と未知の魔獣の問題を戦争と同じレベルの国難と判断した様だ。

 だから、冒険者を戦力として徴兵する事に決まった様なのだ。一応、傭兵の形で対応出来ないか話しては居たのだが… それを拒否する権利も力も無い。すまんがな」

 歩は息を呑み、瞬は「マジですかぁー」と驚きの声を上げている。俺も驚きはしたが、可能性は考えていた。

 現在のこの街は『穴』を塞ぐ事に成功し安定しているが、他のところから聞こえてくる状況はかなり酷いモノだった。

 そして、王国軍だけで対処し切れていない事も漏れ聞こえていた。そんな中、魔石を持たない(金にならない)魔獣の討伐に冒険者は積極的になっていない。

 無論、レオパードの様に、自分たちの街が危ないなら王国軍以上に積極的に討伐するが、そうで無い遠方の場合は全く手を出そうとしない。

 冒険者はあくまでも営利で動く、金にならなければ生活出来ないわけで、そんな事をするはずが無いんだよ。

 じゃあ、王国が金を払って冒険者を傭兵の様に雇えば良いと思うのだが、徴兵の方が数を集められ、出費も抑えられるって事らしい。

 実際、魔獣が大量に居るこの世界では、国と国の戦争は滅多に起こらず、王国軍は事実上の治安維持と、貴族の役職の為にあると言っても過言では無く、結果大した数が居ない。

 そして、魔獣を相手にする冒険者は、その魔獣の数の多さゆえ、その数も多く、王国軍の総数の何倍もいるらしい。

 だから、高貴な貴族である我々が戦っているのに、虫の様に数が居る平民風情が何もしないなど言語道断、あいつらを戦わせろ、って事らしい。

 一応給金は出るらしい。全て終わった段階で一定金額。ハッキリは分からないが大した金額には成らないだろうと、支部長は言ってた。

 そんな、欲しくなかったサプライズをもらい、全員ダウンな気持ちで協会を後にした。

「どーしますぅ」

「どーって言っても、どうにも成らないんじゃ無いですか…」

「逃げ出したら、多分生活は出来なくなるだろうな。この世界で街に入らずに生活はかなり厳しいだろうし」

「無理ですよぉ、隠れ住む場所辺りにも絶対冒険者が来ますよぉ。で簡単に見つかっちゃう」

「死ぬのが確実なら、それでもいいと思いますが、そうで無いなら…従うしか無いと思います」

「うぅぅぅ、ですよねぇ、戦うのは良いんですけどぉ、3人がバラバラになるのはやですよぉ」

「軍隊に編入されるとしたらその可能性が高いんじゃないか」

「ですよねぇぇぇ、どうしよぅ」

「一人はもう嫌です…」

 俺達の不安をよそに、翌日の朝にはレオパードの街でも、冒険者の軍への強制編入が公示された。

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