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22.ガンちゃん大地に立つ

 あのゴブリン戦から一夜が明けた。

 昨日はあの後、冒険者協会で、すったもんだか有りました、なんて古い流行語大賞な状況になった。

 要は、経費についての申請問題だ。

 緊急依頼の依頼料は初期の段階で決まっており、金額的には少ないものの自分たちの街を守るため、と大概の者が納得して引き受けたのだが、使用した回復薬などの経費は別だった。

 戦いの前に、冒険者協会側から買い集めた回復薬や魔力回復薬の配布は有ったものの、あの混戦の中それで足りず手持ちの分を使った者がかなりいたようだ。

 特に魔術師が魔法回復薬を使用したケースが多く、市販価格400ダリと高価な関係も有りその分を経費として協会側に求めた結果、協会側とあーだこーだと言い合う事になったわけだ。

 他人事のようだが、俺もその一人で、ある意味他の者たちより難しい問題だったりする。それは『符』だ。

 『符』は販売されていない。だから価格がない。そして、俺はそれを今回大量に消費した。これって経費で落ちるの?って事だ。

 結果はソアラさんに一応言っておいて、現在検討してもらっているところだ。ど~なることやら。

 実際、協会側も、今回の経費は最終的に城の領主様へ請求する事になるらしく、そこら辺色々大変らしい。なんせあの『貴族』だからね。

 現在も、協会のお偉いさん達と、城の貴族達との間でお金の件以外にも、『穴』にまつわる諸々の事を話し合っているらしい。

 なんせ、ゴブリンを退治して終わり、めでたしめでたしって訳じゃないからね。今後さらなる数が来るかも知れないし、もっと強いヤツが来るかも知れない。

 当然警戒・偵察が必要となるわけで、それは護国の責任を持つ国軍・領主軍が担う必要がある訳だ。本来はね。

 でもま、下っ端兵士はともかく、騎士は基本『貴族』だから、その『お貴族様』が魔獣のようなモノと戦う事を良しとするわけがない。

 って事で、魔獣の相手はお前らだろー、ってな事を言っているらしく、んじゃ金出してくださいよ、といった感じの話をしているとかいないとか…

 余談だが、ここレオパードの領主は元王族だそうだ。現国王の弟で、領主を拝命するために王位継承権を捨てたらしい。何でも、王族が領主になるには王位継承権を捨てる必要があるとか。まあ、叛逆防止だろうね。

 で、この領主さま、評判は『普通』だそうだ。我々バンピーから見て『普通』のお貴族様って事だね。色んな意味で。

 ま、取りあえず昨日の件はそんな所だ。

 いつもの日課の後、食堂に行くと3日ぶりに娘ちゃんがいた。どうやら病気は治ったようだ。娘ちゃんは俺達に気付くと、飛んできて礼を言った。うむ、良い子だ。

 俺達はそれぞれ軽く、無理すんなよ、などと言っておく。ホント気にする事じゃないしね。クエストとして依頼料ももらったし、おかずも2品追加してもらったから収支はプラス。

 その上、娘ちゃんの笑顔が見られるとなれば言う事は無い。

 通常なら、この後冒険者協会に行ってクエストを受けるはずなのだが、瞬から待ったが掛かった。

「えっと、申し訳ないんですがぁ、今日一日時間を貰えませんか。チョットやりたい事があってぇ」

 まあ、金銭的には切羽詰まった状況ではないし、昨日の事で気持ちの整理の意味もあるし、良いかもな。俺もやる事有るから。って事で了解し、本日はお休みとなった。

 歩に今日の事を尋ねると、昨日回収してきた矢の整備をするとの事だった。矢は一度撃つとどこかしら傷んでしまう。だから随時整備か必要になる。

 ましてや、昨日は戦争状態だったので、矢で倒れた敵の上を、他の敵が乗り越えたりして刺さった矢が傷むケースが多かった。

 ただ、自分で持ち込んだ倍近い矢を回収出来たので、彼女的には満足らしい。彼女も貧乏性が身についているからね…チョット悲しい。

 そんな感じで、今日はバラバラで過ごす事になる。そして俺は昨日宿に帰ってきてから行っていた、『符』の補充を続ける事にする。

 ただ、『符術師読本(中巻)』の『符』は材料がなく作製出来ない。『符術師読本(上巻)』のモノを作る事にする。

 そして、判子押しを続けながら、昨日の件を考える。

 色々おかしな点が多すぎた。戦場でも幾つか気付いたが、帰ってきて冷静になれば更におかしな点に気付く。

 先ず、ヤツらの行動原理が分からない。何のために襲って来たのかが不明。俺達を見て襲いかかってきた事から、間違いなく標的として俺達を見ていたのは分かるがその理由が分からない。

 そしてヤツらは何なのか、が分からない。戦闘終了後何人もの冒険者がゴブリンを切り刻み魔石を探したが、全く発見出来なかった。つまり、魔獣ではない事になる。

 瞬いわく、ヤツらがこの世界の地底より来たのであれば『亜人』なのではないかとの事。小説上では人間に近い生き物を『亜人』のカテゴリーで呼ぶモノが多いとか。エルフやドワーフもそのカテゴリーらしい。

 そー言われれば、ゲームで差別される種族とかって言う設定でそんなのがあった気もするな。

 異世界から来たとするならば、魔石の無い世界から来た存在となるのだろう。

 少し話がずれた、戻そう。で、ゴブリンをバラしていた盗賊顔の冒険者が、胃の内蔵物を確認してヤツらが雑食で有り、木の実や野菜も食べている事が分かった。つまり、食べるために我々を襲った可能性は低いという事だ。

 更に、あの行軍スピードの遅さが分からない。冒険者協会にいた俺達に連絡が入った時点で、街の5キロほどにいた事が分かっている。

 それから俺達が準備して木塀南門へと着いたのは1時間半は経っていた。そして、この時点でヤツらの位置は3キロ地点だった。1時間半で2キロも移動していない。

 更に、俺達が足場を作製し、準備を行い実際にヤツらが向かってくるまでには更に1時間半は掛かっていた。この間の移動距離が2.5キロほど…

 これが荷馬を連れた軍隊ならは地形によればおかしな話ではない。しかし、ヤツらは全て歩きだった。更に、5キロ地点辺りから、冒険者の移動に伴って出来た道が街に向かって通っていた。そしてヤツらはその道を進んでいた事も分かったいる。

 身長150センチ程で、決して足は速くはなかったが、かと言って遅かったわけではない。なのに何故あの速度だったのか。

 そして、ヤツらの頭の悪さも疑問だ。ヤツらはしゃにむに塀へ向かってきて、それをよじ登ろうとした。3メートルの低い塀だが、150センチのヤツらには簡単には上れないのが分かるはずなのにだ。

 実際塀の上まで上がって来れた数は10数匹にすぎなかった様で、仲間を土台に上ろうとする者もいたが、協力するわけではなく、勝手に前のヤツの背中を上って、と言うようなモノだった。

 乱戦においても、全く連携など無く、隊列もへったくれも無かった。

 戦場では単純に『バカだから』で思考を止めてしまっていたが、それだとおかしな点がある。

 それは、ヤツらの装備だ。ヤツらの装備は麻っぽい服の上下に、棍棒・青銅の長剣・弓矢で、鎧や帽子は身につけていなかった。

 基本的に作りは雑なモノではあったが、サイズは身体に合わせてあり、明らかに自分たちで作ったで有ろうと思わせるモノだった。

 いつもの瞬の小説知識上では、ヤツらは人間の装備を奪って身につけている事に成っているらしいが、ヤツらは違う。奪ったモノならサイズが合っていないモノが多いはずだが、それが無い。

 つまり、ヤツらは麻の服や青銅の剣を作れるだけの文明レベルに有るか、そのレベルにある種族を奴隷の形であるかはともかく管理できる出来る知能を有している事になる。

 そう、そのはずなのに前記の通り『バカすぎる』んだよ。おかしい。あまりにおかしすぎる。

 であるとすれば、ヤツらを管理し、服や武器を身につけさせた存在がいる可能性がある事になる。その指示によって今回の行軍が成されたと…

 その割にお粗末(おバカ)過ぎる行軍なのは変わらない。

 ……

 相変わらず答えは出ない。ただ、こんな事を考えると、昨日の、知能のある人型生物を殺した事にまつわる考えを反らせるので悪くは無い。

 そんな益があるような無いような思考を続けて、午前中で目的の量を作製し終えた。

 そして、昼食を宿の食堂で取っている時にヤツ(シュン)が現れた。満面のにまにま顔で。そしてヤツ(シュン)は俺達を厩前に連れ出す。

 厩前でヤツ(シュン)が両足を開いて、両手を腰に当て胸をはるいつものポーズを構えた。

「ふーん、ロックゴーレムが生成出来たみたいだな」

 俺の機先を制する言葉を聞いたシュンの顔から、にまにまが消え、唖然とした顔に変わる。

「なぁぁぁ、なんで先に言うんですかぁぁぁぁ、大事な所ですよぉぉ、決め場なんですよぉ」

「いや、だってウザいし、なあ」

 歩に同意を求めると、歩もなんとなく状況を理解したようで苦笑いながらうなずく。

「ウザくないですよぉぉ、形式美ってモノがあるじゃないですかぁ、はじめさんには情けってモノがないんですかぁぁ」

「ない」

 端的に答えてやると「がぁぁぁん」とか口で言って心臓を手で押さえて固まっている。どこまで行っても表現が漫画だ。

「で、取りあえずロックゴーレムの…ロッチゃん?を見せてくれよ」

 めんどくさいのでさっさと済ませよう。

「ふぅっふふふふっ、甘い、甘甘ですよぉ、はじめさん。ロッチゃん?何ですか、そんな名前じゃ有りません」

 一転にまにま顔に戻り、なんぞ言い始めたよおい。

「ムーラーダーラよりスワーディシュターナをへて、ついにマニプーラへ至った我は第3の力に目覚めた。その偉大なる力によって我が前に顕現せよ、ロックゴーレム:ガンちゃん、おいでませ~」

 岩のガンね… でシュンのご託と共に明らかに真新しく変色していた地面の石が、変形して全長40センチ程のゴーレムとなった。

 そのゴーレムは『ウッちゃんMkⅡ』と違い関節部は初期の変形させる形のままになっている。作りたてだからしょうがない。

「大きさはアレですけど、ロックゴーレムっていかにもゴーレムって感じですよね。ゴーレムっていわれて思い浮かべる代表でしょう?」

 確かにそうだな。歩のいうとおり、俺のイメージのゴーレムもこれか。そーいえばストーンゴーレムってのも居たけど、違いは何だ?石と岩?

 シュンはどや顔で、さあぁ褒め称えるが良い、みたいな感じだか当然無視する。

「で特性は? ウッドやサンドと比べてどんなもん?」

「えっとですね、先ず強度はかなり高いですよぉ。ただ、重量が有るので動かす時のMP消費が多めですね。でも、その分攻撃の威力は高いはずです」

 ボールジョイント化すればウッドよりは遅いが、サンドよりは早く、MP消費はサンドと同じくらいって事みたいだ。そして、強度と打撃力はトップ。

 ただ、初期なので大きさは他のゴーレム同様130センチ程度なのだろう。しばらくは実戦投入は無理だが、ある程度成長すれば心強い戦力になりそうだ。

「これで後はアイアンゴーレムだけだな。ウッドからロックまでかなり空いたから、アイアンは更に空きそうだな」

「そーですねぇ。でも、アイアンはゴーレム自体も強いですけど、金属製品をいじれるからムチャクチャ汎用性が上がるんですよねぇ」

(やじり)とかも作ってもらったり、手直しも出来そうですね」

 うん、確かに色々出来そうだ。鍛造ではないけど鋳造なら出来る事になる。高性能な武具は無理でも、簡易な武具は出来そうだ。

 (やじり)とかは、ゴーレムビルドで作って焼き入れとかすればある程度の強度になるのか? 金属工学的なモノはよく知らん。

「あのですねぇ、実はロックも凄い所が別に有るんですよぉ。ななな何と、ガラスが変形出来ます」

 ガラスか、アレは石・岩扱いか。まあ、確かに水晶なんかと同じような成分だっけ?と言うことは…

「ガラスが変形出来るなら、宝石も変形出来そうだな。クズ宝石集めて1つの大きなモノにしたりとか」

「それは多分駄目ですよ。宝石って一つ一つ成分が微妙に違って、色合いも千差万別なんですよ。だから混ぜると変な風になると思います」

 そーなのか?宝石とか縁がないから知らないけど、そういやーブルーダイヤだとか聞いた事も有るな…

 その後も宝石の事を話す歩に、ああ、彼女も女なんだな、なんて思ってしまう。宝石=女って訳じゃないんだろうけどね。固定観念か。

「宝石はともかく、ガラスは、まあ使えれば便利では有るけどさ、使いどころは少なそうだな」

 割れたガラスの修理とか受けたりは出来るだろうけど、その依頼をどうやって見つけるのかって問題もあるし。戦闘面的な使い道は無いな。

「何言ってるんですかぁ、家ですよ、家。僕らの家を建てる時にガラス窓が作れるんですよぉ」

「あっ、それは良いですね」

 なるほどな、確かにそれは使える。この世界にはガラスは存在する。ガラスのコップや金魚鉢的なモノもあるが、窓ガラスは一般化されていない。

 貴族の屋敷や城では多く使われているが、一般の市民は裕福な商家が使用している程度で普及していない。

 単純に価格の問題と、強度と言うか割れやすさの問題で一般化していないようだ。高いのを買って簡単に割れたら貧乏人にはキツいからね。

 でも、日本での生活に慣れている俺達には窓ガラスは是非とも欲しい品だ。夏場はともかく冬場は特にね。現在絶賛実感中だよ…

 確かにこれは、瞬の成長を褒めてやっても良いかもしれない。でも、どや顔がウザいからやめておこう。

 そんなウザい瞬による発表会が終わった後は、夕方まで紙すきをして過ごした。

 そして、食堂で夕食を取っていると、クエストから帰ってきたらしい他の冒険者達がゴブリンの話で騒いでいた。

 何事か起こったのか?と聞き耳を立てようとしていると、ヴォルツさんとシルビアさんが丁度食堂に来たので、席に誘い聞いてみる。

 ヴォルツさん達もその件を知っていたようで、逆に俺達が知らない事に驚きながら教えてくれた。

 何でも、冒険者協会からの報告という形で伝えられたモノで、夕方の協会に訪れた者は全て知っているらしい。

 それは、昼頃、昨日の騎士・兵士の部隊が2組の冒険者パーティーを伴い、『穴』の確認に行った際新たなゴブリン達に遭遇したのだという。

 その数はおよそ100。騎士達の数は昨日の半数で150人程だったが、それなりの負傷者は出たものの全てを殲滅出来たらしい。

 そして、警戒を強めながら向かった『穴』の近くには更に200を越えるゴブリンが集まっていたと言う。しかも、監視している間に『穴』から次々と現れ増えていく。

 騎士達は先ほどの戦いによる疲労と、回復薬などの消耗を考えそのまま引き返したのだと言う。

「つー訳だ。その『穴』を埋めっちまうか、穴の先を何とかしねーとキリがなぇーっう事だな」

「でね、もしかしたら、領主軍が仕掛ける際に、冒険者に応援を要請する可能性があるからそのつもりで考えていてくれって事みたいよ」

 確かに、今日の時点で300近くが現れているなら、日を置けばどれだけ増えるか分からない。早めに対処する必要はあるよな。

 そして、領主軍と言われる騎士や兵士の数は400に満たないらしく、実戦に投入出来る数は350程度だろうとのこと。ヤツらの数次第ではキツくなる。

「領主軍の応援なんざ願い下げなんだがな、だけどよ、そうも言ってらんねーからなー」

 シルビアさんも「そうね」とうなずいている。どうやら2人は参加するようだ。

 瞬と歩を見ると、二人も(うなず)き「しょうが無いですよねぇ」「出来るところまで…」と答えた。

 何だかここ数日で、以前とは全く違う状態になって来ているな… のんびり安全第一にゆっくり成長計画が破綻してきているよ。まったく。

「しっかし、『穴』ってのはなんなんだ? おめーら見てきたんだろ」

 なんなんだと言われてもな… 見はしたが、俺達は遠方から見ただけで、まともに見たのは『大酒を呑む者たち』だけなんだよ。

「やっぱりダンジョンですよぉ。間違い有りませんてばぁ」

 まだ言うか、まったく。瞬はダンジョン説を幾度となく唱えているが、この世界には『ゲーム的なダンジョン』は存在しない事は確認済みなんだよ。

「なに? そのダンジョンて?」

 シルビアさんもヴォルツさんも当然??な訳だ。なので一応『ゲーム的なダンジョン』を簡単に説明した。

「色々突っ込みたい所があるけど、ホントにあなたたちの国って変なお話を作るのね」

 シルビアさんには思いっきり呆れられたよ。まあ、ゲームの概念がないからそこまでの設定を物語り(作り話)として作るという事はここでしないのだろう。

 昔話や童話なんて、ざっくりした話でかなりいい加減だからな。それに比べれば遙かにゲームの設定は精緻(せいち)では有るか。突っ込みどころは多いけどさ。

「で、なんなんだ、その『湧いて出る』ってのは。繁殖じゃなくて湧くってのが分からねーな」

 あー、それは、ゲームの為のゲームを成立させる為に作られた設定だからな… 瞬は『魔素』がど~した、『レイライン』がど~したと説明していたが、2人を納得させる事は出来なかった。

 まあ、俺や歩も納得出来ない話だからな。無理だっつーの。

「でも、そんなダンジョンがあれば便利ね。方々移動しなくてもそこだけで収入が得られるわけでしょ。しかも『宝箱』が有る(笑)」

 シルビアさんは『湧き』よりも『宝箱』の事がツボったようで、結構な声で笑って、周囲から注目されていた。彼女にしては珍しいよ。

 さすがに瞬も『宝箱』の件はフォローしようがないようで、「一応人間をおびき寄せるエサって設定が…」と力なく言う程度だった。

「結局行って実際に入ってみねーと、『穴』が何なのか分からねーって事かよ」

「残念ながら、そーなりますね」

 結局はこう言うことになる。想像は無駄ではなし必要な事だが、答えは出ない。最後は実際に直接確認が必要になるわけだ。

 あと、周囲の冒険者の話を漏れ聞いていると、大半が「領主軍と一緒ってのは嫌だが、しょうが無い」という感じで参加するようだ。

 この世界の冒険者は、活動する街に愛着が有る様で、その街を守ろうという意志が強い。多くがその街の出身者だと言うのが大きな理由ではあるのだろうが、日本とは結構違う気がする。

 愛国とか、郷土愛とか日本で聞くと押しつけがましい感じがして嫌だったが、ここの人にとってはかなり自然な感情のようだ。

 多分、身近に死がある環境がそういったモノを育むのかも知れない。逆に言えば、育まれないような環境は平和だと言う事にもなる。まあ、愛を持てない程ヒドイ所って言う可能性もあるけどさ。

 そして、翌日の冒険者協会で、その日の昼に領主軍による攻撃が行われる事が発表され、それへの冒険者の参加が求められた。

 依頼料は前回と同じで、物資は領主軍から支給されるとの事だった。

 この依頼を8割程の冒険者が受け、当然その中に俺達3人も入っている。

 最終的に、石塀南門へ集まった総軍は、領主軍約350、冒険者約200の計550名程にのぼった。

 その混成軍団は、(かち)の者や荷馬車の早さに合わせ、ゆっくりと進軍し、2時間後『穴』の手前2キロほどの地点で、ゴブリン400匹程の軍と接敵し直ちに戦闘となった。

 今回は前回の木塀戦と違い、数の上でも凌駕していた事も有り、30分と経たず殲滅できていた。

 死者は領主軍に数名出たが、冒険者は一人も居なかった。基本毎日が戦闘の冒険者と違い、領主軍は余り強くはない。

 隊を組んでの集団戦はうまいが、一度混戦になると個々の弱さが出て負傷者や死者を出す事になったようだ。

 俺達は基本、瞬を守る形での防衛戦を行い、吸血ブースとした歩とゴーレムを攻撃の主軸として戦った。

 そんな俺ですら3匹を殺したので、ひょっとしたら領主軍のかなりの数は1匹も殺せていないのかも知れない。

 今回の俺は、『符術師読本(上巻)』分の『符』しか持っていなかった関係で、『符』はまったく使用しなかった。一番使ったのは1/5回復薬だったよ。しかも領主軍兵士に。何だかなー。

 そして、一通り状態が整った後、『穴』へと移動する。

 ゆっくりした行軍で30分程で『穴』にたどり着き、その前に集まっていた50匹程のゴブリンを数分で滅殺。『穴』の前を確保した。

 ここに居たゴブリンだか、最後の1匹に至るまで『穴』へ逃げようとする様子がなかった。木塀戦では最後には40匹程がちりぢりに逃げたんだが…… こいつらホントに訳分からん。

 そして、騎士の指示で『穴』を塞ぐ作業が開始される。前回の木塀戦で使用された足場を解体したモノを荷馬車で運んできており、それを使用して穴前面に壁を作る様だ。

 兵士が『穴』の前の地面に柱を立てる穴を掘り始めたのを見て、俺はアリオンさんに言って瞬のゴーレムで穴を作る事を提案する。

 実際岩場で難儀していただけに、半信半疑ながら領主軍も瞬にやらせる事にしたようだ。

 そして、『穴』の中を警戒する兵達に囲まれ、瞬はサクッとロックゴーレムを作る事で6カ所の穴を作り兵達に感謝された。

「ゴーレムにはそんな使い方があったんだな」

 領主軍の兵達からそんな声が漏れていたが、瞬的には何で知らないのかが不思議な様だった。

 俺としても、ゴーレムビルドはある種、固定観念の破壊が必要なモノだが、ゴーレムを作れば地面なり木なりに穴が空くのは分かっているはずだから、それから穴掘りに使えるという発想が出てこない事が不思議でならない。

 その後、その穴に柱を立て、横木を瞬が仮止めとして接着し、それを兵士がしっかりと固定していくという形で壁が作られていった。

 完成までの1時間に10匹程のゴブリンが『穴』から現れたが、剣や槍で柱の隙間から刺して殺していった。

 この間、俺達冒険者や作業をしていない兵士は、周囲から石を集めて、壁の近くに集めていた。最後はこの石を壁の全面に2メートル程まで積み上げて完成となった。

 結局この最後の石積みも瞬のゴーレムビルドによる変形を所々使用し、全体の積みやすさと強度を上げる事に成り、魔力回復薬を3本も立て続けに飲まされこき使われていた。お疲れさん。

 最後に、その場で責任者の騎士から、ここの補強を依頼するかも知れない旨を言われたようだ。まあ、金額しだいではあるけど受けても良いんじゃないか。

 そして、全ての作業終了の宣言が出ると、歓声が上がる。後は兵士30名を監視に残し俺達は街へと帰還した。冒険者協会にたどり着いた時には既に辺りは薄暗くなっていた。

 協会内にはパーティーの代表一人だけが入り、他の者は外で待機するか宿へと帰って行く。瞬達には帰って良いと言ったが、待つ事にしたようで、近くの縁石に腰をかけていた。

 パーティーの代表達は、一仕事終えた充実感で知り合いと話しながら笑いながら協会内に入る。無論俺も、やっとこれで明日から元の状態に戻れるな、なんて考えてドアをくぐったよ。

 そんな、俺達を迎えた冒険者協会の職員の口から発された言葉は、労いの言葉ではなく予想外の言葉だった。

「王都や他の町の周辺にも、同じ様な『穴』が発生して、見知らぬ魔獣が大量に現れて街や村が襲われてます」

 どーやら以前の様な日常は当分戻って来そうにない様だ……はぁ。

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