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21.ゴブリン戦

 通い慣れていない南門への道を俺達は大勢の冒険者達と共に歩いて行く。

 これが軍隊、この国でいう騎士や兵士達の行軍であれば静かな中に足音や荷馬の音だけが響くのだろうが、冒険者は自由の民だ、静謐(せいひつ)なんて無縁だ。

 気合いを入れる声、虚勢をはる声、普通の笑い声、不安を訴える声、そんな色々な感情から出る声で充満していた。

 俺達はと言えば、不安げな部類に入るだろう。

「大丈夫でしょうか? 約5倍ですよね。それに、弓も使ってくるみたいだし…」

「確か城攻めって、3倍の兵力が必要っていいますよぉ。5倍だとオーバーキルかもしれませんねぇ」

「オーバーキルはともかく、3倍必要ってのは聞くな。今回の木塀門は城と比較するのもアレなヤツだから、もっと少なくて良いだろう」

「そ、それって、絶望的って事ですか…」

 歩が真っ青な顔を涙目にし出したので、チョットマズいと思いフォローに入る。

「あー、数だけを見ればな。人間対人間の戦いと違って、今回の戦いは敵味方個々人の戦闘力に差がある。単純に数で計算するのは意味がないよ」

「ですよぉ、ゴブリンは魔術も多分使えませんし、弓を持っている数もたかが知れているようですし、こっちの準備しだいじゃないですかぁ」

 昨日遭遇戦をした冒険者パーティーの話では、劣勢であっても魔術を使う素振りもなく、魔力の遷移現象も見られなかったので魔術師は居ないか、居ても少ないだろうと予想していた。

 今朝の二組の偵察班の観察では、弓持ちの数も30は越えない程度で、たいていが棍棒を持ち、残りの2割程が剣を有していたとの事だ。

 無論ある程度離れた位置からの観察なので、誤りもあるとは思うが、大きな違いはないと思う。ってか思いたい。

「最初『穴』から現れた時、あいつら右往左往してただろ、アレは多分俺らがこの世界に来た時と同じで、状況を理解出来てない状態だったと思う。

 自分たちの意思でここに来たとしても、状況を無理解していないのは間違いない。って事は計画的な戦闘とかは出来ないんじゃないか?

 戦闘っていうか、あの数だと戦争か。戦争なら準備もいるし、相手の情報もいる。でも多分あいつらにそれは無い。

 そして、俺達は僅かながらも相手の情報()を知っている。そして地の利と土地勘もあって、個人戦力は倍以上有る。

 まあ、『問題ない、安心しろ』なんて言える程じゃないけど、さほど致命的じゃないだろう」

 いってる事に嘘はない。ただ、情報が少なすぎて、イレギュラーの可能性が格段に高いんだよな…こればかりは注意しつつ祈るしかないよ。

「今のところ、一番の問題は、ゴブリンを殺せるかって事だな。物理的な意味じゃなくて、こっちの精神的な意味でな」

「……人間に似ているんですよね。でも…やらないと死んじゃうから…」

「最初のネズミの時よりダメージ有りそうですねぇ。あの時は環境が環境だったから、別の意味で精神的な余裕がなくって、気がついたら慣れてましたし」

「まあ、盗賊よりはマシって思うしかないだろう。実際、やらないと死ぬんだからな。まあ、ホントに危なくなったら逃げるけどな」

 瞬は「小説だと意外に友好的な種も居たりするんですよぉ」とか言っているが、他のパーティーが襲われた時点でそれは限りなく無いに等しいし。

 そして、こちらが15体以上殺した事で先の遭遇戦が奴らの意図しない形であったとしても和解の道は閉ざされたと言える。意思疎通が出来ない可能性の方が高いけど…

 そんな考察をしているうちに、木塀南門へとたどり着く。

 通常は門外側に二名の門番が居るだけなのだが、現在は8名が詰めており一人は門横の(やぐら)の上から草原方向を注視していた。

 そして、今回の混成部隊のまとめ役であるアリオンさんが次々に冒険者達へ配置や足場建設位置などの指示を出して行く。

 俺達は、ゴブリンが来るまでは迎撃用足場組み立ての手伝いを行う事になった。

 ちなみに今回の現場まとめ役のアリオンさんは、下水道管理事務所のアノアリオンさんだ。今回初めて知ったのだが、彼は元冒険者でランクGまでなった人らしい。

 利き腕を失う事で現役を引退したのだが、この街では現在でも冒険者達から尊敬と敬意を受けているそうで、更に現在貴族管理下の仕事に就いており、貴族(騎士・兵士)達との折衝役の意味もあって、今回の役に就いているそうだ。

 アリオンさんは、現場到着直後から継続的に斥候を出し、敵の位置や進行方向そして数・武装などを随時確認していく。

 ゴブリン達の移動速度はかなり遅く、俺達がこの門に到着した時点で3キロ地点にまだ達していない程だった。この早さからも、確たる目的の行軍ではないと判断している。

 そんな行軍速度のおかげで、街から足場素材が間に合い、直ちに足場の組み立てが開始される。

 この足場素材は、町中にあった建設用の木材や解体作業中の建物から出た木材を、街の有志達がかき集めて持ってきた物だ。

 当然大きさも長さもバラバラで、まともな加工すらしている時間は無い。だから最低限、壊れない・倒れないだけを考慮して組み立てていく。

 この際、一番活躍したのは瞬だった。ゴーレムビルドで木材同士を接着していく。ただ、MPの関係で全てを1人でなど無理な訳で、主要な部分の接着だけを行うのだがそれでも工程速度は格段に上がる。

 瞬以外にもゴーレムマスターは2名いたのだが、彼らはレベルは瞬より高いが人型ゴーレム以外作製した事がないようで、この作業は出来なかった。

 瞬の活躍と、応援で来た街の大工達のおかげも有り、門を中心として左右の塀の内側に次々に、高さ2.5メートル幅1メートル程の足場が作られていく。

 左右それぞれ30メートル、全長60メートルの足場が完成した時にはゴブリン軍団は1キロ程のところに迫っており、(やぐら)からその姿が見えるまでになっていた。

 足場完成と共に、応援に来ていた街の有志500名ほどが、俺達に懇願に近い声援を残し街へと帰っていった。

 ちなみに、騎士や兵士はまだ来る様子はない。

 最後の斥候部隊の帰還をもって門を閉じるのだが、その前にゴーレムマスター2名が、門の外にゴーレムの核となる魔石を配置し、瞬も『ウッちゃんMkⅡ』を同じように配置した。

 そして俺も、自分の防衛位置を起点に30メートル以内に『符』を風で飛ばないように石で押さえながら配置していく。罠だよ。

 更に『ウッちゃんMkⅡ』にも3枚の『符』を貼り付け、準備完了だ。

 最後の俺が門をくぐった段階で、門扉が閉ざされ、補強が施される。そして、(やぐら)ではなく塀に設置された足場の上に居た者たちから「見えたぞ!」との叫び声が上がる。

 緩やかな高低差によって出来る谷間という死角から姿を現した奴らは、俺達の姿が見えた時点で一旦動きが止まった。

 個人的にはこのまま引き返してくれれば、と思ったのだが、そんなわけには行かないようで、甲高い「ぎぃー!」「ぎゃぎーぎゃー!」のような濁音系の(とき)の声を上げ、門に向かって一斉に走り出した。

「来るぞ!、魔術、弓構えー!、完全に射程に入ってから放てよ!」

 側に居る30代の山賊顔の冒険者が叫ぶ。それに従ってと言うわけではないが、周囲の魔術師と弓持ちが構えを取る。

「あゆみ、いけるか、無理ならいいぞ」

 俺は小声で歩に声をかけた。弓使いという事で、俺達3人の中で一番最初にゴブリンに攻撃をする事になる。つまり最初に殺す事になる。

 そのことに対する精神的なプレッシャーを考えての事だが、彼女は唇をかみしめたまま頷くだけで答え、矢をつがえて構えを取った。

 俺も瞬もそれ以上何も言えず、自分の覚悟を決めるべくほほを両手で挟むように叩く。ついでに瞬のほほも。

「覚悟完了?」

「痛いですよぉ、えっと、覚悟完了、です」

 そして矢が放たれる。

 戦端は弓矢による攻撃だった。ゴブリンは多少の弓持ちは居るようだが、何故か撃ってこず全員で一斉に突っ込んできた。

 そして、次に魔術が放たれる。風・炎・氷・爆発が次々に起こり、ゴブリン達を(ほふ)っていく。

 矢は街中からかき集められ、それを全てこの序盤で使い切る事になっている。そして魔術も2割の者を待機させそれ以外はMPを使い切るまで放ち、徹底的にここで数を削る予定になっている。

「右、弾幕薄いよ何やってるの」

 瞬がぶれずに何か言っている。ただし小声なのは場を弁えての事だろう。言わなきゃ良いのにとも思うが、彼なりの精神安定方なのだろう。

 弓はともかく、魔術の射程は短い。50メートルと無い。だから焼けもだえる姿や、半身が切れ内蔵を垂れ流し倒れる姿がハッキリ見えてしまう。

 これが獣や虫の形ならば、俺達にも耐性はあったが、人型はやはり別で、どうしても罪悪感がわいてくる。

 だが、残念な事にその罪悪感が思った以上に小さい事に気づいた。どうやら、かなり生き物を殺すと言う行為に慣れすぎてしまったのかも知れない。

 ゴブリンを殺すと言う事に対する罪悪感や気持ち悪さより、自分が生き物を殺す事に慣れてしまっていると言う事実の方がショックだったよ。ダメージデカいよ。メディーック。

「150は削ったか!」

 近くの山賊顔が叫ぶ。確かにかなりの数は削ったようだが、それでも350近くは居る。

 そして、ゴブリンの進行が止まった為か、奴らの中からも矢が放たれ始める。その中の数本が俺達の方へ飛来するのが見えた。

「シュン!、楯だ、矢が来る」

 俺の言葉で瞬が高さ2メートル幅1メートルのタワーシールドとでも言えそうな木製楯を立てて俺達の前面に出る。無論ゴーレムビルド品だ。

 矢を放っていた歩と俺はその陰に入ると、軽い響きと共に1本の矢が楯に刺さり、他の矢はそれて後方へと抜けた。

 楯の横から他の矢がこないのを確認し、先ほどの位置に戻り歩は残りの矢を放ち出す。俺はまだ何も出来ない。

 そして、それから間もなく歩の矢は尽き、他の弓持ちの者も同様に矢を使い切った。更に、それと前後して魔術師のMPも枯渇し始め、戦線が動き出す。

「来るぞ!、塀を突破させるな、槍使い分かってんな。あと石構えろよ」

「後100は削るぞ!」

「魔力切れた魔術師は下がれ」

 方々から指示の声が響く。そして俺は30メートル先に仕掛けた『符』へリンクを接続して時を待ち、瞬は『ウッちゃんMkⅡ』にリンクして構えた。

 更に、2名のゴーレムマスターが、前もって設置していた魔石を核に、自律制御型のサンドゴーレムを次々に生成して随時戦線へと投入していく。

 槍使いは槍を構え、他の剣使いらは足場上に上げられた石を持ち投石の準備に入る。

 そして、ゴブリン達の先頭が『符』の位置に達した時点でそれを起動する。

 2メートル間隔で設置された『火炎符』4枚が、8メートルの炎の壁を作り出す。符の直上に居たゴブリンは勿論、その後方からも次々に押されるようにこの炎の壁へと突っ込み、一瞬で全身を燃やし踊り狂うように暴れて倒れていく。

 横の山賊顔が「おおっ」と驚いたような声を上げる中、更に数匹が炎に突っ込み焼かれていく。

「はじめさん、お願いします」

 そのタイミングで瞬から声が掛かったので、俺は『ウッちゃんMkⅡ』の前面に貼り付けている『障壁符』へリンクを通し、瞬に「良いぞ」と合図を送る。

「『ウッちゃんMkⅡ』いっきま~す」

 そんないつものかけ声と共に、『ウッちゃんMkⅡ』をゴブリンに向けて走らせる。そして、ゴブリンの直前で『障壁符』を起動させると、そのまま障壁越しの体当たりで奴らをはね飛ばしながら敵陣を走り出す。

 『符』によって生じた障壁膜にぶつかった際の反動が『符』側には生じないという、力学にケンカを売ったような仕様を利用し、全速力で敵陣を走り陣形を分断しつつ跳ね飛ばす跳ね飛ばす。

 そちらを横目に、俺は先ほどの炎の壁を回避し横に抜けた部隊の足下に『凹符』で穴を開け、後続を巻き込み倒れた時点で一緒に設置していた『雷撃符』で感電させる。左右共にだ。

 そして、炎の消えたところから進み始めた部隊には『風旋符』×2で盛大に吹き飛んでもらう。半径5メートル程の竜巻は直上や直近居たヤツを10メートル程の上空に舞い上げ、周囲のヤツも20メートル近く水平に吹き飛ばす。

 俺の『符』の効果で、俺達が居る防衛地点はまだ塀に取り付かれてはいないが、他の場所は塀の上下での直接戦闘が始まっている。

「はじめさんお代わり」

 瞬の声で、俺のリンク圏内まで近寄っていた『ウッちゃんMkⅡ』の2つめの『障壁符』を起動する。瞬は障壁展開を確認すると直ぐにゴブリンの密度が高い場所を目がけ突っ込ませた。

 その時点での俺達冒険者には、矢を受けた数名のけが人しかおらず順調とは言えた。ただ、木塀は強度はさしてないため壊される可能性は高い。

 足場を設置する事で塀の強度も上がってはいるが、それもしれた物で、危険は常にある。そして、一度穴が空くと数の絶対数でこちらはキツくなってくる。だから絶対壊させたらいけない。

 故に、徹底的にやる。『符』の出し惜しみはしない。塀の前10メートルに設置した『火炎符』を4つを一組に、ヤツらが達した順に起動し、20メートル程の炎の壁を作り、後方に溜まって寿司詰めになった時点でその直下の『炸裂符』を次々に起動した行く。

「ジェノサイドぉー」

 瞬の呆れるような声を聞きつつ、俺は次のタイミングを計る。歩は瞬が前もって足場用の余り木材で作った、投げやりを投擲している。

「坊主、札はまだ仕掛けてあるのか?」

「あの炎と塀の真ん中に『炸裂符』が同じぐらい。あと、塀の壁面に『冷凍符』、凍って張り付きます」

 尋ねてきた山賊顔に、目線は戦場に向けたまま答える。「分かった」と了解した山賊顔は同じパーティーの者にもそれを伝えていく。

 そして、15秒程で炎が消えた10メートルラインを越え、5メートルラインにを越えたところで『炸裂符』を連続起動。周囲に土煙と血が飛び散り、塀面にもぶつかる。

「わぁ、リンクが切れそうになりましたよぉ」

 瞬から非難の声が聞こえたがスルーする。

「すみません、俺別の場所の応援に行きます」

 俺は山賊顔にそう言って、左手側の取り付かれているところへ足場の上を人を避けつつ移動していく。

 初戦の攻撃で大半の魔術師がMP切れになっており、待機していた魔術師もMP量が少ない者から少しずつ枯渇し始め戦闘不能になる者が出始めていた。

 そんな魔術師が抜けた場所に俺は移動し、腰に着けた袋から『加重符』を貼り付けた板を取り出し、リンクを張った上で4メートル程先に投げ、起動する。

 すると壁に取り付き数掛かりで壁を登ろうとしていたヤツらから見えない重りを乗せられたように潰されていく。

「短時間しか持ちませんが、今なら動けません」

 それだけ言って、周辺に5メートル間隔で『加重符』を撒き起動を繰り返す。ただ、『加重符』は絶対量が少ないため、門を中心に左翼側しか撒く事が出来なかった。

 『火炎符』や『炸裂符』威力がありすぎて塀を燃やしたり壊したりする可能性があって使えない。かと言って、『雷撃符』や『冷凍符』はばら撒くのには適さない。接触してナンボの『符』だからね。

 そして、『加重符』のばら撒きが終わり、元の場所に戻ってきた俺は、そこの塀面に取り付いているヤツらに対し『冷凍符』を起動し10匹を張り付かせて行動不能にした。

「これで仕掛けは終わり!」

 そう叫び、石を拾い投石にはいる。瞬は『ウッちゃんMkⅡ』に持たせたロングソードを振り回して、ゴブリンを攻撃し、歩は瞬製木槍で取り付くゴブリンを突いている。

 戦闘開始から10分程しか経っていないにもかかわらず、全員が汗だくになっている。初冬の寒気が吹く中で、かいた汗の乾く暇も無く次の汗が流れる。

 その時、右翼側が大きな声が上がった。俺や周囲の者も、塀を破られたのか、と思ったがどうやらそうではなかった。

「バカヤローどもが!、もう打って出やがったのかよ!」

「早いだろう!」

 などの声が一斉に周囲で上がるが、右翼側から次々と打って出始めるにつけ、左翼側も足場に固定したロープを手に飛び降りる者が現れる。

「あー、もう! あゆみ、噛め」

 俺は歩の前に手甲を外した左手を出す。歩は一瞬俺の顔を見るが、即座に頷き『吸血』をする。

「シュンは降りるな、そのまま『ウッちゃんMkⅡ 』で攻撃続行」

 血を吸われた状態でその指示を出し、更に右手で『付与(速)』と『付与(力)』を2枚ずつだし、彼女と自分に貼り付ける。

 そして『吸血』が終わった彼女の2枚の『符』を起動。

「無理はするな、危なくなったら逃げろ、ブーストが終わったら後方で待機だぞ」

 俺の言葉に彼女は「分かりました」とだけ短く答え、壁を飛び越え10メートル程先に着地した。そして、爆速でゴブリンの後方から切り込んで行く。

 それは壁際に集まるゴブリンに剣を横に当てた状態で、走っただけの行為だった。ただ、その剣を固定する力は強く、何より走る速さは馬に匹敵した。

 彼女が走った後から、数瞬の間を置き血が舞い上がり、ゴブリンが列を成して倒れていく。混戦に陥っていない場所は彼女の独壇場となった。

 そして、俺も2枚の付与符を起動し、眼下の塀に張り付いたゴブリンを飛び越え地上に降り立つ。

 飛び降りる瞬間、瞬からの「気をつけて」との声が聞こえた気がしたが、答える余裕はない。そして、1枚だけ分けて胸鎧のスロットに入れていた最後の『障壁符』を左手に張り起動する。

 後は半透明の障壁膜を左前面に構え、敵陣に突っ込んでいく。戦いは完全な混戦だ。打って出る時点の敵の数は不明だ。両翼に広がって塀に接していたため、全体が見えなかったんだよ。なんせ塀は円状に作られていて、曲線を描いているからね。

 それでも先ず間違いなく200は楽に越えていたと思う。予定では200を確実に切ってから、と言う事だったのに…全く。

「一人2・3匹殺しゃーいい!、手当たり次第殺せ-!」

「死ね死ね死ねぇーー!! 俺の獲物だ邪魔すんなぁーー!!」

 エキサイトした山賊やら盗賊の顔をしたヤツらが暴れまくっている。大半の者がパーティー単位での行動がで来ておらず、個別の戦いになっていて効率が悪い。

 それは、先に魔術師がリタイヤして居ない事と、飛び降りた順番がバラバラで最初からフォーメーションが組めなかった事が理由だ。

 そして、兵士と違い、パーティー以外で連携して集団戦を行う技能など持ち合わせていないのも大きい。

 ただ、それで戦線を維持出来ているのは、個人の技能がゴブリンを凌駕しているからだろう。そして、ゴブリン自体も連携がで来ていないのも理由だ。

 ゴブリンの連携が取れていないのは、『符』や『ウッちゃんMkⅡ』などによる分断で混乱して取れないのか、元々連携など取らないヤツらなのかは分からない。

 個人的には後者のような気がする。ここまでの戦い方を見て、色々頭の悪すぎるところがあまりにも多いから。

 そして、付与符を後2回使用し、戦場のゴブリンの数が打って出た時の半数を切ったと思える段階らなった時、南門が内側から開き、兵士達が300人程飛び出してきた。

「おおっ!応援が来たぞ! もう一踏ん張りだ」

「今頃来やがってぇ、馬鹿野郎どもが!」

「おせーつうの」

 歓声と怒号の割合が1:3の声が方々で上がる。

 そして、それから戦いが終結するのに掛かったのは10分ほどだった。逃走するゴブリンを追いかけての殲滅まで含めての時間だ。

 後半歩は無理はせず、はぐれゴブリンを半殺し・吸血→ブースト時間内暴れる→後方ではぐれを探す、を繰り返していたようだ。

 瞬は塀の上から『ウッちゃんMkⅡ』の制御だったので問題なく、俺達3人にケガは無かった。良かった。

 そして、方々で騎士・兵士に食って掛かる冒険者の姿が有り、その間に立ち仲裁するアリオンさんの姿があった。

「終わりましたね」

「地味~に長かった気がしますよぉ、二人が無事で良かったですぅ」

「だな、それが一番だ。…しっかし、疲れたよ、そんで、ショックだった」

「?ショック?」

「ああ、ゴブリンを殺したのに思った程嫌悪感がなくってさ、この世界に染まって来てるのかなーってさ」

 ……

 瞬と歩も押し黙ってしまう。

「…私も最初は、意識を反らすような気持ちで矢を撃っていたんですが、途中からは…」

「しょーがないですよぉ。『悲しいけどコレ、戦争なのよね!』ですよぉ。郷に入りてはってのですしぃ、襲ってきたのは向こうですからぁ」

 何だかモヤモヤした気持ちが心の底にあったが、こればかりはどーしようもない。

 ま、分かってはいるんだよ。理解している。でも気持ちや感情は別だからな…

「ま、それはともかく、この後どうなるかも置いといて、何はともあれ終わりだ。早く帰って温かいお湯で身体洗いてー」

「ですです。帰りましょう、帰りましょう。美味しいモノ食べて気分を変えるんですよぉ」

「お風呂入りたいです。お風呂…」

「風呂か、自分の持ち家でも持たないと無理だな。それまではお湯で身体を洗うので我慢だな」

「土地買いましょう、土地ぃ。家は僕が建てますからぁ」

「お金が…先は長そうですね」

 そんな会話を続けながら撤収の声が掛かるのを待つ。

 木塀南門の付近は酷い事になっている、大量のゴブリンの死体が転がり、血が塀を汚し、地面には方々に焼け跡やえぐれた後が有る。

 焼け跡などはともかく、ゴブリンの死体は処理しないといけない。病原菌の元になるからな。

 そして、その処理の件で、冒険者と騎士・兵士達との間でもめている。

 騎士達は冒険者がしろと言い、冒険者は遅れてきたんだからお前らがやれと言っている状態だ。

 アリオンさんや騎士のお偉いさんが、ギャーギャーと話し合っている。

 そして、5分近く言い合った結果、基本的には騎士団が処理を請け負う事になり、冒険者協会に依頼として処理を願い出る形になった。

 受ける冒険者がいるかどうかは知らない。いなければ兵士達がやる事になるだろう。元々この戦いは彼らの仕事だったのだから当然だと俺は思うけどね。

 そんな無駄な時間が過ぎ、やっと撤収の声が掛かり、俺達は街に帰る事になった。

 そして、冒険者協会で今回の緊急依頼の依頼料の受領と、今回の戦闘で消費した物品に付いての代金の相談というもう一つの騒動が待っている。

 でも、まあ、一段落だ。

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