2.ギフト
畑の5人家族(確定)の元を離れて、あぜ道を街へと向かって歩く。途中何人も畑で仕事をしている者がいたがスルーして街を目指した。
まあ、情報は多い方が良いだろうけど、先ずこっちの状況説明から入らなくてはならないし、何より不審者扱いされて通報でもされればたまったもんじゃ無いってのがあるからスルーした。あの家族のようにいい人ばかりとは限らないからね。
途中の小川でシャツを洗い、土汚れを落とした。元が良くてもあれだけあからさまに汚れてるのは色々マズかろうと言う判断。当然ズボンもある程度汚れは落とすが、こちらは色が紺なので目立たないことを良いことに脱いで水洗いとまではせず、部分部分汚れの酷い所を濡らしたハンカチで拭くことで済ませた。
シャツは着ないで白のティーシャツで、と最初は思ったんだがアルファベットのドデカカイロゴが赤で入った物なので、色々マズそうだと判断し濡れたままのシャツを着ていくことにした。まあ、夏だから…ってかこっちも夏だよね、この気温的に、多分…着てれば直ぐ乾くだろうから。
う~ん、季節・時間の問題もあるんだっけ。全くコレは考えてなかった。だからあの農家にも聞いてなかった。そう言えば、気温はさして違和感ないから6月~7月と見てよさそうでは有る。案外9月~10月の可能性もあるが。
時間は俺の腕時計では今午後4時31分を表示している。太陽の位置は午後4時と言われれば違和感ない位置にあった。その時点で時間もオッケーと思ったのだが、時計に違和感を感じ見直して重大な事実に気付いた。
それは現在太陽のある方位が東であると言うことだ。俺の腕時計には方位磁石が付いている。電気的なセンサーのあれでは無く、ベルト部分にチッコイ方位磁石が付いているメッサアナログのやつだ。
そしてそれが何度体ごとグルグル回っても、常に現在の太陽の方向を東であると言い張ってくれている。もし、コレが事実ならば現在は午後ではなく午前と言うことになる。
つまり、時差が発生していると言うことだ。まあ、だからどうなんだと言われれば、現状それだけのことと言うだけなんだけどさ。
可能性として、この世界の地磁気の向きが逆と言う可能性もある。また、場所的に近くに強い磁性体があって正常に方位を示していないって富士の樹海的な可能性もある。
大したことではないだが、一度気になると頭にこびりついてしまって離れなくなったので、通りがかりの農家(推定)に確認すると思いっきり怪訝な顔をしたうえで、午前中であることを教えてくれた。
一応、言い訳に酔っ払って寝てて先ほど目を覚ましたから、とか言ったが太陽の位置見れば分かるだろう、と突っ込まれた…
ま、これで時間が約マイナス7時間もしくはプラス17時間のズレがあることになる。
一応時計は午前9時30分に設定し直した。
その後、テクテクとあぜ道を進み大通りへと出て街へと向かう。その大通りは街の西側から延びており、西へず~っと行くと王都へと至るらしい。
俺はそのままその通りを進み、街を囲む石造りの塀に作られた門をくぐりその街『レオパード』通称『海都』へと入った。ちなみに門番は2名いたが、特に誰何されることも入門料を取られることも無かった。ここらは確認してあったがやはり不安だったので、無事入れてホッとしたよ。
根がへたれで心配性だからね、俺って……
そうだ、ついでなので書いておくけど、この町『レオパード』の通称は『海都』だが、実は海には面していない。ここで言う『海』は『湖』のことで、街の北方に存在しかなり大きいことから『海』と称され、そこから『海都』と言われるようになったそ~な。
水は普通に真水で、淡水ですら無いらしい。また、この湖とそこを起点とする川を使った船での輸送が盛んだそ~な。
街に入って先ず気づいたのは、『色白インド人』ばかりでは無く『色白東南アジア系』とでも言うような顔立ちの者も多く、いわゆる『白人系』と言える者、も散見されていたことだ。
日本人・中国人的顔立ちの者は眺める範囲には見当たらなかった。また、韓国(非整形)・モンゴル的顔立ちも同じく見当たらない。黒人系も見当たらない。
髪の色は、黒・茶色が多く、銀髪・金髪系もそれなりにいた。ただ、髪の色と地球人的見方における人種に共通性は無く、『色白インド人』『色白東南アジア系』にも普通に金髪・銀髪が存在した。
微妙に純日本人顔の俺は目立つか?と心配したが、周囲の様子を見るに特段の視線は感じないので、問題なさそうだ。
あと、SFやファンタジーなら非人間な者たちが闊歩しいるのが良く有るケースだが、特にそれらしい存在も見当たらない。まあ、エルフのような耳だけ違うキャラはちょっと見では分かんないけど。
ただ、剣や、斧・槍と言った武器然としたモノを腰や背に装備した者がそこここに見受けられる辺りは、SF&ファンタジーワールド感が満載だ。
住建造物は石材を多く使うタイプで、日本はもとより東南アジアとも全く違う旧ヨーロッパ的な物かもしれない。かもしれない、なのは俺がヨーロッパ建築に知識がほぼ無いのでイメージで言っているだけだからだ。
街中は結構清潔感があり、中世ヨーロッパや日本併合前の韓国などのように道に糞尿をまき散らしていると言うよう汚臭があふれるなことは無かった。
そう言えば、中世ヨーロッパについては中学の世界史でその環境を聞いて唖然としたことを覚えている。
なんとなく剣・王様・お姫様・お城・舞踏会と言ったファンタジー的イメージがあったが、実情は前記糞尿まき散らし、貴族ですらのみシラミがいて当たり前、衛生環境なんぞくそ食らえってなもんで、そりゃペストとか大量発生するよってな状態だったらしい。
韓国に至っては、100年前までそんな状態だったと言うから唖然とする以外無い。
どうやら、俺がもしこの国の旅行記を書くとしても、イザベラ・バード嬢のような文は書かずにすむようだ。いや、書く気無いよ。文才ないし。
あと、文明レベルは見える範囲ではあるが、電気はなさそう。内燃機関・外燃機関の乗り物も見当たらない。馬車・荷馬車等、馬力人力が普通のよう。
一応、魔法が有ることはあの農民のおっちゃんたちから聞いていたので、魔法を使用した移動媒体とか移動方法なんて物もああるのかもしれないとは思っている。 いわゆる『魔法文明』的なやつだ。
マナドライブとか、エーテルリアクターとか…う~んファンタジー。チョット良いかもしんない。
そして、ガラスが見当たらない。周囲の民家はもとより、商店とおぼしき物にもガラスは無く、ショーウインドなど皆無だ。ひょっとしたら件のの貴族の館やお城などには有るのかもしれないが。
文明レベルは日本比較なら江戸時代中期かな?まあ、銃器の有無でだいぶ時代が変化するとは思うけど。
そんなとこが、20分ほど街を歩いて見たうえでの感想だった。あくまでも大通りを真っ直ぐ歩いただけで得られたデータに基づくものだから、こんなもんでしょーが無いでしょう。
それともう一つ特記しておく物がある。それは『文字』だ。道路沿いにある店と思われるモノに商店名・製品名・価格が書かれているのだが、それが普通に読める。
ってかほぼ日本語。漢字とカタカナ。『ほぼ』なのは微妙に違うところがあるから。と言っても文字単体ではともかく、文章や単語なら前後の文字から普通に認識できるレベル。
言うなれば、チョット見慣れない変わったフォントという感じ。
平仮名は今のところ見ていない。数字もほぼアラビア数字(1234567890)で違和感なく理解できた。
まあ、言語が全く同じなら表記文字も同一系になるのも分からない気はしないでもないけど…ど~なんだろ、元の世界の漢字の変遷や仮名の成立、それにまつわる時代背景とか考えるとね。微妙…楽で良いっちゃ良いけど。
言語と文字の相似性から、『異世界』カテゴリーでもその中の『パラレルワールド』枠に該当しそうな気がする、などと考えてしまったりなんかする。
で、そんな愚考を続けるうちに着きました『冒険者協会』。
農家のおっちゃん曰く、就職の当ても頼る当ても特殊技能も無い者が当座でも金を手に入れるなら、犯罪に走るか冒険者となって稼ぐ以外無いとのこと。
(おっちゃんからは、犯罪に走っても、畑の作物には頼むから手を出さないでくれ、と頼まれましたよ…)
冒険者とは、『基本命をかけた何でも屋』とでも言う存在で、特定の依頼を受けそれを実行し成功報酬を得る仕事らしい。
RPGゲームで良く有る冒険者ギルト・クエスト・クエスト報酬ってヤツとだいたい同じようだ。
俺のように根無し草(この世界ではね)や家を継げない二男以下で職の当ての無い者が至る標準的な最終就職先の一つってことだ。
そんななので、敷居はムチャクチャ低く、登録さえすれば誰でもなれるそ~だ。もちろん、それだけにマイナス要素が有るわけで、それが『命の危険』ってことになる。
冒険者の仕事には、街中の雑用も有るが基本低賃金でまともに収入を得ようと思えば郊外に出て、『魔物』いわゆるモンスターを相手にしなくてはならない、んで結構な数が帰らぬ人となるそ~な。
これがゲームだったら無条件でモンスター相手に切った張ったやらかすんだろうけど、悲しいかなこれ現実なのよね、死んだら死ぬんだよ。うん。
だから、その低賃金の街中雑用クエストを受けようと思ってここへ来たわけだ。なんせ、現状文無しだから…
あと、この世界では『ギフト』と言う神から与えられた恩寵と言われる能力が個々人にあり、それもここで確認できるとのこと。
あの、白いドーム内で右往左往していた有象無象達の言っていた『俺Tueee』じゃないが、魔法とかには興味はある。ファイヤーボールとか、アイスニードルとか、あと「黄昏よりも暗きモノ…」とか唱えてみたいし。
異世界出身の俺にもこの『ギフト』が有るかどうかは微妙ではあるんだけど…
そんな妄想と不安を浮かべつつ三階建てほどのその建物の入り口をくぐった。
中は結構広く、入って直ぐ右手に『総合案内』の受付、そこから奥に向かって三ヶ所の無表記の受付、正面奥の半分は大きなカウンターテーブルになっており上部に『素材買い取り』と書かれていた。
更に、入って左手奥には『依頼者用』の受付が一つあり、そこから奥に向かっての壁には20センチ×15センチほどの紙が腰高から2メートルほどの間に、50枚以上貼り付けられていた。
その50枚の紙はまばらで、壁面には隙間が多く存在していた。多分あれが依頼の書かれた紙で、隙間は誰かが依頼を受領する為に取った後だと予想できた。
そんな感じで入り口でキョロキョロしていたので、一見さんだと思われたらしく総合受付の40歳代とおぼしき男性から、何かご用でしょうかと誰何の声が掛かった。
ちょうど良いと思い、冒険者登録の旨を伝えると、少し意外な顔をしたが右手の受付を案内してくれた。
時間的な問題なのか、現在この協会内には職員以外は『依頼者用』窓口に二名いる以外はおらず、その為か案内された窓口も三ヶ所のうち一ヶ所しか受付はいなかった。
その唯一の受付には20代前半とおぼしき垂れ目がちの女性無がおり、『総合受付』での会話を聞いていたのか、ご登録でよろしいですねと言って紙を差し出した。
紙は登録用紙らしく、氏名・出身地・年齢・技能を記入する欄があった。
「一応、代筆は可能ですのでご希望でしたら申しつけください」
ニッコリと微笑みつつそう言ってくる。お世辞にも美人のカテゴリーには入らない顔立ちではあるが、この笑顔は柔らかくて安心感のある笑顔で、良いなと思えた。
「微妙に字が違うところの出身なので…それで良いですか?」
一応確認すると、分かれば大丈夫とのことだったので、書き込む。
名前:大河平一 出身地:日本 年齢:17歳 技能:未記入
その状態で提出すると、受付嬢は一通り目を通しこちらを向いてあの微笑みを浮かべながら確認を取ってきた。
確認は、名前の読みと出身地と未記入の技能についてだった。
「名前は、おこびら・はじめと読みます。出身地はかなり離れたところにある大小四つの島を中心とした小さな島国です。多分ご存じないかと…あ、やっぱり知りませんよね。いえ、辺境で小さな国ですので、はい。技能は『ギフト』の確認をしたことがないので分からないので書きませんでした。それ以外に身につけた技能とかもありません。」
こんなんで大丈夫か?と我ながら思ったんだが、あっけなく、はい分かりましたと言ってすんなり通ってしまった。さすがは最終終末就職先の名はダテでは無いようだ。
ただ、このザルな対応の理由はその後直ぐに分かることとなる。
受付嬢の指示に従って置かれた手の平の形にわずかにへこんだプレートに指示通り右手の手の平を乗せると、静電気が流れるようなビリッとした感覚がした。
受付嬢は受付内の手元にある手形のプレートとケーブルでつながったプレートを見て小さくうなずいた。
「はい、確認できました、賞罰なし、問題ありません」
そう言うと、見ていたプレート側面から8センチ×3センチ厚さ2ミリほどの鈍色のプレートを取り出し、俺に渡してきた。
プレートには名前、更新日時、冒険者協会ランク(Z)、レベル(3)が浮き彫りで書かれていた。
…色々突っ込みたい所満載である。でもまあ、一つ一つだ。
先ず尋ねたのは『賞罰なし』と言われたことについてだ。どうやらあの手形のプレートは魔術具の一種で、人のカルマ値的な物を測定し、賞罰を判断できるらしい。更に、入力した項目(名前とか出身地とか)の虚実も確認できるらしい。
魔法すげー。これ有れば裁判とか楽勝じゃん。政治家とか選挙前に色々確認すれば8割は消えるじゃねぇ?。某隣国の戦争被害者を騙るばーさん連中は絶滅じゃん。
これ聞いた時は、思いっきりポカンとした顔で、知らないんですか?と尋ねられたよ。超田舎もんなんで…と言い訳すると、微妙に哀れな者を見る目になった気がする…まあ、良いんだけどさ。
どうやら、スラム街の者ですら当たり前に知るレベルの常識だったようだ。
次に、鈍色のプレートについては、冒険者標章というヤツで、通称冒険者カードと一般には呼称されており、身分証明書としても有効で、冒険者協会でのクエスト受注処理に使用し、必須らしい。
身分証明書としての使用する場合は、最低でも半年内に更新した日付が入っていないとダメらしい。通常の冒険者は依頼の受注・完遂報告時に更新されるので意識する必要は無いとのこと。
何らかの理由で長期間依頼を受けなかった者のみがこの更新日時を気にかける必要がある訳だ。まあ、理由無く更新が長期間されていない者って怪しい以外の何者でもないよね。俺にだった直ぐに分かるよ、はい。
で、一つ飛ばして『レベル』だが、これはいわゆるRPG的レベルで良いようだ。
ただ、ゲームのように経験値が一定以上たまってレベルアップすると各パラメーターが上がり強くなるって言うヤツでは無く、その時点のいわゆるパラメーターを総合的に換算して導き出した値がレベルという数字となるようだ。
当然、自動的にこのプレートの数字は変わることは無く、自己申告で(有料)確認を行い書き換えをしなくてはならないそうだ。その確認・書き換えは冒険者協会でしか行えないとのこと。
低レベルの者は別として、ある程度のレベルに達している者は半年に1回とか、1年に1回確認すれば十分らしい。まあ、ゲームのように、そうそう簡単にはレベルは上がらないらしいからね……
俺のプレートに書かれているレベル(3)はそのまま現在のパラメーターから換算したレベルは3と言うことになるわけだ。
このレベル3が冒険者的にどの程度なのか聞くと、あくまでレベルは総合値なので比較は出来ないとのこと、特に低レベルの場合は更に比較しづらいそうだ。
登録前にある程度剣術等を鍛えている者は15歳程度で登録時にレベル3~5の者も多いそうだ。一応、レベル1登録者もそこそこいるらしい。
言われたのは、油断すれば角ウサギにすら殺されかねないレベルだから、気をつけるよう言われたよ…
一応、不安になったので、あの大ムカデ(正式には鮮血ムカデと言うそうな)と角ウサギの比較を聞くと、圧倒的にムカデの方が強いらしく、鮮血ムカデを見かけたら全速力で逃げなさい絶対に手を出さないように滔々と言われたよ。いえ、言われるまでも無く実行しましたよ。死ぬ気で。
魔法とか使えたり、ある程度の人数であたるなら、ある程度の低レベルでも問題ないようだが、レベル3程度の者では6人パーティーでも全滅必至だそうな。当然、ソロなら言うまでも無い。
アレがゲームでのスライムクラスでなくてホッとしたよ。もしアレが最弱モンスターだったら絶対無理ゲーだし。一生街中お使いクエストだけやってたと思う。
で、最後に『冒険者協会ランク(Z)』だが、これは冒険者個人の肉体的なものでは無く、冒険者協会における商業的もしくは信用度的な意味のランクになるそうな。
括弧内がそのランクなわけだが…Z…2でも乙でなくゼェ~ットである。
このランクはAからZまであり、当然Aが最高レベルでZが登録初期と26段階に別れているらしい……多すぎだろ!!! 10段階とかでも多い気がするのに、よりにもよって26段階だぁ~?なんじゃそれ。
だいたい、なんでアルファベット?アラビア数字が有るだけでも違和感あるっつうのに、アルファベットだ?ふざけ……えっ、冒険者協会発祥の地がアルファベット使用国でその規格をそのまま持ってきて世界共通化してるんですか。はぁ、そ、それは素晴らしいです。グローバルです。ISOです。はい、ごめんなさい。
…このランクは受けた依頼のレベルに応じ得点が与えられ、各ランクごとに昇格点数が定められたおりそれを超えた時点でランクアップするというシステムらしい。で、この点数だけど、冒険者票書と冒険者協会端末に記録されているらしい。なにげにハイテク。
ランクアップがあると言うことは、当然ランクダウンもある訳で、依頼を失敗したり冒険者自身の過失によって何らかの問題を起こした場合、減点され規定数を下回ればランクダウンとなる。
このランクは依頼を受ける条件に明記されており、その規定以下のランクの者は受けられなくなっている。また、このランク制限は下限だけで無く上限もあって、上位ランク者が下位の仕事を荒らせないようになっているとのこと。
通常依頼のランク制限は、XからZといった感じで3ランク程度の幅で規定されるのが一般的らしい。例外も大量にあるらしく、あくまで一般的にはと言うことになる。
あと、先ほど書いた冒険者標章のデーターの件だが、この個人のカードは個人データーのみで無く、冒険者協会内部データーも入力されているらしい。、各冒険者協会ごとのデーター差分が入力され、他の地域の冒険者協会へ行った際そのデーターがその協会の端末に書き込まれ、周辺協会間でのデーターの均一化を行っているらしい。
元の世界で言う、非ネットワーク環境下のパソコンでUSBメモリー等で逐次データーの差分を書き換えている感じか?
ある程度の時差やすれ違いはあるが、通信環境のない世界ではかなり効率の良い方法なのでは無いかと思う。なんせ、護衛依頼等で、常に街から街へ国境すら越えて冒険者は移動する。その際、自動的に情報の運び屋になるって寸法だ。良く出来てる。
このシステムは、どうやら本家冒険者協会の秘中らしく、あの登録に使用したプレートなどと共に本家から借り受けて使用している形になっているらしい。
ムチャクチャ凄い技術ですね、と言うと、大きくうなずきつつ『アーティファクト』を使用して作成しているのではと言われています、とのこと。『アーティファクト』ファンタジー用語来ました。超古代魔法文明遺産レベルの用語ですね。何でもあり用語です。はい。
どうも、この世界は技術レベルにばらつきがあるのかもしれない。その原因の一端はこの『アーティファクト』と言うヤツかもしれない。案外、俺がこの世界に来たこの現象も『アーティファクト』が使われてたりして…ありえるかも。
まあ、この世界に来て2時間程度の者が考察するようなことじゃ無いんだけどね…
そして、最大の懸案である『ギフト』の確認である。
ギフトの確認を願い出ると、笑顔の素晴らしい受付嬢(推定22歳前後)は笑顔を落っことして怪訝な顔をした。
「…本当に過去一度もギフトの確認を行ってないんですか?17歳ですよね。普通田舎の村でも巡回で協会関係者が回ってくるはずなんですが…」
どうやら、賞罰が分かる件と同様、有り得ないレベルだったようだ。
「はぁ、すみません、ホントに初めてなんです。ってか私の国日本では『ギフト』自体が知られていなかったんで…嘘じゃ無いんで、あのプレートで確認して頂いても良いです」
そう、嘘じゃ無い、元の世界じゃ間違いなく無かったしね。そう考えつつ申し訳ない顔でお願いすると、ホントどんな辺境なんですかと呆れつつ準備をしてくれた。
今度のモノはソフトボール程の水晶球で、その上方がプレートの時と同様手形状に少しくぼんだモノだった。右手の手形なんだが、事故等で右手の無い人はど~すんだろうなどと無駄な心配をしてしまった。
そして、同じように指示されて右手を乗せると、今度はゲーム機のコントローラーや携帯のバイブが動いたような振動感を感じたが、視覚的には変化が無かったことから多分実際には動いてはおらず感じただけなのだろう。
5秒ほどすると水晶球が淡く光り出した。
「白い光、無属性の魔力適正で、魔力量は多くも無く少なくも無くって所ですね。あと、ギフトはチョット待ってください」
受付嬢は水晶球につながった握り拳大のボックスをPCのマウスを扱うように握った。その直後強めの静電気感を感じ、ビクッと震えた。心臓に良くないよこれ。ペースメーカーの人とか大丈夫?っていないかそんな人この世界には…
「手を離してください、えぇと、あ出てます」
受付嬢は水晶球をのぞき込んでいた。確かに、水晶球の中央付近に淡い光で文字らしきモノがあった。俺も顔を近づけて読む。
「え~っと、符術士?なんですかこれ?」
符って御札とかのあの符だよね。ひょっとしてアレかい、陰陽師みたいに符だを使って火を出したり式神とばしたり、某裏高野のぼんさんみたいに孔雀明王火炎呪なんて出来んのか?すげー。これは燃える。萌えるじゃなくて燃えるだ。
頭の中ではプチフィーバー状態。ギフトの無い可能性もあった中で魔法系?のギフト。最高である。やったね一ちゃん。今日から安倍一に改名しようか。創氏改名じゃあぁぁぁぁ。
脳内プチフィーバーはしばらく続いた。多分厨二病に感染したのかもしれない。いや感染では無く発症か。
そんな脳内プチフィーバーが続く俺を悲しそうな目で見ている受付嬢にしばらくして気付いた。冷めた目や呆れた目ではなく悲しそうな目なのが、気になり尋ねるとその理由が分かり、俺の厨二病はとたんに治ってしまった。病原菌絶滅である。
悲しい瞳の受付嬢は語る。
符術士は符と呼ばれる紙に特定のパターンを書き込み、それを使用することで魔法と似た効果を発揮できる魔法職の一種である。
しかも、一般の魔法職と違い符術発動時には微量の魔力しか使用しない為符の数があればあるだけの術が使える。
以上が符術の利点である。そして、符術にはこの利点を補ってあまりある欠点がある。
それは、符術士の符は自分で作成したモノしか使用できないと言うことだ。他人が作成したモノには魔術のパスが通らず起動させることは出来ない。例え親兄弟であろうとも、共用は出来ない。
そして、この『自分で作成した』と言う点が『紙』にまでおよんでくる。つまり、紙から作らねばならないと言うことだ。紙すき必須である。
符術師は、木から紙の材料を採取し、一連の紙制作工程を経て紙を作り、その紙一枚一枚に細やかな紋様をわずかな間違いも無く書き込んでやっと符術が使える段階になると言うことだ。
更に、この符に紋様を書き込む際には自分の血液を絵の具として使用しなくてはならない点も忌避感の原因でもある。
更に更に、符には一つの機能しか与える(書き込む)ことは出来ない。つまり、燃える・凍る・突風・凹む・凸・光る・放電・炸裂などで、その効果は符を起点に発生する。
符から炎の玉は飛び出さない、その符から激しい炎が立ち上る。その符から氷の矢やボールは飛び出さない、その符やその符が接触しているモノが凍る。この符術に発生した現象を移動させる力が無い(付加出来ない)。使用するには目的物に貼り付けて使用しなくてはならない。
以上から、符術士には接近戦の技能が必須と言うことになる。そうで無ければ、罠などのあらかじめ先制が可能な場合にしか役立たず、遭遇戦等の一般的な戦等では役立たずとなる。
符は折ったり一定以上曲がった状態では発動出来ない。為に、石に巻き付けて投げたり、矢に貼り付けて飛ばす等も発動出来ない為無意味となる。
以上、悲しい目の受付嬢談である。
……つ、つ、仕えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
なんじゃそら、紙すきって、あれか、どこぞのメイン職業農家な40代アイドルバンド的なことをやれとぉぉぉぉぉぉぉぉ、明雄さんヘルプミィィィィィィィ。この世界に転生してないかぁぁぁぁぁぁぁ
ちょっと前まで脳内はプチフィーバーだったのが、現在はお葬式です。大喪の礼レベルのお葬式です。半旗がひるがえってます。はぁぁぁ…