16.ウッちゃん改造計画 そして旅立ち
『鎧猪肉の入手』クエストをターゲットにして4日がたった。一日一頭、平均140ダリの収入になっている。
本日は雷雨。とーぜんお休み日である。
俺のは、乾燥させた各種薬草類を粉末にしたり、有るだけの紙を『符』にして過ごした。湿度が高い時にするのは微妙な気もしたが、以前もやって特にカビったりもしていないので大丈夫のはず。
無論、合間に筋トレ、ストレッチ、『符』のパス訓練もやっている。
そして、瞬は朝からお悩み状態だった。
「うぅーん… うぅーん… でもぉ… 強度がぁ… あっ!…やっぱり駄目かぁ…」
終始こんな感じだ。
何やってるのかと覗けば、ノートに『ウッちゃん』用台車の設計をやっているようだった。
「何か問題でも有るのか?」
「ふぇ? あ、えっとですね、あのリヤカーですけど、毎回現地で作ってるじゃないですかぁ、で、近くに木が無くって探してるでしょ、あれを何とか出来ないかなあって思って」
確かに初日以外、近くに木が無い事が多く、1キロほども移動して木を確保する事もあった。なにぶん草原地帯で、所々にしか木は無く、有っても丈の低いモノばかりだ。
「でも、街から引っ張って行くにはMPが足りないんだろ?」
「そーです、そーなんです、で、そこを何とかならないかな~って色々考えてるんですよぉ」
現状の瞬のMPでは、ずっと『ウッちゃん』を維持し続けるのは何とか可能だが、常時台車を引かせるとその負荷分で余分にMPが消費され、戦闘に使用出来るMPが足りなくなる。
そのため、常時台車計画は頓挫した。
「色々考えたんですよ、リヤカーの軽量化、『ウッちゃん』小型化、とか。リヤカーの軽量化ではフレームを中空構造にして、中をラチス構造にまでしてみたんてすよぉ」
…らちす構造? 何でも三角形を使用した強度の高い構造らしい…変な事知ってるなこいつ。
「台車の軽量化が限界なら、『ウッちゃん』を軽量化すればいいんじゃね? そのらちす構造ってヤツでさ」
「駄目ですよぉ、『ウッちゃん』が軽くなると、リヤカーが引けなくなっちゃいますよ。重量が無いといくら力が合っても重量物は引けないんですよ」
…あ、そーいや、物理で習ったっけ。こいつ理系なのか?
「いっそのこと、台車自体を動くようにしたらどーだよ。ま、戦闘じゃ使えないけど」
「それも考えはしたんですよぉ、車輪だとゴーレムの『動かす力』で回転させる事は出来ないんで、4本足を付けるとか。ついでに戦闘でも使えるようにケンタウロスみたいな上半身も付けて…とか、でも4足歩行ってうまく行かないんですよ。歩くのは何とかなるんですけど、走ると転けちゃう」
うーん、普通2足歩行より4足歩行の方が安定しているし簡単な気がするんだけど…あ、そーいや、どこぞの国が4足歩行の牛みたいな軍事用(?)ロボットみたいなのを作ってたけど、あれは確かに変な動きではあったな。
シュン自身は以前、『ゴーレムは人型である必要すら無い』って言ってはいたが、だからといって人型と同様に操作出来るかはまた別の話って事か。
「軽量化が出来ないなら、後はMP自体を増やすか、補充するか、後は使用MPを減らすしか手は無いんじゃね?」
「MPは簡単に増えてくれませんよぉー、それにMP回復薬っていくらすると思ってるんですかぁ!!あんなの買えませんってば。はじめさんが1/5でも1/6でも良いから作ってくださいよぉ」
MP回復薬こと魔力回復薬は400ダリする。宿2人分の代金13日分以上… とても日常で使える金額ではない。あと、魔力回復薬のレシピは知らないので1/5的な物も作れない。
「使用量って言っても、サンドゴーレムよりウッドゴーレムは半分以上少ないんですよ。形を維持する必要ないですから。関節とか変形させるだけですからね。燃費良いんですよぉ」
あ、『形を作る(維持する)力』『動かす力』『変化させる力』だっけ。サンドゴーレムと違って『形を作る(維持する)力』が形成時にしか要らないんだったな、その分サンドこーレムでは必要なかった『変化させる力』が動かす時に必要だと。
『変化させる力』か…関節…?
「なあ、『変化させる力』を使わないように出来ないか?」
「何言ってるんですかぁ、サンドゴーレムならともかくウッドはその力を使わないとカカシですよぉ。さっきも言ったけど、車輪みたいな回転運動は『動かす力』じゃ出来ないんですから」
「あー、えっとだな、つまり、関節部分をフィギュアとかみたいに元々動くように出来れば『動かす力』だけでいけんじゃね?ってことなんだが」
「ああぁーーーーー! ボールジョイントぉーー! それ有りかも知れませんよぉーー! うん、多分大丈夫、強度は落ちるかも知れないけど、やってみて…」
それだけ言うと、ぴゅーっと部屋を出て行った。多分『ウッちゃん』を置いている厩に行ったのかも知れない。
結局瞬が部屋に戻って来たのは昼も半ばを過ぎてからだった。どーやら昼飯も食わなかったようだ。
ただ、ただ、どや顔で『ウッちゃん改』と共に俺の横に立った。
「ふあぁっはっはっはっはぁ、ついに出来ましたよ、見て聞きいてビックれ、これぞ新生『ウッちゃん』、『ウッちゃんMkⅡ』だぁーーーーーー」
あー、改ではなくMkⅡの方だったようだ、どーでも良いけど。
新生『ウッちゃん』は外観上は関節部にフィギュアなどのような筋が有る以外は身長、フォルム等は変化はないようだ。
その上で細部まで見た所、指の一本一本まで可動出来るようになっていた。後、腹部に大きなボール関節(?)が有り、漫画家が持っているポーズを取らせる木製人形みたいなヤツに見えてきた。
「どーですか、どーですか、くわんぷぇきでしょう! ちょびっと強度は落ちましたけど、消費MPは3/5に、更に早さは気分的には3倍ですよ赤で塗って角付けたいぐらいですよぉーー」
いやいやいや気分的に3倍ってなんだよ。そんな事を思っていると、瞬は『ウッちゃん』を動かしラジオ体操を踊らせた。
その動きは、確かに速く、普通に人間と遜色ない早さだった。さすがに3倍は無いが、2倍はいけてるんじないか?マジな話。
どーですか、どーですかと繰り返す瞬を一応褒めておき、確認も取っておく。
「で、これなら台車街からずっと引っ張っていけそうなのか?」
「多分、ギリだと思いますけど、いけると思いますよぉ。でも出来れば、途中3回ぐらいは休憩があるとベストかと」
「了解、明日からいけるか?」
「もちのろんですよ、リヤカーも今から作っときますねぇ」
と言ってまた、ぴゅーと厩横の今まで持ってきた台車の廃材を積んだ所へ行ったようだ。
ちなみにその夜、ねる前まで、「画期的ですよ」とか「革命です」とか「金属系でもつかえますよぉ」とか終始うるさかったよ。まあ、頑張ったんで我慢したよ。軽めのヘッドロックだけで。
そして、『ウッちゃんMkⅡ』+リヤカー(もう形が完全にリヤカーになってた)を使っての『鎧猪肉の入手』クエストが続けられた。
実際、瞬のMPは一日持った。それでもイレギュラーに備えて、郊外では1時間に10分ほど休憩を入れるようにしている。ギリギリはいけない。
西門までの住人や門番の人たちもこの頃になると、この変な存在にもなれ、変な目で見られる事は無くなった。通りがかった人は別だけどね…
あと、この『鎧猪肉の入手』クエストは1頭しか持ち帰れない関係で、直ぐに発見して狩ることに成功すると、半日時間が空く事もあった。
無論、逆に発見すら出来なければ収入は、ザコ魔獣の魔石分だけになってしまうのだけどね。あの草原にはセイレン草や魔松茸のような常設系依頼のあるような植物は無いし。
時間が空いた時は、俺は紙を作り、瞬は宿の手伝いで『ウッちゃんMkⅡ』とリヤカーを使った買い物(荷物運び)をやったりしている。
なんたって、色々なモノを宿に置いてるわ、作業をするわだから、そこら辺のお礼と言おうか罪滅ぼしでやっている。
リヤカーに乗って爆走する娘ちゃんは笑顔だ。行きの空荷の時はもちろんも、帰りの薪を積んだ時も薪の上に鎮座してお玉を振り回しつつ堪能している。良い事だ、きっと。
そして『鎧猪肉の入手』クエストをターゲットにして9日目も、北西草原に入って2時間ほどで1.8メートル程の大モノを仕留め、早々と冒険者協会へと帰ってきた。
そして、いつものように処理をして、他のお客が居ないのを良い事に、ソアラさんと話しに興じる。
その日の話の第一声は「隣の国で政変がありました」と言うモノだった。
一瞬ぽかーんと俺たちはしていたと思う。何せ、政変なるものが身近に無い国に育ったせいで今ひとつぴんとこなかったんだよ。
それでも詳しく聞くと、何でも東の隣の国である『神聖ハルキソス神国』という国で、突然王位簒奪が起こったらしい。正確には教皇からなので皇位簒奪に成るな。
この『神聖ハルキソス神国』は名前に神の字が2つも使用されてい事から分かるように、教皇をトップとするガッチガチの宗教国家なのだそうだ
光明神ハルキノスと言う神を唯一神とし、それ以外を邪神・邪教とする、まあ、中世のキリスト教国家みたいなモノだ。
この世界は多神教が多く、国教を定めない国が大半なので、当然浮きまくっているらしく、実質周辺国家からハブられているらしい。
で、その『神聖ハルキソス神国』で10日ほど前に、突然『ジョー・ジオーマ』なる人物がたった一人で教皇・有力貴族を全て殺し、その国を簒奪したとの事。
冒険者教会は一応『神聖ハルキソス神国』にも有り、色々制限は多いが活動はしているらしく、そこからの情報だそうだ。
この『ジョー・ジオーマ』なる人物が誰だか分からない。元々の教会関係者や貴族関係者にもこの名は見当たらず、誰も正体が分からないと言う。
この日この時まで全く知られず、出入国記録は元より他のどのような記録にも無く、この日突然現れたかのようだと言われている。
更に家名である『ジオーマ』家なるものも貴賤関係なく調べるも『神聖ハルキソス神国』には存在しないらしく、他国の先兵なのでは無いかと噂されていると。
まあ、そんな話だった。
念のために、この国・俺たちに何か影響があるか?と言う点を聞くと、元々国交は無く、東部の険しい山岳地帯が隔ている事も有り直接的な問題は無いだろう、との事だった。
良かった。なんぞ戦争にでも巻き込まれるんじゃ無いかと心配したよ。
その日の夜、この事で2人で話した。
「それまでに、なんの記録も情報も無くって突然現れたって、あれ、転移者じゃないですかぁ」
それは俺も考えはした、でもな…
「新たにまた、俺たちみたいな異世界転移が起こったとして、いきなり皇位簒奪とかするか? 皆殺しだぞ?」
「うぅ… そこは確かに変ですよね。日本人と皆殺しって何か結びつきませんよねぇ。まぁ、異常者は居る事は居ますから、一般論ですがぁ」
「仮にだ、そいつが俺たちとは別の世界から来た人物だとして、何らかの強力な『力』を持ってたとしても、やっぱ、来たとたんってのがなーー」
「ジョーは日本人でも居る名なんですけどねぇ、東さん家の丈くんみたいに。でもジオーマって名字は聞いた事無いですよねぇ…やっぱ別の世界の、しかも危ない人なんですかねぇ…やだな、こっち来ませんよねぇ」
仮に転移者でしかも同じ世界の日本から来た者だったとしても、関わり合いには絶対なりたくないよな。
「ま、関わらない方向で」
「デスデス」
情報も少ない事だし、これ以上考えるのは無駄だと、寝た。かなりトンチンカンな方向に考えてる可能性はあるからね。馬鹿な考えなんとやらってヤツだ。
そして『鎧猪肉の入手』クエストをターゲットにしてから14日が経過し、1000ダリオーバーの金をこの間に貯蓄する事が出来た。
以前の貯蓄分も合わせ、4000ダリを超えた事になる、食事金額換算で80万円って感じだ。中高生には大金であるが、この2ヶ月ちょっとの間命をかけた代金として考えると微妙だよ。
一ヶ月1人20万円か、あ、一応生活費や雑費を引いた上でだけどさ。…命の値段が軽い世界って事だよな…
この貯めた金だが幾つかの使い道を考えて貯めている、一つは王都までの旅費、二つ目は装備の更新&改造、そして最後は最終目標の土地の購入になる。
装備については、現在のモノは初期に購入したチョット良さ目の低グレード品なので、上を見ればきりが無い選択肢がある。どこら辺で妥協するかを懐具合と性能と相談する事になる。
土地については、いつまでも宿暮らしはマズいので、自分たちの家が欲しいから買っちゃおーぜ、って話だ。で、なんで『土地』なのかと言うと、家は瞬のゴーレムで作っちまえば只って事だよ。
最初は掘っ立て小屋で十分なので、随時材料を持ち帰り、改築・増築を繰り返しつつ形にしていく事を計画している。
その間に、瞬がロックゴーレムを作れるようになれば、石+木と言うここら辺りの家と同様の家が作れるはず、と、捕らぬ狸のなんとやらしているわけだ。
で、最初の旅費の件だが、これを実行に移すつもりだ。バカが処刑されるトラブルがあり、チョット考えていたのだが、王都の冒険者協会には支部と比べものにならない蔵書を持つ図書室があると聞き考えを改めた。
日本人との接触は現地について、雰囲気を見た上で判断するつもりでいる。
今回の王都への旅行の目的は、図書館で『符術師読本(下巻)』を読む事(有るか分からんが)と観光+情報収集となる。
『符術師読本(下巻)』以外にも、魔力回復薬などのレシピがあればなお有りがたい。ま、回復薬のように1/5的な物が作れるとは限らんけどね。
そして、行くと決めてから2日ほど掛けて準備を行う。なんせ、宿の部屋の中はビンや瓶、判子の入った箱だのが所狭しと置いてあった。
その上、『ウッちゃんMkⅡ』とリヤカー、白蕩木の山に紙干し板…これを持っていけるわけも無く、保管をお願いしなくてはならなかった。
一応、期間限定で預かって貰えたのは有りがたかった。まあ、50ダリ取られたけど。
それと、ダメ元で王都方面へ向かうクエストを探したが、予想通り俺たちが受けられるモノは無かった。ま、ランクWじゃね。
つまり、自費で行くしか無いという事だ。ソアラさんに相談もしたが「無理です」とにべもなかった。
ここレオパードの街から王都へ向かうには2つの方法が有る、一つは西門を出てそのまま西街道を7日ほど掛けて徒歩・馬車で移動する方法だ。
もう一つは、『海』から流れ出す川を船で下って2日ほどで移動する方法になる。だが俺たちに選択の余地は無い、陸&徒歩の一択だ。
なんせ、船は高い、一人500ダリ…むーりー。馬車も一人300ダリ…むーりー。と言う事で歩くのさ。テクテクテクテクと。
幸い、魔獣に付ては、街道沿いは無茶なヤツは殆どで無いそうで、盗賊の方がよっぽど怖いとの事。
そんな感じで準備し、宿の人やヴォルツさん達に挨拶し、冒険者協会のソアラさんにも挨拶に寄った。
「今から行ってきます」
二人で挨拶すると、簡単な道中の注意事を教えてくれた上で、意外な事を言った。
「お二人のゴーレム馬車なら多分3日から4日で付くとは思いますが、無理は絶対にしないでください」
と……
「ゴーレム馬車って?」
「? あの馬車で行かれるんじゃ無いんですか? 普段鎧猪を運んでいる」
……
「あぁーっその手が有ったぁーーー!!」
「…今の今まで全く気づかなかった…です」
「では、歩いて行かれる気だったんですか?」
「はい…」
その後、『魔獣のいななき亭』までダッシュで引き返し、おばちゃんに呆れられつつリヤカーと『ウッちゃんMkⅡ』を引っ張り出して、再度出発した。
さすがに、街中でリヤカーに乗るのは少し気が引けたので、西門を出た所で乗り込み移動を開始した。
リヤカーの乗り心地は良くない。なんてったって、足回りガチガチのヤンキー車よりガチガチだ。ショックもダンパーも無い。車検絶対通らんレベルだ。
「もっと早く気がついてたらクッションとか持ってきたのにぃ」
瞬も泣き言を言いつつ、『ウッちゃんMkⅡ』を早足で走らせ続けた。
「これって、魔力を燃料に動かしてる車みたいなもんですよねぇ」
「だな、どっちが良い、自分の足で歩くのと、魔力でゴーレム使って移動するのじゃ」
「多分、ゴーレムの方が楽ですね。きつい坂になったら別ですけどぉ」
「坂になったら降りて歩くか」
「ですね」
瞬の集中力の問題もあって、余り無駄話も出来ないのだが、以前から比べると格段に制御したまま動けるようになっているので、無理はさせてはいないようだ。
実際問題として、俺自身さほど無駄話する暇が無かったりする。なぜなら、多くのすれ違う・追い越す者たちから、驚かれたり警戒される度に謝罪し、問題ない事をアピールしなくてはならなかったからだ。
この街道は、王都と副都と呼ばれるレオパードを結ぶ陸の大動脈なので、とにかく人通り、馬車通りが多い…で、そのたびに…
「あ、驚かして済みません、只のゴーレムです、はい」
「あ!!違います、魔物じゃ無いです、盗賊でも無いです! ただ馬車をゴーレムに引っ張らせているだけです!」
などと言い訳を続けなくてはならなかった。
なんせ、護衛の冒険者のかなりの数が剣を抜いて構えたりしてくれるんで、ね。全く。
どーやら、ゴーレムをこんな風に使う事は無いようだ。その為、ほぼ100%の確率で合う人全てに驚かれてしまう。
途中2カ所通り抜けた町と村でも、入り口の門番に驚かれ、街中は念のために歩かせて移動した。
と言うわけで、夕方近くに付いた町で、宿を借りて部屋に入った頃には瞬も俺もグッタリとなっていた。
ちなみに、リヤカーと『ウッちゃんMkⅡ』は宿の駐馬車場(?)へと止めた。
その後、宿にある食堂での一番の話題は俺たちだった…みんなから色々弄られまくったよ。1時間ぐらい。疲れた。
その際聞いたのだが、冒険者が使うゴーレムとは『戦闘用』で、それ以外の用途に使われる事はその付随行為のみだという。野宿中の警戒などがそれに当たる。
特殊な例として、依頼で受けて宝物庫や国境などでの警備、港での荷の積み卸しなどが有るらしいが、それ以外はゴーレム=戦闘兵器という認識らしい。
間違っても馬車を引っ張らせるような事は無いとさ。ま、有っても溝にはまって動かなくなった馬車を押したり、急な坂を押したりという程度だろうと。
基本的に、力はともかく、スピードが出ないのでその用途に使うものが居ないのだろう、との事だ。
だから、ゴーレムマスターでも無い者からも不思議がられ、尋ねられた。
そんな関係で、メタル系のゴーレム以外、連れ歩いたりする事はまず無く、その場その場で形成するのが当たり前なんだそうだ。
だから、レオパードの街でも一度も見た事が無かった。何名かはゴーレムマスターはいたはずなのに。
色々予定外の一日になった。
それから2日間、ほぼ同じような事が続き、ある程度は慣れはしたが精神的な疲労は溜まりまくったよ。
でも、その異形ゆえか、盗賊に襲われる事が無かったのはありがたかった。俺たちに人を傷つけたり殺したりする勇気(?)は無いからね。
そんな勇気だか覚悟だかは持ちたくないよ。一生。俺ら主人公体質じゃないしね。だから、盗賊さん来ないでくれよ一生。
そして、レオパードを出て、3日目の昼過ぎに王都が見える丘までたどり着いた。
高低差はさして無く、60メートルていどでは有るが、王都周辺は広大な平野地帯らしく、広範囲が見渡せた。
レオパードと同じように2重に囲む塀、その中には畑地と街。街の規模はレオパードの6割増し程か?
中央に城と思われるモノが有り、放射状の構造になったほぼ円形の都市だ。
郊外は、北東に大河が流れ、支流が2つの塀をくぐり街へと流れ込んでいる。北には塀の直ぐ近くまで森が接し、そのまま北の山々ので続いている。
南は、北東の大河から分岐した支流が交差し、多くの州が出来ている。湿地帯になっているのかも知れない。
西は、広大な草原地帯がひろがり、彼方に見える森林と山は霞んで見える。
俺たちは、眼下に流れる大河に架かる橋を目指し、道を駆け下る。
『ウッちゃんMkⅡ』がね。