10.雨の日も安心・・・あれ?
再依頼契約以降三日目の『下水道ネズミ駆除』は前二日間と同様に進んだ。成果は672匹。順調順調。
その翌日は650匹、そしてこの日で全ての枝道を駆除し終えた事になる。これで枝道封鎖撃滅作戦は終了だ。
今後は、これほどの効率的な駆除は不可能だと言う事になる。
なんせ、本道を塞ぐ壁ゴーレムはまだ作れないし、枝道も多少は後から入り込んだ奴らはいるだろうが、その絶対数は初回ほどでは無いだろ。
そして、四日ぶりの冒険者協会にて精算及び売却を行う、金額は合わせて1577ダリと4ダグリとなった。
食事価格換算で31万5480円…おおっ、うちの親父の手取りより…
以前の600ダリほども合わせると現在2000ダリ以上を持っている事になる。同換算で40万円。
あくまでも食事ベースの価格換算だから、この値が正しいかどうかは不明。ただ、俺たちは現状食事と厩代以外実質支払ってないので、これしか分からない。
それ以外に買ったのは、根こそぎ中古品だったからな…服・道具全部。 銅ですら、何かの欠片を売ってもらったし。
日本の価格が分かるもので無いと比較しようがない訳だ。だからとりあえず『1ダリ=200円』で考えることにする。銅の日本での市場価格なんざ知るかー!
「街中クエストで、これだけの額を稼いだのは、たぶん二人が初めてじゃ無いでしょうか」
ソアラさんも若干驚き顔だったが、これはあくまで四日分なのでと言っておく。ちょっとどや顔にならないように意識する。
「いえ、一日に換算しても400近いですよ、これは郊外の討伐クエストと同等です。しかも、近郊ではなく北西の森や南の森林辺り用クエストです」
まあ、日給で一人4万円近くって考えればかなり凄いよな。かなりキツい土方のバイトが日給1万位って聞いた事有ったし。
結構凄いと思って言いな。確かに。でもね…
「だけど、今日で終わりです。えっあっいえ、このクエストを辞めるって意味では無くて、こんな効率で狩れるのが今日で最後だったって意味です」
そう言って、簡単に状況を説明すると、ソアラさんも納得顔でうなずいてくれる。
「でしたら、お金は大事にして、今後の事をよく考えて使った方が良いですよ」
その忠告に反対など有ろうはずも無いので、はい、とうなずき、武器・防具等、今後の郊外え出る準備に当てる事を話すと、安心の笑顔を返してくれた。
そして、クズ魔石を売却していた瞬と合流し、この日は防具屋を周り商品を見てから『魔獣のいななき亭』へと帰った。
あとは、昨日同様、暗くなるまで紙すきをして過ごした。
翌朝目を覚ますと雨が降っていたが、昨日すいた紙は室内干しなので問題ない。
そしてその日も、雨に濡れながら『下水道管理事務所』へと行ったんだが、思いっきりダメ出しを喰らった。
地下なので、雨も関係ないはずだから、と、ここまで濡れるの我慢して来たのに。
「えぇーなんで駄目なんですかぁー、せっかく来たのにー」
そんな瞬を見てから、呆れたような可哀想なモノを見るような微妙な表情でアリオンさんはため息を一つついた。
「そんなに行きたきゃ良いぞ。でもま、無理そうだったら帰ってこい」
それだけ言って、説明無く、いつものように俺たちを地下へ送り出してくれた。
「なんなんですかねぇ? なにか有るんでしょか?」
「さあ、ま、行けば分かるだろ」
俺も頭をひねりながら階段を降りて、下水道へと降りた。
…………
…………
アリオンさんごめん。俺らバカですね。こんな事も分かってなかったなんて…はぁ。
「滝がいっぱいあるぅぅぅぅ」
そう、ここは『下水道』なのだった。生活排水、汚物はもちろん、降った雨も流れ込んで来るのは当然だ。
通常、生活排水が流れてくる天上近くの横穴と言う横穴から、水がドボドボと流れ落ちていましたよ、滝のように。
そして、水深って言うか汚水深は通常、つかれば膝下位なのが、現在は膝上10センチ程になっており、通路も完全に汚水没している。
「俺らバカだな」
「ですよねぇ…」
そして俺たちは階段を引き返した。
そして、アリオンさんに謝罪して、明日晴れたら来る旨を伝え、『魔獣のいななき亭』へと帰った。濡れネズミとなって…
その日はいったん服を着替え、厩の掃除をした後、おばちゃんから傘を2つ借り、装備購入へと向かった。傘は、水性魔獣の皮製で、傘の骨もそのまま魔獣の骨製だそうだ。
この日の買い物は実際、俺たちにとっては大いなる進歩なのだが、残念ながら手持ちの金でそろえられる装備が限られていた為、選択の余地無くただ指定して買うだけ、と言う味気ないモノとなった。
無論、瞬用の装備は元々小さめの者用を更に調整が必要だったけどね。
以前予定してたとおり、短剣、ナイフ(俺は白蕩木用が有るので買ってない)、皮鎧・皮の手甲・皮のブーツを購入した。
この中で一番高いのは、皮のブーツで、防菌・防臭(大)・耐刃性が付加されているからと言うのと、サイズ幅が限られているのでと言う事らいし。
あとの革製品にも防臭(小)は付加されているらしい。って言うか、革製品にこの付加はデフォだそうだ。
この日俺たちは、村人A・Bから冒険者A・Bへとやっとクラスチェンジ出来た気がする。
いままで、冒険者協会で思いっきり浮いてたからな… 特に瞬など、女性の冒険者や年配の男性冒険者から餌付けされまくってた。
結構な頻度で、一般人扱いされて「ちがいますぅ、冒険者てすよぉ、ほらほらぁ」と言って冒険者標章を見せるシーンが見受けられた。
この装備ならさすがにそんな事は無いだろう。たぶん。
俺たちは、調整を待ってから受け取り、そのまま装備した状態で、脱いだ靴だけ手に『魔獣のいななき亭』へと帰った。
懐が一気に寂しくなった。残金253ダリと7ダグリ…一気に無くなった。低レベル武器防具なんだが、さすがに安くは無いよ。新品だし。
そして、帰りに二人で話し合い、今日で厩生活を終わりにすることにした。
だから、『魔獣のいななき亭』に帰ると真っ先に宿受付カウンターへ行き、俺たちの装備を見て驚いているおばちゃんに言った。
「おばちゃん、今日から宿で泊まります。よろしくお願いします。厩ずっとありがとうございました」
「…部屋空いてないよ」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」×2
いつも多くの常客がいるのは目にしていたのだが、ほぼ毎日満員が普通なのだという。(人気の宿らしい、シルビアさん談)
まして今日のような雨の日は、泊まりがけで出かける者が出ておらず、その分満員になりやすいとの事。納得です。
しかし、勢い込んで言った手前、結構恥ずかしい事になった。で、結局、
「えっと、そう言うつもりですので、明日から空きがあったら、二人部屋でお願いします」
そう言って予約しておいた。他の宿に移るつもりは無い。だって、おばちゃんも娘ちゃんもいい人だもんね。旦那さんは厨房にいてあまり話した事は無いので不明。
その日は天気の関係で、紙すきはやらない事にした。一応夏場なんである程度乾くとは思うのだが、失敗しては目も当てられない。安全第一。
だから、俺はおばちゃんに言って薪を分けてもらい、その薪を加工する事で『紙干し台』と『判子ベース』と、『型枠』を作った。瞬のウッドゴーレムでね。
そう、ウッドゴーレムは魔力のパスが切れてもその型は維持される。つまり、木工加工が容易に可能と言う事になる。
もちろん、問題点もあって、木独特の内部構造や繊維構造が変成時に壊れる事で、通気性、強度などが失われてしまう。当然、木目等も崩れ、外観にも問題が出る。
ただ、それを気にしないところならムッチャ便利。なんせ、やり直しが何度も聞くのだから。
作った(作ってもらった)『紙干し台』は、言うまでも無く、すいた紙を大量に簡単に干せて、持ち運びも出来る様にしたモノ。
もう一つの『判子ベースと型枠』は、紋章を判子化出来ないかと考えてのこと。
まず、実際の紋章より少し大きめの型枠を作り、それにピッタリ入る形の判子のベースを6個ほど作った。
『符』の紋章は基本三色刷りなので、三つの判子とそれをズレ無く押す固定枠が必要になる、と考えてこれを準備した訳だ。
無論、これが根本的に成功するかの問題がある、つまり、判子で作成した『符』が使えるか、と言う事だ。その為、一個だけ作って試してみるつもりでいる。それで駄目ならあきらめる。
まず、判子ベースに、赤絵の具用紋章を確認を繰り返しながら描く。これが何とか夕食前には終わった。
で、今度はその判子を、瞬の『ウッドゴーレム』を使用し、実線部分を残し他の部分を凹ませる。これでやっと第一段階。
元のノートと再度比較し、問題が無いのを確認後、その判面に炭を粉にし水に溶いた黒絵の具を塗り、未使用の判子の判面に押し当て写し取る。この移しはもう三つ作り、計四つ作る。
反対転写された判子ベースの一つを、先ほどと同じように『ウッドゴーレム』で凸凹にし判子にする。
残りの反対転写された三つの内二つに、青絵の具用紋章と、緑絵の具用紋章を書き、同様にこの部分だけを『ウッドゴーレム』で凸凹にし判子を作る。
これで、『火炎符』の赤・青・緑の三色用判子が一セットと、赤の鏡面の判子一個、赤の未判子分(線だけ黒絵の具で判子押ししたヤツ)が一個の計五個が出来た事になる。
このあとの予定は、この完成した判子で『符』を作り、使えるか確認し、もし使えたら、他の『符』も同様に作成する。
もし、使えないようなら、未判子分の一つを俺が彫刻刀を使い、手彫りし、判子化した後それで赤のみ紋章を半押しし、あとの二色は手書きで作成し、使えるかを確認。
もし、この段階で使えないようなら、この判子使用は不可能として切り捨てる。もし使えたら、他『符』の赤を先にしつつ、全ての『符』用の全色の判子を自分で手彫り作成する。
と、まーあ、こんな感じかな。簡単な方から条件を狭めていく感じ。最初でオッケーだったら一番良いんだけどね……なんてったって楽だし。
そして、夕食後試した結果は…駄目でしたよ。念のため紋章にミスは無いか再確認したけど、残念ながら問題なく、他人の作った判子では駄目、と言うことが確定した。
次は、自分で作った判子ならどうか、を確かめるわけだ…先が長いよーー。
その晩は、失意と共に眠った。
昨日の雨は寝る前頃には完全に上がっていたのだが、朝の天気は曇り空ですっきりしない。だが俺たちには雨さえ降らなければ問題ない。
朝食後、おばちゃんに昨日購入した装備一式を預かってもらい、仕事へと出かける。厩に置きっ放しには出来ないからね。
低レベル防具と言っても、新品だから売ればそれなりになる、変な考えを持つヤツもいないとも限らないから、用心、用心。
おばちゃんも、特に預かり料をとるでも無く預かってくれた。
そして、下水道だ。本日の装備はショートソードを追加している。まあ、昨日もこの装備は持ち込んではいたんだけどね…滝が…。
本日の下水道にはもう滝は存在していないが、汚水量は、と言うか汚水深は昨日ほどでは無いが少し深めになっていた。ただ、通路は水面から見えてるし、特段問題は無いだろう。
「滝さえ無ければどおと言う事は無い」
何かほざいてるヤツがいるがスルー。
この日、午前は、前回同様1番枝道から再度、網で封鎖、追い込み、ゴーレム壁で閉じ込め、閉鎖空間内でネズミ駆除を一応実行した。
その結果は、一つの枝道で20匹駆除出来れば良い方となった。1番枝道から初め、一本ずつ5番枝道まで実行した結果が81匹だった。
まあ、これでも初期の半日分で考えれば倍近いんだけどね。
この結果はある程度予想は付いていた。途中で気づいたのだが、本道を移動している際、逃げるネズミが枝道へ行かなくなったんだよ。
8番枝道辺りを終わらせた頃かな? 帰りに5番枝道辺りの本道を浄化プラント方面へ帰って行ってる時に違和感を感じ、その後意識してみるようになりハッキリ気付いた。
奴らは枝道を危険と認識し出したのだと。奴らの頭の良さはそれまでに十分に無認識していたので、この事を確信した。
だから、作戦を完全に変える必要にさらされた訳だ。ただ、前も言ったが、まだ瞬のゴーレム壁では本道の2メートル×2メートルの壁は作成できない。
となれば、初期同様の手作業で行くか、新たな方法を構築するかしなくてはならない訳だ。
で、俺は、作戦や作業方法を変えるのでは無く、目的自体を変える事にした。
つまり、このネズミ駆除という作業の目的を変えてしまおうと言う事だ。
何を言ってるか分からないと思うけど、まあ、当初の目的は『ネズミ駆除→金』だった。それを、新たな目的は『ネズミ駆除→訓練』とする。
この訓練は、このあと郊外で多くの魔獣を相手にする前に、ここの奴らを仮想敵として訓練の相手にしよう、と言うモノだ。
当然奴らは強くない、と言うより大半は逃げる、しかし素早さはかなりのモノで、これを足場の悪いこの場所で剣で突き刺す事は良い訓練になるはず、と言う事だ。
動体視力の強化と、足腰の安定化、そして剣の使い方のそれなりの訓練になると思う。あとコンビネーション。
当然お金の入手料は激減するだろうが、元々数日前のような戦果は無理なのはわかりきってる。その上で多少減っても良いので、訓練に回そうと言う事で二人で話し合ったんだ。
だから、俺は長柄のたも網は持たず、20センチ柄のたも網を左手に持ち、右手に短剣だけだ。その他の網類は一切持たず、あとは腰に魚籠だけという格好でいる。
瞬は、俺と違って左手には楯を持ち、短いたも網は腰に下げている。汚物飛沫対策の楯は捨てられないらしい… 俺は気合いで…何とか。
そして、実際に本道を進みつつ実行するのだが、簡単にはいかない。剣を振り回すのでふたりの位置関係も全く違ってしまう。
結局、この行動によるネズミの数は微々たる量だったが、気にしない。訓練なんだから。
まあ、ある程度の実績も必要なので、ある程度経ったら、網や、箱ゴーレムを使って確保はした。
最終的には、123匹という結果になった。
アリオンさんにも話はしていたので、ガッカリはしなかったようだ。逆に、「もっと少なくなるかと思ってたよ」と言われた。まあ、過去の記録が50匹代だからね。
それから、10日間俺たちの訓練は続けられた。
初日から5日間は完全に剣だけを使用し、その後は瞬にはゴーレムの小壁なども使用させつつやった。
最初の3日間はハッキリと分かる成果は無かったが、4日目辺りから剣が目に見えて当たるようになってきた。それと二人の剣を使った状態でのコンビネーションもこの辺りで取れて来だしたと思う。
瞬はやはり、ゴーレムを使用するようになってから目に見えて成果が上がりだした。
ただこのゴーレム使用は従来の箱で閉じ込めてとか、ここのネズミ専用の方法では無く、小さな小壁を一瞬作りだし進路を限定させ逃走を遅らせたり、剣の軌道に引き寄せたりと言った汎用性のあるモノだ。
瞬のゴーレム構築速度・構築可能範囲はわずかずつではあるが確実に伸びており、郊外での戦闘に期待が持てるようになっている。
俺たちの訓練成果は駆除数という形でしっかりと出ていた。
1日目:102匹 2日目:118匹 3日目:121匹 4日目:141匹 5日目:167匹 6日目:183匹 7日目:165匹 8日目:131匹 9日目:101匹 10日目:63匹
7日目から成果が減少しているのは下水道内のネズミの絶対数が減少して来た為だ。そして、10日目で、損益分岐点を超えたと判断して終了を宣言した。
10日間で合計1292匹その前日も加えて、1415匹。魔石の売却価格も含めて849ダリ。金額的にも満足いく成果となった。
あとは、真の目的であるリアルスキルの戦闘能力がどの程度上がってくれたかは、実際試してみなくては分からない。
実際に郊外で通用するかはともかく、確実に10日前より上がったのは間違いない。これは二人の掛け値なしの認識だ。
その日、アリオンさんに最後の挨拶をして、その後30分ほど話し込んでから『下水道管理事務所』を後にした。
最後に、「来年、気が向いたらまた頼む」と言われた。さすがに「えぇぇぇ?」と言うと「だよな」と笑っていた。
まあ、その時の状況次第ではあるが、手が空いてたり、極端に金に困っていなければやっても良いかな、俺は思ってる。
それを瞬に言うと、「えっやですよぉ、もう十分やりました。一生分やりました」と不許可のようだ。ま、良いけどね。
そして、冒険者協会で精算を済ませた。残念ながらソアラさんは本日お休みらしく、40代の右頬に傷のある男性が窓口にいた。
人気が無いのか、並んでいる人が微妙に少なかったので得した気分だ。ソアラさんばっかりの俺たちが言う事では無いけど、窓口はどこでもいーんじゃね?と思うんだよ。
俺らがソアラさんの所ばかり行くのは、単に話を初めから理解しているから面倒が無いって言う理由だからね。
普通の依頼伝票の依頼なら、どこに並んでも同じだと思うんだけど…良いけどね。
明日は、朝、冒険者がはけて窓口が空いた頃に行って、このあとの事をソアラさんと話すつもりではある。
冒険者協会を出て、いつもどおり寄り道もせず真っ直ぐ『魔獣のいななき亭』へと帰り、カウンターで女将さんに明日から5日分の二人部屋代を渡し、俺たちは部屋へと上がった。
ちょうど、5日前に部屋が空き、長期滞在が可能になったので、今日までの代金150ダリ(1日1人15ダリ朝夕食事付き)を先払いしてした。
二人部屋で、広くは無いが、そこそこの物を置ける場所もある。そして何よりベッドがある。馬がいない。馬糞の臭いがしない。サイコーだ。
もう、厩生活には戻れない。なんとかこの性活レベルを維持してやる。
まあ、未だに早朝の厩掃除は手伝ってるんだけどね。ほらね色々変な荷物いっぱいおいてるし、紙やらなにやら作らせてもらってるから。
この日も俺は判子彫りだ、8日前に自分彫りで作った判子での『符』起動に成功し、自分で作った判子であれば問題ない事が分かり、大量の判子作りを開始する事になった。
『符術師読本(上巻)』に紹介されていた『符』は、
『火炎符』------炎を発生させる
『冷凍符』------符の接触面を冷却する
『風旋符』------小規模な竜巻が発生する
『凹符』--------符の裏面に接触している部分を起点として凹む。物質硬度により差違あり
『凸符』--------符の裏面に接触している部分を起点として飛び出る。物質硬度により差違あり
『聖光符』------聖属性の光を放つ
『雷撃符』------符の接触面に電流が流れる
『炸裂符』------炎や温度を伴わない爆発を発生させる
以上の8種で、1種当たり3個の判子で、24個の判子を作らなくてはならない事になる…
ただ、大変なのは基本となる『赤絵の具用』なので、それ以外は十分の一にも満たないので楽ではある。
逆の意味では、『赤絵の具用』だけ作っておけば、他は手書きでもさして時間はかからなと言う事になる。
だから、確認用に作った『火炎符』以外は、『赤絵の具用』だけを全符分作って、後から他の二個を作るようにしている。
何かで急に必要になった時に、直ぐ準備できるようにね。結構考えてるでしょ。何せ命掛かってっからね。
だからやれる事は徹底的に効率よくやる。今日は、天気が怪しいからやらなかったけど、普段(ここ10日)は帰宿後直ぐ紙すきを明かりがあるギリギリまでやって、その後飯や水浴びを済ませ、部屋で判子彫りだ。
特に、宿部屋に移ってからは室内に弱めとはいえ明かりの魔術具が有るので、作業が出来た。洗濯は瞬に頼んでやってもらっている。ちょっと申し訳なく思っている。
そして、朝は完成している『符』を使って、パスを素早く通す訓練とパスの距離を伸ばす訓練を食事が出来るまでの間に行っている。
時折意味不明の事を吐く瞬の相手もしながら、コツコツやっている。
もう少しだ、もう少しで『符術師』の最低限の環境が整う。そして『符術師』無双の日々が訪れるはずだ、きっと、き、きっと……
夢で良いからそんな無双をしたい。