第三話
「初めまして、常滑リコと申します。日本に帰ってくるのは久々で分からないことばかりですが、教えて下さると嬉しいです。これからよろしくおねがいします。」
黒板の前でお手本のような自己紹介をしているのはナメリだ。昨日設定を色々考えた末こうなったのだ。名前もナメリが入るように一生懸命考えた。ちなみに人参色の髪はアウトだろうということで暗めの茶色をしたウィッグをかぶっている。
「背めっちゃ低くない?」「結構レベル高くね?」「お前話しかけてこいよ笑」
ざわつく教室。席は私の隣である。ナメリが席に着くと男子が振り向き、おぉ…なんて声を上げている。そんなにナメリが可愛いか。羨ましいだろう、そうだろう。
休み時間に入るとナメリの周りには人が集まってきた。やっぱり女子が多い。
「昼休みひまだったら、案内するよ!移動教室とか早めに覚えた方が良いでしょう?」
そう声を掛けたのは委員長こと平竹香帆だ。見た目はおとなしめの常識人っぽいが本性はそうでないことはこのクラスの人間なら誰もが知っている。ナメリを除いて。
「良いんですか?ありがとうございます!」
さも嬉しそうに言うナメリ。微笑む委員長。でも目は笑っていない。あらら……。そんな声が聞こえた気がした。
家に帰ってから昼休みのことを聞いてみた。
「端から端まで丁寧に案内してくれましたよ?たくさん話しかけてくれたし。でも恋人がいるか凄く聞かれました。可愛いってあんまり言われすぎて恥ずかしかったんですけどね。」
「そっか。良かったじゃん?」
「あとですね、日曜日にお出かけすることになりました!町を案内してくれるそうです!」
「……へえ。がんばれ!」
「え?舞子さんも行くんですよ!委員長さんに聞いたらぜひ来てほしいとのことでしたので。」
「え゛?」
うそでしょ……。あの委員長と出かけるなんて、生きて帰れるかもあやしい。 案内といっているがただの洋服店巡りになるのは明白だ。ただの服ならまだしも彼女好みのフリルやらレースやらが盛りだくさんのばかりの店に行くのだから辛いものがある。委員長が試着するだけかと思いきや自分に着せられたときは……。もう思い出したくない。
「えっと今回は遠慮しておこうカナ……?」
「それは困ります!委員長さんも楽しみにしていることですし!一人じゃ心細いです!」
ナメリは必死に説得しに来ている。どうしよう。
「仕方ないなぁ。日曜日ね、空けとくよ。」
「良かった!楽しみですね!」
ははは……。憂鬱な日曜日になりそうだ。