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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第3章 彼女は扉も鍵も知っているが、その先を知らない。
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93、色と芸術

お題:興奮した芸術 制限時間:1時間(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=242082)を加筆修正したものです。

 私たちが生きているということ自体、



 ※


「いくつか確認しておきたいんだけど、良い?」

「構わないよ。ここは盗聴の心配もない」


 ある程度、皆から説明をしてもらった後、私の問いかけに青司がすぐさま答えた。

 タチバナは相変わらず私を心配げに見ていたけれど、霞がかっていた頭も大分晴れつつある。それにどんな事実であれ、確認は早い方が良い。


「私の“死”についての情報がおかしいのはどうして?お茶会見解では原因不明の爆発に巻き込まれ死亡、タチバナちゃんは私がお腹を刺されて死んだのを見たって」

「俺たちもまさにそれが疑問だった」


 青司が肩を竦めてみせる。


「私は確かに貴女が刺されたのを見たんです。確かに血が出ていて、先輩の服にも、その、返り血が……」


 震え声を出すタチバナの肩を魔女のウサギがそっと抱いた。奇妙な光景だ。結局のところ、彼は私の寝ている間に彼らの信頼をどうやって得たのだろうか。これも確認しなければならない事項だろう。


「大丈夫、タチバナちゃん?」

「平気です。ごめんなさい」


 大丈夫じゃなさそうだ。元々、こういう荒事には慣れていない子だ。慣れているはずがないのだ。彼女は本来なら魔法がちょっと使えるだけの大学生にすぎないのだから。


「お茶会側の見解は、正確には検死した医者のものだ。この病院の医者で名前が斎……」

斎藤修介(さいとうしゅうすけ)と申します!!!」


 この病院は突然入室するのが流行っているのだろうか。いきなり白衣の男が青司の背後から出てきた。男が近づいてくるのがあらかじめ見えていた私を除いて、みんなが驚きの表情を浮かべていた。タチバナなんか今にも失神しそうだ。

 タチバナと同い年か少し年上といったところ。線が細く背もあまり高くなく、童顔も相まってそう見えるだけかもしれない。


「しゅ、修介さん、いきなり入ってくるのやめてください!!」

「これはこれは、驚かせたようで申し訳ない、奏ちゃん。それに皆様も」


 白衣を着た男はかなり小柄だった。いかにもインドア派という様相だが、どこか抜け目ないというか、独特の雰囲気を漂わせている。


「灰子さんも、何で彼が入ってきたって教えてくれないんですか!?」

「いやあ、だってねえ。悪い人じゃなさそうだし?」

「おおお!全知の魔女さんにそんな風に言っていただけるなんて光栄の至り」


 いや、別に誉めていないのだけれど。

 斎藤と名乗る男はまるで踊るような身軽さでベッドのそばまでやってきて膝をつくと、私の手を取った。


「改めましてご挨拶を。私、当病院の院長の息子、斎藤修介と申します。ここにいるお嬢さん、支倉奏さんの元彼です。いやあ、奏は素敵でかわいい子なんですけどね、彼女の料理がまずくて別れまして」

「ちょっと、修介さん!!?」

「とにかく貴女のような美しい方の検死をさせていただきまして大変嬉しく光栄に思いますよ」

「こんにちは。こちらこそ検死をしてくれてありがとう」


 タチバナちゃんが金魚のように紅くなって口をパクパクさせているのがおかしかったが、笑いは堪えた。あまり乙女心を笑っては失礼だろうということは流石に同じ女として弁えている。

 それに素直に笑える状況というわけでもない。

 斎藤修介。聞いたことがある。確かお茶会所属の魔法医見習いだったはずだ。私の研究や学会などを見学しに来ていた覚えがある。そこまで絡みが多かったわけではないが、たぶん顔は何度か合わせている。

 魔法関連の事件において検死が任されているということは、もしかしたらもう見習いではないのかもしれない。


「どういたしまして。奏が私に助けを求めてくれて本当に良かったですよ!いやあ、しかし貴女の体は非常に美しかった!検死のしがいがありましたよ!傷一つなく、滑らかで白い肌はまるで芸術のようで!洗練されたボディラインが非常にそそりましたよ。四肢の末端に至る細部の造形がまるで奇跡のように思えましたよ。腕に浮かぶ血管の一筋一筋が私の興奮を掻き立てましたし、乳房の弾力なんか特に申し分なかった!ああ、乳首の色合いもまるで生まれたての赤子の肌のようで。ただ、ご家族の方が解剖はしないでくれとおっしゃったので、それだけが残念でしたねえ。あれだけ美しい体に、どれだけの至高の内臓があるかと思うとゾクゾクするんですがね。どうです?今からでも解剖させていただけませんか??」


 斎藤の発言を頭の中でしばし咀嚼する。そして、少し考えをまとめてから私は口を開いた。


「……タチバナちゃん、彼、本当に元彼なの?」

「すみませんすみませんすみません……」


 興奮した早口でやたら高次元の嗜好を語り切った男は、しかしどうやら味方ではあるようだ。少なくとも、タチバナちゃんがこの男の伝手を利用してくれたおかげで、私は生きているということらしい。大した勇気である、色んな意味で。

 弟にそれとなく視線を送ると、青司は非常に複雑な表情を浮かべた後、小さく頷いた。


「それで、えーっと、斎藤くん?」


 それを見て私は一先ず視線を斎藤に戻す。


「何ですか?貴女の言葉なら何なりと従いましょ」

「どうして偽の検死結果をお茶会に出してくれたの?きみには、私の検視結果を偽りなくお茶会に提出する義務があったはず。違うかしら?」

「ああ、それは簡単です。私は、疑わしきは調べたい質なんですよ。それをお茶会にあれこれ台無しにされては適いませんでしょ?奏が“灰子さんの体が妙だ”と言ったので、これは是非にと考えましてね。それに、奏の能力は本当に素晴らしいですから!解剖しなくても中身が見え……」

「なるほどね」


 適当に話を切ったが、斎藤はあまり気にしている様子もなく、しれっと再び話し始めた。


「実際、変な魔法色が検知されましたよ。えーっと何だったかな?」


 斎藤は、白衣のポケットから大きめのパッドを取り出すと操作をし始める。流れるように動く指を私は固唾を飲んで見守った。


「ああ、ありました。貴女の魔法色は灰色だと聞いていたんですがね、検死したときに妙な魔法色が体のあちこちに展開されていて、貴女の体を汚してたんですよ。何重にも隠ぺいの魔法が施されていたので、白崎のお兄さん……白崎青司さんにご助力いただきながら調べたんですよ。ちなみに出てきた色は、」


 彼は持つパッドをひっくり返す。そこには色彩表のようなものが展開され、ある色がポイントされていた。


「紫紺色です」



 ※



 芸術と言えるのかもしれない。



 fin.

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